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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【医術】のエンライト、ヘレン・エンライトは救う
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第八話:スライムはヘレンを見つける

 ヘレンの痕跡を探っている途中にオルフェが襲われた。

 かろうじて、オルフェをスライムボディで包んで守ったが、七罪教団らしき魔術士八人に囲まれている。


 一人一人が高位の魔術士だ。

 その証拠に、ステータスがあがり魔術抵抗が上がった俺のスライム細胞を何割か死滅させた。

 そいつらが十メートルほど離れた位置に並んでいる。


「ぴゅいっ!」


 彼らに注意を向けながら、体内のオルフェに注意を向ける。

 彼女はマナと一つになるために潜ったまま。

 凄まじい集中力だ。この状況に気付いてもいない。

 普段なら褒めてやりたいところだが、この状況でオルフェをかばいながら戦うのはしんどい。


 スーパースラちゃん2になるために密度を上げようものなら、体内のオルフェを殺してしまいかねない。

 かと言って、体外に放出するのは危険だ。


「スラ、ニコラの武器を!」

「ぴゅいっ!」


 ニコラが近くに来た。助かった。ニコラが戦ってくれるなら俺はオルフェを守ることに専念する。

 ニコラの武装を取り出す。

【錬金】のエンライトであるニコラは戦闘技術を身に着けていない。


 だが、戦えないわけではないのだ。

 戦闘技術がなくても戦うための装備を作り上げている。

 それこそが、今俺が取り出した武器だ。


 一つは機械杖。

 魔術の補助具としての杖ではない、砲撃を行うための武器だ。


 もう一つは十本一セットの短剣が納められたベルトだ。

 杖を構え、ニコラがベルトを巻く。

 これがニコラの戦闘時の装備だ。

 この装備をした以上、よほどの相手でない限りニコラが負けることはない。

 だが、念には念を入れよう。

 地下に向かって保険を放っておく。


「そこの人たち、これ以上危害を加えないならニコラたちは追わない。でも、まだニコラたちを襲うなら手加減しない」


 ニコラが杖を七罪教団たちに向けて警告する。

 七罪教団たちが笑う。

 そして、彼らも杖を構えた。


 この詠唱、炎の攻撃魔法だ。それが答えなのだろう。

 ニコラは目を細める。


 ニコラをかばおうかと思ったがやめた。見捨てたわけじゃない。その必要がないのだ。

 八人分の火炎球がニコラのもとに飛来するのと同時に、ニコラのベルトから十本の短剣が宙に舞う。


 それらには柄がなかった。むき出しの刃。

 短剣が次々に火炎球を切り裂く。

 この短剣は短剣であって短剣ではない。超小型のゴーレムだ。

 ベルトに納められている間にニコラの魔力をチャージし、その魔力を使用して自立起動する。


 さらに刀身はニコラ特製の魔法金属の合金。

 鋼や魔法ですら切り裂く短剣。

 それらは二つの機能を持っている。一つは今のような自動迎撃、そしてもう一つは……。


「【突撃チャージ】」


 外敵の排除だ。

 十のうち、五つがもっとも近い七罪教団のひとりに飛来する。

 一本一本が違う軌道で囲むように舞う。

 男は躱そうとするが無駄だ。


 全方位から飛来する短剣を同時に避けるか防御するには、シマヅクラスの技量がいる。

 男が躱しきれなかった二本の短剣が突き刺ささり、ひるんだ隙に残り三本が突き刺さる。

 ニコラはこの十対のナイフを【フェアリー】と呼んでいた。

 きわめて強力な武装だ。非力なニコラでもこれを装備するだけで超一流の戦士を凌駕できる。


「ひぎゃあああああああああああ」


 男が叫ぶ。

 異様なのは、残り七人がにやにやと笑うだけで仲間が重傷を負ったのに顔色一つ変えない。


 ……かつて巫女姫をさらった連中のように不死身であることを疑ったが、そうではないようだ。

 血を流しきり、動かなくなった。


 ニコラが青い顔をしている。

 ニコラは人間を殺したことがない。

 かつて七罪教団に襲われたことがあり、殺さなければ殺されると理解していたからこそ、攻撃を加えた。


 そして七罪教団たちが化け物だったので攻撃を躊躇わなかった。

 しかし、今回殺してしまったのはただの人間だった。

 かなりのショックを受けている。


「ぴゅい!」


 ニコラをかばう位置取りをする。

 もう、ニコラは戦えないと思ったほうがいい。

 ニコラは才能はあるが、少女なのだ。

 俺が守ってやらないと。


 さて、仕込みはしているが間に合うかどうか。

 そんなことを考えていると七罪教団たちが口を開き始めた。


「あの容貌」

「あの人知を超えた武器」

「あのスライム」

「あの方のおっしゃったエンライトの娘」

「あの者たちは生け捕りだ」

「あのお方のもとに」


 ニコラが異様な雰囲気に身じろぎする。

 あいつらは邪神の眷属になったわけじゃない。ただ狂気に捕らわれているだけの人間だ。

 だからこそ、ニコラは怯える。


 あいつらが群がってくる。

 まずい状況だが……保険が間に合った。


「ぴゅいっぴゅ!」


 奴らの足元の地面が爆発する。

 地中から次々に偽スラちゃんたちが現れた。


 偽スラちゃんたちはオリハルコンを纏ったドリルのような形状になり、地中を移動していた。

 今の俺はオルフェが体内にいて戦えないが、偽スラちゃんなら戦える。

 地面から出る瞬間にドリル偽スラちゃんたちが七罪教団へと襲い掛かる。


 偽スラちゃんたちはほとんどの七罪教団を一撃で仕留めた。

 ……俺はニコラと違って殺し慣れている。


 悪意をもって襲い掛かる連中を殺したところで心は痛まない。

 致命傷を避けた七罪教団も、足をやられたようで俺たちを追いかけることができない。

 重症だ。もう、まともに動けるはずがない。

 なのに、血走った眼でこちらを見て這ってくる。


「あのお方に、エンライトの娘を捧げないと、待て、待てええええ」


 捕らえて情報を吐き出すことは諦める。

 こいつらは完全に狂っている。

 絶対に情報を漏らさない。拷問しても無駄だだろう。自らが信じる神のために痛みを耐える自分に快感を覚えるタイプだ。


 全盛期の俺なら脳から直接情報を取り出せた。

 オルフェも技術的には可能だが、それを求めるのは酷だ。

 だから……。


「ぴゅいっ」


 偽スラちゃんにとどめを刺させる。

 すでに敵を仕留めたドリル偽スラちゃんたちが空から次々に降ってきて、男を串刺しにした。

 

 こいつらから情報を聞き出せなかったが、二つ重要な情報は得た。

 一つ目は、七罪教団が今回の件に深くかかわっていること。

 二つ目は、エンライトの姉妹たちが訪れることを予期しており、しかもとらえようとしていることだ。


「ぴゅいぴゅー(大丈夫?)」


 ニコラに問いかける。

 すると、ニコラは青い顔のまま頷いた。


 短剣たちが魔力の振動で血を払い、ベルトに収まっていく。

 ……本人は大丈夫だと言っているが後でケアが必要だろう。

 体の中でオルフェが動いた。

 どうやら、マナとの接続を終えたようだ。

 体内から出して優しく寝かせる。


「オルフェねえ、無事?」


 オルフェがゆっくりと目を開ける。


「ニコラ、わかったよ。マナがヘレン姉さんが向かった場所を教えてくれた。ヘレン姉さんが東に向かったみたい。誰かに薬の研究成果を届けようと必死に戦ってた」

「ぴゅい!」


 オルフェの指さすほうを見る。

 そして、テレパシーで空からヘレンを捜索させている偽スラちゃんたちをすべてそちらの方角に集中させる。


「じゃあ、行こうか。ニコラ」

「ん。急ぐ」


 ニコラは自分が弱っていることを言わない。

 少しでもヘレンを早く見つけるためだろう。


 オルフェにはニコラが傷ついていることを黙っていよう。

 その分、今日は添い寝して慰めると決める。

【収納】していたゴーレム馬車を出し、出発の準備を始めた。


 ◇


 しばらく走っていると、一体の偽スラちゃんからの連絡が途絶えた。

 近くにいた別の偽スラちゃんを向かわせる。

 今度は意識を繋いだままだ。なので、偽スラちゃんと同じ風景が見える。


 偽スラちゃんが消息を絶った場所には白い翼に金の髪をもった美しい少女がいた。

 その少女は偽スラちゃんを見つけると手をかざした。


 光の槍で偽スラちゃんが貫かれた。それだけならスライムは死なないが、槍が突き抜けた場所から細胞の崩壊が連鎖する。

 偽スラちゃんが消滅したことで情報が途絶える。


「ぴゅっ、ぴゅい!」


 見つけた。ヘレンだ。

 どうやら、俺のことをオルフェからは聞いていないらしく敵だと思って偽スラちゃんが攻撃されたみたいだ。

 だが、位置は掴んだ。

 別の偽スラちゃんに限界まで距離をとって監視させる。

 さて、あとはオルフェとニコラをそれとなくヘレンがいる場所へと誘導するだけ。


 ヘレンが無事でよかった。

 やっとヘレンと会える。そのことが嬉しくてしょうがなかった。

 


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