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死神の口説き方  作者: 海水
第4章 死神を護るモノ
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第7話 裏切りに嗤う騎士

R15推奨。胸糞な描写があります。

 あたしはお腹の痛みで目が覚めた。窮屈にお腹でふたつに折り曲げられた体が速いテンポで上下に揺れる。お腹には肩なのか硬いモノが当たって時折吐きそうになるくらい痛い。背中は腕か何かで押さえつけられて、お腹と背中でがっしりと固定されてる。足を動かそうにもぴったりとくっついてエビみたいにしか動けない。あたしの見えるモノと言えば何処を見ても白い布だけだ。布の向こうからは複数のヒソヒソ声が聞こえる。


「意外に簡単だったな」

「なんたって見張りの騎士もこっち側だからな」

「うるさい静かにしろ」


 何が起きたの? あたしどうなっちゃうの? 怖い、今の状況が分からない!  アサルさん助けて!

 不安なあたしを落ちてかせるように、痛むお腹がぽかぽかと暖かくなってきた。その暖かさがじわじわと耳から尻尾まで拡がって行く。アサルさんに抱っこされてるみたいでなんだかほっとする。

 ……大丈夫、焦らない。焦って頭を真っ白にしたらダメだ。目を閉じて頭から湧き上がる不安と雑念を振り払う。

 夜会のテラスで文句を言おうとした時に何かを嗅がされて気を失ったのは憶えてる。あたしは多分だけど、どこかに運ばれてる。お腹にドスドス食い込んで、たまに息が詰まって苦しいけど、とにかく落ち着こう。

 冷静になって自分の状況を確認する。手首は背中に回されて縛られてぐいぐいしたくらいじゃ解けそうにない。口には白い布を咥えさせられて猿轡をされてる。足も縛られてるのか離れない。あたしは攫われた感じだ。 





 お腹の痛みに吐きそうになるのを咥えさせられてる布を噛み締めて耐えてると上下に揺すられるリズムが遅くなった。静かなガチャという音がすると聞こえてくる足音の質がカツカツからコトコトに変わった。木の床を歩いてる感じの音だ。


(建物の中にでも入ったのかしら?)


 歩いてるからかお腹に当たる衝撃も少しだけど和らいだ。広い建物なのか結構歩いてる気がするけど、それはあたしが縛られて袋にでも入れられていて感覚がおかしくなってるからかもしれない。

 いつまで歩くんだろうと思った時にギィとまた扉が開くような音がした。あたしの体をがしっと掴まれてふわっと浮き上がる感触に包まれるとすぐに背中に何かに叩きつけられるような衝撃が襲ってきて息が詰まる。


「おい、手荒に扱うな」

「す、すみません」


 ……聞いたことがある男の人の声だ。しかも良く聞いた声だ。


「ぼちぼち夜会を終えたジョウが来る。見張っておけ」

「へへ、ここには誰も来れませんぜ」


 夜会? じょうが来る?


「あのチビは抑えてるんだろうなぁ」

「へ? あの赤毛のちびっちゃい男ですか? 何にも出来なさそうだから放っておいたら、いつの間にか居なくなっちまいやしたけど」


 赤毛のちびっちゃい男ってヴァジェットさんの事かしら。と言うことはこの男は彼を知ってるって事よね。


「アホか手前ら!」

「ひいっ!」


 聞き覚えのある一番偉そうな男が怒鳴り声を上げると、情けない声が漏れてくる。

 

「見張ってろといったろ!」

「あの従者の、ですか? あんなの気にするだけ無駄ですよ」

「あいつはアサルの『目』だ。チッ、移動しねえとまずいがジョウがまだ来ねえ。くそっ!」


 忌々しいという声色で吐き捨てると憂さ晴らしに何かを蹴ったのかガタンと大きな音がした。


「そいつを見張ってろ!」


 男が怒鳴るとそこは静かになった。

 お腹の暖かさのおかげで意外にも冷静にいられる。アサルさんに守られてる気がして嬉しくて目も熱くなってきた。

 あの後アサルさんはどうなったんだろう。あの女に迫られてし、押し切られちゃったかも……ダメだ、そんな事考えちゃダメだ。信じないと。

 ぎゅっと目を瞑り悪い考えを頭から追い出した。

 あたしは彼に必要とされてる。毎日ように身体も求められた。大体あたしがアサルさんの痛みを癒してあげるんだ、こんな所でへばってらんないのよ!

 




「ふぅ、なんだってあんなに怒ってるんだよ」

「あんなチビに何ができるってんだよ。ビビり過ぎだろ」

「まったくだ」


 声からすると男ふたりがいるみたいで愚痴の言い合いをしてる。下手に動いて刺激をしたくないからおとなしくして様子を窺う。

 恐らくあたしが気を失ってる間に袋に入れただけでベルトに隠してあるナイフには気が付いてない。だからと言ってあたしに戦うのは無理。下手にそんな事をすればこの場で殺されちゃうかもしれない。

 無理をしないで様子見をしておくべきかも。じょう、とかいうヤツが来るみたいだし。





 落ち着くと冷え込みが体を襲ってくる。布を通しても冷たい空気が侵入して来て呼吸をする度に胸に冷えた気配を連れてくる。

 遠くからガチャガチャと煩い音とドスドスと言う沢山の足音も聞こえてきた。誰かが来たみたいだ。


「ここです」

「ありがとう」


 さっきの男に続いた声は女の声で、よぉく知ってるあの女の声だ。

 白い布がぐぃっと引っ張られてあたしの頭が摺り上げられていく。眩しいくらいの明かりが差し込んだ瞬間今度は足の方が吊り上げられあたしは白い布からひり出されるように床に転がった。猿轡を乱暴に外されてまた床に投げ捨てられた。


「ふふ、良いザマね」


 嘲りの声に顔を向ければ、美しい黒い髪の持ち主があたしを見下ろしながら鼻で笑っていた。そこには憎たらしい笑みを浮かべたイヴェット皇女の姿とその脇には冷酷な笑みを貼り付かせたコルネリウスさんの顔があった。


「コ、コルネリウスさん……」


 そこには燃えるような赤い瞳に感情のない氷の様な冷たさを湛えた男がいるだけで、豪快に笑う闊達な彼はいなかった。


「あはは、信用していた人物に裏切られちゃうって、どう? あははははは!」


 イヴェット皇女が湧き出る嬉しさを隠しきれない顔で、今にも踊り出しそうな程愉快に笑った。口に手を当ててのけぞりながら狂ったように笑った。


「どう……して」


 冷静さが引っ込んだ頭で茫然と呟くしか出来なかった。あたしが倒れた後に、ぐしゃぐしゃと頭を撫で出くれたあの手と笑顔は嘘だったの?


「どうして? 元からこうさ」


 コルネリウスさんだった男は口を歪ませた。


「だってこの男は我が国の人間だもの」


 そういえば彼の奥さんは帝国の貴族だったけど、それが関係してるの? 

 あたしの頭は、よく働いてくれなかった。


「あらごめんなさい、知らなかった? ふふふ、あはは!」


 あたしを見下す彼女の金色の瞳に狂気が透けて見えた。あたしの身体に得体のしれない何かが這い回り始めて尻尾の毛が逆立つ。 


(この子狂ってる……)


「貴女がいなくなればあの方はあたしのモノ。ふふ、貴女、邪魔よ!」


 彼女が言い終わる前にあたしの目の前には靴の影が迫っていた。頬を蹴られて頭が激しく揺さぶられる。口の中に鉄の味が広がった。


「まったく嫌味な顔よね。なんであたしよりも可愛いのよ! ムカつくわ!」


 自慢の満月色の髪を引っ張られ顔を無理やり上げさせられた。真っ赤な三日月を口に浮かべ狂気に歪んだ彼女の顔が目に入る。


「ふふ、羨ましい?」


 口の痛みを我慢して微笑みで返してあげると、彼女の三日月の口元からは獰猛な牙が顔を覗かせ、可愛い顔がこれほど変わるとかと思うくらいに目がつり上がり、凶悪な顔に変貌した。


 (しまった、やり過ぎた)

 

「ふふ、ふふふ、あはははは!」


 イヴェットは狂気の雄たけびを上げ髪を手放し、あたしの頭をゴトンと床に落とすと足を振り上げてお腹を力いっぱい蹴って来た。


「がはっ!」

「きゃはははは!」


 尖った靴で蹴られる痛みに耐えきれずに転がって逃げても狂気の笑い声は容赦なく何度も何度も足を繰り出してくる。


「ごぼっ」

「きったないねぇ! あはは、綺麗な顔が台無しだ! きゃはは、きゃはははは!」


 口から体内のモノが吐き出されても笑い声と暴力が止まる事は無かった。


 (お腹は止めて! あの人の暖かみが消えちゃう! お腹はいやぁ! いやぁあ!)


 エビみたいにお腹を隠し転げまわりながらあたしは声にならない叫びを上げ続けた。





「この、この! お前がいなきゃ!」


 イヴェットは地面の虫を押し潰す様にあたしの顔を踏みつけて子供の喧嘩のような言葉を口にしている。あたしの顔の周りは血と吐瀉物でぐちゃぐちゃになっていた。


「嬢、あまりやるとコイツが売れなくなる」


 コルネリウスの冷たい声が待ったをかけた。


「……そうね」


 するとイヴェットの声から狂気の色が消えた。蹴られた顔がジンジンと痛い。腫れてるからか視界も狭くなってる。

 でもお腹に感じるアサルさんの暖かみはある。そのことだけでも安堵で胸が満ちた。

 グイッと髪を掴まれて顔を上げさせられると、体勢の苦しさから呻き声が口から洩れる。目の前には片方の目だけを大きく開かせ、口には狂気の牙をちらつかせた、歪んだイヴェットの顔があった。


「あんたはね、これから売られちゃうの。綺麗だから高値で売れるでしょうねぇ。あは、あははははは!」


 彼女はまた狂気に囚われ、高らかに歌う様に笑い始めた。

 アサルさんと離れるのはイヤ。あなたの傍にいたいの。助けて、アサルさん助けて! あなたと離れるのはいやぁ!!

 あたしの狭くなった視界が滲んで腫れた頬を涙が伝わって行く。ポロポロと零れて床にポタンと音をたてた。


「あーっははははは! 今更悔やんだって遅いんだよ。おまえはどこぞの変態貴族に売られていくんだ。くくく、あーっはっはっは!」


 高らかに笑い続ける彼女にゴミの様に頭を床に叩きつけられ、あたしの意識は、どこかに飛んでいった。

お読みいただきありがとうございます。

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