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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:【錬金】のエンライト、ニコラ・エンライトは織りなす
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第十二話:スライムはニコラとデートをする

 昼食の時間だ。

 俺はキッチンにいた。

 オルフェと二人で紫色の煮込み料理を作っているニコラを見ていた。

 健康に良く食べるだけで強くなれる錬金術の賜物。

 人によっては金貨を山ほど積んででも食べたくなるニコラのドーピングクッキング。だが、味と見た目は最悪なのだ。


「スラちゃん、また考え事?」

「ぴゅいー」


 昨晩、デニスと会ってきた。

 クリスを利用した邪神の利用を止めるためだ。

 だが……二人の決意は固く言葉での説得は無理だと考えた。


 俺は二つの手を打とうと思っている。

 一つ目、デニスの研究に可能な限りの助言をして成功率を高める。

 二つ目、邪神を制御できなかった場合、クリスを救うための予防線を張る。


 とくに後者には娘たちの力がいる。

 邪神の力は強大だ。巫女姫エレシアの封印によって本来の十五パーセントまで力を削ぎ、オルフェとニコラの全力の攻撃で削りに削って、ようやく邪神ベルゼブブを倒せる状況まで追い込めた。


 もし、【嫉妬】の邪神が本来の力で復帰してしまえば手の付けようがなくなるだろう。

 最悪のことを考えて、少なくても封印を解いたときに邪神の力を弱める手は打たないといけない。

 前回と違って時間がある。オルフェの力を借りればなんとかなるだろう。


 問題はどうやってクリスのことを隠しつつオルフェの力を借りるかだ。

 それとは別に本当の意味でクリスを救う必要がある。【医術】のエンライトであるヘレンの支援がほしい。一週間後の邪神解放には間に合わないが、呼び出す準備をしておこう。すべてが終わったあとヘレンなら治療は可能だ。


「オルフェねえ、スラ。料理ができた。たくさん食べて」


 ニコラが食卓に料理を運んでくる。

 相変わらず、紫色で嫌な臭いがする。


「……効果は知ってるけど、もう少し見た目と味がなんとかならない?」

「ぴゅいぴゅい(そうだそうだ)」

「できなくはない。でも、それで効果が弱まったら本末転倒」


 いかにも錬金術士らしい答えだ。

 オルフェと顔を見合わせて笑う。

 がんばって食べよう。この子の料理はスライムですら強くする。


「ぴゅへ(まずい)」


 あれだな。食事と思うから辛い。薬だと思って食べよう。

 オルフェは顔をしかめながら、ニコラは無表情で紫色の物体を口に運ぶ。


「ねえ、ニコラ。私のほうはだいたい終わったよ」

「こっちも、昨日のうちにだいぶ終わらせた」


 この子たちが言っているのは、対シマヅ用の防衛設備のことだ。

 海から帰ってきてから忙しく動き回り、この屋敷の防衛力を大幅に上昇させている。

 殺傷性は低いが、【魔術】と【錬金】それぞれの全力をもって作った結界と罠。いかに【剣】のエランライトであるシマヅでも苦労するだろう。


「説得だけでなんとかなるといいけどね」

「それは無理。シマヅねえ、思い込みが激しい」


 二人の言う通り、よくも悪くもシマヅは思い込んだら一直線だ。

 準備をしておくに越したことはないだろう。


「ねえ、オルフェねえ。今日一日、スラを貸して」

「いいよ。スラちゃんと一緒に寝たいって言ってたもんね。スラちゃんもいい?」

「ぴゅい!(いいよ)」


 ニコラも可愛い娘だ。

 そして、まだ父親を失った悲しみを引きずっている。

 癒してあげたい。


「ありがと。オルフェねえ、スラ」


 ニコラが小さく微笑んだ。

 可愛らしい。


「ぴゅむ、ぴゅむ(がつがつ)」


 急いで自分の分の食事を平らげる。


「ぴゅふー(おなかいっぱい)」


 ぴょんぴょんっと跳ねてニコラの膝の上にのる。そして、すりすり。

 ニコラの低めの体温が気持ちいい。


「スラ、いきなり甘えてどうしたの?」

「ぴゅいー」


 ニコラは仕方ないなぁと言いたげな口調だが、その頬は緩んでいる。

 体は正直なようだ。

 ニコラの寂しさを埋めるために、今日は精一杯甘えてあげるのだ。


「スラ、今日はずっと一緒」


 ニコラが俺をぎゅっと抱きしめる。

 相変わらず薄くて固いが、これはこれで良さがある。

 今日も、大賢者は娘に抱きしめられてます。


 ◇


 食事を終えると、ニコラは屋敷に用意した工房に向かった。

 今日は一日、ニコラと一緒に行動する。

 ニコラの工房には所せましと発明品の図面や鋼材、各種資料、ポーションなどが並べられている。

 実に錬金術士らしい工房だ。


「スラ、そろそろお金を稼がないといけない」

「ぴゅい」


 実際のところ、人形遣いの遺産で金銭には不自由はしていないが、オルフェとニコラは二人で相談して、そのお金には手を出さないことにしている。それはやがて、エンライトの屋敷が売りに出されたときに即座に買うための蓄えだ。

 だから、早めにお金を稼がないといけない。


「今のところ、ポーション作りを考えてる。この街で売られているより、ちょっとだけ品質が良くなるように手加減して大量生産。ポーションの需要は常にあるし定期収入としては最高」


 それはいい考えだ。

 ニコラの錬金を活かしたいい金策だ。


「でも、それだと面白くない。スラはどうすればいいと思う?」

「ぴゅいぴゅい(好きなようにやれ)」


 ニコラは自慢の銀髪を指でくるくるとしながら考え込む。

 俺に話しかけてはいるが、オルフェと違って感情が伝わるわけではないので、話しながら頭を整理しているのだろう。


 ニコラはそうやって、俺に話かけながら、自分で二つの結論を出した。

 一つは、街の魔法薬屋にポーションを納入できるように交渉すること。こちらは定期的に行いメインの収入とする。

 魔法薬店のほとんどは、自分の店でポーションを作っているわけではなく、錬金術士たちから仕入れているので、腕のいい錬金術士は歓迎される。


 もう一つは、自分の修行も兼ねていろいろと発明して見て、月に一回ほど街で開催されるバザーに出すこと。

 その二つで生計を立てれないか頑張ってみるらしい。


「スラ、ポーションの材料を刈り取りに行こう。この周辺ならきっと素材にできる薬草がたっぷりある」


 ニコラが俺を抱いて屋敷の庭に向かった。

 この屋敷は複数の龍脈の合流地点で、すさまじい魔力が渦巻いている。


 こういう場所ではただの雑草にも魔力が宿り、ポーションの材料になりえるのだ。俺の屋敷の周辺もそうだった。

 そして、ニコラは俺に【収納】していた。植物の種を数種類取り出すように命じる。

 ニコラが品種改良を繰り返して作り上げた、最高級ポーションの素材となる植物の種だ。いかに雑草すらポーションの材料になりえるとは言っても、向いている品種、向いていない品種がある。

 ニコラの取り出したものは、魔力がたっぷりとある土地でないと育たないが、その分生命力と薬効が高い。庭の雑草を収穫したあとに、これを撒いて数週間もすれば最上級の素材が手に入るのだ。


 さて、楽しい草刈だ。

 俺も全力で頑張ろう。


 ◇


「ぴゅいぴゅいっぷ(スラドーザー)」


 新必殺、スラドーザーを使う。

 限界まで【剛力】などを使い身体能力を強化。そして、大きく口をあけて、風の魔術を推進力に変えてすすむ。

 するとどうなるか?

 地面の土ごと草を刈り取り【収納】できる。【収納】さえすれば草と土は自動的に振り分けられる。

 超高速での草刈だ。


「ぴゅい、ぺっ」


 そして庭の端から端までスラドーザーで刈り取ると、【収納】しておいた雑草をまとめて吐き出す。それも植物の種類ごとにわけて。

 まだまだ、終わらない。

 抉られた地面のうえに、さきほど【収納】した土を吐き出していく。

 それも、植物の根や石などを取り除いた状態でだ。そうすると柔らかく土が耕され、今刈り取った草が生えてくることもない。最高の土壌が出来上がる。


「スラって、本当にかしこい」


 耕された土には、オルフェが品種改良済の種をまき、さらに成長促進のポーションをかけていく。

 これが俺の考案したスライム農業だ。

 通常の数十倍の効率で、収穫と種付けが行える画期的な方法。


「ぴゅいぴゅいっぷ(スラドーザー)」


 一列が終わればまた一列。

 できるスライムなので、庭を次々に耕していく。

 そうして、庭中に生えていた魔力を受けて変質した雑草を抜き終え、耕し終わった。


「スラ、ありがとう。まる一日かかると思っていた作業が一時間で終わった。スラはすごい」

「ぴゅっへん」


 どや顔をする。

 スライムの身は不便だが、できることもいろいろと増えているのだ。

 ニコラが薬草を一か所に集めて紐で結んだ。

 そして担ぐ。俺もスライムボディを変形させて、何束か落ちないように体に乗せる。


「じゃあ、さっそくポーションを作る。……あんまり、ポーションに向いている品種じゃないけど一応作れる。超一級品は届かないけど二級品ぐらいなら、ただ……普通の錬金術士は五級品とかしか作れない。魔法薬店に二級品を持ち込んでいいか心配」


 贅沢な悩みだ。

 あまりにも強力過ぎるポーションだと高価すぎて買ってもらえないし、権力者に目をつけられる恐れや、同業者の嫉妬にさらされる恐れがある。

 だから、娘たちには自らの作ったものを売る場合、街にあるものよりほんのちょっといいものを売るのがコツだと教えていた。


「とりあえず、二級品を作って、水で薄めて効果を落とす。三級品と四級品を用意しておいて店のレベルに合わせて売るのを決めよう」

「ぴゅいぴゅい!(それがいいよ)」


 そのレベルだと不審に思われないし、水で薄めるとポーションの数が水増し出来て楽ができるのもあって好都合。

 ちなみに、俺の体内でのお手軽合成だと、この材料では三級のポーションが精いっぱいだし、普通の錬金術士なら五級までだろう。

 ニコラだから二級クラスのポーションをこんなあり合わせで作れる。……もっとも全盛期の俺なら裏技をたっぷり使って一級品すら作り上げて見せたが。


「じゃあ、今度はポーション作り、スラも手伝って」

「ぴゅいぴゅい!」


 そうして、俺たちは再び工房に戻った。


 ◇


 俺とニコラは街に出ていた。

 そして、用事を済ませてちょっと高めのお店で甘いケーキを楽しんでいる。

 今日はがんばったので、そのご褒美だ。


「スラ、定期購入の契約を結んでもらえて良かった。これでお金には苦労しない」

「ぴゅいっぴゅ」


 魔法薬を扱っている店で、大きく繁盛しているところにニコラのポーションを持ち込んでいた。

 そして定期的な仕入れをするように交渉したのだが、二つ返事で了承してもらった。


 今、この街ではポーションの需要が高まっているらしい。そこの店では五級のポーションをメインに扱っており、ニコラが二十倍に希釈して四級相当に落とした二級ポーションを見せると店主は飛びついてきた。


 その人の話では、五級ポーションしか作れない錬金術士すら、ほとんどが別の店と専属契約されているせいで仕入れに苦労しているそうだ。

 専属契約をすれば、仕入れ額に色を付けるとは言われたがそれは断った。これも俺の教えを受けてだ。……専属と名の付くものにろくな契約はないと口を酸っぱくして娘たちに教えていた。


 ちなみにニコラが直接ポーションを客に売らず、店に納入するのはめんどくさいからだ。

 自分で売るのなら店番をしないといけない。人を雇うのも管理が面倒。

 収入が少なくても、楽なほうがいい。浮いた時間で研究をしたいというのが彼女の考えで俺も賛成だ。


「スラは頑張ってくれたからご褒美。今日はお代わりを許す。お代わり欲しかったら、ぴゅいって鳴いて」

「ぴゅいっ!」


 即座に鳴き声をあげる。

 ここのケーキは美味しい。俺は昔から甘いものが好きだ。

 頭を全力で回転させる大賢者にとって甘いものは生命線と言える。

 もぐもぐぱくぱく。

 この店、クリームにいい素材を使ってるな。覚えておこう。これほどの生クリームは滅多に食べられない。


「スラといると不思議と父さんを思い出す。父さんも甘いのが好きだった。ねえ、スラ。スラは……ううんなんでもない」


 そう言うと、ニコラは自分のケーキを食べ始めた。

 俺は聞かなかったふりをして皿までなめる。人間のときにできなかった行儀の悪い作法もスライムではできてしまう。


 二人でたっぷりケーキを楽しんだ後、ニコラはオルフェ用のケーキをお土産に買っていた。

 ニコラはこう見えて、お姉ちゃんっ子で、とくにオルフェのことが大好きだ。

 こういう何気ない姉妹愛を見せられると父親としては嬉しくなる。


 さて、今日は一緒にお風呂に入って眠るだけだ。

 残りの時間も精一杯ニコラと楽しもう。


 ◇


 いいお湯だった。

 この屋敷にはお風呂がなかったが、ニコラと頑張って作った。

 オルフェもすごく喜んでくれて。二人と一匹のお風呂。


 これから、毎日この至福の時間を味わえると思うと、ぴゅいっとなる。

 そして、いよいよ就寝の時間だ。

 その前に……。


「ぴゅいっぴゅ、ぴゅいぴゅい」


 日課となっている、スライム体操だ。

 これは変形の訓練でもある。色を変えて、形を変えて、ぐにぐにっと。

 その成果が出て来て、最近はスラ触手なんてものも身に付けた。


 スライムボディからぷにぷにの触手を生やして、自在に操れるのだ。早速やってみよう。今日は調子がいい五本も触手が出た。


「スラ、それちょっと気持ち悪い」


 ニコラは、パンツにシャツ一枚という就寝スタイルになっている。

 昔から、はしたない。ちゃんとパジャマを着ろと言っているのにこれが楽だと言って譲らない。

 そんな悪い子はこうだ!


「ぴゅいっぴゅ」

「こら、スラ、くすぐったい。やめて」


 ニコラが笑う。

 複数のスラ触手をニコラに巻き付けてくすぐってる。脇などのニコラの弱いところをこしょこしょっと。


「はは、スラ、気持ち悪いって言ってごめん、だから、許して」


 ニコラがベッドに倒れて懇願してくる。

 しょうがない。そろそろ許してやる。

 くすぐられすぎて、全身を上気させて赤くしたニコラがベッドでぐったりとしていた。……少しやり過ぎた。


「ぴゅふぅー」

「もう、スラの意地悪。そろそろ寝る。おいで」

「ぴゅい」


 スラジャンプでニコラの薄い胸に飛び込んで、ニコラがぎゅっと抱きしめる。


「スラ、こうして誰かと一緒に眠るの久しぶり。父さんにおねだりすると、父さん、まだ子供だなって、苦笑いして、一緒に寝てくれた。父さんの腕に抱き付いて寝るのが好きだった」

「ぴゅいー」


 十四になってもそんなことをいうニコラを見て、お父さんちょっと心配だったんだぞ。


「ねえ、スラ。毎日とは言わないから、たまにこうさせて。寂しい。お願い」

「ぴゅいぴゅー(しょうがないな)」

「ん、ありがとう。おやすみ」


 そう言って、ニコラは俺を抱きしめたまま眠りにつく。

 その顔はとても安らかで、まるで天使のようだった。

 その顔を見れただけでも、今日はニコラと一緒にいて良かったと思う。

 ニコラが寝静まるのを待っていた。

 今日一日は休息に使った。これから本気で動くとしよう。

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