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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトは斬る
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第二十二話:スライムは養女キツネ耳美少女に抱きしめられています

 目を覚ます。

 どうやら、精神世界から無事戻ってきたようだ。


「ぴゅむっ!?」


 どくんどくん。

 熱い、力が満ちていく。

 まずい、メタルスライムモードを維持できない。


 体の中で何かが暴れている。

 おそらくは、シマヅの精神世界で【怠惰】の邪神ベルフェゴールを食べたせいだ。


 精神世界で【吸収】したのに、しっかりと体に変化が現れるらしい。

 だめだ、このままだと。

 俺は全力で体の暴走を押さえつつ、スライムボディで守っていたシマヅをぴゅへっと吐き出す。

 シマヅはまだ眠っている。


「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 がたがたと体が震える。

 絶叫した。

 ……邪神を吸収するのは三体目だが、今まで以上にまずい状態だ。

 無性に何かを壊したい。


 近くの大樹に体当たりする。

 暴れまわらないとおかしくなりそうだ。

【硬化】してすらいないのに、大樹がへし折れて倒れる。

 なんて力だ。

 俺はただ、内なる嵐が収まるまで、ひたすら暴れ続けた。


 ◇


「ぴゅふうううううううううううううううう」


 力を使い果たして、ほとんど液状になる。

 ようやく波が収まり、吸収した邪神の力が体になじんでくれた。


 だが、暴れまわる力にスライム細胞が破壊され、その再生のために根こそぎ魔力を持っていかれている。

 ……今回はかなり危なかった。


 すでに取り込んでいた、【暴食】【嫉妬】の力に加えて【怠惰】の力を取り込んだことで、何かが起こっている。

 同時に、今まで持て余していた魔力以外の力、瘴気を操れるようになった。

 邪神のように、体内で瘴気を生成し、魔力のように操れる。

 魔力と瘴気、その二つを併用できる者など聞いたことがない。


 まずは回復だ。【収納】していた、魔力タンクにしている偽スラちゃんたちと合体。

 再生できないほど壊されたスライム細胞と魔力を回復していく。


「ぴゅふぅ」


 だいぶ、回復してきた。

 瘴気を扱えるようになったのは新たな可能性なのか、あるいは踏み込んではいけない領域に来てしまったのか。

 どちらにしろ、きっちりと研究しないといけない。


 シマヅのところに戻る。シマヅは安らかな顔で眠っていた。

 ただ、ちょっとまずい。

 神降ろしで陽の気を取り込んで時間が経ちすぎている。


 はやく目を覚まして、俺の中にある陰の気で中和しないと、取り返しのつかないことになってしまうだろう。

 シマヅが完全な神獣になってしまい、シマヅという存在が塗りつぶされる。


 強引にでも起こそう。

 そう、決めたときだった。

 シマヅが起き上がった。


「父上、ここは」

「ぴゅいぴゅい!」

「そう、……何を言っているかはわからないけれど。たぶん、私を連れて逃げてくれたのね。ありがとう、父上」

「ぴゅっへん」


 さすがに察しがいいな。

 聖上が邪神ごとシマヅを殺そうとするのも想定の範囲内だったようだ。


「父上、さっそくだけど。神降ろしの仕上げをしましょう」

「ぴゅいっ!」


 俺は元気よく返事をする。

 シマヅと向かい合う。


 そして、本来の神降ろしの演武をスライムの体で可能な限り再現する。

 シマヅと俺が、陰と陽の気をぶつけ合い、対消滅させていく。


 圧倒的にシマヅの保有量が多いので、そこは便宜調整だ。

 シマヅとの演武はなかなか楽しい。娘との共同作業。

 シマヅも楽しそうだ。汗と光が舞い散り宙を舞う。


 これが本来の神降ろし。

 楽しい演武はしばらくして終わりを迎えた。

 疑似的な神獣と化し、九本に増えていたシマヅの尻尾の数が元に戻る。


「少し、長く神獣で居すぎたわね」

「ぴゅい……」


 シマヅの髪の色と尻尾の色がより金に近づいた。神獣化の影響だ。


「そんな悲しそうな顔をしないで、ちゃんと私はまだ私のままだし……むしろ強くなれて嬉しいぐらいね」


 神獣に近づいた分、たしかに強くなれている。

 ちゃんとシマヅはシマヅのままだ。

 ただ、父としてより人から遠ざけてしまったことは悔やんでも悔やみきれない。


「それより、父上こそ姿が変わっているわ。不思議な色ね。赤に近い紫というところかしら?」


 進化のたびに姿は変わっている。

 今回もそうなるとは予想していた。


 口から水を吐いて水たまりを作る。

 水たまりを覗き込んで見てみるとシマヅの言う通り、体が赤に近い紫に変わっていた。


 見た目だけでなく、ステータスもかなり向上している。

 ……そして、【怠惰】の能力を得ていた。

 他人の体を乗っ取ってしまう強力な能力。


 だが、欠点もある。【怠惰】の邪神ベルフェゴールがシマヅの精神世界で敗れて消失したように、【怠惰】の失敗は死につながる。


 何より、この能力を発動して元の体に戻れる保証がない。

 基本的には精神体が使うスキルなのだ。リスクを冒して使うべきではないだろう。


【暴食】、【嫉妬】と比べると使いにくいスキルだ。

 だが、ある意味。もっとも人類が欲しがっているスキルでもある。

 不老不死の完璧な回答の一つだ。

 老いるたびに、新たな体に乗り換えれば不老不死が叶う。


 絶対にこのスキルをもっていることを知られてはいけない。ただでさえ、可愛くて有能で狙われやすいスラちゃんだというのに、不老不死を求める野蛮な連中につかまって徹底的に調べ尽くされるだろう。


「父上、そろそろ山を下りましょう。きっと、みんな心配しているわ」

「ぴゅい!」


 オルフェや二コラたちは心配しているだろうが、その他の連中は邪神をオルフェごと滅ぼそうと躍起になって探している気がする。


 シマヅがキツネ耳をぴくぴくと動かす。

 遅れて俺も気付いた。

 周囲を囲まれている。

 ……おそらく武士や陰陽師。


 まあ、俺は相当暴れたからな。これだけ派手に魔力を漏らしつつ、大樹をばたばたと倒せば見つかる。


 俺たちを逃がさないように包囲しつつ、聖上とセイメイ、そしてオルフェが出てきた。

 聖上がシマヅを見つめる。


「一見、邪神には呑まれていないようには見える……セイメイ、オルフェ、あなたがたから見てどうですか」


 二人がじっと俺たちを見つめる。


「どうやら、邪神に打ち勝ったようです。邪悪な魔力は感じません」

「私も同意見です。あれはシマヅ姉さんとスラちゃんです」


 二人が断言する。

 聖上はほっとした顔になった。


 あの人は邪神に憑りつかれたシマヅを即座に殺せと命令したが、それはあくまでキョウを守るため。


 根は悪い人ではない。シマヅを殺さずに済んだことを素直に喜んでくれている。

 長であるセイメイの発言で陰陽師たちは警戒を解いているが、武士たちのほうは、まだ多少は警戒している。

 シマヅが一歩前へ出て、その場に跪いた。


「聖上、今年の神降ろしは終わりました。淀みはすべて消滅し、父に宿った邪神も滅びました。キョウが脅かされることはないでしょう」


 美しく凛々しい立ち振る舞い。

 サイオウ家の娘として見に付けたもの。

 その美しい所作が説得力を生む。まだ、警戒していた者たちも、やっと胸をなでおろした。

 聖上は、頷く。


「では、みなのもの屋敷に戻ろう。宴会の準備をさせている。キョウは救われた!」


 強く聖上が宣言する。

 それにより、声が漏れ始める。キョウが救われた喜びをみんなで分かち合っているのだ。


 ふう、やっと終わりだ。

 長かった鬼との因縁をようやく清算できた。

 それにしても、眠い。


「ぴゅふぃぃぃ」


 大あくびをする。

 今日は頑張りすぎてしまった。

 進化の負担も大きい。

 何より、シマヅが助かったことの安堵で張り詰めていた糸が切れた。


「スラさん、眠いなら眠ってもいいのよ?」


 シマヅがそういって微笑みかけてくる。

 そうか、それならお言葉に甘えよう。

 シマヅに抱かれる。オルフェと違った良さがある。だけど、シマヅは力加減が下手だ。強引に抱かれると気持ちよくない。そこはスライム的に減点だ。


 うん?

 ……いつもの力任せじゃなく幸せな抱擁感があった。ほどよい抱かれ心地。これは気持ちいい。

 こういう抱き方なら大歓迎。

 何か、シマヅに心境の変化でもあったのだろうか?

 俺は眠気に身をゆだねる。

 いい夢を見れそうだ。


「ぴゅふぃぃ(気持ちいい)」


 最後に一言感想を言って、意識を手放す。

 今日の大賢者スライムは、養女キツネ耳美少女に抱きしめられています。


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種族:デストラクション・スライム

レベル:38→41

邪神位階:成熟

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風 粉砕 精神寄生 怠惰 new! 瘴気操作 new!

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水

ステータス:

筋力A 耐久A 敏捷B+ 魔力B+→A 幸運C→C+ 特殊EX

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