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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:【王】のエンライト、レオナ・エンライトは率いる
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第一話:スライムは娘に調べられる

 ニコラと少年の姿でデートした。

 娘とのデートは楽しい。

 いつもとは違った娘の一面が見れる。それに、娘に弟扱いされるというのも新鮮で良かった。

 ニコラお姉ちゃんか……。新たな扉を開いてしまいそうだ。

 ただ、そんな楽しい時間には代償があった。


「スラちゃん、観念しなさい」

「スラ、逃げちゃだめ」

「ぴゅいぃぃぃぃ」


 朝食が終わってからというもの、俺は娘たちから逃げ回っていた。

 なにせ、オルフェとニコラは俺を調べつくそうとしている。

 オルフェは【解析】魔術によって、ニコラは錬金術で生み出した試薬と、実験によって。


 変身能力と魔術的な偽装を駆使して、全力で正体をばれないようにするつもりではあるが、あいては【魔術】と【錬金】のエンライト。隠し通せるかは怪しい。


 ……今までスライムであるのをいいことに、ちょっと好き勝手しすぎている。

 悪気も下心もないが、着替えを覗いたり、一緒にお風呂に入ったり、抱っこされたりといろいろだ。

 正体が、ばれれば娘たちに嫌われるかもしれない。


 なので、ぴゅいっと逃げている。

 ぴゅふふ。ニコラは運動能力が低いので問題ない。

 オルフェはエルフであり、幼い頃は森で狩人としての腕を振るっていたが、今は全盛期ほどではない。

 数多の魔物を吸収して、最高ランクの敏捷性を手に入れた俺なら逃げ切れるはずだ。


 スラじゃんぷ。

 着地と共に変な音がなった。


「ぴゅひっ!?」


 即座に檻によってとらわれる。

 ニコラの罠か……。だが、無駄だ、こんな檻。スライムの身は不定形。隙間からぴゅいっと抜け出してやる。


「ぴゅいぴゅい!?」


 どういうことだ。変形できない。


「スラ、ようやく捕まえた。その檻はアンチマジックシェル。その檻の中で魔力は使えない。スライムの変形は体質のように見えて、ごくわずかな魔力を消費して行う魔術の一種」

「ぴゅいっ!?」


 アンチマジックシェル。実用化していたのか!?

 俺が基礎理論は作っていた。ただ、実用化までのハードルが高く、机上の理論にとどまっていたものだ。


 ……そういえば、馬車の中で大賢者の遺産である俺の研究資料を熱心に読んでいたが、アンチマジックシェルについて勉強していたのか。


「ニコラ、やったね」

「ん。スラ、ひどい。昨日、あれだけ可愛がってあげたのに逃げるなんて」

「ぴゅい……」


 そう言われると辛い。罪悪感がこみ上げてきた。

 アンチマジックシェルを破るために用意していた術式の構築を中止する。


「スラちゃん、やっと大人しくなったようだね。研究に協力してくれる」

「ぴゅいっ!」


 従順になったように見せて、元気よく返事する。


「じゃあ、スラ、ニコラの研究室に行く。徹底的にスラを調べる」


 檻から出される。

 甘いな。昨日可愛がってもらった恩はあり、逃げるのには罪悪感はあるが、それ以上に父の威厳が大事だ。

 スラじゃんぷ。


「ぴゅへ」


 見えない壁に阻まれる。

 オルフェの風の結界だ。


「スラちゃん、そういうの良くないと思うよ」

「これだけは使いたくなかったのに……」


 ニコラが怪しげな注射をスライムボディに打ち込む。

 なんだか、急に意識が遠のく。

 おかしい、スライムである俺には毒物の類は効かないはず。


「前、スラの体を使って耐衝撃ジェルを作ったときに、いろいろと試して作ったスラのためだけのお薬。スラ、おやすみ」


 意識が、遠のいていく。誰か、助けて。


 ◇


 目を開く。

 生暖かい何かに体が包まれている。

 薬液に付け込まれているようで、巨大なガラス管の中にいた。


「ニコラ、そろそろ結果が出そうだよ」

「ん。こっちも、今やってる実験で終了」


 どうやら、すでに実験と解析は始まっているようだ。

 周囲を見渡すと、いくつもの検査用の薬液の瓶の空や、大規模な【解析】魔術を使うための触媒や魔法陣が目に入った。


 もうほとんど終わっているようだ。

 ……さすがニコラだ。俺の意識を何時間もとばす薬物なんてものが作れるとは。


 娘たちが、手を超高速で動かしている。

 実験と解析の結果をひたすら書き出している。

 二人の作業は順調のようだ。


「最終実験終了。これで全二十一工程完了。実験は終わり」

「私も、十五種の【解析】魔術を全部終わらせたよ」

「ん。あとはこの実験結果の分析と考察と検証。オルフェねえ、分析、考察、検証にどれぐらいかかりそう?」

「明日の朝まで。ことがことだけに、推測で物は言いたくないし、検証は念入りにしたいかな」

「ニコラも似たような感じ。……二人で【錬金】と【魔術】で調べ上げた結果を共有するのは明日のお昼。しっかり議論をしたい。議題は、スラは父さんかどうか」


【無限に進化するスライム】の学術的興味よりも、マリン・エンライトかどうかのほうに比率が置かれているみたいだ。

 それだけ、二人の疑いは強いのだろう。


「そうだね……議論しよう。ぱっと解析の結果を見るだけだと白だけど、なんかひっかかるんだよね。私が【解析】をしたときに、白だと思う結果を出すように仕組まれている感じがして」

「ん。ニコラのほうも、父さんが相手じゃなかったら白だって断定する結果が出てる。でも、不自然に自然すぎるところに作為的なものを感じる。父さんが相手なら、ニコラたちに疑われることを想定して、調べられたときのための保険ぐらい作ってる。不自然な自然になるように仕組んでいる形跡を、すべての試験結果から探し出す」


 ……娘が優秀すぎて辛い。

 娘たちに正体を疑われて、調べられることは実のところかなり前から想定していた。

 だから、娘たちがどう俺を調べるかを予測し、彼女たちの手順であれば白になるように体を弄っていた。


 意識を失っていようが、その仕込みはきっちりと動いてくれている。

 意識さえあれば、その仕込みの痕跡を完璧に偽装して見せたのだが、あいにくニコラの薬で意識がとんでいた。

 失敗した。抵抗せずに大人しく捕まっておけばよかった。


「じゃあ、ニコラ。スラちゃんを解放してあげて」

「ん。もう、スラを見る必要はない」


 俺を包むガラスの檻から薬液が抜かれていく。

 そして、蓋が空いた。

 ぷるぷるぷる、体を震わせて薬液を吹き飛ばす。


 ……さて、これからどうなるか。

 俺が死んだ当時のオルフェとニコラなら、俺の仕込んだ偽装に騙される。

 だけど、もし彼女たちの成長が俺の予想を超えているのなら正体がばれるだろう。


 正体がばれるのはまずい。だが、それでもいいと思っている自分もいた。

 俺の正体を見破るぐらいに二人が成長しているのなら、父としては嬉しい。……その場合は父としての威厳がまずいことになるが。


「ニコラ、明日はご馳走だよ。朝市で、奮発して材料を買いそろえたんだ。今日の夕食は明日のご馳走の仕込みで余った食材で夕食を作るから、いつもより美味しいと思う」

「ご馳走? オルフェねえ、明日は何かのお祝い?」


 ニコラが首を傾げる。


「うん、もしスラちゃんがお父さんだったらね。やっぱり嬉しいし、お祝いしたいから。……そうだったら、いろいろと怒りたいこともあるけど」

「ん。納得。でも、父さんじゃなかったら?」

「そのときは、お祝いする理由を別に探すよ。もう下ごしらえは済ませてるから急いで作るね。三十分ぐらいしたら下りてきて」


 オルフェがキッチンに降りていく。

 ご馳走は楽しみだ。

 ……問題は、そのご馳走を晴れやかな気分で過ごせるかだな。


 ◇


「ぴゅふぅー」


 あまりの食材とはいえ、素材そのものがいいし、オルフェの料理の腕前が優れているおかげで、とても美味しい夕食だった。

 余りだけでこれだけの物が作れるのなら、明日のご馳走はどれだけ美味しいのだろうか? 楽しみだ。


 そんなことを考えながら、オルフェの研究室で彼女の頑張りを見ている。

 十五種類の【解析】魔術による解析結果すべてを総合的にとらえて真実を導き出す。

 計算、論理的思考、あるいは直感、そういったものを総動員して初めて、真実に近づく。


 怖いぐらいに真剣な顔だ。

 ……邪魔をしたほうがいいのだろうが、頑張っている娘の足を引っ張るのは父親失格だ。

 ぴゅいっと見守っている。

 ペンの音だけが部屋に響き渡る。

 静かだが、その静かさが心地よい。

 娘の努力する姿を見ているのが昔から好きだった。


 とっくに深夜と言える時間になっていた。

 もうすぐ日が昇り始める。

 夕食後から、オルフェは一度も手も頭も休ませていない。なんて集中力だ。

 オルフェのペンがついに止まる。疲れての中断ではないようだ、その表情にはやり遂げたという達成感があった。


 オルフェが深く深く息を吐く。

 疲れ切った顔で、でも笑いを浮かべながら。

 がたんと音が鳴った。扉が開き、ニコラが入ってくる。


「オルフェねえ、終わった?」

「終わったよ。こっちに来たってことはニコラも?」

「ん。終わった。だから、いても立ってもいられなくなって、ここに来た。オルフェねえ、結果は」


 オルフェが人差し指を唇に当てて、ニコラの言葉を遮る。


「もう、遅いし明日にしよう。ううん、明日にするべきだよ。今日は寝ちゃおう。……私も今すぐニコラに話したいけど、それはダメな気がするんだ。ニコラ、久しぶりにお姉ちゃんと一緒に寝る?」

「……たしかに、明日のほうがいい」


 ニコラが意味ありげな顔でうなずく。

 オルフェがベッドに飛び込む。

 そして、手招きした。


「ニコラもスラちゃんもおいで」

「ん」

「ぴゅいっ!」


 ベッドにもぐりこむと俺を挟むようにオルフェとニコラが横たわる。

 そして、二人は俺を両側から抱きしめた。


「ずっと不思議だったんだ。スラちゃんを抱っこして眠ると、悲しいこととか、辛いこととか忘れるんだ。頼もしくて、守られているって感じて。小さくてかわいいスラちゃんが相手なのにおかしいよね」

「ニコラも同じだった。父さんが死んでから、どうしようもなく寂しくて泣きそうな日は、スラを抱いたら元気になれた」


 二人が俺のスライムボディをなでなでする。

 娘二人に抱き着かれてなでなでなんて、ここは天国か?


「お話はおしまい。お休み」

「ん、お休み。オルフェねえ、明日の議論。楽しみにしてて」


 娘二人が安らかな顔で眠る。

 ……こうして二人が俺を抱きしめて眠るってことは、シロ判定が出たのだろうか?


 いや、考えるのはよそう。

 明日になればわかることだ。

 俺も眠るとしようか。

 娘二人と一緒に眠れるなんて、父親として最高の夜。

 全力で楽しまないともったいない。


 

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