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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【医術】のエンライト、ヘレン・エンライトは救う
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第十七話:スライムは邪神の眷属と戦う

 邪神の潜む封印の洞窟。

 その最下層に来ていた。

 そこで、七罪教団と邪神の眷属たちに囲まれている。

 邪神の眷属は女の顔をした趣味の悪い造形をしていた。


「邪神の眷属だけあって、かなり強そうだね」

「……オルフェねえ、特殊能力が気になる」


 オルフェとニコラは邪神の眷属を強く警戒しているようだ。

 邪神の眷属は強い。そして強いだけでなく強力な特殊能力を持っている。


 たいていは、邪神の持つ能力の劣化版だ。【色欲】の邪神アスモデウスの能力【色欲】は人々を熱病で絡めとる。

 おそらくは、奴らもそういった能力を持っているはずだ。


「オルフェ、ニコラ、敵が来ますわ」


 ヘレンが声を上げる。

 七罪教団たちが詠唱を開始し、邪神の眷属が突っ込んでくる。

 それを迎え撃つように動いたのはニコラだ。


「もう、ためらわない。家族を傷つける人たちは敵!」


 ニコラの持つ、自動防衛システムが起動する。

 七本のナイフが宙に舞い、超振動で切断力を高め弾丸のように飛び出した。


 その一本一本が容赦なく詠唱を始めていた七罪教団たちの心臓を貫く。明確な殺意が込められた攻撃だ。

 心臓を抉られた七罪教団たちは即死。

 結局、七罪教団たちは魔術を放つことすらできず倒れていく。

 再生はしない。

 邪神の力は受けているものの、人間は辞めていなかったようだ。


 ニコラは恐怖を感じている、罪悪感もある。

 その証拠に顔色は青くなっているし震えている。

 だが、目を逸らさない。

 初めて人を殺したとき、ニコラは一晩中俺を抱いて泣いていた。

 その夜に、大事な人たちを守るためには、時として命を奪うという覚悟を決めている。


 そんなニコラの肩をオルフェは優しく叩き、詠唱を開始する。

 周囲に風が渦巻いた。オルフェの祈りと魔力に呼び寄せられた風のマナたちだ。

 マナたちがオルフェと一つとなる。


「【風刀乱舞】」


 オルフェが杖を向けると同時に、無数の風の刃がこちらに走ってきた女の顔を持つ獅子を二体切り刻む。


「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひぃ」

「くひひいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃ」


 切り刻まれた女の顔を持つ獅子が笑う。

 邪悪に、あざ笑うように。

 奴らの黒い血が周囲に溶けて広がり空気に交じる。

 その直後、オルフェとニコラが倒れた。


「これ、何、苦しいよ」

「体、動かない」


 病だ。【色欲】の劣化版能力が病であるという読みは正しかったらしい。

 そして、【色欲】の邪神アスモデウス対策にヘレンが作ったポーションを飲んだこの二人が一瞬で行動不能になったということは、眷属は独自の病をばらまけるということ。

 倒れた二人に別の女の顔をした獅子が飛びかかる。


わたくしの妹に手を出すと殺しますわよ」


 ヘレンの言葉が響き、二人に飛びかかった邪神の眷属の首から上がなくなり、その背後にあった洞窟の壁に大穴があいた。


 光属性の魔術によるものだ。

 残った体が地面におち、ぶくぶくと膨れ上がりはじけ飛んだ。

 さきほどと同じようにその血は空気に溶けて広がっていく。

 オルフェとニコラの容体が悪化した。

 ヘレンは目を閉じ、いくつかの魔術を自らの体内に施す。


「どうして、どうして、おまえは無事なんだ!」


 王子がヘレンを指さして叫ぶ。

 ヘレンが倒れないのが不思議で仕方ないらしい。

 それもそうだ。この病は邪神のものとはまったく別の種類、なおかつ邪神の眷属の病だ。既存のいかなる抗体も通用しない。

 王子自身は邪神の寵愛を受けているせいか無事だが、ヘレンが倒れないのは彼からするとありえないのだろう。


「ちゃんと病に侵されておりますわ。ただのやせ我慢。これぐらいの病には慣れていますから。……私はいくつもの病に対する抗体を獲得するために、日ごろから無数の病に侵されておりますの」


 そう、ヘレンにも確かに女の顔を持つ獅子の毒は効いている。

 見たところ、体温は四十℃を超え、強烈な吐き気、寒気、方向感覚の喪失、発狂しそうなほどの頭痛、様々な症状が発症している。

 病に対応するために、無数の抗体を持つヘレンをここまで弱らせるなんて、さすがは邪神の眷属の毒と言ったところか。


「脅かしやがって、でも、僕の勝ちだ。おまえの妹たちはそのままくたばって、おまえだってそのうちぶっ倒れるだろ! いくらおまえだって、この場で治療薬を作るのは不可能だ!」


 王子が勝ち誇る。

 俺はぴゅいっと笑う。

 もし、そこまで差し迫った状況なら、俺がとっくに動いている。


「いいえ、可能ですわ。無駄話をしてくださってありがとうございました。おかげで治りましたわ」


 ヘレンのやせ我慢が終わる。抗体が出来たのだ。

 消耗した体力を、魔術による自然回復能力の促進で補う。

 それによって消費した栄養を、強力な栄養剤を注射で血管に直接ぶちこむことによって即座に補充。


 注射が終わり、栄養剤が注がれていた注射には変わりにヘレンの血が注がれている。

 そこにいくつかの薬剤を加えて魔術を施したものをオルフェとニコラに打ち込む。


 すると、息も絶え絶えと言った様子だったオルフェとニコラの顔に血の気が戻り始めた。

 最後に、自らにやったように二人にも自然回復能力の促進の魔術を発動し、栄養剤を打ち込む。


「ありがと。ヘレン姉さん」

「ヘレンねえは相変わらず仕事が早い」


 二人が起き上がる。邪神の眷属の病は完治していた。

 王子は震えてる。


「ありえない!」

「私の二つ名を忘れましたの? 私は【医術】のエンライト。これぐらいはできますわ」


 ヘレンを普通の医師の基準で測ること自体が間違っている。


「おかしい!? そんなに早く薬ができるなら、もっと早く治療薬が作れていたはずだ!」


 ヘレンは邪神の病の治療薬を作るのに一か月以上かかっている。

 邪神の眷属の病は邪神に比べれば劣るが、王子の言う通り、数分で邪神の眷属の治療薬を作れるなら、邪神の病だってもっと早く治療薬を作れないとおかしい。


「勘違いしてもらっては困りますわ。ただ癒すだけの薬なら、ミラルダ共和国に入って十分で作りましたわ。それは世界最古の薬、血清。病に侵され、病に打ち勝ちって抗体を得た血を使う薬」


 血清。

 ヘレンが言う通り、世界最古の薬の一つ。

 太古の医師はあえて病人の血肉を喰らい、自らが病に侵されながらその身に抗体を作り、自らの血を使い薬を作った。


 ヘレンの場合、不死のヘレンが不幸にならないように病に対抗するための体を俺と共に作り上げている。

 そして、病に打ち勝つための魔術も用意してある。

 ヘレンならそれぐらいの芸当は可能だ。


「なら、なぜ黙っていた!」

「そんな材料の確保が難しい薬を作っても仕方ないですわ。私の血の量はたかが知れておりますし、安価で大量に購入できる材料で薬が作れるまで黙っておりましたの」


 自分の身を守るためでもある。

 ヘレンの血で薬が作れるなんて知られれば、ヘレンは即座に監禁され、体中の血を抜かれていただろう。

 ヘレンは不死であり死にはしないが、一生監禁され続け、血を抜かれ続ける家畜以下の扱いを受ける可能性が非常に高かった。


 自分の命のためなら人はいくらでも鬼畜なことを行う。

 ヘレンが自分の血を材料にした薬があるなんてことを言い出さないのは当然だ。

 

 王子はあてが外れて狼狽えている。


「ぴゅいっ(チャンス)」


 その隙を見計らって、はじけ飛んだ女の顔をした獅子の肉片をいただく。

 スライムの身に毒と病は無効とは言えど、病原菌の塊を進んで食べたくはない。

 だが、邪神の眷属の能力は邪神へ挑む際の突破口になりえる。

 がまん、がまん。


「ぴゅっぺ(まっず)」


 食べ終わったあと、ぺっぺと唾を吐く。

 想像以上にまずかった。腐った魚のヘドロソースがけのような味だ。

 だが、しっかりスキルは得た。

【死霧】だ。

 感染力の高い病を自らの体液を使用して形成し、散布する能力。

 病はある程度自由に作り替えることができる。


「ぴゅいっぴゅ(別の意味でまずいな)」


 カスタムの自由度が想像以上に高い。病の変質は予想していたが、まったく別の性質の病を作れてしまう。

 自由度が低ければ、一度病に感染して作った抗体で、次からはカスタムされようがある程度効果を軽減できると思ったがそんな甘いものではなかった。

 邪神も同じか、それ以上にカスタムできるなら、いくらヘレンがいても厄介だ。


 ヘレンは魔術と体質を利用して数分で抗体を用意するが、その行為で体力と魔力を消耗する。

 何度も、連続で抗体を持っていない毒を喰らっては体力と魔力を使い尽くす。


「ぴゅふっ(ただの抗体じゃダメだ)」


 必要なのは、邪神が作り出した病の一つ一つに対応するのではなく、その病の根源的な部分を探り出し、感染している病に対抗するためのものではなく、絶対に変えられない部分に対する抗体を作ること。


 そのことをヘレンに伝えたいが、スライムの身では難しい。

 無駄かもしれないが、スラボディの中で邪神の眷属の毒にする根源的な抗体を作っておこう。


【無限に進化するスライム】の解析能力と体内での調合能力ならそれも可能だ。

 そんなことを考えている間にも、ヘレンたちは七罪教団と女の顔をした獅子を圧倒していた。

 もはや、生き残りはフランク王子と彼の隣に立つ七罪教団の二人だけ。


「フランク王子、観念してくださったかしら? 最後の封印の門を解いてくださらない?」


 王子が拳を握りしめる。

 そんな王子を見て、俺は疑問を感じていた。

 なぜ、まだ邪神に頼らない?


 先に邪神の眷属たちをけしかけるのはわかる。だけど、ここまで追いつめられて、まだ邪神の力を使わないのは不自然だ。


「僕は、まだ、負けてない。七罪教団! 何をしている。僕のおかげでここまでやれたんだ。僕を助けろ! それでも僕が作り出すミラルダ王国の民か!」


 王子から狂ったように叫ぶ。

 しかし、隣に立つ七罪教団の男の目はどこまでも冷たい。

 次の瞬間……。王子の首が背後からかき切られて血が噴き出る。

 その血が、最後の封印の門に流れ込むと怪しく鳴動し始めた。


「オルフェ、勘違いしていたようだわ。邪神の封印は解かれていなかった。彼らは緩んだ隙間から力を取り出していただけみたいね」

「そのようだね。今、解かれちゃった」


 最後の門は文字通り王族の血が必要だった。

 この邪神の病騒ぎは、漏れ出た邪神の力の一部に過ぎない。

 王子はこと切れた。

 最後まで、自分が裏切られたことを理解できないような顔で。


 父親を殺し、民を犠牲にして、ありとあらゆるものを裏切って夢を叶えようとした王子の末路は、自分が利用しようとした七罪教団の裏切りによる死。

 ある意味、彼にはふさわしい最後だ。


「ヘレンねえ、オルフェねえ、ここからが本当の勝負。みんなで邪神を倒して、邪神の病を治すための材料を手に入れる」


 ニコラの言葉にヘレンとオルフェが頷く。

 ここからが正真正銘のラストバトルだ。


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種族:デストラクション・スライム

レベル:46→47

邪神位階:成熟

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風 粉砕 精神寄生 怠惰 瘴気操作 水神の加護 火炎操作 火炎耐性

魔術士 魔力向上 魔術耐性 神速 死霧new!

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 各種上級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水

ステータス:

筋力A++ 耐久A++ 敏捷A→A+ 魔力A+ 幸運B+ 特殊EX

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