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死神の口説き方  作者: 海水
第4章 死神を護るモノ
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第6話 混乱に踊る夜会

 満月の次の日だけどお月さまは今日も真ん丸だ。満月の夜は不吉な夜。そんなセリフから始まる昔話もあるくらい今晩は胸騒ぎがする。

 あたし達はカルラちゃんを先頭に王妃様、その後ろにあたしとテクラちゃんが並んで、ルティのフォーメーションで王城の広い廊下を歩いている。

 カルラちゃんは唯一侍女では武装を許可された。手首までの黒いドレスに腰には可愛い大きなリボンと尻尾をにょっこりと覗かせた黒猫カルラちゃんだ。武装はパンプスに刃を仕込んだり腿に括り付けたナイフだとかリボンに仕込んだブーメランとかいろいろだ。


「武器と名の付くものは粗方扱えるぜ!」


 ニカッと笑うカルラちゃんがそんな事を言っていた。確かルティも昔そんな事を言っていた記憶がある。武器なんて何が使えるか分からないから全部使えなきゃだめだ、が師匠の教えなんだとか。超実践的ね。

 ルティもあたしの護衛用にこっそりとナイフを腿に括り付けてある。ヴィルマ叔母様も見て見ぬふりをしてくれた。ありがとうございます、叔母様。





 あたしは赤いドレスにしようと思ったけど、怪我をした際に血が分からないから止めて欲しいとアサルさんに言われてしまった。赤いの好きなのになぁ……

 仕方なく怪我をしてもはっきり分かるように真っ白のドレスにした。胸元をガッツリ開けてちょっと大人をアピールしつつ、動きやすいようにスカートの広がりもそこそこに抑え、春とはいえ寒いから厚めの赤いケープを羽織った装いだ。可愛いよりも綺麗を優先した、今晩の戦闘服! 

 一応護身用の小さな折り畳みナイフをベルトに仕込んでもらった。後はお守り代わりの針金2本。今でも鍵開けの練習はしてて、すっかり愛着がわいちゃった針金君だ。


「そう言えばヴァジェットさんはどうしてるの?」


 従者だからアサルさんの近くにいた方が良いと思うんだけど、いつも姿を見ない。ルティがちょこちょこ話をしてるのは見かけるんだけど。


「ヴァジェットは裏方さんなんです。今までも掴んだ情報を私に教えてくれてて、そのおかげで湯殿での襲撃とかを未然に防げていたんです」


 赤いドレス姿のルティがニコリと嬉しそうに話してくる。あら、『君』呼ばわりなのね。


「ふ~ん、仲が良さそうね」

「なかなかガードが堅いんですよ。情報の御礼に『ほっぺにちゅう』を差し上げてるんですけど、彼は逃げようとするんです。生憎あいにくと逃がしませんけど」


 あたしの意地悪な言葉にも、いかにも困った風な顔をしてこんな答えをさらっと言ってくる。言われたあたしは開いた口がふさがらない状態になっちゃう。隠れてる時に聞こえてきた「ちょっと!」って声の内容が伺いしれたわ。 


「そそそそうなんだ」


 聞いたあたしの方が恥ずかしくなっちゃうわね。





 会場は先日の夜会よりも気合が入った装飾が施されてる。大国の皇帝がいるんだから当たり前だ。上座に陛下と王妃様が隣り合って座り、陛下の隣にグラディス皇帝とイヴェット皇女が座る並ぶ。その脇に控える形であたし達王国側の侍女にアサルさん、帝国側に女性の黒い騎士が5人控える。

 あたしの視界にはバッチリあの女が入り込んでる。ふんわりとした感じの可愛い白いドレスを着て暖かそうな茶色のケープを見に付けて、落ち着いた可愛いさを前面に押し出して来てる。

 当然あたし達の視線がかち合う。お互いにニコリと微笑んで見つめ合い、喧嘩を売る。こればっかりは一歩も引けない。


「美少女の可愛さを押し出されると、悔しいけど『可愛い』としか言えないわね」

「お前らが醸し出す空気が重い。空間が歪んでるぞ」

 

 あたしの独り言にカルラちゃんが尻尾でツンツンと突っ込んでくる。

 そうかしら? あたしもあの子も柔らかな微笑みを浮かべてる。ちっとも怖くないじゃない。きりきり歯ぎしりはしてるけど。


「悔しいですが引き分けですね」


 ルティが唇を噛み悔しそうに唸った。だって贔屓目なしに可愛いもの。

 ふと向こうの護衛の女性騎士と目が合ったからにこりと微笑み返す。彼女達護衛の騎士もみな美人だ。彼女は一瞬惚けた後、頬を赤らめて俯いた。あたしも負けてないかしら?


「今宵はアダマン帝国の美女がふたりも来ておる。もちろんお付きの騎士も美人揃いだ」


 陛下の挨拶で夜会が始まった。





 王国の貴族たちが肘掛けに肘を乗せ顎に手を当ててるグラディス皇帝に挨拶に来る。もちろん父様もサディアス兄様もその中に入ってる。父様はあたしをチラッと見て少し口元を緩めた。あまり見たことがない、イヤらしくない笑みだ。


「いやぁ、とても我々と同年代とは思えぬ美貌ですなぁ。皇女様もお美しい!」


 父様が楽しそうにお世辞を述べてる。返事として表情の薄い皇帝もニコリとし、鮮やかな光沢を放つ黒いドレスの中で足を組み替えた。


「ありがとうございます!」


 イヴェット皇女はパァッと花が咲くように笑顔を振りまいた。挨拶に来た貴族たちも「おぉ」とどよめく中、唯一ヴィクトール騎士団長だけは何時ものにこやかな笑みを浮かべているだけで反応を見せなかった。


「テクラ譲をお借りします」


 サディアス兄様がヴィルマ叔母様に一礼をすると「ふふ、いってらっしゃい」とテクラちゃんが押し出されていった。ふたりは笑顔で見つめ合い、見えない桃色の花びらを振り撒きながら会場の真ん中へと歩いていく。そろそろダンスが始まる頃だ。


「ほら、アサル君も行きなさい」


 ついでとばかりに叔母様はあたしとアサルさんを見て促してくる。彼は頷くとあたしに手を差し出して「行きましょう」と誘ってくれた。カルラちゃんの「ここは任せとけ」と言う声に後押しされてあたしは彼の手を取る。振り返る一瞬でイヴェット皇女を見れば、笑顔のまま目を細めてあたしを見ていた。





「今回は素顔で嬉しいです」


 踊りつつ、アサルさんと見つめ合いながら会話をしていく。夜会の中で誰にも邪魔されないふたりっきりの時間だ。あたしの耳には彼の言葉以外入ってこない。


「あの時とは色々と違いますから」


 がっしりとした腕に支えられてターンを決める。アサルさんの逞しい筋力はあたしの安心の元だ。


「ただ純粋に楽しめないのが残念です」


 ちょっとだけ彼の表情が曇った。今回の件が無ければあたし達は婚約者にはなっていなかったろうけど、楽しむことは出来ただろうし。


「今回を乗り切れば、楽しめますよ」


 そう、楽しめるはず。

 あたしは、彼を想う気持ちをこれでもかと詰め込んだ笑みを浮かべる。例えあたしを心配してくれてる顔であっても、彼にそんな顔はして欲しくない。あたしの望みは彼の心を前向きにする事なんだから。


「そうですね」


 彼の顔もパッと元に戻る。あたし達は笑顔で見合った。





 曲も終わって戻ろうかという時に、あたし達の目の前にイヴェット皇女が現れた。薄い笑みを浮かべてあたしを睨んでいる。ただならぬ雰囲気に会場からは音が消え去った。


「アサル様、あたしと一曲お願いいたします」


 彼女はスカートをつまむと蝶のようにふわりとお辞儀をして、この場の視線を独り占めした。彼が目だけをあたしに向けて、どうしたもんか、と聞いてきたから数秒瞼を閉じた。是と知らせたつもりだ。


「……わかりました」


 来賓の皇女の申し出を断ることは出来ない。アサルさんはぎこちない笑みを浮かべるとスッと騎士の礼をした。彼女はあたしに一瞥をくれると嬉しそうに彼の手を取って会場の真ん中に移動していった。あたしは、大丈夫、と思いつつ漠然と眺めているだけだ。


「イシス譲、一曲如何ですかな?」


 いつの間にかヴィクトール騎士団長が隣に立っていて、何時もの笑みを浮かべてあたしを誘ってきた。会場の目がこっちに向いてる以上断り辛い。


「えぇ、よろしくお願いします」


 仕方ないと思いつつ、にっこりと笑って彼の手を取った。





「イシス譲、今日は警備の様子がおかしい」


 彼はアサルさんとイヴェット皇女を鋭い目つきで追いながら小声で話しかけて来た。いつもとは彼の様子が違う。なんだかカッコイイ。


「警備の為の騎士も増やしているのだがその割には目に付く数が少ない」

「え?」


 意外な彼の言葉と、予想外に筋肉質な腕に内心ドキリとしながらも踊りを続けた。


「君の立場と想いは十分理解しているつもりだ。くれぐれも気を付けてくれたまえ」


 終始真面目な顔であたしに忠告をしてくれた。まるでこれを言うためにあたしを誘ったみたいな感じだ。


「騎士団長が意外過ぎて、ちょっとびっくりです」

「はは、私も色々と仮面を被っているのだよ。君の愛しい婚約者と一緒だ」


 あたしの嫌みにも彼はウィンクで返してきた。そんな彼に目を丸くして驚くばかりだ。


「すみません」

「はは、これは内緒で頼むな。私は無能な騎士団長だ、いいね?」

 

 ヴィクトール騎士団長の、いたずら少年の様なニカッとした笑顔に一瞬見とれてしまった。あたしの持っていた彼の印象を粉々に砕いた素敵な笑顔だった。





 曲も終わりヴィクトール騎士団長と別れ王妃様のところへ戻る前にイヴェット皇女に手を引かれテラスに誘われるアサルさんが目に入った。相手が相手だから断り切れなかったんだろう。


「あたしの狼さんをどこに連れ込む気よ!」


 流石にその場に乗り込む訳にもいかないから、ちょっと離れたテラスから覗くことにした。


「警備の騎士の姿もあるし、これくらいなら危険は無いわよね」


 ぶつぶつと呟きながらカーテンに紛れるようにしてこっそりと覗き見をする。はしたないけど、これは婚約者の当然の権利よ!

 向こうの様子を窺えば、あの女がアサルさんの胸に手を当てて上目遣いで何かを訴えてるのが見える。


「しれっと何やってんのよ! 狼さんはあたしのなんだから手を出すんじゃないわよ!」


 あたしが文句を言おうとカーテンから出ようとした時に、背後から腕が現れて布のようなものを顔に当てられた。


「っ…………ア、サ」


 一息吸い込んだ瞬間、あたしの視界は白い布から真っ黒なものに変わった。

お読みいただきありがとうございます。

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