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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:【王】のエンライト、レオナ・エンライトは率いる
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第五話:スライムはグランリード王国に向かう

 レオナがいるグランリード王国に向けて出発した。

 街道を進んでいく。

 ゴーレム馬車の操縦は自動操縦に切り替えられている。

 自走しているので、ゴーレム馬車は馬などを必要しないが、馬がいないのに動く馬車は不自然なので偽装用の四足ゴーレムに前を走らせていた。


 前までは鹿の皮を被った四足ゴーレムだが、こっちも新調されており馬の皮を被った四足ゴーレムになっていた。

 前のはただの四足歩行の実験のために作り、ほこりをかぶっていた品だが、今回のは戦闘用であり護衛も兼ねている。

 攻撃力・守備力・速度、すべてが鹿のときは比べ物にはならない。

 鹿ゴーレムのままなら、ゴーレム馬車に追いつかれて尻をつつかれていただろう。

 窓の外を見ていると、一つだけ問題が発生していた。


「ぴゅい……」


 普通の馬車のように見せる偽装は完璧なのだが、他の馬車を追い抜く度にぎょっとした顔で見られている。


 どれほど偽装をしようと、普通の馬車の五倍速で走れば死ぬほど目立つ。

 先程などは『その馬を売ってくれ』と商人が叫び、無視をして通り過ぎたのだが、その商人は自分の馬車から馬を切りはなして跨ると、必死に追いかけてきた。


 まあ、すぐに振り切って見えなくなったが。

 どっちみち不自然なのだから、もう偽装する必要もない気がしてきた。

 俺は目を見開く。待ち人が来たようだ。


「ぴゅいっ!」


 さきほどから窓の外を見ていたのは別に暇だからではない。

 俺には俺の目的があったのだ。

 数十体の羽の生えたスライムたちがこちらに向かって飛んできている。


「ぴゅいぴゅっ!(ボス、お待たせしました)」

「ぴゅっぴゅぴ!(土産もあります)」

「ぴゅーい、ぴゅい(褒めて褒めて)」

「ぴゅっぴゅる(やっと着いた)」


 そう、レベル上げと素材確保のために各地に飛んでいた偽スラちゃんたちだ。

 馬車と並走している。

 昨晩呼び寄せ、ようやくたどり着いたようだ。普段は人目のつかない夜にこっそりと合流するが、今はいつ襲われてもおかしくない。

 だから、人目は無視して合体しておく。


「ぴゅむ、ぴゅいぴゅ(ごくろう。では、こっちに来なさい)」

「「「ぴゅぴゅ、ぴゅぴゅーい(今こそ、一つにー)」

「ぴゅいっぴゅ(もう、それいいから)」

「「「ぴゅぃぃぃぃ(そんなー)」」」


 窓から身を乗り出し、口を大きくあける。

 偽スラちゃんたちが次々と俺の口の中に飛びこんで合体する。

 ふむふむ、みんな外で頑張ってくれており、たくさん獲物を食べてよく肥えている。

【分裂】してからの偽スラちゃんたちの活躍が脳裏に浮かぶ。


 本体である俺が強くなったことで偽スラちゃんたちの狩りの効率も上がっているようだ。

 返り討ちになる割合がずっと減っていた。

 ……ただ、残念なのは近場の魔物では、その魔物か、同系統の魔物をすでに食べたことがあるものばかり。

 レベルのほうも、ここまで高レベルになるとなかなか上がらない。

 第一陣、近場にいてすぐに戻ってこれたのは四十二体。狩った獲物はみんなで六十二匹だったが、レベルもスキルもステータスも変わらなかった。栄養をたっぷり補充して、スライム細胞の総量が増えたことが唯一の収穫だろう。


 第二陣に期待しよう。

 遠く離れた狩場の連中とはまだ合流できていない。まだ俺が知らない土地で狩った獲物ならスキルを得られるだろう。


 さて、早速戻ってきた偽スラちゃんたちの一部を予備魔力バッテリースラちゃんにして魔力を保存しておこう。

 スーパースラちゃん2やスーパースラちゃん3は、その状態を維持するだけで大量の魔力を消費する。貯金は大事だ。


「ぴゅふぅー、ぴゅーぴー(疲れた。これぐらいにしとくか)」


 用事は済んだ。

 窓を閉めて、俺専用のクッションの上にジャンプ。買い物に行ったときに一目ぼれしたものだ。これはなかなか寝心地がいい。スライムボディにジャストフィットして気持ちが安らぐ。


 オルフェとニコラは忙しく手を動かしていた。

 オルフェは、セイメイの元で学んだ符を大量に作っている。符は強力な魔術を無詠唱で使用できる。あらかじめ魔力を込めていれば魔力の消耗もない。魔術士の装備としてこれ以上のものはない。


 弱点は、符の性能によって書き込める術式の量や込められる魔力の量に制限があることだが、オルフェは質のいい符の入手に成功していた。

 なにせ、符を作っているのはニコラだ。


 セイメイは自らが所有する霊山の神木を材料にすることで上質な符を作っていたが、ニコラはポーションの原料である霊草の葉で作る。葉はポーション作りでは余るのでエコだ。


 ニコラは特級ポーションを作るために品種改良し続けた霊草を最上級の龍脈がある地で育てている。

 さすがにセイメイの霊木には劣るものの、素材としては一級品。そして、符に加工する技術もニコラは超一流のため超一級品の符が完成する。


「ふう、これでもう魔力はすっからかん。できることがなくなっちゃった」


 オルフェの手が止まる。

 符に魔力を込める以上、魔力がなくなればその作業はできない。


「魔力を回復させないと。お父さん、こっちに来て。ぎゅっとさせてほしいな。今のお父さんの体って、抱くと気持ちいいんだよ。いい匂いするしね」


 魔力を回復させるにはリラックスするのが一番いい。

 心が乱れていると魔力の回復が遅くなる。俺がお気に入りのクッションで一休みしていたのもそのためだ。

 オルフェは俺のスライムボディをぎゅっとすることで、気持ちを落ち着けようとしているのだろう。

 だが……。


「ぴゅんっ(ふんだ)」


 俺は顔をそむける。


「お父さん、無視しないで」

「ぴゅんっ」


 どうやら、オルフェはルールを忘れているらしい。

 なので、俺は鬼になる。

 オルフェが立ち上がって近づいてきたので、スライム跳びで逃げる。


「もう、お父さん。どうして」

「ぴゅう~、ぴゅぴゅぴゅ~」


 そっぽを向いたまま口笛を吹いて露骨に避けているアピール。

 俺は別にオルフェが嫌いになったわけでも、父親扱いされなくて怒っているわけじゃない。

 ただ、ルールを守っているだけだ。

 オルフェが悲しそうな顔をしているのには心が痛むが、心を鬼にする。

 そんなオルフェに向かってニコラが口を開く。


「オルフェねえ、屋敷の外にでれば、よほど差し迫った状況じゃない限り、スラの正体が父さんだってばれないよう、スラとして接する。そういうルール」

「あれって、馬車の中も適用なんだ」

「ニコラもそうしたほうがいいと思う。緩くすればぼろがでやすい」

「うん、そうだね。じゃあ、お父さんじゃなくて……スラちゃん、おいで」

「ぴゅいっ!」


 今の俺は使い魔のスラちゃんなので、ぴゅいっとオルフェの胸の中に飛び込む。

 オルフェの柔らかくて温かい胸に包まれる。スラすりすり。いい匂いがする。

 ぴゅいー幸せ。

 専用クッションも座り心地がいいが、オルフェの腕のなかはもっといい。この魅力を知れば虜になってしまう。魔力回復効率もあがりそうだ。


「スラちゃん、演技が完璧だね」

「ん。どこからどうみても無邪気なペット」


 できるスライムな俺は体内にストックしている薬草を調合して、リラックス効果がある香りを放つ。


「スラちゃん。魔力が回復するまでなでなでさせてね」

「ぴゅい~(しょうがないな~)」


 まったく、甘えん坊なご主人様だ。


「そういえば、ニコラはさっきから何を作ってるの?」

「ん。秘密兵器。できれば使いたくない凶悪なものだけど念には念を入れる」


 ニコラの前には無数の細かな部品があった。

 異様なのは、そのすべてに術式が刻まれていること。

 ニコラは【錬金】だけでなく【魔術】も使うが、これは【魔術】によりすぎる。


「……この術式。まさか」

「オルフェねえ、あくまで保険。グランリードに着くまでに完成させる」


 ずいぶんと物騒なものを作るものだ。

 それだけニコラも敵を警戒しているのだろう。


「ニコラ、何もなければあと四日で着くけど、本当に完成する?」

「ん。大丈夫。四日もあれば十分、それに何もないはずがない」


 オルフェもそう思っているから、魔力空っぽと言いつつも、最低限戦えるだけの魔力は温存しているし、俺も偽スラちゃんを何体か馬車の天井にクリア状態で張り付けて周囲を探らせている。


 そういえば、今頃ヘレンとシマヅはどうしているだろう?

 レオナの危機となればあの二人も何があっても向かってくるだろう。

 五人の姉妹が、数年ぶりに揃う。こんな状況なのに、そのことが楽しみになっていた。

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