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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトは斬る
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第十一話:スライムはげんま石を手に入れる

 監視として派遣していたクリアスラちゃんたちが倒されたことで、オルフェの危機と思い込み、セイメイの屋敷に殴り込みをかけてしまった。


 俺は、セイメイの屋敷の結界をぶち抜いて侵入し、彼の弟子三人を沈めて、中で暴れまわった。

 その影響で屋敷の中にもそれなりの被害を出してしまった。……まあ、被害の九割ぐらいはセイメイの雷によるものだ。


 魔術で生み出す炎や風はただの自然現象ではない。

 たとえば、炎であれば燃やすという概念の具現として顕現させることができる。

 セイメイの場合はそこからさらに一歩踏み込んで、雷を神の鉄槌、神威の具現と化している。

 超高等技術という言葉すら生ぬるいほどの絶技。俺自身、セイメイと出会うまではそんなことは不可能だと思っていた。


 そもそも雷自体が、複数の属性を組み合わせた高等技術なのだ。

 それをさらに高めるなど、極東の天才陰陽師たるセイメイ以外には不可能だろう。

 セイメイの雷を見たときには震えた。そして我が物にしようとしたが悔しい思いをした。


 セイメイの神威の雷は完成している。この大賢者マリン・エンライトをもってしても改良の余地はなく、再現するしかなかったのだ。

 その天才がにこにこした顔で俺の顔を見ている。

 セイメイの私室に移動し、二人きりになってしまった。


「スライムさんは可愛いくて強いのですね。可愛くて強いなんて最高じゃないですか」

「ぴゅふぅ、ぴー(前から思ってたけど、セイメイはホモっぽいよな)」


 セイメイは見た目だけなら男か女か分からない。

 聖上もわりと中性的だがこいつほどではない。

 なぜか、極東にはこういうタイプが多い気がする。


 本当はこんな女男と二人きりじゃなくて、オルフェのところに行きたい。

 せっかく久しぶりに会えたのだ。ゆっくりとオルフェの禊を見届け、終わればすぐにでもその胸に飛び込みたかった。

 だが、迷惑をかけた以上、償わないといけない。

 スライムとして筋を通す必要がある。だからこそ、涙を呑んでセイメイについてきた。

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、セイメイはにこやかに口を開く。


「スライムさん、私は西洋の使い魔という概念に興味があるのです。前々から東の式神は効率が悪いと思っておりました。符と魔力で生き物を形作るなんてばからしいと思いませんか? 初めから強い魔物を捕まえてきて操ったほうが数倍早い」

「ぴゅっぴゅい、ぴゅぴゅー(それは同意見だ。ただ、式神も捨てたものではない。命令通りに確実に動くだけで十分だ)」


 式神には式神の良さがある。

 結局のところ、西の使い魔は魔物の知能の低さと、本能に引きずられる。

 可愛くて賢いスラちゃんだからこそ、オルフェは苦労していないが、本来の使い魔は飼い主の命令の意図を理解すらできない。


 せいぜいが、動くな、襲えの二択ぐらいが限界だ。

 そして、当然だが魔物にも意志はある。【隷属刻印】によって、術者を襲わせないこと、そして命令を強制させることはできるがいくらでも抜け道は存在する。

【隷属刻印】による命令の強制も、命令を破っていることを魔物が認識できないと失敗する。魔物が理解できない命令は強制できないのだ。


「確かに式神は素直で扱いやすいですね。ですが、こうも思うのです。式神のように素直で、しかも強い魔物を使役したいと」


 さっきから、不思議と会話がつながっているな。

 きっとたまたまだろう。

 俺は、ぴゅいぴゅい鳴いているだけだ。オルフェには【隷属刻印】のおかげで気持ちが通じているがセイメイにそれは期待できない。


「ぴゅむぴー(そんな都合のいい魔物はいない)」


 高い知能を持つ魔物は極めて貴重だ。

 人語を理解する水準で強い魔物なんて数えるほどしかいない。そういった魔物は極めて自我が強く大抵は魔術抵抗が非常に高いので使役しづらい。

 オルフェが俺に【隷属刻印】を結べたのは、オルフェの技量もあるが、かつての俺が弱かったのもある。


「たしかに適した魔物を捕らえるのは難しい。ですが、西には魔法生物というものが存在します。人工的に作られた生命!それならば、思考力が高く意志が存在しない魔物を作れる!式神のような使用感で強力な理想の魔物が作れる。……そう思い、近頃は西の魔法生物の代表格であるゴーレムを仕入れているのですが、なかなかしっくりこないのです。西洋のゴーレムを東の式神の技術で強化すれば、理想に近づくと思ったのですがね」


 その気持ちはわかる。

 実際、西の魔術士でもゴーレムを専門とした人形遣いがいるぐらいに、ゴーレムというのは使い勝手がいい。 

 式神のエキスパートでもあるセイメイとの相性もいいだろう。

 とはいえ、東に取り寄せられるゴーレムや、その資料など三流品がいいところ。セイメイの求める水準には遠く及ばないだろう。かと言って西側の魔術士が数百年かけて積み上げたゴーレム技術に独力で追いつくのはセイメイでも不可能。


「すべてをあきらめかけていたころ、君が現れました。君の分身を見たときは震えたものです。意志がなく極めて知性が高い魔物。その上、凄まじい拡張性で東の式神技術の強化に耐えられる……これなら私の理想の魔物が作れる」

「ぴゅひっ!?」

「……実は、すでに試しています」


 試した? 一体何を使って……いやな予感がする。

 部屋の奥のほうから、一体のスライムがやってくる。


「ぴゅいっぴゅ!?(偽スラちゃん!?)」


 そう、殺されたと思った偽スラちゃんだ。

 感情のない瞳で、俺を見ている。

 完全にセイメイに支配されている。


 ……もともと偽スラちゃんたちに魂はない。

 俺と繋がっている間だけ、性格をランダムトレースしているだけだ。俺からの接続を絶たれれば空っぽになる。

 意志がなく知能が高い、扱いやすい状態だ。


「感動しました。よく魔力が通る、パスも接続しやすい。そして、いくらでも強化を受け入れられる懐の深さがある理想的なボディです。君の体を使い、西の使い魔技術と東の式神技術のハイブリットを作り上げたい! ……そのためには一体だけでは足りません。一度失敗したら終わりです。もっとスライムさんの体をいただけませんか? 具体的には十体ほど!」

「ぴゅいぴゅ!?(汚される!?)」


 スライムボディなのに鳥肌が立った気がした。

 魔術士にはどこかマッドな部分があるが、陰陽師も負けていない。

 ……迷惑をかけたが、さすがに付き合いきれない。


「ぴゅいぴゅいぴゅー(お邪魔しましたー)」


 逃げよう。

 オルフェの無事を確認できただけで十分だ。


「ぴゅい!?」


 目の前に、土の壁が盛り上がってきて出口を塞ぐ。

 セイメイが笑っている。


「逃げていいんですか? あなたの秘密をオルフェさんにばらしますよ?」

「ぴゅひ?」

「スライムさんの中には人間の魂がある。……それが誰かはわからないですがね。あなたが人の魂を持つと知れば、いろいろとオルフェさんに勘繰られるのでは?」


 まったく。嫌になる。

 こと魂の扱いにおいては、極東のほうが優れている。

 その極東で一番の陰陽師だ。人の魂が宿っている事ぐらい見透かせるだろう。


「ぴゅーぴゅい(仕方ない。だが、対価はもらう)」

「もちろんです。オルフェ様には門外不出の秘術を授けましょう。それに、あなたにもいくつか我がアベの家宝を送ります……その体を見れば、必要なものもわかります」


 ちょっと待て。なにを普通に返事をしている。

 この返事、言葉が通じていないと不可能だぞ?


「ぴゅっぴゅーい(もしかして、さっきから言葉が通じているのか)」

「ええ、はい。日常的に霊や式神との交信に音ではなく、言霊を使っておりますゆえ。あなたの『ぴゅいぴゅい』に込められた言霊から意図は察せます。あなたが私をホモっぽいと言ったのもしっかりとね」

「ぴゅへっ(これだから陰陽師という連中は)」


 油断ならない。

 言霊を読むか。西にはまったくない概念だ。

 ……こういう発見があるから別体系を極めるものとの会話は楽しい。

 仕方ない。くれてやろう。


「ぴゅっ、ぺっ」


 疑似人格を持たないブランク状態の偽スラちゃんを吐き出す。

 セイメイに捕らえられた偽スラちゃんもそうだが、俺との接続が切れた時点で、偽スラちゃんたちは一切のスキルを使用できない。


【収納】や【吸収】といった俺の生命線は渡さないので躊躇はない。


「ありがたくいただきます。……思った通り。すばらしい。現時点ではさほど強力ではないが、どんな強化をも受け入れられそうだ。神樹の呪符でも耐えきれない呪だって試せる」


 彼がそういうと、紙で出来た大男が筒を持ってきて、偽スラちゃんを箱詰めした。

 偽スラちゃんを材料に、陰陽師の式神技術で徹底的に強化し、理想の使い魔を作り出し使役するのだろう。


【無限に進化するスライム】の体の汎用性と応用性は非常に高い。原材料にするには最適だろう。

 ……ただ、脅されてスライム細胞を奪われたようで気分が悪い。アベの家宝を差し出すと彼は言ったが、つまらないものなら、ぴゅいっと突き返そう。


 セイメイが指を鳴らす。

 すると、鳥のような式神が小さな箱を運んできた。


「これが私の差し出すものです」

「ぴゅー、ぴゅいぴゅ(げんま石か)」

「よく御存じで」


 これは西では精霊石と呼ばれている宝玉だ。

 東では精霊石の中でも、紫色の超一級品をげんま石と呼ぶ。

 セイメイが差し出したのは、そのげんま石の中でも選りすぐりのものだ。


 ……俺が極東で手に入れる予定だったものであり、【進化の輝石】の原料の一つだ。神降ろしのタイミングは龍脈が活性化する。そのタイミングであれば手に入りやすい。


 げんま石は龍脈の通り道で、特定の性質を持つ鉱石がマナを少しずつ蓄えて変化していったもの。

 龍脈の扱いが発達している東では、人為的にげんま石に変化しやすい宝石を作り出し、適した場所に埋めて管理する。

 それでも、これほどのげんま石は市場に出回ることはない。育てるのに百年近い歳月が必要だっただろう。


「ぴゅいーぴゅ(いいのか、もらってしまって)」

「ええ。私は公平な取引をしたいと考えております。あなたの分身にはその価値がある。どうぞ、お受け取りください」

「ぴゅむ、ぴゅいぴゅ(うむ、感謝する)」


 ありがたくもらっておこう。

 彼の言う通り、これなら釣り合う。

 セイメイはいい人だという認識がさらに深まる。


「さて、これで前座は終わりです。これからの話をしましょう。鬼と一つになった【怠惰の邪神】ベルフェゴールの対策を語り合いましょう」


 この話をするということは、俺が高度な知識と魔術技術を持っていることを確信している。

 おそらく、セイメイはこの身に宿る魂の正体も気付いているのだろう。

 俺をよく知っていたからこそ、カマをかけてきた兄弟子とは違い、その天性のセンスで見抜いている。

 彼と邪神対策について話すことで得られるものは多い。

 だが……。


「ぴゅい、ぴゅぴゅい(それは、オルフェと話してくれ)」


 オルフェにはその力がある。

 何より、セイメイとの共同作業で成長するべきは俺ではなく彼女だ。

 その意図を察して、セイメイは薄く笑う。


「センセイには適わないな。……オルフェさんには嫉妬してしまいますよ。センセイにそこまで言わせてしまうなんてね。いいでしょう。これは明日、禊が終わったオルフェさんと話しましょう。部屋はオルフェさんと一緒がいいですか?」


 センセイか、懐かしい響きだ。

 あえて、今だけセンセイと呼んだのだろう。セイメイは昔からそういう奴だ。……気配りをしすぎる。


「ぴゅい!(もちろん)」


 可愛いスラちゃんとしては、オルフェと一緒に寝たい。

 オルフェにぎゅっと抱きしめられながら眠ると幸せになれるのだ。


「かしこまりました。カネサダのところにセン……スライムさんが遊びに来ていることを伝えておきます。先に部屋に戻ってもいいですし、明け方まで予定されている禊の見学をしたいなら案内させますが」

「ぴゅい!(案内して!)」


 セイメイが苦笑する。

 そうして俺は体を汚される代わりに、セイメイの信頼とげんま石を手に入れた。

 何より、久しぶりにオルフェに甘えられる。

 そのためなら、明け方まで禊に付き合うこともやぶさかではない。

 ……実は禊にも興味があった。あの肌に張り付く白い衣装はぐっとこうくるものがある。

 じっくり見たい。ぴゅふふふふ、はやく禊を見に行こう。

 そんな俺の背後からセイメイの声が響く。


「無事、理想の魔物が作れたら、そのうちの一体を受け取ってもらえませんか? 他でもないあなたに見てほしいのです。」


 きっとそれは俺への憧れからだろう。


「ぴゅい!(いいよ!)」


 返事をしてセイメイの部屋を出る。

 極東最高峰の式神技術で強化されたスラちゃん、それをじっくりと分析すれば、さらなる強さに繋がるだろう。

 ……ただ、もらってばかりだと悪いので全力でダメ出しをしてやろう。

 そうして、俺はセイメイの部下に案内されてオルフェが禊をしている滝に向かった。

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