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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:【王】のエンライト、レオナ・エンライトは率いる
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第四話:スライムは新型馬車に満足する

 四女であり、【王】のエンライトであるレオナから手紙が届いた。

 グランリード王国を自分の力だけでは救えないから助けてほしいという簡潔なもの。


 あのレオナをもってしてもどうしようもない状況というのは異常と言っていい。

 だからこそ、【魔術】のエンライトたるオルフェも、【錬金】のエンライトたるニコラもいっさいの油断なく、万全の準備を整えていた。

 もちろん、俺もだ。


 現状、ほぼすべての偽スラちゃんに獲物集めを命じて外へと放っていた。

 差し迫った状況になれば偽スラちゃんを呼び出す暇すらないかもしれないので、狩りの効率が落ちるのを覚悟で、スーパースラちゃんになるために必要な偽スラちゃんたちを呼び戻す。

 グランリード王国にたどり着く前には合流できるだろう。


 さらに、レオナのもとに偽スラちゃんの中でも特に優秀な精鋭部隊であるスライムスリーを先行して送っておく。

 スライムスリーはかつてシマヅに全滅させられたが、あれからパワーアップして蘇っているのだ。


 彼らはレオナの護衛にする。スライムスリーであれば、相手が規格外の化け物でない限りは対応できる。

 レオナの戦闘能力はさほど高くない。

 普段であれば問題にはならない。そもそも自分に刃が向けられるような状況を作らないように、周囲の人間の心を掌握する。

 だが、今は万が一が起こってもおかしくない。保険は必要だ。


「ニコラ、準備にどれぐらいかかりそう?」

「ん。あと四時間ほど。研究中の試作品も全部もっていきたい。レオナが追い込まれているなんて、何があるかわからない」

「私も同じぐらいだね。儀式魔術用スクロールの封印を解いておかなくちゃ。強力な触媒も用意しないといけないし。ニコラ、出発は朝方にしよう」

「ん。わかった」


 俺の準備は偽スラちゃんたちに指令を出した時点で終わっている。

 なので、娘の手伝いにぴゅいっと精を出すことにした。


「父さん、助かる」

「お父さん、ニコラの手伝いが終わったらこっちもお願い」


 娘たちに頼られるのは悪くない。

 ……最近、薄れてきた父親の威厳も少しは取り戻せるかもしれない。


 ◇


 深夜までかかった荷づくりが終わり、仮眠で体を休めた俺たちは外にでる。

 日が昇り始めたところだ。

 人形遣いの屋敷に残されていた使用人ゴーレムたちにより、荷物が積み込まれていく。


「ニコラ、ゴーレム馬車の見た目がかなり変わってない?」

「ん。父さんと一緒に改良した。人形遣いマクレガーの資料、ようやく読み解く時間が出来たからものにして、フィードバックした。父さんにも新しいこと一杯教えてもらってる」


 ニコラが無表情のまま、薄い胸を張る。

 屋敷に戻ってからの数日間、ニコラは俺にべったりとくっついてきて、一緒に何か作ろうとせがんできた。

 俺は、この機会にゴーレム作りの頂点にいる男から学んではどうかと提案し、ニコラはマクレガーの残した資料から様々なことを学んだ。

 学んで終わりでは意味がないので、せっかくだからと旅でお世話になったゴーレム馬車を改造しようと決めた。


 その際、ただ人形遣いの知識を吸収しただけだとつまらないので、俺も横でアドバイスをしている。

 ニコラの成長のため、手取り足取り教えるわけではなく、発想の入り口を与えるだけにとどめたが、それでもニコラは俺が想定した正解以上のものを作っている。

 その結果、俺と人形遣い、二人の師の教えを天才が形にしたゴーレム馬車が完成した。


「お父さんとこそこそ何かしてると思ったら、こんなの作っていたんだね。お父さんと一緒に研究なんてずるいよ」

「オルフェねえもおねだりすればいい。……父さん、今までのことが後ろめたいのか、今ならわがまま聞いてくれる」


 ひどい言いがかりだ。あくまで娘とのスキンシップのためであり、スラちゃんのときに調子に乗り過ぎた罪滅ぼしではない。


「ニコラ、いいこと教えてくれてありがと。私もおねだりするね。それはそれとして、ゴーレム馬車はどう変わったの?」

「ゴーレムコアの魔力から動力への変換効率を四割増しにした。マナ吸収式サブジェネレーターと魔力をため込むコンデンサーを追加。駆動系も材質から見直してエネルギーロスを減らして速度と静穏性の向上、タイヤは新素材かつチューブレスにして軽量化、衝撃吸収能力とグリップも向上。新型サスペンションも完璧。簡単に言えば、すごく速くなったし、丈夫になったし、静かだし、乗り心地が良くなった」

「最後の一言以外はよくわからないけど、それはすごいね」

「ん。自信作」

「ぴゅいっ!」


 リミッターを外し車体を傷めながら出していた全速力を通常状態でできるほどの性能向上。

 おまけに水の上を走る際に、今まではオプションパーツの取り付けを要したが、新型は完全自動変形できるようになった。


 このゴーレム馬車の存在を貴族や商人たちが見たら目の色を変えるだろう。売れば一生遊んで暮らせる。


 通常の馬二頭立ての馬車の五倍の速度で二十四時間走り続けることが可能なのだ。

 現状では、非常に高価な素材をふんだんに使っている上に、エンジンとなるゴーレムコアはニコラでも製作に二年かかるような代物であり、商売にするのは難しい。


 ニコラはいずれ性能と引き換えに安価な材料で大量に、超一流の錬金術士でなくても作れるゴーレム馬車を開発したいと言っていた。

 そんなものが完成すれば流通革命がおこるだろう。


 俺たちは馬車に乗る。内装も微妙に変わっている。

 今まで使用していた家具を外して、街で新たに買い替えた家具を積んだのだ。

 もともとは、長旅をする気がなかったので、屋敷で余った家具を適当に置いていたから、これだけでも快適性が増す。


「ニコラと父さんのおかげで快適で快速な旅ができそうだよ」

「ん。オルフェねえ、父さん、出発」

「ぴゅいっ!」


 そして、ゴーレム馬車が発進した。

 あっという間にアッシュポートの外に出る。

 前回と違い、今回は街を出るときにトラブルはなかった。


 ……それが逆に不気味でもある。

 俺は、何かしらのトラブルが起こると想定していた。

 なにせ、”あの”レオナが追い詰められるような相手なら、レオナがエンライトの姉妹たちに頼ることは想定しているはず。


 なのに、なぜ妨害しない?

 悪い予想がいくつか頭に浮かぶ。エンライトの姉妹たちが集結しても問題ないと考えている。あるいは、エンライトの姉妹が合流する前にレオナを始末できる。


 まったく、トラブルがないせいで不安になるなんてどうかしている。

 今できることは限られている。スライムスリーを最速でレオナの元に送りこみ、俺自身も可能な限り早く到着するだけだ。できることを全力でやっていこう。


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