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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトは斬る
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第十七話:スライムはスラ神と出会う

 なんとか、シマヅの力が認められ神降ろしの決行が決まった。

 貴族や武家たちは反対しようにも、聖上にまんまと罠にかけられ、シマヅの力不足こそが神降ろしを反対する理由と言い切り、そして武家との決闘という展開に誘導されてしまった。


 そして、20対1という圧倒的なハンデを背負いながら、シマヅが勝ったことで何も言えなくなった。

 シマヅは、あの状況でも殺さないように手加減するほどに余裕があった。

 さすがは【剣】のエンライトだ。 


 貴族や顔には不満がありありと出ているが、もう反論を口にすることはない。これ以上騒いでも無駄だと理解するぐらいの知恵はある。

 手を出してくるとすれば、闇討ちだろう。

 一番手っ取り早く、神降ろしを止める方法はシマヅを暗殺してしまうこと。

 だが、そんなことは不可能だ。たった一人で戦場を渡り歩いていたシマヅは、けっして隙はないし俺がいる。

 ちゃちな暗殺など必ず防いで見せる。


「ぴゅふー」


 何はともあれ一安心。

 あとは、とくに問題もなく淡々と打ち合わせは進んでいく。

 そして、今日の打ち合わせは終了。


 方針が決まったので、今後は専門家ごとに集まって、具体的な話をしていくことになるだろう。

 みんなが帰っていく中、庭園の隅へシマヅに抱かれて移動する。


「シマヅねえ、今日は一段とすごかった」

「シマヅ姉さんがすごいって前から知ってたけど、なんかすごみがあったって感じだね」


 ニコラとオルフェがやってきた。

 なかなか鋭いじゃないか。

 今日のシマヅの動きは俺から見てもすごかった。


「そうね……吹っ切れたとでも言えばいいのかしら? すごく自由になった気がするの」


 技術ではなく心の部分。

 シマヅをしばる迷いという名の鎖から解き放たれたのだろう。

 いいことだ。

 これで、また一段とシマヅの剣は輝く。


 ニコラとオルフェだけでなく、もう一人近づいてきたものがいる。

 セイメイだ。


「サイオウの姫。あなたが、あの人のもとで強くなったとは聞いてはいましたが、これほどとは……。あのコジロウが子供扱いとは驚きました」


 コジロウ……。まさか、セイメイに”あの”と言われるレベルだったは驚いた。

 貴族たちが、極東にて最強とか言っていたが冗談だと思っていた。


「最強の師匠と最高の環境があったのだから、最強になれないと嘘よ」


 シマヅは誇らしげに微笑む。

 彼女の言う通り、シマヅは師匠と環境に恵まれた。だが、それだけでは、これだけの強さを得られていない。

 シマヅが強くなれたのは、シマヅの才能と努力のおかげだ。


「私はあなたがうらやましい。……私も、あなたのようにセンセイについて、この極東を出て広い世界を知りたかった」


 どこか寂し気な表情をセイメイは浮かべた。

 セイメイは、陰陽の長になるため俺のもとに来ることはなかった。だが、本心ではさらなる力を得るために、俺のもとへ来たかったのだろう。


 セイメイがごほんっと咳払いをして強引に話の流れを変えた。


「すみません、シマヅ様。そちらのスライムさんを貸していただけないでしょうか?」

「スラさんを? いいけど、どうしてかしら」

「男同士の話があるのですよ。ねえ、スライムさん」

「ぴゅいっ!!」


 元気よく頷いた。

 きっと、俺のスライム細胞をもとに陰陽と式神の技術をふんだんに使って強化された、カオティック・スラちゃんができたのだろう。

 早く見たい!

 そして、その技術を我がものにするのだ!


「スラさんも興味があるのね。わかったわ、スラさんを預けるわね」

「では、謹んでお預かりします」


 シマヅが俺を差し出すと、セイメイが手を伸ばしてくる。

 俺を抱きしめようとしているのだろう。


「ぴゅい。ぺっ」


 シマヅの腕の中から飛び降りる。

 何が悲しくて、男に抱かれないといけないのか。俺を抱いていいのは美少女だけだ。

 セイメイに抱かれるぐらいなら、じぶんで移動する。


「ははは、嫌われてしまいましたね。少し、長い話になりそうです。スライムさんはあとで、カネサダの屋敷に送り届けますので、先に帰って……いえ、せっかくここまで来たのです。実は、この近くにとっておきの甘味屋があるので弟子に案内させますよ。そちらを楽しんできてください。私の紹介なら、裏メニューも出してもらえますよ」


 甘味屋という言葉で、オルフェたちの表情が輝く。


「うわぁ、素敵!」

「ニコラも甘いものは好き」

「裏メニューと聞いたら、行かないわけにはいかないわね」


 エンライトの姉妹たちも、一般的な少女の例にもれず、甘い物には目がない。

 さすがは妻子持ち、少女たちのあしらい方をよく知っている。


 セイメイのとっておきと言えば、あそこか。あそこは紹介がないと入店すらさせてくれないからな。

 しかも裏メニュー。

 これは、カオティック・スラちゃんを見ている場合じゃない。


「ぴゅいっぴー!(オルフェー!)」


 うん、カオティック・スラちゃんは後にして、まずは甘味を楽しもう。

 実は俺も甘い物には目がないのだ。

 オルフェのもとにスライム跳びをしたところ、背後からがしっと掴まれる。


「待ってください、スライムさん」

「ぴゅいぴゅー!(放せ、甘いもの!)」

「あとで、私が連れていきますから! まずは私の式神を見てください」

「ぴゅいぴゅ(絶対だぞ)」

「ええ、約束します。なんなら、食べ放題でもいいです」

「ぴゅふ? ……ぴゅい」


 まったく、しょうがないやつだ。

 そこまで言うなら付き合ってやるか。


「セイメイ様、スラちゃんとすっごく仲が良くなったんですね」

「いや、あはははははは」


 オルフェの言葉を聞いて、セイメイが苦笑いをする。

 そうして、オルフェたちは甘味屋に、そして俺はセイメイの作ったカオティック・スラちゃんを見ることになった。


 ◇


 その後は、セイメイの屋敷まで移動した。

 さて、俺のスライム細胞はどうなっているだろうか。

 その答えはすぐに出た。


 ……なるほど、そういうわけか。俺のスライムそのものを符に見立てた式神か。


「これが、私の新たな式神……いわばスラ神です」

「ぴゅいぴゅっ(センスがない)」


 まるで、スライムの神のようではないか。

 この俺をさし置いて、スライムの神を名乗るなど生意気な。


 カオティック・スラちゃんは、俺が原料になっただけあって赤い半透明の体だった。全身に呪文字がはいずりまわっている。


 そして、犬のような形をしていた。

 陰陽術における式神とは、呪符に魂と魔力を宿し封印する。


 そして、封印を解けば魂に魔力を与えて、魂がイメージする形を成す。

 込めた魂の質と魔力の量によってその強さが決まるのだ。

 だけど、こいつは。


「ぴゅむ、ぴゅむ」


 スライムを呪符にして、魂を詰め込み呪文字を刻み魔力を注ぎ込んでいる。

 ただの魔物にそんなものをすれば壊れてしまうだろう。


 だが、スライムはすべてを受け入れる。とてつもない適応力を持つ、どんな色の魔力だって魂だって宿してしまう。


 スライムだからできる大胆な改造の仕方だ。

 それだけじゃない、本来なら魂のイメージを魔力で形作るが、スライムボディが宿された魂の形に従って動き、生前の形に変形する。そして、セイメイの魔力によって補強される。


 ……おもしろいな。

 俺が苦労している形状変化。それを魂をむき出しにすることで力ずくで可能にし、セイメイの魔力で後押しする。


 俺が変形に苦労しているのは理性があるからだ。

 だが、こうしてむき出しの魂なら、その魂のありように肉体が追従する。

 ……待て、これはただの魂じゃない。

 犬の姿からさらに変化が、角の突き出て体が一回り大きくなる。

「ぴゅいぴゅ(混ぜたのか?)」

「お目が高いです。そう、これは複数の魂を一つにする禁呪。魔犬ラウル、一角獣ユニオルの魂を使っております。魂が強力過ぎて普通の呪符なら耐えられませんが……【無限に進化するスライム】の細胞なら、この通り」


 やってくれる。

 こいつは正当な式神だ。

 ただ、材料を超一級品に置き換えているだけ。

 符をスライム、魂を合成魂、魔力は当代一の陰陽師のセイメイ、最強でないはずがない。


「どうですか? センセイ。私の式神は」

「ぴゅいぴゅ(文句のつけようがないな)」


 素直に褒める。

 そして勉強になった。


 形状変化を発展させるために、小手先の技術ばかりを優先してきたが、この式神を見ると剥きだしの本能の強さという、根本的なものを見落としていた。

 これは人間の形になることを目指す上で重要な気づきだ。


 そして、強い魂を取り入れる。これもまた見落としていた要素だ。

 さすがに、自分の魂に魔物の魂を混ぜるのは忌避感が強いが、偽スラちゃんたちに、魔物の魂を宿すことで強化はできそう。


「ぴゅふぴー(弟子の成長がうれしいよ)」

「センセイにそういってもらえると……ぐっと来ますね」


 早速、今日の気づきを活かすために、今夜にでも実験してみよう。


 いつもは【吸収】するときに魂の扱いまでは考えていなかったが、うまくやれるかもしれない。

 ……さて、十分見るものは見た。

 ではさっそく。


「ぴゅーいぴゅっ(甘味屋いくぞ!)」

「はい、センセイ。おなか一杯食べてください」


 美味しい物を食べに行こう。

 今なら、オルフェたちと合流できるかもしれない。

 甘いものはただでさえ美味しいが、可愛い娘たちと一緒ならもっと美味しくなるのだ!

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