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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:【魔術】のエンライト、オルフェ・エンライトは紡ぐ
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第十五話:スライムは邪神の眷属と戦う

【暴食】の邪神が封印されている場所を目指して山を歩いていた。オルフェとニコラだけでなく、エレシア、騎士、魔術士たちも一緒だ。

 早めに出発し、陣を封印の地のすぐ側に用意しつつ、戦いの準備をしながら増援を待つという作戦だ。


 封印の地までたどり着けばオルフェの儀式魔術を仕掛けられるポイントを見つける。

 儀式魔術とは、即席の魔術とは違い、あらかじめ陣を描き、さらに魔力を高めるためのさまざまな礼装を活用した魔術だ。

 通常は一流の魔術士が十人がかりでも三日はかかる。

 だが、オルフェなら半日で作りあげる。


 疲れを抜くため、三時間ほど休憩してから出発していた。

 貴重なニコラ特製体力回復ポーションと魔力回復ポーションを服用したうえで、睡眠薬を使い三時間しっかり眠ったのだ。

 万全のコンディションを整えることも重要な戦略だ。


「がんばろうね。スラちゃん」

「ぴゅい」


 俺はいつものようにオルフェに抱かれている。

 オルフェの抱きしめる力がいつもより強い。

 かなり不安を感じているようだ。


 それも無理もない。

 オルフェの能力を考えると可能な作戦とはいえ、周りの期待がオルフェの肩にのしかかっている。それがプレッシャーになっている。


「ぴゅい」


 王国の騎士も魔術士たちもなさけない。

 まだ、少女であるオルフェに重責を背負わすとは。


「オルフェ様、仮眠をとれたおかげでだいぶ魔力が戻りました。封印がはじけ飛ぶ間際、全力で浄化して少しでも力を削ります」


 馬車の中からエレシアが出てきた。

 彼女にも、オルフェやニコラと同じようにニコラの特製ポーションを渡し、さらに睡眠薬でぐっすり眠ってもらった。

【浄化】の力を少しでも回復してもらうためだ。


「そうですね。それがいいです。封印を強化して少しでも多くの時間を稼ぐのも魅力的ですが……この状況だと時間稼ぎよりも邪神の力を削るのほうが正解です。もし、儀式魔術が終わり余裕があるようなら、そちらも専用の陣を作ります」


 俺も同意見だ。

 エレシアは回復したと言っても全開にはほど遠い。時間稼ぎもせいぜい、二、三時間というところ。二、三時間稼いだことで得られる増援よりも、今の戦力での勝率をあげるほうが建設的だろう。

 ニコラが俺のほうを見ている。

 彼女も、【錬金】のエンライトとして自分にできることを必死に考えているようだ。


「スラ、私が合図したら頼んでた一式を出して」

「ぴゅい」


 ニコラは昨日のうちに使用するものをひとまとめにした。

 俺から見てもなかなかいいチョイスだと思う。


 ただ、周囲の環境を考えて本気でやばいものは使わないつもりだ。

 たとえ、この山が死の山になるとしても禁忌の兵器を使うべきだ。

 ニコラはその決断ができなかった。

 そんなことを考えていると【気配感知】に魔物の反応があった。


「ぴゅいっ!」


 鳴き声をあげて、オルフェの腕の中から飛び出す。

 オルフェのほうも気付いているようだ。

 

「もう、復活の前兆が出始めてる……これ、ただの魔物じゃない」


 目の前には、子犬ほどのハエの魔物がいた。その数は百を下らない。

 分裂した邪神ベルゼブブではない。

 やつの眷属だ。

 邪神の復活の前にはまず漏れた瘴気が変化し、邪神の眷属が現れる。

 この巨大なハエがそれだ。

 スターヴ・フライ。醜悪かつ、凶暴な魔物。


「みんな、警戒して。あの魔物は強いよ」


 オルフェは連続で【氷槍螺旋】を放つ。一発で複数のハエの魔物を串刺しにする。さらに炎の鎧をまとい、近づくスターヴ・フライを焼き尽くす。


 ニコラは、リュックから【護衛用小型ゴーレム】を六体出している。

 見た目は、槍の穂先のようだが自由自在に超高速で飛び回り、ニコラに襲い掛かるスターヴ・フライを貫き、ニコラに指一本振らさせない。


 さすがは俺の娘たち。邪神の眷属を圧倒している。

 だが、無事なのは二人だけだ。

 スターヴ・フライたちはオルフェの背後の冒険者たちを襲い始めた。

 数の多さというのは脅威だ。一匹を斬っている間に背後から襲われてしまう。


「ぎゃああああ」

「こいつら、俺を喰って」


 スターヴ・フライは魔物は口から強力な溶解液を出して、肉を溶かしてすする。

 暴食の眷属だけあって、強力かつ無慈悲な能力だ。


「一か所に集まれ! 背中を預けあうんだ」


 騎士だけあって、対応がはやい。魔術士たちを中央にして円陣を組むことで被害を最小限にしている。

 スターヴ・フライはその騎士たちの周囲を飛び回り、距離をとっている。


 そして、隙を見つけては集団で急降下し確実に戦力を削ってくる。

 なかなかうっとうしい。

 救援に向かわないと、遠からず全滅しかねない。

 オルフェとニコラも全力で対応しているが手が足りない。なら、ここは俺の出番だろう。


「ぴゅい!」


 俺は襲撃されている騎士たちのもとに向かい、口から特製の吹矢を吐き出していた。ファット・ラットの骨で作った針に毒を塗ったものだ。

 だいぶスライムボディの変形に慣れてきたし、順調に筋力も上がっているので、矢のように毒矢を連射できる。 

 毒に弱いらしく、スターヴ・フライの魔物は次々に落ちていく。


 俺を脅威と認識したスターヴ・フライどもは集中的に溶解液をかけてくるが、残念。このスライムボディにその程度の毒は通用しない。

 毒が通用しないとわかった奴らは溶かさずにそのままスライムボディをすすろうとしてくるが……。


「ぴゅっぴゅいー!(毒スライムモード)」


 たっぷりと体に毒を浸すと、俺の体にストローのような器官を突きさすたびにスターヴ・フライどもが即死していく。食べるのは俺の専売特許だ。出直してこい三下が。


 スターヴ・フライたちは俺をあきらめ、再び一か所に集まっている騎士たちのほうに向かう。

 何かをしようとしているのか、ほとんどが騎士たちの上空に集まり、魔力を高めはじめた。

 これは好機だ。必殺技など撃たせるものか。


「ぴゅいっぴゅ!(ニコラ借りるぞ)」


 ニコラの発明品である殺虫剤を散布した。

 懐かしい。これは害虫が大発生して飢饉が起きかけたときに王国から依頼が来たもの。一人前になりつつあるニコラに試験の一つとして作らせた。


 ニコラは、はじめて任された仕事ということもあって張り切り、とんでもなく強力な殺虫剤を作った。それこそ魔物にも効くような。

 それを、上空に向かって放出する。

 効果はてきめんだった。


 至近距離でくらったスターヴ・フライは即死し、遠く離れていたものも動きが鈍くなりふらふら状態。肉を食らうのに夢中な連中ですら慌てて飛び退ろうとして、それができずに息絶える。


 動きが鈍ったハエどもに兵士たちが必死に矢を放ち、魔術士たちも全力で魔法を放ち続ける。

 それから数十分後、なんとかハエの魔物の群れを追い払った。

 ……しかし安堵はできない。


『まずいな、思ったより騎士は体力を魔術士たちは魔力を消耗してる』


 オルフェにとってこの程度は準備運動にもならないが、普通の魔法使いにとっては、大仕事なのだ。

 騎士も魔術士も息を荒くして木々に寄りかかっている。

 負傷者も多いし、精神的なダメージも多い。士気もさがっている。

 これでは足でまといになりかねない。

 かといって見捨てられない。儀式魔術を使うためには多くの魔術士がいる。

 それに、オルフェが儀式魔術の陣を作っている間、それを守る騎士たちも必要だ。


「ぴゅいー」

「あっ、スラちゃん」


 しょうがない。少しでも士気を回復させよう。

 スライム飛びで、けが人のところに向かう。

 そして、ぴゅーっと口から水を吐く。


「うわっ、ばっちい」

「何しやがる!」


 水をかけられた連中が怒る、次第に自分の変化に気づく。


「怪我が治ってる」

「すげえ、まるで超一級ポーションじゃねえか」

「ありがてえ。おい、スライムこっちも頼むぜ」

「ぴゅっいぴゅー(ばっちこーい)」


 家の周りで道草を食べまくってストックしていたポーションの材料がここで役に立っている。

 体内で調合して、上級冒険者でもないと手がでない超一級品のポーションにしていた。

 俺はできるスライムだ。


 怪我が治ったこと、そして怪我をしても直せると気付いた騎士たちの士気がずいぶんと回復した。

 まったく世話がやける。

 一仕事を終えるとオルフェが抱きしめてくれた。


「スラちゃん、ありがとう。スラちゃんはえらいね」

「ぴゅっへん!(えっへん)」


 がんばったので少し甘えよう。オルフェに体をすりすり、くすぐったいのかオルフェが笑い声をあげる。

 相変わらず、ここは柔らかくて暖かくて、いい匂いで落ち着く。

 さて、現実逃避はここまでだ。

 避けては通れない問題がある。


「ぴゅーい……」

「どうしたのスラちゃん」


 地面には俺が毒針を打ち込んで、即死したスターヴ・フライどもが地面に落ちている。

 ……【吸収】するのは初めての魔物だ。


 間違いなく、新しいスキルは得られるだろうし、今回を逃せば二度と出会えないかもしれない連中だ。

 さらに言えばこいつらを分析すれば邪神ベルゼブブの弱点が見えてくるかもしれない。邪神の眷属は劣化した邪神といえる性質をもつ。弱点も共通しているのだ。

 だが、だが、ハエなのだ。ちょっと【吸収】するのは遠慮したい。

 ……勇気を出そう。


「ぴゅい」


 オルフェの腕の中から飛び出す。

 そして、ぱくぱくもぐもぐ。

 ハエの魔物を【吸収】。


 まずい、泣きたくなるぐらいまずい。

 だが、力が湧いてくる。素早さがあがった。

 そして、スキルを手に入れた。

 手に入れたスキルは、【消化強化Ⅰ】。どうやら、俺の【吸収】が強化されたらしい。


 ちゅっぴりうれしいスキルだ。

 だが、失ったものは大きい。

 若干、オルフェに距離をとられる。


「ごめん、スラちゃん、そのスラちゃんのことが嫌いになったわけじゃないから。でも、少しだけ時間がほしいかな」

「ぴゅい……」


 気持ちはわかる。ハエを食べたばかりの俺を抱きしめたくはないだろう。

 申し訳なさそうにしているオルフェに抱き着くほど、俺は心無いスライムではない。


 しばらく俺の居場所はあきらめよう。心にぽっかり穴があいた気分だ。

 邪神ベルゼブブ絶対に許さない。

 必ず滅ぼしてやる。

 ……しっかりとスターヴ・フライは分析した。なるほど、こいつらには致命的な弱点がある。人間にとっては無害でも、こいつらにとってはとんでもない猛毒となる成分があった。幸い、この成分のストックがある。

 これは使えるな。

 ベルゼブブも同じ弱点をもつとは限らないが、とっておきの成分をもったポーションを作っておこう。いや、あらかじめ仕込んでおくか。そんなことを考えながら、体内で調合済の回復ポーションにとある成分を混ぜ合わせた。人体には無害な成分だしポーションに混ぜても問題ない。これらは騎士や魔術士たちに使う。言い方は悪いが……彼らを毒餌にするのだ。


 ◇


 それから、たびたび魔物を撃退しながら先に進んだ。

 最初ほどの大規模のスターヴ・フライの集団は出てこないので、被害は比較的少なかった。

 それでもけが人は多く出ているので、そのたびに俺が癒している。例の成分がたっぷり入ったポーションだ……そろそろ回復ポーションの在庫が少なくなってきた。もっと道草を食っておけばよかったと後悔。


 そんな苦労を重ねながら封印の場所が見渡せる小高い丘にたどり着く。

 少しでも魔力を回復し、体調を整えるためテントを設置し、三時間ごとに交代で休憩することになった。


 ニコラは、爆弾を射出するためのカタパルトを設置し始めた。

 ストックしていた材料で手早く即席のカタパルトを作り、石で実験。

 精度に問題がないことを確認してにっこりと笑う。ほれぼれするほどの手際だ。


 オルフェはこの地の龍脈の質を調べ、星辰を確認し、さらに森の気を体で感じ取りながら、計算をこなし儀式魔術の陣の設計を行っていた。

 それがひと段落すると、俺に頼んでいくつかの魔道具を取り出し、ニコラのゴーレムを借りて労働力を確保し、超特急で儀式魔術陣の構築を始めた。


 六時間後、一息ついたオルフェは封印の地を見つめる。

 愁いを帯びた顔だ。

 己の人生を狂わした邪神、その一体が封印されている地だ。思うところがあるのだろう。

 俺は俺で二人を見守っていた。

 ニコラが紅茶の入ったカップを二人分もってやってきた。


「ねえ、オルフェねえ。今回は本当にまずい。私たち二人が全力でも少し分が悪い」

「うん、わかってる。でも、逃げちゃだめな戦いだよ」

「……こんなときは父さんの口癖を思い出す」

「そうだね。お父さんの口癖を思い出して……うっかり甘えたくなっちゃう」


 二人はくすくすと笑う。

 こんな状況なのに楽しそうで、緊張がほぐれていた。

 それだけ、俺の存在が強いのだろう。


「お父さんはよく言ってたよね。『俺はがんばらないやつや、すぐに人に頼る奴が嫌いだ』」


 それは俺の信条だ。


「ん。そういったあと、父さんは必ずこう続ける。『頑張ってるやつが好きだ。だから、おまえたちは、絶望的な状況でも、頭を限界まで回転させて、体を動かして、がんばって、がんばって、がんばりぬけ』」


 娘たちはその言葉を守り努力をし続けた。

 それぞれの分野のエンライトを名乗れるほどに成長したのは才能だけではなく、彼女たちの努力が何よりも大きかった。

 そして、この言葉には続きがある。

 二人は声を合わせて、その続きを口に出す


「「がんばって、がんばって、それでもだめなら俺がなんとかしてやる。だから勇気を出して挑め」」


 そう、やれることを全部やって、それでだめなら俺がなんとかしてやる。

 それが父親としての役目だ。

 

「父さんの言葉はいつも勇気をくれた。どんなことにも挑んでこれた。だからこそ、今の私たちがいる」

「うん、エンライトとして、お父さんの娘として、頑張りぬこう。不思議だね。お父さんはもう死んじゃったのに、ちゃんと頑張りぬいて、それでもだめなら助けに来てくれるって思っちゃうんだ」


 オルフェが笑う。

 その顔はとてもきれいだった。


「私もオルフェねえと同じ気持ち。父さんに胸を張れるように、だめでも、がんばったねって言って助けてもらえるぐらいにがんばる」


 ニコラがこくりとうなずく。

 そしてオルフェとニコラは手を合わせた。

 

「頼りにしてるよ【錬金】のエンライト」

「信頼している【魔術】のエンライト」


 二人は信頼を込めた微笑みを交わす。

 安心してくれ。俺がスライムになった今もその約束は続いている。


 二人ががんばりぬいてだめなら、あとは俺がなんとかする。

 期待しているよ。娘たち。

 その期待通り、オルフェは儀式魔術の陣をたった半日で仕上げて、ニコラはカタパルトを完成させ、とっておきの爆薬をセットした。


 しばらく休憩をし、いよいよ封印の限界時間が来た。その間、増援が到着し戦力は増している。

 空気が歪み、封印が悲鳴を上げている。

 この場にいる全員がベルゼブブに立ち向かうために配置につく。

 さあ、始まる。邪神との世界をかけた戦いが。


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種族:フォビドゥン・スライム

レベル:17

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅰ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅰ

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 フォレスト・ラット素材 ピジオット素材 ホーン・バンビー素材 デンクル・ラット素材 ニードル・ベア素材 グラッジ・ドッグ素材 スロック・チンパ素材 邪教神官の遺品 クイーン・ラット素材

ステータス:

筋力D+ 耐久D 敏捷C 魔力E+ 幸運E 特殊EX

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