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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【医術】のエンライト、ヘレン・エンライトは救う
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第二十一話:スライムは人間になる

 四体目の邪神、【色欲】の邪神アスモデウスを倒した。

 最後の最後に邪神はヘレンを毒の触手で貫き、ヘレンはかなり危ない容態になった。


 俺は最後の【進化の輝石】を使うことで大賢者マリン・エンライトの姿を取り戻し、なんとか治療に成功する。

 ヘレンの命が危うかったことは間違いないが、悪いことばかりではない。

 邪神の毒だけあって、不死であるヘレンですら殺せる毒を手に入れた。

 ヘレンの目的、自分を殺す方法を見つけること、それが叶ったのだ。


「スラちゃん、びっくりしたよ。いつの間にか、すっごく強くなっていたんだね」

「ん。スパークし始めて驚いた。だけど、そのあと黒いビリビリになって、もっと驚かされた」

「ぴゅっへん!」


 今は馬車に揺られている。

 ヘレンがいた村に戻る途中だ。

 気絶していたオルフェとニコラはもう意識を取り戻しており、ヘレンの応急処置のおかげで、元気そうにしている。

 さきほどから俺はオルフェの太ももの上に乗せられており、頭をなでなでされていた。


「ぴゅふー」


 幸せだ。

 オルフェの抱っこは、どうしてこんなにも俺を幸せにしてくれるのだろう。

 そんな俺をヘレンが微笑を浮かべながら見ている。

 ……今まではそれほど気にしていなかったが、ヘレンに俺の正体がばれているので気恥しさはある。


「スラちゃん、えらいえらい」

「ぴゅふー」


 だけど、ここは気持ち良すぎるので、恥ずかしいというだけでは去る気にはなれない。

 スラすりすり。


「オルフェはスライムさんと仲がいいのね」

「うん、スラちゃんはとってもいい子なんだよね。ねー」

「ぴゅー♪」


 俺たちほど相性ばっちりな主人と使い魔はいないだろう。


「ねえ、ヘレン姉さん。邪神のサンプルはたくさん取れたよね。抗体を作らせる流行病は作れそう?」

「ええ、ばっちりね。三日もあれば完成させてみせますわ」


 ヘレンなら、言ったからには必ずやり遂げるだろう。


「良かった。それなら、ヘレン姉さんも帰って来れるね! 手紙でも書いたでしょ? アッシュポートに新しい屋敷を買ったんだ。けっこう、いい屋敷だよ。ヘレン姉さんも一緒に住もうよ」


 にこやかな笑顔でオルフェがヘレンに話しかける。

 だが、ヘレンは首を横に振った。


「流行病を作るだけなら、三日で済みますわ。でも、私にはきっちりと邪神の病を駆逐したかを見届ける義務がありますの。私の作った病が変質してしまう可能性もあります。そのときに対処できるのは私だけ。それに、こんな荒療治をすれば、想定外の出来事なんていくらでも起きますわ。全員は救えなくても、私はこの国に残って、一人でも多くの人を救います」


 ヘレンらしい答えだ。

 少しでも多くの人を救うために必要なことを行う。賞賛も金も得られない。

 それでも、ヘレンは全力で人を救う。


「なら、私もしばらく付き合うよ」

「ん。ニコラもがんばる。早く終わらせてヘレンねえと一緒に帰る」


 二人の言葉に再びヘレンは首を振る。


「どんなに速くても一か月は帰れませんわ。オルフェ、ニコラ。あなたたちは【魔術】と【錬金】のエンライトでしょう? 一か月も足を止めることは許されません。……あなたたちが私を助けに来るために、ここまで来てくれたことに感謝しています。でも、ここからは私だけの力で十分。あなたたちは、お父様に託された、それぞれの道を進みなさい」


 ヘレンの優しさと厳しさが入り混じったセリフに二人は、しっかりと頷いた。

 ヘレンだって、オルフェとニコラが一緒にいたほうが、心強いし楽ができる。……なにより、こう見えて寂しがりやだ。

 だけど、エンライトの長女として正しいことを行っていく。

 そんなヘレンのことを俺は信頼しているし、好きだ。


「わかった。でも、ヘレン姉さん。お仕事が終わったら、絶対屋敷に来てね」

「ニコラはヘレンねえの研究室を用意しておく。屋敷に戻ったほうが研究もはかどる。だから、ヘレンねえ帰ってきて」

「あなたたちの屋敷に戻れる日を楽しみにしているわね」

「約束だからね」

「嘘だったら、相手がヘレンねえでも怒る」


 姉妹たちが笑いあう。

 相変わらず、エンライトの姉妹たちは仲がいい。

 こういう光景を見るのが俺は何よりも好きだった。


 ◇


 完全に日が暮れたので野営をしていた。

 いつものように、俺とオルフェが狩りをして食料を確保し、外でも美味しい食事ができていた。


 ……邪神の封印の地に向かうときには王子もいた。そのことを思い出して少しだけ悲しくなる。

 彼は、壊れてしまった過去、王族の栄光を取り戻そうと必死だったのだ。


 気持ちはわからなくはない。だが、どうしようもなくやり方を間違ったのだ。

 オルフェたちは、王子の話題を意図的に避けながら食事を終えて、俺が作り【収納】しておいた風呂で体を清めたあと、馬車に戻っていく。


 ヘレンは、俺の正体を知りながらも一緒にお風呂に入ってくれた。むしろ俺を抱きしめて上機嫌にしていたぐらいだ。

 姉妹で一番、いろいろと育っていることもあり、そんな彼女に裸で抱き着かれるとかなり気恥しかった。


 いったい、あの子はどういうつもりだろう。

 ヘレンといい、シマヅといい、うちの子たちは無防備すぎてお父さんは心配になってしまう。

 ただでさえ美少女なのに、あれだけ無防備だと害虫が次々に寄ってくる。


「ぴゅい、ぴゅ(そろそろいいか)」


 姉妹たちが寝入ったところで、こっそりベッドから抜け出す。

 俺にはやらないといけないことがあるのだ。


 ◇


 夜の森の中の奥へ奥へと進んでいく。

【進化】のさい、我を失って暴れ出しかねない。スラウィングを展開し、かなりの距離を取る。


「ぴゅひぃー(これぐらいでいいか)」


 俺が今からするのは進化だ。

 通常、【吸収】した直後には進化するのだが、進化を始めた細胞をすべて切り離し【収納】するという荒業で進化を途中で止めたのだ。


 進化は体力と精神力を著しく消耗する。ヘレンの治療に悪影響を与えるわけにはいかなかった。


「……ぴゅいぴゅー」


 ただ、今、この瞬間も進化をしていいのかは躊躇ってしまう。

 ……俺は邪神を取り込むたびに邪神に近づいていた。


 三体の邪神を取り込んだ今、邪神とその眷属にしか使用できない瘴気を使いこなせるようになっていた。


 もし、四体目を取り込めば取り返しのつかないことになるのでは? それこそ、俺自身が完全な邪神になってしまうことすら考えられる。


 だが、同時にどうしても耐え難い魅力があった。

 大賢者として、人の理の外にある力を得るというのはひどく好奇心を刺激する。

 それだけでなく、【色欲】の邪神アスモデウスは変身能力を持っていた。

 色、質感、硬度、匂い、性質、細胞単位で完全に変身してみせたのだ。俺とは比べ物にはならないほどの変身能力。


 ……もしかしたら、【色欲】の邪神アスモデウスを取り込めば、今まで鍛えてきた変形のための訓練と合わさり、人間の姿を取ることができるのではないか?

 そんな予感があるのだ。


「ぴゅふぅ、ぴゅいぃ(それに、進化しないといつ人間になれるかわからない)」


 今までこれだけ訓練してきて、純粋な訓練だけでは人間になるのに一年や二年では届かないということがわかってしまっている。

 それこそ、何十年もの鍛錬がないと人間への変身になんて届かない。オルフェたちが生きている間に、人間になれないのは嫌だ。


 リスクを負ってでも、【色欲】の邪神の力を手に入れたい。

 ……やろう。

 安全策を取るのは趣味じゃない。常に前に進み続けたからこそ、大賢者と呼ばれるようになったのだ。


「ぴゅいっ!(進化だ)」


【収納】していた、邪神を取り込んで変化し始めた細胞を取り出し合体する。

 どくんっ、大きくスライム細胞が震え出した。

 力が伝播し、いきわたる。


 全細胞が歓喜している。溢れる力で膨れ上がり、弾けとび再生することで、より強靭になっていく。

 魔力が巡る。生命力が滾る。瘴気が纏わりつく。

 これは成長なんて生易しいものではない、【進化】だ。

 それも今まで以上に大きい、別次元の何かに変わっていく。


「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 気がおかしくなりそうだ。

 叫んで、発散する。

 それだけではおさまりがつかない。破壊衝動のままに暴れまわる。

 周辺の木々が吹き飛び、大地にはクレーターができる。

 口を大きく空けて、天に向かって咆哮をあげる。

 すると、魔力と瘴気が混じった光の塊が口から洩れた。雲を貫き、天を割る。


 周囲に、どろどろに溶けたスライム細胞が飛び散っている。

【進化】に耐えきれなかった細胞たちだ。

 あまりにも莫大な力で、崩れ落ち、朽ち果て、再生すらできなくなった。失われた肉体を【収納】していた偽スラちゃんたちの身で埋めていくが、かなりまずい状況だ。


 死んでしまいかねない。

 どんどん体が崩壊していく。

 すでに偽スラちゃん、百体分の細胞が壊れた。そして細胞の崩壊の勢いはまだ止まらない、在庫が心もとない。


 何時間も細胞は壊れ続け、俺は暴れ続けた。

 偽スラちゃんの通常在庫は切れた。魔力バッテリーにするために、過負荷の魔力を詰め込んだ固体すら使い潰す。


「ぴゅ、ごほっ」


 ……この体になってから、初めて本気で死が見えている。

 耐えてくれ、俺の体。


 ストックしてあった栄養剤、魔物の肉、回復ポーション、それらを片っ端から使っていく。

 わずかながらの足しになるはずだ。

 そして、永遠とも思える時間が過ぎ去った。


「ぴゅふっ、ぴいい(生き残った)」


【収納】してある偽スラちゃんをすべて使い切り、魔力バッテリー用の偽スラちゃんが残り三体、絶望的な状況で、やっと完全に力が馴染み進化が終わった。


 崩れ落ちたスライム細胞で、近くに小さな池ができている。

 空を見ると、日が昇り始めていた。

 時間がかかっているとは思ったがここまでとは。

 スライム細胞の死骸を覗き込むと俺の姿が映っていた。


「ぴゅむ、ぴぃ」


 その姿は、青だった。ただ、どこまでも透き通って高貴さを感じる青。進化する前の姿に似ているがまったくの別物だ。

 全ステータスが上昇しているし、存在の【格】があがっている。


【進化】だけでなく、邪神のスキルである【色欲】を得て、そして【創成】という力を得た。

【創成】は高位の変身能力だ。

 人間に戻るための近道。

 今すぐに使いたい。その誘惑にあがらえずにさっそく使用する。


 まずは腕だ。いつもは触手を生やすだけで精一杯だった。

 スライムボディからにょきりと触手が生える。それが人間の肌の質感を得て、肌色に染まる。ディティールをどんどん付け足していく。関節、指、疑似筋肉を得て腕になっていく。

 面白い、思った通りの物に変化していく。変身したいものの構成を完璧に理解している必要があるが、逆に言えば理解さえすれば何にでもなれる。

 数分後には完全な人間の腕が出来た。


「ぴゅいっ!!(やった)」


 夢に見た人間の腕だ。

 同じ要領で、もう一本腕を生やし、次は両足を作った。

 スライムボディに両手両足が生えたとても気持ち悪い生き物になる。


 ただ、ここで一つの問題に気付く。

【創成】は変身させる体積に応じて指数関数的に制御が難しくなる。今の俺では成人男性一人分の体積に変身することは不可能だ。


「ぴゅいぴゅ(仕方ない)」


 両手両足を一回り小さく作り直す。

 全盛期の俺ではなく少年時代の俺をイメージ。この体積ならばぎりぎり再現可能だ。

 胴体を作り、頭を作る。形を作ってから人間として必要な機能をすべて再現していった。

 できた。十三のときの俺の姿。


「やっと、やっと、人間に戻れた!」


 声が出る。声帯から。

 涙が流れる。スライムになってから願い続けた夢がかなった。

 早く人間になりたい。俺はそう願い続けていた。


 ここまでくれば、あとは魔力量を上げ、制御技術を磨いていけば、いつか全盛期の俺の姿にすら戻れるだろう。その日は遠くない。

 さて、戻ろうか。

 そんなことを考えているときだった。


「スラちゃん、どこにいっちゃたの!? 返事をして」


 オルフェの声が聞こえた。

 もしかして、あまりに帰りが遅いから探しに来たのか。

 かなり離れてはいるが、オルフェと俺は主と使い魔を繋ぐパスがある。それをたどれば、俺の位置はわかる。


「今の姿は見られたくないな。一度、スライムに戻らないと」


 スラちゃん姿になってオルフェのもとへ行こう。

 そう思い、【創成】を使う。

 だが、変身に苦労したようにスライムに戻るのにも時間がかかる。急げ、急げ。


「ここだね! もうスラちゃん、探したんだから」

「あっ、オルフェ」


 最悪のタイミングでオルフェが現れる。木々をかき分けてオルフェが顔を出し、俺の姿を視界に納め、次の瞬間、俺はどろどろに溶けてからスライムに戻った。


「すっ、スラちゃん、今のなに? スラちゃんが男の子になってた?」


 動揺した声でオルフェが俺に問いかける。


「ぴゅっ、ぴゅいっ、ぴゅ!(えっと、それは、あれだ!)」


 俺はぴゅいぴゅい鳴きながら、この場をどう切り抜けようか考え始めた。

 どうしよう、マリン・エンライトの姿ではないから、正体がばれてはいないだろうが、もしかしたら人間に変身するスライムは気持ち悪いと思われてオルフェに嫌われてしまうかもしれない。

 オルフェに抱っこしてもらえなくなるのは、スライム生の終わりだ、絶対になんとかしないと……。

 ある意味、俺は邪神との戦いよりも必死になっていた。


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種族:スライム・インペリアル

レベル:47→50

邪神位階:偽神

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風 粉砕 精神寄生 怠惰 瘴気操作 水神の加護 火炎操作 火炎耐性

魔術士 魔力向上 魔術耐性 神速 死霧 色欲new! 創成new!

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 各種上級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水 アスモデウス素材

ステータス:

筋力A++→S 耐久A++→S 敏捷A+→S+ 魔力A+→S 幸運B+→A+ 特殊EX

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