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死神の口説き方  作者: 海水
第4章 死神を護るモノ
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最終話 あたしの知らなかった話

本編最終話です。

 嵐の様な日からもう一か月が過ぎた。春のポカポカ陽気の中、中庭の芝生の上で王妃様と昼食を食べてる。メニューは手軽に食べられるサンドイッチ。爽やかな風の中で食べるお昼は美味しい!


「いやーいい天気っす!」


 さっさと食べ終わったカルラちゃんが芝生にごろんと寝っ転がった。手も足も尻尾もぴーんと伸ばして気持ちよさそう。


「食べてすぐに寝ると~牛さんになっちゃいますよ~」


 ゆっくりもぐもぐ食べるテクラちゃんの方が牛さんみたいだけど。


「ははっ。さしずめ黒毛牛ってところか?」


 カルラちゃんは尻尾をうにょっと立ててボケ返した。


「黒毛牛カルラちゃんって美味しそうね!」

「……食うなよ?」


 彼女は横を向いてジト目であたしに釘を刺してくる。

 

「食べないわよ。だってカルラちゃん痩せてるから食べるとこなさそうだし」

「マジに考えるな!」


 彼女をからかうと面白い。だって素直にのってくるんだもん。


「あなた達は相変わらず仲が良いのねぇ」

 

 ヴィルマ叔母様はほっぺに手を当てて、ふふっと笑った。 


「あーあたしも寝っ転がっちゃお!」

「じゃ~あたしも~」


 テクラちゃんとふたりでカルラちゃんの横にコトンと転がって雲一つない空を仰いだ。鳥がたかーい所でクルクル円を描いてる。空を飛べたら気持ち良いんだろうなぁ。あの3人は、何してるのかな……













 死神との決着がついた後、ルティの様子が変になった。

 日が昇って部屋に来てあたしの姿を見た途端、彼女は飛びついてきた。「ごめんなさいごめんなさい」とひたすら繰り返した。


「どうしたの?」


 あたしが背中をすりすりと撫でれば涙ながらに語りだした。


「私、夜会でお嬢様がテラスに向かうのは見えていたんです。でもそのタイミングで帝国の騎士が不穏な動きをしたのでその場を離れることが出来なかったんです。あの場でテラスに行けていたらと思うと……」


 ルティは声を詰まらせながら胸の内を吐露し始めた。


「もし、ヴァジェット君がお嬢様を見つけられなかったら、今こうして抱き締める事も出来なかったと考えると、悔しくて悔しくて。私はお嬢様の護衛なんです。仕える主人を守れなくて何が護衛ですか! 私は、私は……うわぁぁぁぁ!」

「でもルティは助けに来てくれたじゃない」

「でも、でも!」


 ルティはずっと泣き続けた。

 それからのルティが1人で中庭の芝生の上にいるのを見かけるようになった。あたしの傍にアサルさんがいる事が多くなって気を使った、というのもある。

 最初は1人だったけど、少ししたら隣にヴァジェットさんが座るようになって、それが今では膝の上に彼の頭をのせて、何とも言えない砂糖な空間を醸し出している。どうしてそうなったのか、そのうちあたしに話してくれるのかもしれない。









 とある日、あたしとアサルさんは王城にいるお父様に呼ばれた。なんでも話があるんだとか。何の事か分からないけど、ともかくふたりで向かった。

 指定された部屋に行き、扉をノックする。


「居るぞ」


 お父様の声が聞こえた。よく聞くと中で談笑しているのか機嫌の良さそうな笑い声も聞こえてくる。アサルさんと顔を見合わせて首を捻った。


「失礼します」


 アサルさんが声をかけて扉のノブを回しガチャと開けた。


「ふふ、久しぶりね」


 部屋の中にはお父様の他に陛下、ヴィルマ叔母様に屋敷にいるはずのお母様がいた。あたしを見てにっこりと笑った。


「お、お母様?」


 驚くあたしに「まぁ座りなさい」とお父様から声がかかった。あたし達はいわれるがままに席に着く。給仕をしているのはルティとヴァジェットさんだ。訳が分からずふたりで見合っていると「はは、仲睦まじいのは良い事だ」と陛下が笑った。


「あの、私たちが呼ばれたのは、どのような理由なのでしょうか?」


 アサルさんが恐る恐る質問をした。ここにいるのは国王夫妻に公爵夫妻。陛下は別として、あたしにとっては両親に叔母様だけど彼にとっては畏れ多い地位の人達だ。


「まぁ、固くならないでね」


 お母様が優しく微笑んで話しかけた。


「うむ、事の顛末を説明しようと思ってな。わざわざ来てもらったのじゃ」


 陛下は満面の笑みだ。





「事の起こりは、お前の伴侶についてだった」


 陛下がアサルさんをチラッと見た。バツが悪いのか彼が下を向いたから、あたしは肘で小突いて「逃げちゃダメです」と囁き、顔を上げさせた。


「ふむ、既に尻に敷かれておるのか」


 陛下の呆れた声にヴィルマ叔母様とお母様がクスクス笑ってる。


「わしらが治癒者の後継者に悩んでいる時に、イシスが銀髪の不思議な力を使う男を探していると耳にした」

「治癒者については機密事項だから堂々と探してたらすぐに情報が集まってくるのよ」


 陛下とヴィルマ叔母様が交互に説明してくる。


「アサルには死神の噂が定着しておって、縁談など組める状況ではなかった。そこでその情報が入って来た。わしは天啓と感じたよ。ノーマンと相談してふたりをくっ付けてしまおうと画策した」


 陛下の説明にお父様がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。

 む、この顔はそんな事を企んでたのね。


「時が過ぎてお前も成人になり、王妃様の侍女の入れ替えの時期と重なった。これ幸いと陛下と相談してお前を侍女にしてしまったのだ」

「かなり前から帝国がアサルを狙っている話も知っていたからのぅ。あそこは戦乱続きで治癒者を欲しておった」

「いずれ我が国に来て皇女を盾に縁談の話を持ってくるだろうと予測はしていたからな」

「来ると分かったタイミングでふたりを婚約者にした。はは、あの女帝も焦ったろうなぁ」


 お父様と陛下の説明をあたし達は目をぱちくりさせて聞いているだけ。


「ノーマンと話を詰めてから直ぐに指輪を作る手配して、イシスを特級護衛対象に指定し、アサルとの距離を近いものにした。もちろん帝国からの邪魔を防ぐ意味もあった。コルネリウスがおったからのぅ」

「え……陛下はコルネリウスさんが帝国と内通してるのをご存じだったんですか?」


 思わず質問をしちゃった。そんなあたしにアサルさんが「私も知っていました」と教えてくれた。


「5年前には把握していました。この前の前騎士団長の死に関わっているのは間違いない状況でも、証拠を抑えられなかったんです」


 ヴィクトール騎士団長のお父様は地方への巡回業務中に急死したんだそう。急死とはなってるけど、実際は襲われて殺されたんだって。目撃者もいなくて犯人は分からなかったけど、所持品を取られていないとか抵抗したそぶりもなかったから、当初からコルネリウスさんが怪しいとはマークしていたんだそう。

 騎士団長を上回る剣の腕と奥さんが帝国の貴族で有力な貴族だって事もある。あたしが書庫に取りに行った本で彼の協力者をあぶり出していたみたい。

 

「それであの時にヴィクトールさんが……」


 彼は「ようやく墓前で報告できる」と言っていた。こんなことがあったんだ。


「何食わぬ顔で騎士団に居なければならないのは彼にとっては屈辱だったでしょう。目の前に親の仇がいるのに手を出せないんですから」


 アサルさんが彼を庇うように呟いた。


「そっか……」


 彼の付けている仮面が可哀想に思えてくる。にこやかな笑顔の仮面の下には悲しい素顔があったのね。


「無能を演じて、仕事をヤツに押し付けて動きにくくしてくれました」


 アサルさんも悔しそうな顔をしてる。


「じゃあアサルさんが言い返さなかったのも?」

「えぇ、アレも演技のうちです」


 もう何が何だかわからない状況だ。


「あたしが攫われた件は、どうなったんですか?」

「コルネリウスが人攫いと組んでイシスを攫い、遠国に売り払おうとした。罪人である彼を処罰する、という事で帝国と話をつけた」


 お父様が説明をしてくれた。両国の紛争にならないように、トカゲの尻尾にされたみたい。あたしが王都に来るときに襲われたのも彼が絡んでいるらしい。


「アサル、それで我慢するのだ」


 陛下の言葉にアサルさんは唇を噛んでいた。





「あたしって、最初から掌で転がされてたんですか?」

「イシスちゃん、ごめんなさいね。ばらしちゃうとアサル君が意固地になっちゃうから」


 エレノアさんも彼が頑固だって言ってた。確かに仕組まれてるのを知ったら拒絶しちゃうだろう。あたしも一度は拒絶されたし。


「ふたりを出逢わせたはいいが、上手くいく保証はなかった。正直に言うとイシスが如何にアサルを口説けるかにかかっておった」


 陛下が肩を落としてため息をつき「すまんのぅ」と呟いた。


「イシスちゃん、頑張ったもんね。跳ねのけられても諦めなかったし。だからイシスちゃんが攫われた時のアサル君の怒り様は凄かったわよ。怒り狂って誰も止められないんだもの」


 ヴィルマ叔母様はあたしを労わるように、微笑みながら話をしてくれた。


「1人ででも帝国に乗り込む、と聞く耳を持たなかったからのぅ」

「ヴァジェット君が捕らわれてるアジトの情報を持って帰って来なかったら、帝国と全面戦争だったわね」


 ため息をつくおふたりの話を聞いて、くるっと隣のアサルさんに顔を向ければ、彼はツイっと顔を逸らした。

 どこ向いてるんですか?

 彼の顔を両手でつかんで、ぐりっとこっちを向かせる。恥ずかしいのかちょっと頬が赤い。ふふ、可愛い。


「アサルさん? 今後はそんな事をしちゃ、ダメですよ?」


 彼の藍色の瞳をじっと見つめる。動揺してるのが丸わかりの目だ。もごもご動いてる口はなかなか開かない。

 ふむ、ここは『妻』として喝を入れないといけないわね。


「あなた? 聞こえてますか?」


 わざと感情のない冷たい目にして彼を睨み付ける。途端に彼の額に汗が現れてきた。周りからクスクスと聞こえてくるけどここはスルーだ。彼は汗をかきながらコクコクと頷く。

 これはいただけないわね。よろしい、やりましょう。


「お返事が、聞こえないのだけれど?」


 顔をさらに近づけて口だけの笑顔を作る。所謂目が笑ってない笑顔ね。聞こえてくる声がクスクスからゲラゲラに変わっていく。


「は、はい! もう致しません!」


 尻尾をピコンと立てて元気よく返事をしてきた。「よろしい」と小さく言葉を出して焦りまくりの彼の口に一瞬だけ唇を落とす。


「おぉ!」

「あらあら」

「まぁまぁ」

「……孫は3人は欲しいな」


 周囲から色々な声が聞こえてくる。ふふ、もう狼さんは逃がしませんよ。

 












「叔母様。今度お休みを頂きたいんです」


 ちょっと無礼だけど、寝っ転がりながらお願いをする。


「あら、新婚旅行にでも行くの?」

「まだ式もあげてませ~ん」


 アタシとアサルさんは婚約という関係から婚姻へとステップアップした。でも式はお預けだ。せめて侍女をちゃんと勤めあげてから式を上げなさい、と父様に言われてしまったからだ。

 まだ危険だから、という名目で今でもあたしはアサルさんと一緒の部屋で寝てる。おかげさまでスイートな新婚生活を満喫してる。


「……アサルさんの以前の婚約者さんのお墓参りに行こうかと思うんです」


 あれからアサルさんと話をした。ユニさん、エレノアさん、キーニャさんの3人には墓前で報告をしようって。彼女たちを忘れないようにって意味合いもある。

 亡くなってしまってから10年も経てば覚えている人も少なくなる。あたしやアサルさんがきちんと覚えてないと彼女たちが可哀想だ。彼女たちが生きていた証を、覚えておこうってふたりで決めた。


「それは良い事だわ。是非行ってらっしゃい」

「その間の王妃様の事はあたしらに任せとけ!」

「まかせといてくださ~い」


 ふたりとも手を上げて気持ちよく送り出してくれる。あたしの周りには優しい人が多い。


「あら、あれってルティちゃんじゃない?」


 叔母様が小さく指さした。芝生の向こう側でスカーレットの長い耳が風に揺れている。よく見れば彼女は赤い頭を膝の上にのせてる。機嫌が良くて鼻歌でも歌ってるのか風に乗って聞こえてくる。


「またヴァジェットさんとイチャイチャしてる」

「アレが精神安定剤って言ってるけどさぁ」

「そんなの~嘘ですよね~」


 3人の意見は一致した。





 お昼を一杯食べてお腹も満たされて、そうしたら睡魔が襲ってくる。ポカポカ陽気は居眠りをさせる犯罪者だ。


「ん~~むにゃむにゃ」


 最近眠気が強くなって来てる。いろんな事が終わってホッとしたんだろうね。今も凄い眠いの。


「ふぁぁぁ~~」


 風がそよそよと気持ちいい。春眠、虫も寝ちゃうだっけ? 本当に寝ちゃいそう。午後も侍女のお仕事があるんだわ……ちゃんと……起き…な……


「あら。寝ちゃった?」

「イシス、最近よく居眠りするよな。風邪ひくぞ?」

「ん~~、当たり~、ですかね~」

「ふふ、大当たり。かもね」 

「ははっ、なるほどな。おー、ちょうど犯人が来たぞ」

「彼が~犯人ですね~」

「ちょうどいいわ、アサル君に連れて行ってもらいましょ」


 ん~、何かごしょごしょ聞こえたけど、何を言ってたのかしら?

 ふわっと身体が持ち上がって、あたしはお馴染みの暖かい場所にすっぽりと収まってる。彼が歩を進めれば、ゆりかごみたいに一定のリズムでゆらゆらと動き出す。これはあたしの幸せのゆりかご。

 思わずにへら~と顔が緩めば頭の上から「ふふ」と愛しい人の声が降りてきた。ここはあたしの指定席。もう誰にも渡さないの。 ここはあたしのモノ、あたしのなの……ぐぅ

これにて『死神の口説き方』の本編終了です。お読み頂き有難う御座いました。

文字数の都合ですっ飛ばした説明なんかも多かったので、最終話にまとめてドンとなってしまいました。

ルティのお話をちょろっと書こうかと思います。

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