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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【医術】のエンライト、ヘレン・エンライトは救う
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第七話:スライムはお守りを作る

 封鎖されていた国境を越えてミラルダ共和国になんとか入り込めた。

 ヘレンを探すため、ゴーレム鳩に最後にヘレンが手紙を送った場所に向かわせ、ゴーレム馬車でその後を追う。


 ヘレンが最後にいた場所でなら、ヘレンの痕跡を探す魔術をオルフェは使える。

 ヘレンの捜索をオルフェとニコラに任せていてもいいかもしれないが、少しでも早く見つけるために、俺は無数の偽スラちゃんたちに空から探させている。

 人海戦術ならぬ、スラ海戦術。

 偽スラちゃんたち、がんばってくれ。


「ぴゅむ……」


 ただ、少し考えてしまうのだ。

 こうして娘がピンチになってから偽スラちゃんを空に放つぐらいなら、すべての姉妹に護衛の偽スラちゃんをつけるべきではないのかと?


 俺は偽スラちゃんと距離に関係なくテレパシーで会話できるし、位置も感じ取れる。

 娘たちの護衛としては最適だし、ゴーレム鳩よりも遥かに便利な通信手段にもなりえる。


 ……ただ、可愛い偽スラちゃんが隣にいれば娘たちはさぞかわいがることだろう。たとえ分身とはいえ俺以外が姉妹たちに可愛がられるのは面白くない。

 だが姉妹たちの安全には代えられない。


「ぴゅむむむむむ(ぐぬぬぬぬ)」

「スラちゃん、どうしたの? あっ、ヘレン姉さんの心配をしてくれるんだね」

「ぴゅいっ」


 心が痛い。純粋にヘレンのことを心配しているオルフェの前で邪なことを考えてしまうなんて。


 とはいえ、これは譲れない。

 いいことを考えた。

 偽スラちゃんたちには俺の人格を元にした仮想人格を持たせているが、監視と通信だけならいらない。

 ただの監視装置として特化した偽スラちゃんを作る。


 さて、作ってみよう。まずは分裂する。サイズは卵ぐらいの空っぽの偽スラちゃんだ。自意識を持たずいくつかの反応を機械的にするだけのスラちゃんだ。

 これだけでも十分な機能があるが、姉妹たちが襲われることも想定して、頑丈じゃないといけない。

 なので、偽スラちゃんにオリハルコンを纏わせる。


「ぴゅい!」


 そうして出来たオリハルコンの卵に見える偽スラちゃんをオルフェに差し出す。


「これ、スラちゃんからのプレゼントかな」

「ぴゅい!」

「ふふっ、ありがと。可愛い卵だね」


 オルフェは大事そうに、俺の偽スラちゃんをポシェットに入れた。


「ぴゅいぴゅいぴゅーぴゅい!」


 ただ、その使い方を覚えてもらわないといけないので、ボディランゲージで必死に、卵に話かけてと表現する。

 かなり厳しいが頑張る。


「ちょっと待って。えっと、スラちゃん。卵にしゃべりかけてほしいんだね」

「ぴゅい!」


 使い魔の契約で心がつながっていることもあり、なんとか伝わったようだ。

 俺は一度、オルフェから見えない位置にまで行く。

 そして、待つ。

 オルフェの声が聞こえた。即座にオルフェのもとへ戻る。


「ぴゅいっ、ぴゅっ」

「スラちゃん、もしかしてこの卵に話しかけるとスラちゃんに伝わるのかな?」

「ぴゅいっ!」

「じゃあ、もう一回」


 同じようにオルフェが見えないところまで行き、呼ばれたら戻る。


「うわぁ、すっごく便利だね。ありがとスラちゃん」

「ぴゅっへん」


 これで何かあったらすぐに駆け付けられる。

 偽スラちゃんの位置は把握できるので、オルフェを見失うこともない。


「騒がしい。オルフェねえ、スラ、何を盛り上がってるの?」


 御者をやってきたニコラが戻ってきた。

 馬車内でも操縦できるが、ニコラは気分転換のために外に出てゴーレム馬車を操っていた。


「ねえ、ニコラ。スラちゃんにプレゼントをもらったんだ。オリハルコンの卵。これに話しかけるとスラちゃんにも伝わるみたいだよ」

「すごい。ちょっと見せて」

「うん、どうぞ」


 ニコラはオルフェからオリハルコンの卵を受け取ると、魔術を使って分析していく。

 そして、目を見開いた。


「この卵、スラの分裂体。スラと霊的パスで繋がってるから通信の真似事ができるみたい。とても便利。スラはすごいスライムだと思っていたけど、まだまだ便利な能力を隠し持ってたみたい」

「ぴゅっへん」


 とりあえず、悪い気がしないので威張っておく。


「スラ、オルフェねえにだけプレゼントなんてずるい。そんな意地悪なスラには、もうお菓子をあげない」

「ぴゅいっ!? ぴゅいぴゅい」


 俺はニコラにもオリハルコンの卵を渡す。

 ついでにスラすりすりで媚びを売る。

 するとニコラが小さく笑う。


「ありがと。今のは冗談。スラがニコラにもプレゼントしてくれるのはわかってた」

「ぴゅい」


 ふう、良かった。

 ニコラのくれるお菓子は、今の俺にとって重要な娯楽の一つだ。


「オルフェねえ、スラ。もう一つ試したい。スラとこの卵がつながってるなら、卵同士でつなぐこともできるはず。この卵を使って離れて会話ができるか試したい」

「それができたらすっごく便利だね。別行動もとりやすくなるし」

「というわけで、ニコラは御者席にいく。スラ、がんばって」

「ぴゅい!」


 もともとそのために作ったのだ。

 俺が姉妹たちを守るためであり、姉妹たちの連携も強化したい。


 ◇


 俺はオルフェの隣にいた。

 外に出たニコラの通信を待つ。

 オルフェの持つ、オリハルコンの卵が震え出した。

 そして……。


『ぴゅいー、ぴゅい、ぴゅい、ぴゅぴゅ、ぴゅーい、ぴゅいぴゅい』


 っと、鳴き声を上げた。

 オルフェは苦笑いをする。


 俺にはちゃんとニコラがなんと話しているかわかるのだが、オルフェには無理そうだ。偽スラちゃんとは心がつながっていないので、俺と話すときのようにニュアンスすら伝わらない。


「あははは、困っちゃったね。一応、ニコラに返事しようか。『ごめん、何を言ってるかわからないよ』」


 きっと、向こうでもオリハルコンの卵がぴゅいぴゅいと鳴いているはずだ。

 ニコラが帰ってきた。


「通信機能は一応あるけど、ぴゅいぴゅいじゃわからない」

「うん、困っちゃったね」

「だから、信号の取り決めを作ろうと思う。ぴゅの間隔と数で短文をやり取りする。ちょっと面倒だけど、遠距離で意思疎通できるメリットは上回る」

「うん、そうしよっか。じゃあ、こういうのはどう?」


 二人は、ぴゅいだけで意思疎通する信号を即興で作りあげる。

 常人なら即興でそんなもの作れはしないが、二人はエンライトだ。卓越した頭脳であっという間に信号を作ってしまい、ぴゅの音だけで会話が成立するようになった。


「完成。これでオルフェねえとどこでも連絡がとれる」

「ニコラ、二人で作った信号を忘れないでよ」

「大丈夫、ニコラの記憶力は抜群。スラ、この卵をあと三つ作ってもらっていい? ヘレンねえやシマヅねえ、レオナにも送っておきたい」

「ぴゅい!」


 元よりそのつもりだ。

 姉妹全員がオリハルコンの卵を持っていると安心できる。


「失敗しちゃったな。私のゴーレム鳩、レオナに手紙を届けるために使っちゃってる」

「ヘレンねえのは捜索用に使ってるし、ニコラのはあるけど、レオナかシマヅねえ、どっちかにしか送れない」

「とりあえず、シマヅねえさんのところに送ろうか、レオナは手紙が帰ってきたら、そっちに送り返すよ」


 そういう話し合いが行われ、シマヅ当てにオリハルコンの卵と信号のルールを含めた説明書、そして近況報告が書かれた手紙がゴーレム鳩によって送りだされた。


 そうこうしているうちに目的に着く。

 ゴーレム馬車から俺たちは下りて徒歩で移動を開始する。

 ここからしばらく歩き森を抜ければ、ヘレンがいた研究所だ。


 ◇


 森を抜ける。

 襲撃があった場所なので警戒は怠らない。俺も【気配感知】をしっかり使う。

 そして、元研究所らしきものが見えた。


「ひどい……」

「ここまで徹底的にするなんて異常」


 ひどい物だった。研究所だったものは徹底的に砕かれ、燃やし尽くされていた。

 地面を掘り返したあとがあり、研究所の成果を何一つ見落とさない。そんな様子が視て取れた。

 研究所の痕跡を偏執狂的な執念で徹底的に消滅させているのだ。


「ちょっと安心したよ。ただ、壊しただけじゃなくて、徹底的にすべてを消そうとしてる。かなりの手間暇と労力をかけてまでね。これって、ヘレン姉さんの薬を量産されたら困るってことだよね」

「ニコラも同意。もし、新しい病を簡単に作ってばらまけるならここまでやらない。最悪の想定は次々に新しいヤツを作られて、特効薬を作っても無駄ってことだった……ヘレンねえが見つからないまま新型の病がばら巻かれていたら死ぬしかない。ニコラたちだけじゃ新型の毒の特効薬は作れない」


 ニコラの言う通り、想定しうる最悪は俺たちが新型の病で倒れることだった。

 今、新たな邪神の病が広まればその可能性は十分あった。

 しかし、オルフェの言う通りこれだけ念入りに研究所を潰したのだから、気軽には新たな病は作れないと考えるべきだろう。


 オルフェもニコラも新型の病で倒れるかもしれないと覚悟して、そのうえでヘレンを救いに来ている。その姉妹の絆が尊いと俺は感じている。


「ニコラ、スラちゃん。ヘレン姉さんを探すのに、かなり深く潜らないといけないの。その間、私は無防備になっちゃうから私の体を守ってね」

「任せて」

「ぴゅい!」


 そう言うなり、オルフェは研究所の跡地の中央までいき、目を閉じ周囲のマナとの同調を始める。

 自然界のマナと一つになり、マナに刻まれた記憶を手繰る。


 魔術としての難易度自体が特Aランク。

 さらに、マナとの親和性というもって生まれた資質が必要。

 だが、オルフェにはそれができる。


「スラ、魔術を使うオルフェねえは綺麗」

「ぴゅい」


 ただ、魔術を使っているだけなのにオルフェの姿には神聖さがあった。

 なんとかヘレンの痕跡を掴んでほしい。

 そう祈っていたときだった。


「ぴゅいっ!」


 叫んで俺は飛び出す。

【気配感知】が不穏な気配を捉えた。

 続いて、何者かの攻撃的な魔力を感じる。

 数秒後、炎の球がオルフェに向かって飛翔し始めた。


 いつものオルフェならたやすく迎撃できるが、今はマナと一つになることに全神経を集中させているため、気付いてすらいない。

 間に合え!


「ぴゅいいいいいいいい!」


 なんとか、偽スラちゃんと合体して多くなりオルフェを包み込むことに成功。

 次の瞬間、次々に炎が直撃する。


「ぴぎゅうううううううう」


 スライム細胞が焼かれて消滅する。

 体積の一割ほどが焼けた。

 ステータスの上昇により、魔術抵抗もあがっているにも関わらず、俺のスライム細胞を破壊するとはなかなかの魔術だ。


 失われたスライム細胞は【収納】していた偽スラちゃんと合体することで補充。

 俺は、敵のほうを見る。

 見覚えがある、特徴的な神父服。

 七罪教団だ。

 ぞろぞろと現れる。

 こいつらが関わっているのはガセではなかったようだ。


「ぴゅいっ!」


 奴らを威嚇する。

 オルフェを狙った報いを受けさせる。

 そして可能であれば捉えて情報を手に入れさせてもらおう。

 俺は娘に手を出す奴らを許さない。

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