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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトは斬る
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第一話:スライムは水の魔物を食べる

 ニコラと共に作ったゴーレム馬車で湖を進む。

 この大陸で最大の湖だけあって、向こう岸まで丸一日かかりそうだ。


「ぴゅむぴゅむ(もぐもぐ)」


 ちょうど、オルフェが作ってくれた魚料理を食べているところだ。

 今日はムニエルと、魚のアラで濃厚な出汁をとったスープ。

 バターをたっぷり使ったムニエルも、トマトが味の決め手になったスープもなかなかに美味しい。

 オルフェはきっと、いいお嫁さんになる。


「オルフェねえ、おかわり」

「オルフェ、私も頼むわ」


 ニコラとシマヅがスープのお代わりを要求した。

 オルフェは、姉妹たちがよく食べることを見越して、あらかじめ料理を多めに作ってある。


「ぴゅい!」


 もちろん俺もお代わりをする。

 美味しいものを食べることは、人生の中でもかなり上位の快楽だ。

 スライムになってから、よりいっそう食事への執念が増した気がする。強くなるためにまずい魔物をたくさん食べているからこそ、オルフェの料理のありがたさがよくわかる。


「料理はたくさんあるから、たっぷり食べてね。スラちゃんが大物獲ってくれたおかげだよ」

「ぴゅっへん!」


 どや顔をする。

 すると、姉妹たちがくすくすと笑う。

 いい気分だ。

 笑いのある食卓は素晴らしい。


 だが、それに水を差すものが現れたようだ。

【気配感知】に反応がある。どうやらシマヅも気づいている。

 窓を開けて、水面に目を向けると影が現れていた。

 魚じゃない魔物だ。


 この湖は魚や貝がたくさんいるし、この湖を船で渡れば極東との交易は遥かに容易になる。船を出せば儲かる。

 それなのに、ほとんど船が使われない理由が、こいつらだ。

 窓に身を乗り出す。


「ぴゅいっぴゅ!」


 収納してある、鉄を体内で分解し、再構成。

 即席の銛を作り出す。


 体内でポンプを生成。さらに、【風刃】の応用で、口の中に圧縮空気を作り出す。

 勢いよく吐き出し、さらに圧縮した空気を爆発させ、一気に加速する。

 水流を吐き出すスラビームで水中の敵を狙うと威力が大きく減衰する。

 だからこそ、新必殺技が必要だ。

 これこそが……。


「ぴゅいーぴゅ(スラスピア)」


 銛が水中に潜む魔物を貫いた。

 致命傷を受けた魔物がぷかぷかと浮いてくる。

 どうやら、半魚人系の魔物のようだ。下半身が人間のものになっており、腕が生えており石槍を持っている。かなり気持ち悪い。


 そいつの血で水面が赤く染まる。

 だが、気は抜けない。


【気配感知】で、見つけた魔物は一体じゃない。


「きゃっ、揺れたよ」

「安心して、これぐらいじゃこの馬車はビクともしない」


【気配感知】で見つけた魔物は三体。

 残り二体の魔物がゴーレム馬車の底を突いているようだ。


 これがやつらの必勝法だろう。

 通常なら、木の船底などあっという間に貫ける。そして、船を失えば、水の中で放り出され自由に身動きが取れない。


 だが、残念ながら俺とニコラが作り上げたゴーレム馬車の底を石槍ごときでどうにかできるはずがない。

 半魚人どもが、距離をとった。


 きっと、限界まで加速して突撃するつもりだろう。

 無駄だが、狙いやすくなった。

 離れてくれれば、スラスピアで狙える。


 しかし、シマヅのほうが動きが早かった。窓の外から身を乗り出すと、水面を走る。

 魔力を薄く広げて足場にして、浮力を得ているのだ。


 口で言うのは簡単だが、非常に繊細な操作を求められる。しかも魔力の消費を抑えるために、水面に足が当たる瞬間だけ力場を形成していた。


 そうして水面を走り、半魚人に追いつくと、跳んで体をひねる。そこから、水面に向かって神速の居合切りを放つ。

 湖が斬れた。

 あまりの剣速で水が裂けたのだ。


 当然のように水面近くを泳いでいた半魚人は真っ二つだ。

 シマヅは器用に、水面で前回り受け身をとり、二匹目を狙う。


「ぴゅいーぴゅ(スラスピア)」


 しかし、その二匹目は俺が仕留めさせてもらった。

 シマヅが戻ってくる。


「なまっているわね。ちょっと体が重く感じるわ」

「シマヅ姉さん、あれだけ人間ばなれしたうごきをして満足してないの?」

「シマヅねえは相変わらず動きがおかしい」


 誰がどう見ても、シマヅの動きはすさまじかった。


「これだと足りないわ。陸についたら、体を鍛えなおさないと」


 その声音にはどこか焦りがある。

 それも当然か、またあいつと戦うことになるかもしれないのだから。


 この身が人のものなら、稽古をつけてやれるのだが、スライムボディではまともに打ち合うことすらできない。


「ニコラ、お願いがあるの。まともな刀がほしいわね。これでもいけるかと思ったけど、ちょっと無理があるわね」

「ん。ちょっといろいろ作ってみる」


 シマヅは、全武装を【嫉妬】の邪神レヴィアタンとの戦いで失っている。

 今は、練習用の模造刀を使っている。

 その模造刀で、湖ごと半魚人を斬ったのだ。


「シマヅねえはどんな刀がほしい?」

「奇抜なものはいらないわ。なるべく信頼性が高くて取り回しがよく、純粋に性能がいいものがほしいわ」

「わかった。その方向性で、シマヅねえにとって最高の刀を作ってみる」


 ニコラが燃えている。

 きっと、すごい刀ができるだろう。

 いいことを思いついた。シマヅの尻尾に飛びつき、注意をこちらに向けさせる。


「きゃっ!?」


 かわいらしい悲鳴をシマズがあげる。

 シマヅの弱点はあのかわいらしいもふもふキツネ尻尾だ。

 尻尾を押さえて顔を赤くする。


「えっち」


 スライムなので、知らないふりをする。

 それから、シマヅが落ち着くのを待って口を開く。


「ぴゅいぴゅー(シマヅ、どうせなら)」


 オルフェと違ってパスがつながっているわけでないので感情は伝わらない。それでも、なにかを察してくれると信じて、シマヅに話しかける。


 シマヅが、ぴゅいぴゅいなく俺のほうを見て、首をかしげてからなにかに気付いたような顔をする。


「ニコラ、刀を作る名人が極東にいるの。知り合いだから、紹介するわ。極東の技法、興味があるでしょ?」

「興味ある。知りたい。シマヅねえ、紹介を頼みたい」

「任せておいて。あの人なら、ニコラのことを気に入るはずよ」


 何とか気づいてくれたみたいだ。

 シマヅの父親の刀を打っていた男。

 こと、刀についてなら彼を超えるものはいない。ニコラにとっていい勉強になるだろう。


 シマヅとニコラが、新たな武装について打ち合わせを始めた。

 手持無沙汰になったので、俺は俺の仕事をする。

 窓から、ぴゅいっとスライム跳びで抜け出し、馬車の縁に腰掛ける。

 そして……。


「ぴゅいぴゅ、ぴゅいぴゅ(よいしょ、よいしょ)」


 口の中にある糸を引っ張る。

 実は、さきほどスラスピアで放った銛には糸がつながっているのだ。それをたぐると……。


「ぴゅいー!(夜食!)」


 さっき仕留めた半魚人が手に入る。

 水棲の魔物はレアだ。【吸収】する機会を失うわけにはいけない。

 ぴぃぴゅいもぐもぐ。

 やっぱり、半魚人だけあって魚っぽい味だ。

 ごっくん。


 力が湧いてくる。体が丈夫になった。

 そして、スキルを得る。

【水流操作】だ。


 半魚人のフォルムで水中で早く動けるのはおかしいと思ったが、なるほど、これで水の流れを操っていたのか。

 なかなか便利なスキルだ。


 いつか、水中に沈んだゲオルギウスを回収するために使えるかもしれない。

 沈んでいくゲオルギウスを追いかけたときに針に変質しオリハルコンを纏った小型の偽スラちゃんを刺すことだけには成功して、位置はつかんでいる。


 だが、今の時点で水圧がすさまじい海底からひき上げる手段がない。こうしてスキルを得ていけば、いつか引き上げることができるだろう。


「ぴゅいぴゅい」


 さて、戻るとしよう。

 今晩は約束がある。


 ◇


 深夜になった。

 すでにゴーレム馬車は自動操縦に切り替わってある。

 オルフェとニコラはぐっすり寝ていた。

 俺とシマヅは御者席で、月を眺めていた。


「いい夜ね、父上」

「ぴゅい」

「ねえ、父上。私は強くなったわよね」

「ぴゅいっぴゅ」


 俺のニュアンスをシマヅは感じ取ってくれているらしく会話がぎりぎり成立している。


「ありがとう。……私は鬼に勝てるかしら?」


 その答えは……。


「ぴゅい」

「そう、まだ、父上や、鬼の領域には届いていないのね。心配しないで、自分でもわかっているわ。だからこそ、故郷で見つめなおしたいの。私はきっと、まだまだ強くなれるから」


 鬼、それがシマヅからすべてを奪った存在にして、かつて俺が敗北した存在。

 大賢者マリン・エンライトが敗北した経験など、他にはない。

 それほどまでに、理不尽なまでに強い存在が鬼だ。

 そして、その鬼と戦わないといけない理由がシマヅにはあった。


「ねえ、父上、今日はぎゅっとさせて。たぶん、そうしないと怖くて眠れないわ」


 シマヅの頼み、断りたい気持ちはある。

 シマヅは乱暴な抱き方で、スライム扱いが下手だ。

 だけど……。


「ぴゅいっ!(いいよ)」


 俺は父親だ。

 娘が不安ならそばにいてやろう。


 シマヅは小さな声で、ありがとうと言うと、ぎゅっと俺を抱きしめ、そしてそのまま横になる。

 今日は月がきれいだ。

 だから、こうしてここで眠ってしまいたいのだろう。体温を調整して、暖かくなる。こうしていえればシマヅも風邪をひくまい。


 シマヅ・エンライト。

 姉妹の中で、最強の武力をもち……姉妹の中で、もっとも心が弱い少女。

 極東の地で、俺はシマヅを守り、そして成長させようと決めていた。


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種族:ディザスター・スライム

レベル:31

邪神位階:雛

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作(NEW!)

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水

ステータス:

筋力B+ 耐久A 敏捷B+ 魔力B+ 幸運D 特殊EX

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