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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:【王】のエンライト、レオナ・エンライトは率いる
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第三話:スライムは新生活を送る

 娘たちに正体がばれてしまった。

 成長しているとは思っていたが、まさか俺の偽装を見破り正体を突き止めるほどとは。

 その成長は嬉しいが、スライムとして好き勝手やってきた悪行がばれてしまい嫌われかねないし、これからは今までのような生活はできない、そう思ってたのだが。


「お父さん、いいお湯だね」


 俺とニコラが共同で作った自慢の広々とした風呂でオルフェが思いっきり体を伸ばしている。


「ん。父さんの作った温泉の素をベースに各種有効成分を組み合わせた自信作」


 ニコラもまったりとしながら、しゅわしゅわと泡を吹く入浴剤を溶かしていた。


「ぴゅい……」


 なぜか、今でもこうして娘たちとお風呂に入っている。

 娘たちの追及をかわすため、スライム状態では言葉をしゃべれない設定にしている。

 そのせいで、苦言ができないのがもどかしい。


 そうだ、別に言葉じゃなくても思いは伝えられる。

 今なら多少の魔術は使えるし、水属性を持つ魔物を【吸収】しているため、水の扱いは特に得意だ。

 力を入れる。

 風呂の水が舞い上がり、宙に文字を描た。その文字を二人の娘、エルフのオルフェとドワーフのニコラが見る。


『やっぱり、おまえたちの年齢で父親と一緒にお風呂はまずいのではないか』


 正体がばれた今、いろいろと気恥ずかしさがある。

 なにせ、今の俺は可愛い使い魔のスラちゃんではなく、二人の父、大賢者マリン・エンライトなのだ。


「へえ、今までさんざん一緒にお風呂に入ってきたのにそんなこと言うんだ。お父さん、なんでそう思っているのに、正体を知られていないときに積極的にお風呂に入ってきたのかな? 本当は私たちと一緒にお風呂に入りたいんだよね?」

「今の父さんが言っても説得力がない。父さんが好き勝手やるならニコラたちもそうする」

「ぴゅーひー!?(はーなーせー!?)」


 娘たちは俺のスライムボディを抱きしめたり、撫でたりやりたい放題だ。

 いろいろと見えているし当たっている。

 ……幸せではあるのだが、こう、人として駄目な気がする。

 やめさせるために荒療治もやぶさかじゃない。スライム触手で……いや、そこまでやればただの変態だ。


「お父さん、まだ短時間しか人の姿に変身できないのは不便だよね。スライム状態じゃなくて、お父さんの姿で一緒にお風呂に入りたいよ」

「ん。人間になったときの姿も不満。年下の姿も可愛いけど、やっぱりちゃんとした父さんになってほしい」


 オルフェとニコラが見つめ合う。


「私たちも協力するしかないね」

「同意。父さんの変身能力を強化する。目指すのは父さんの姿に一日中なれるようにすること」

「たぶん、魔力元素の安定化とスライム細胞の修復能力の抑制あたりが課題になると思うんだ」

「スライム細胞は修復じゃなくて、どちらかというと本能的な自己保存が原因。そこはうまくごまかせる気がする」

「じゃあ、そっちはニコラに任せるよ。私は魔力元素の安定化に取り組むね」


 そうして、風呂の中で娘たちが俺の変身能力を強化することを決意していた。


「ぴゅいぃぃぃ……」


 すごく頼もしいが、ちょっぴり怖かった。


 ◇


 正体がばれてしまってから一か月ほど経った。

 あれから、家族会議でいろいろと決まった。

 オルフェもニコラも頭がいいので、俺の話を理解してくれて素直に提案を受けいれてくれた。

 その代表例としては、家の外に出るときは、父ではなくあくまでスライムのスラちゃんで過ごすことというのがある。


 俺はスライムに魂を移して生き永らえた。それも限りなく不老不死に近い状態にしてだ。

 不老不死というのは権力者たちの永遠の憧れだ。

 たとえ、スライムに身をやつしたとしてもという連中は星の数ほどいる。ましてや人間の姿に変身が可能だ。

 俺と研究成果を求めて権力者が戦争を起こすことすら十分あり得る。

 そのため、スラちゃんの正体が俺であることは絶対に漏れないように細心の注意が必要だ。


「スラちゃん、今日はグラタンだよ。美味しそうなチーズが安く買えたんだ」

「ぴゅいっ!」


 今も、夕食の買い出しと研究に必要な資料の買い出しを行っているが、あくまで使い魔として振る舞っているし、オルフェもスラちゃんを相手にした振る舞いだ。

 家に戻ると、オルフェが夕食を作り、夕食が完成するとニコラがやってきた。


「じゃあ、お父さん。変身して」

「ん。この時間が最大の楽しみ」


 ルール、その二。人間に変身するのは夕食前。

 俺が【創成】で変身していられる時間は一日に四時間程度が限界だ。

 無理をすれば、もう少し頑張れるのだが無理のない範囲はそこだ。

 そのため、夕食前に変身して、家族そろって食事をとり、夕食後に風呂に入ったり、娘たちの研究に協力するというルールが取り決められた。

 変身が終わり、少年時代の姿に変わる。


「やっとお父さんとおしゃべりできるよ」

「今日も父さんに相談したいことがたくさんある」

「話はちゃんと聞く。だが、せっかくオルフェが作ってくれた夕食が冷める。まずは夕食にしよう」

「うん。わかったよ」

「ん。父さんを逃がさない」


 オルフェとニコラが食事を始める。

 二人は本当によく話しかけてくる。

 離れ離れになっていた俺との時間を取り戻すかのように。

 研究のことから、とりとめのないことまで。

 にぎやかな食事は嫌いじゃない。


「それにしても、シマヅ姉さんとヘレン姉さんはもう知っていたなんて。ひどいよ」

「知っていたっていうより、見抜かれただけだ」


 あれから、オルフェとニコラは姉妹たちに手紙を出したが、シマヅとヘレンは知っていると正直に手紙を返してきたせいで、二人は若干拗ねている。


「……不覚。シマヅねえとヘレンねえよりずっと一緒にいたのに。二人に見抜けて、ニコラに見抜けないなんて」

「シマヅの【心眼】は反則だし、ヘレンに至っては事故だ。正規法で見抜いたオルフェとニコラは十分にすごいさ」


 オルフェの作ってくれた、チキングラタンを食べながら苦笑する。

 スラちゃんだったころよりもオルフェの料理には気合が入っている。

 今日のグラタンだって、優しい味のクリームソース、上質なチーズに、たっぷりのチキン、それらに加えてオルフェの自家製ケチャップが使われた絶品だ。


「手紙で思い出したけど、レオナは返事をくれないね。あの子、ろくに連絡をよこさないから心配になるよ」

「レオナは父さんからの仕事が終わるまで家族に甘えないって言ってた」

「ニコラ、レオナのことも私たちを呼ぶみたいにちゃんとレオナねえって呼ばないと」

「同い年だし、父さんのところに来た時期もほとんど一緒。だからレオナはレオナ」


 末っ子のニコラだが、レオナのことだけは姉と呼ばない。

 ニコラが言った通りで同年代だし、屋敷に来た時期も近い。ニコラも甘え辛いだろうし、対等でありたいと思っているのだろう。


「……レオナも元気にしているといいがな。もっとも、あの子が追い詰められるところは想像できないが」

「だよね。ある意味、姉妹で最強だし」

「気付いたら、いいように使われている」


 第四女。【王】のエンライト、レオナ・エンライト。

 彼女は人間だ。

 他の姉妹たちのように、特別な魔術回路や能力を持っているわけではない。


 特筆すべきはその頭脳。

 姉妹の誰よりも頭の回転が速い。

 そんな彼女に俺が授けたのは【王】としての力。帝王学、経済学、政治、心理学etc

 人を使うことに特化している。

 そして、彼女には卒業試験としてクーデターにより滅びかけている一国の将となって救国することを命じていた。

 シマヅやオルフェのように一騎当千の戦術兵器として戦場に出ることも、ニコラのように新兵器を開発することもできない。ましてやヘレンのように国そのものを滅ぼす病を作り出すなんて荒業は不可能。


 レオナがこの試練を乗り越えるためには、ただ己の頭脳を駆使して人を操るしかない。

 厳しい試練だが、レオナなら確実に乗り越えると信じて送り出した。


「あんまり帰りが遅いと、こっちから遊びに行っちゃおうかな」

「オルフェねえ、それ邪魔にならない?」

「大丈夫だよ。私たちがどう行動するかぐらいレオナなら読んでるだろうし」


 今の何気ない会話からも、オルフェがどれだけレオナを信用しているかが分かる。

 エンライトの姉妹たちは単独でもすさまじい力を持っているが、もっともその力が輝くのは【王】のエンライトたるレオナに率いられているときだろう。


 夕食が終わる。

 この後は、いつものようにオルフェとニコラ、それぞれの研究を手伝ってから眠りにつく。

 たしか、今日はニコラと眠る日だ。距離感を大事にしよう。

 ニコラは俺の正体に気付いてからよりいっそう甘えん坊になっている。……ちょっと心配になるぐらいに。


「ごちそうさま。ニコラ、お皿洗いをお願い」

「ん。任せて」


 ニコラが立ち上がると、風が吹き、窓が開いた。ゴーレム鳩が屋敷の中に入っていく。

 このゴーレム鳩は、レオナのものだ。


「あっ、レオナのゴーレム鳩だ。お仕事終わったのかな」

「それなら、この屋敷に来るように手紙書く」


 オルフェが手紙を広げ、ニコラが覗き込む。

 二人の表情が硬くなった。


「お父さん、すぐに出発の準備をするよ。ニコラ、ヘレン姉さんとシマヅ姉さんに、念のため私たちからも連絡をしておこう」

「ん。緊急事態。……あのレオナが助けを求めてくるなんておかしい。普通じゃない」


 オルフェから手紙を受け取る。

 その手紙には、こうあった。


『詰んだ。手持ちの駒じゃ、逆転は無理。オルフェ姉様、ニコラ、手を貸して。ヘレン姉様、シマヅ姉様にも声をかけています。入場許可証は同封』


 レオナらしい非常に簡潔な文章。

 あのプライドの高いレオナが救援要請?

 すなわち、彼女の使用可能な戦力では考えうるすべての手を使っても敗北が決まっている状況だ。


 ……加えて、異常なのは、エンライトの姉妹全員に召集をかけていること。ヘレンやシマヅなら一人で不利な戦況をひっくり返せる。

 それでも、全員を呼んだ。


 レオナは無駄を嫌う。彼女が全員を呼んだ以上、エンライトの姉妹全員の力が必要であるということ。

 どんな、地獄だろう? 並み大抵の状況ではない。

 俺も準備しようか。娘を救うために出発だ。

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