表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第二章:【錬金】のエンライト、ニコラ・エンライトは織りなす
22/141

プロローグ:スライムはアッシュレイ帝国に行く

 大賢者マリン・エンライトが死んだ。

 その遺産は娘たちに受け継がれるはずだった。


 だが、成金デブ公爵の陰謀により、すべて奪われそうになっていた。

 世界を変えてしまうほどの発明品たち。

 それが世に出れば、世界のパワーバランスが崩れて地獄になる。


 そうならないために、【魔術】を受け継いだエルフのオルフェ・エンライト。【錬金】を受けついだドワーフのニコラ・エンライト、二人のエンライトの娘たちは禁忌の発明を持って旅にでた。一匹のスライムと共に。

 そのスライムが転生した大賢者マリン・エンライトとも知らずに……。


 ◇


「ぴゅふー」


 温泉村から東を目指してゴーレム馬車を走らせた。


 巫女姫の手回しのおかげで関所を素通りできた。

 成金デブ公爵はすでに手配書を回していたようで、巫女姫の力がなければ危なかっただろう。

 ……ふむ、一応ダミーを用意していたのに発明品の持ち出しに気付くのがここまで早いのは意外だ。少し、成金デブ公爵の評価を上げよう。


 もうすでに、グランファルト王国を出ており、商業が活発なアッシュレイ帝国内に入っていた。

 なつかしいな。一時期ここを拠点にしてたことがある。

 この国は比較的若い国だ。

 三十年ほど前に、皇女に乞われて国の発展のためにいろいろと力と知恵を貸したものだ。


「スラちゃん、綺麗な景色だね」

「ぴゅい!」


 ちょうど山を一つ越えたばかりで、広い街道に出ていた。

 商業で発展している国だけあって、道がよく舗装されていて走りやすい。

 しかも、定期的に魔物除けの聖水も主要街道にまかれているおかげで、襲撃もなく快適だ。

 商業が活発な都市だと、そうやって人の行き来を活発にして経済を回りやすくすることがある。


「オルフェねえ、潮の匂いがする」

「今向かっているのが港町だからね。たぶん、あと二日も走ると海が見えるよ」


 そう言って、エルフのオルフェは窓を開けて身を取り出す。

 美しい金色の髪が風にたなびく。

 ドワーフのニコラもゴーレム馬車を自動操縦に切り替えて、同じようにしていた。銀色の髪を手で押さえて外を見るが、残念ながらまだ海は見えない。


「海」


 ニコラは微妙に好奇心の交じった声を上げる。


「ニコラは見たことがなかったよね」

「ん。ドワーフは鉱山の近くに集落を作るから海とは無縁。父さんに拾われてからも、ほとんど内陸部の国しかいってない」


 そうか、ニコラに海を見せたことはなかったか。

 オルフェは、何度かアッシュレイ帝国に連れていったことがある。

 あそこは、魔術の研究も活発で何度か学会に招かれたのだ。

 とはいえ、あくまで評価する側としてだ。

 さすがに、他国に大賢者の研究成果を漏らすのは国が難色を示した。


「海のお魚は美味しいよ。海が見えたらたっぷり食べさせてあげる。もちろん、スラちゃんにもね」

「ぴゅい♪」


 歳のせいか、肉よりも魚のほうが好きになっていた。

 スライムになって肉も美味しく食べれるようになったが、やはり好物である海の魚をお腹いっぱい食べたい。


 オルフェは一流の狩人だ。釣りもうまい。

 もっともオルフェの釣りを釣りと言ったら釣り人に怒られるかもしれない。

 かえしのついた紐付きの矢で狙撃し、あとは紐をたどって魚を回収するというものだ。

【水】属性の魔術も使えるオルフェには水の中すら見通せ、狙撃が可能なのだ。

 今から新鮮な魚を食べるのが楽しみだ。


 ◇


 日が暮れてきた。そろそろ野営の準備が必要だ。

 ちょうど、森の中に入ってきたところだ獲物には困らないだろう。


「スラちゃん、ごはんを狩りに行こうか」

「ぴゅい!」


 保存食はたっぷりと用意しているので、食事には困らないが、干し肉ではなく血の滴る肉を食べたいというもの。

 それに、【吸収】した種類が多くなるほど俺は強くなる。

 初めての土地で魔物を狩らないわけにはいかない。


「スラちゃん、ここでお留守番しててね。大物をみつけたんだ」


 そういうと、オルフェは高く跳んで、太い枝を掴んでくるりと逆上がり。木の枝に乗ると、別の枝へと飛び移ってどんどん奥へ行く。


 草が生い茂る地上よりもあれのほうがはやい。

 相変わらず、すさまじい軽業だ。

 俺は俺で、【気配感知】をして魔物を探している。

 進化した力をまだ試していない。


「ぴゅい!」


 見つけた!

 オルフェには留守番をしているように言われたが……うん、大丈夫。

 オルフェが帰ってくるまでに、戻ってくればばれない。


 スライム走りでぴゅいぴゅいっと走る。

 いったい、どんな魔物がでるかな。

 茂みに隠れて獲物に近づく。


 今回の獲物は、イタチだ。

 それもただのイタチではない、シザー・ウィンド。

 いわゆるカマイタチ。風の刃ですべてを切り裂く。


 ただの刃なら、このスライムボディにダメージを与えられないが、【風】の刃はちょっとまずい。

 ……ちょうどいい。いくつか試したいスキルがあった。


「ぴゅい!」


 不意打ちの機会を捨てて、あえて大声を上げる。

 シザー・ウィンドがこちらを向く。

 うむ敵意満々だ。


 シザーウィンドの爪は一本だけ長く伸びている。それに風を纏わせることで鋭い刃となる。


「キュウウウウ、キュイ!」


 シザー・ウィンドが俺の隣を駆け抜けていく。すれ違い際に、こちらを切り裂いていった。


「ぴゅい!」


【硬化】のスキルを発動。

 スライムボディが岩のように固くなり、そこにシザー・ウィンドの刃が叩きつけられる。


 傷はついたものの、切り裂かれてはいない。

 なるほど、鉄程度には硬くなるようだ。

 それに体が重くなっている。


『オリハルコンを纏う、メタルスライムモードに劣るか。オリハルコンを使うところをあまり見られたくないし、一応使い道はあるな』


 すれ違っていったイタチが戻ってくる。

 今度こそ仕留めようとしているのだろう。


 もう一つ試したいことがある。

【千本針】のスキルを発動、【硬化】を重ね掛けて針の強度を上げる。合わせて毒スライムモード。

 ウニのように全身とげとげのスライムが完成。

 シザー・ウィンドは、勘がいい魔物のようで、急ブレーキをかけた。

 だが、俺が試したいのはここからだ。


「ぴゅいいいいい!」


【分裂】を使用し、さらにバネのように内部構造を変えて、全身の針が四方八方に吐き出される。

 今まで、体の変形をしてきたが飛ばすのは初めてだ。


【分裂】というスキルを得て、さらに進化して筋力が上昇した今ならできると思っていたが、狙い通りだ。シザー・ウィンドはその敏捷さを活かしてよけようとするが、広範囲に散らばった無数の針をすべて躱すのは不可能、二、三本針が突き刺さる。


 致命傷には程遠いがそれで充分。

 たっぷり塗られた神経毒により、見動きがとれなくなる。

 さらに、一度躱した針も方向を変えてシザー・ウィンドに襲い掛かる。

 これらはすべて俺の【分裂体】。意志を持つミサイルだ。

 全身針塗れにして、致命傷と言えるだけの毒をシザー・ウィンドに叩き込んだ。



【千本針】を解除すると、とばした針たちがぷにぷにのスライムになり、ぴょんぴょんと跳ねながら、体に戻って来る。

 ふむ、スキルを得ただけで使っていなかったスキルをいくつか使ってみたが、どれもなかなか便利そうだ。

 俺は毒で動けないシザー・ウィンドのもとへ向かう。


「キキー!!」


 必死に威嚇するが、まったく怖くない。

 そういえば、スターヴ・フライのおかげで、【消化吸収Ⅰ】を得ていた。

 酸ポーションを消費しないで自前の消化液でも、必殺酸ビームが撃てるかもしれない。

 試してみよう。


「ぴゅっ、ぴゅいー!(酸ビーム)」


 圧縮した消化液を放つ。

 酸ビームを受けたシザー・ウィンドがジュウジュウ音をならして溶け始める。

 おおう、酸ビームより威力は劣るが、貴重な強酸ポーションを使わずに撃てるのはうれしい。


 スキップしながら瀕死のシザー・ウィンドをぱっくり。

 もぐもぐぱくぱく。


 ううーん、硬い肉でかなり獣臭い。

 三十点。やっぱり肉食獣より草食獣のほうが美味しいな。


 おっ、スキルを手に入れた。【風刃】。

 おおう、ついに魔法っぽいスキルだ! 少しうれしい。

 思わず、スライム踊りしてしまう。

 そのまま上機嫌でオルフェと別れた場所に戻る。きっとまだオルフェは狩りからもどっていないはず。

 だが、甘かった。

 ……とっくにオルフェは帰ってきていてたっぷり怒られた。


「スラちゃん! ここで待つように言ったでしょ! スラちゃんは弱いから一人で遠くに行ったらだめだよ」

「ぴゅい~(ごめんなさい)」


 まだまだ、オルフェにとっては弱いスラちゃんらしい。

 父としての威厳の危機だ。

 たくさんレベルを上げて、魔物を吸収して……はやく人間になりたい。


「反省した?」

「ぴゅいっ!」

「なら、許すよ。今日はごちそうだよ。じゃじゃん、シカが狩れたんだ。タタキにすると美味しいんだよ。スラちゃんもにもいっぱい食べさせてあげるからね」

「ぴゅい、ぴゅい♪」


 シカのタタキは大好物だ。

 オルフェなら最高のタタキに仕上げてくれる。

 一番美味しい後ろ脚に頬ずりする。


「スラちゃんって本当に食いしん坊だね。ちゃんと美味しい部分を切り分けてあげるから安心して」

「ぴゅい!」


 今から夕食が楽しみだ。

 オルフェが俺をぎゅっと抱きしめる。

 シカは風の魔術で器用に運んでいるようだ。


「ぴゅひ~(気持ちいい)」


 力が抜けて全身弛緩する。

 オルフェの腕の中、柔らかい胸が当たって温かくて気持ちいい。ここが俺の定位置だ。

 馬車のほうに俺たちは向かった。

 今日も、大賢者が養女エルフに抱きしめられてます。


------------------------------------------------

種族:スライム・カタストロフ

レベル:21

邪神位階:卵

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅰ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃(new!)

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材

ステータス:

筋力B 耐久C+ 敏捷B+ 魔力C 幸運D 特殊EX

-------------------------------------------------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ