第十三話:スライムは新たな扉を開く
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邪神の封印の地に行くことが決まった。
娘たちはそれぞれ邪神に挑むための準備をしている。
ヘレンは邪神の病を治療するための病を作ると同時に、邪神の病を癒すために作った薬の効果を限界まで高めたものを作ろうとしている。
ニコラは過去に作った武器を点検・整備し戦力を上げようとしていた。
オルフェは二人を手伝いながら特訓をしている。
そして俺も……。
「ぴゅふー(やっと抜け出した)」
出発は明日。
パワーアップする最後のチャンスだ。
俺は家を抜け出して深夜の森の中に来ていた。
「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!(集合!!!!!!!!!!!)」
全力で叫ぶ。
すると、翼が生えたスライムたちが四方から現れる。
ヘレン捜索のために各地へ放った偽スラちゃんたちだ。
ヘレンが見つかったあとは回収せずに、そのままミラルダ共和国中を飛び回り、魔物を狩り【吸収】させている。
今までは本体である俺ばかり狩りをしていたが、分裂体の偽スラちゃんも強くなり、そこらの魔物に負けなくなった。
俺が一人で頑張るよりも数百体の偽スラちゃんたちがそれぞれに狩りをするほうがずっと効率が良くなるので、そうしていた。
ただ、偽スラちゃんが【吸収】して得た力は合体しないと得ることができない。なので、獲物を狩ることができた偽スラちゃんたちに集合をさせた。
この場にいる偽スラちゃんは八十体。最低で八十体の魔物の力がこの身に宿ることになる。
大漁だ。
「「「ぴゅいぴゅ、ぴゅっぴゅぴー!(我らが一つに!!)」」」
「「「ぴゅーぴゅぴゅー!(今こそ一つに!)」」」
偽スラちゃんたちが声を合わせて不気味な鳴き声を上げる。
邪教の儀式めいた背徳があった。
「ぴゅっ、ぴゅいっぴゅ、ぴゅぴゅー(あっ、それいいから。一回やったし」
「「「ぴゅひっ!?(そんな!?)」」」
前回は雰囲気作りで、それっぽいこと言って合体した。
そのことを偽スラちゃんたちもそれを覚えていてくれていたようだが、もう飽きたし面倒だ。さっさと合体しよう。
「ぴゅいっぴー!(さあ、来い!)」
「「「ぴゅいっさー!(イエッサー)」」」
八十体の偽スラちゃんたちが俺に向かって飛来する。
偽スラちゃんたちが触れた瞬間、ぷるんっと俺のスライムボディが波打ち偽スラちゃんたちを飲み込む。
同時に、偽スラちゃんたちが【吸収】した魔物の力と偽スラちゃんたちの戦いの記憶が流れ込んでくる。
……偽スラちゃんたち苦労していたんだな。
ある程度強くなったと言っても偽スラちゃんが勝てない魔物も多い。
そんなときは仲間を呼んで、集団で戦う。
当然、そんなことをしていると戦いの中で命を落とす偽スラちゃんたちもたくさん出てくる。
数が減っていないのは、食べて栄養を取り入れ分裂しているからに過ぎない。
むしろ、最低八十体の魔物を食べているのに総数がほとんど変わらない時点で、犠牲になった偽スラちゃんたちの壮絶な戦いが伺える。
ありがとう偽スラちゃん、俺のために頑張ってくれて。
お前たちの死は無駄にしない。
今回、偽スラちゃんたちが【吸収】した魔物の数は九十体。
百近い魔物の力を一気に宿した。
「ぴゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
圧倒的な力が溢れる。
レベルが、ステータスが、スキルが別次元のものへと昇華していく。
全パラメーターが向上し、魔術回路も充実し、処理能力まで上がる。
今なら誰にも負ける気がしない。
体に力が馴染むのを待つ。
力が馴染めばやりたいことがあるのだ。
待っている間は暇なので、新たに得た力を確認していく。
めぼしいスキルがいくつもあった。
まずは【火炎操作】【火炎耐性】。
おそらく火を操る高位の魔物を喰らったのだろう。スライムの天敵である炎が効かなくなるのは非常にありがたい。
次に、【魔術士】【魔力向上】【魔術耐性】。これらもありがたい。【魔術士】は魔力操作技術の向上。
魔術回路が充実してきたとはいえ、スライムの体は魔術を使うのに向かない。こういった補正スキルがほしかった。
というか、偽スラちゃん、いったい何を食べたらこんなスキルを得られるのだろうか? ……怖いのでこのスキルを持ち帰った偽スラちゃんの記憶は覗かないようにしよう。
最後に【神速】【超反応】が今日の目玉スキルと言えるだろう。
短時間だが超速度で動ける【神速】。
反射神経が極限まで高まる【超反応】。
これらは汎用性が非常に高い。速さというのは回避だけでなく、攻撃力にも転化できる。オリハルコンを纏い【神速】と突進スキルを同時に発動すれば大砲のような威力になる。
【超反応】も強力だ。あたりまえだが反応が早いというのは近接戦闘で絶大なアドバンテージだ。相手の攻撃を躱せ、こちらの攻撃を一方的に当てられる。
「ぴゅふふふふふふ」
笑いが込み上げる。
今の俺はもはや世界最強のスライムと言っても過言ではないだろう。体に力が馴染む。
素で強くなった俺だからこそ次のステップに登れる。
さあ、始めよう。
「ぴゅおおおおおおおおおおおおお!!」
【収納】していた数百体の偽スラちゃんと合体。
体が一気に膨れ上がり、圧倒的な巨体とパワーを誇るスーパースラちゃんになる。
そして、その巨体を圧縮し限界まで密度を上げ力と素早さを両立したスーパースラちゃん2へとさらなる進化。
あまりに濃縮した力は金のオーラとなり俺を包み、周辺の空気が歪みスパークし始める。
「ぴゅい、ぴゅぴゅ(思った通りだ)」
以前の俺ならスーパースラちゃん2になった時点で限界ぎりぎり。一切余裕がなかった。
だが、力を増したことでこの形態でも余力がある。
これなら、できるかもしれない。
……邪神の力を使うことも。
今まで数度しか使ったことがないスキルを使う。
【邪神のオーラ】。
黒い瘴気が体から吹きあがる。
破壊衝動が暴れまわる。
このスキルを練習ですら数回しか使わなかったのには理由がある。
瘴気は精神を汚染する。今までの俺では闇に呑まれる恐れがあった。
だが、強くなったうえ、スーパースラちゃん2になり爆発的に力をました今なら闇の力すら御しえる!
瘴気は俺の心の醜い部分を何倍にも増幅し、心を黒く塗りつぶそうとする。
「ぴゅぴゅううううううううううぴぃぃぃぃ!(舐めるなああああああああああああ!)」
俺はスライムの身なれど大賢者。
闇すらも乗りこなし力へと変える。
瘴気はより強くより禍々しくなっていく。それでも限界まで力を引き出す。
そして、膨れ上がった闇の力をねじ伏せて従わせる。
変化が出始めた。
スーパースラちゃんのオーラに黒が混じり、スパークにも黒が混じりこむ。
魔力と瘴気が絡み合いお互いを高めあう。
圧倒的な全能感。
そうか、これこそが……俺の最強形態。
「ぴゅいぴゅ(スーパースラちゃん3)」
もはや、瘴気に呑まれる恐怖もない。完璧に使いこなした。
だが、注意は必要だ。
スーパースラちゃん2状態だからこそ瘴気との主導権争いで勝てた。
通常状態で使えば待ってるのは破滅だ。
スーパースラちゃん3の力を試したくなった。
いっさいのスキルを使わず、ただ俺の魔力と瘴気が混ざりあった力を前方に集中し圧縮する。
目の前に黒と金のプラズマが形成され、それを放った。
すると、光の帯になり木々を貫き続け。やがて見えなくなった。
眼前に道ができてしまっている。終わりは見えない。
「ぴゅいっぴゅ(やりすぎた)」
だが、素晴らしい。
ただ力を溜めて放つだけでこれだ。
正しく運用すればどれだけのことができるか……。
そんなことを考えているときだった。俺の体がぼこぼこと泡立ち、いっきに膨れ上がっていく。
圧縮の抑えが効かないっ!?
「ぴゅひっ」
俺を包むオーラが消えて、ただのスーパースラちゃん1になる。 同時に凄まじい疲労感が全身を包む。
「ぴゅひぃぃぃぃぃぃ(しんどいぃ)」
興奮で気付いていなかったが、スーパースラちゃん3は凄まじく消耗が激しいらしい。
おそらく二分程度が限界だろう。
持続時間を長くしたければもっと強くなるしかない。
俺の体が縮んでいく。副作用というわけじゃない。【分裂】して偽スラちゃんたちを生み出しているのだ。
「ぴゅいっ、ぴゅぴゅい!(偽スラちゃんたち、もっともっと餌を持ってくるのだ)」
「「「ぴゅいっさー!!」」」
偽スラちゃんたちが再び獲物を探して各方面へ飛んでいく。
この力を使いこなすため、もっともっと素の状態の力をあげておきたい。そのためにはもっと魔物を【吸収】する必要がある。
がんばってくれ偽スラちゃん。
どんどん俺に力を届けるのだ。
偽スラちゃんを見送ったあと、俺はぴゅいっとスライム跳びで家路につく。
今日は疲れた。オルフェのふとんに潜って甘え、疲れを癒そう。
体に疲れはあるが心地よい達成感がある。
ぴゅふふ、この力を娘たちに見せるのが楽しみだ。
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種族:デストラクション・スライム
レベル:42→46
邪神位階:成熟
名前:マリン・エンライト
スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風 粉砕 精神寄生 怠惰 瘴気操作 水神の加護 火炎操作new! 火炎耐性new!
魔術士 new! 魔力向上new! 魔術耐性new! 神速new! 超反応new!
所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 各種上級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水
ステータス:
筋力A+→A++ 耐久A+→A++ 敏捷B+→A 魔力A→A+ 幸運C+→B+ 特殊EX
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