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死神の口説き方  作者: 海水
第4章 死神を護るモノ
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第4話 勇気の源

R15推奨。

 あたしとアサルさんが偽装婚約してからもう2週間が経った。あたしに毒が盛られてからは命を狙われるような場面には遭遇していない。アサルさんとルティのどちらかが必ずあたしの傍にいて護っているからなんだろう。それでも見られている視線を感じるから狙われてはいるんだと思う。

 あの光の玉もあれから現れていない。3人はどこに行っちゃったんだろう?


「ルティさんちょっと!」


 時折ヴァジェットさんがルティを呼んでは物陰に隠れてコソコソと何かを打ち合わせしてる。必ず最後に「ちょ、ちょっと!」という彼の叫び声が聞こえてくる。


「ふふ、なんでもありませんわ」


 何をしてるのかルティに聞いても嬉しそうに笑うだけで、はぐらかしてちゃんと答えてくれない。





 夜になると治癒者の記録書を開いてはアサルさんと一緒に読んで『死神』に対する勉強をしてる。彼自身も知らなかった事が書いてあるらしくて顔は真剣そのものだ。


「過去の治癒者って騎士の人はいないんですね」

「そうなんです。でもご先祖様はどうやってアレに勝ったのか……」

「官僚と侍女ばかりですもんね」


 あたしとアサルさんは腕を組んで頭を捻った。考えても答えは直ぐには出ない。


「う~ん、でも騎士のアサルさんはカッコいいです!」

「…………あ、ありがとう」


 照れてはにかんでるアサルさんは可愛い。脇でニヤニヤしてるルティがいなければ、抱きしめて頭を撫で回して尻尾をモフリ倒したいくらい可愛い。28歳だけど。

 あたしが読んでるのはジークさんが作成したイヴェット・レイセオンについての報告書。敵を十分に知っておくのは戦略の基本なんだとか。あたしにはよく分からないけど。


「う~ん、この娘ってアサルさんと結婚する事だけを教育されてきてるのね」


 報告書によると、皇帝の子供の中で唯一の女子で、幼少の頃から治癒者に嫁ぐ様に育てられてしまって、その他についてはあまり興味のない女の子らしい。


たおやかではかなげな表情はあらゆる男を魅了し、艶やかな光沢を孕んだ漆黒の髪は微かなそよ風にもたなびき、それは闇の様に彼女の持つ魔性を体現する。その肌は透き通るほどに白く、女性らしい柔らかな曲線が紡ぎ出すその容貌は人々の魂を震わせ続けている古代の女神像の様だ、だって。すっごい美人って事じゃない!」

「お嬢様の敵ではありません」


 ルティはカップに紅茶を注ぎながら、なんでもない風にさらっと否定した。


「だって絶世の美少女だって書いてあるわよ!」

「アサル様に相応しい女性とは、お嬢様のように心からアサル様を愛し、共に喜びや悲しみ、苦しみを分かち合う事の出来る女性です。すなわち、お嬢様こそが相応しいのです!」


 ルティが自信たっぷりに恥ずかしい科白セリフをどんどん並べていくに従って、あたしの顔の温度がぐんぐん上がって口があわあわしていった。


「自覚してないんでしょうけど、お嬢様だって超絶美少女なんですよ? ですよね、アサル様?」


 ルティがくるっと向きを変えてアサルさんに笑顔で同意を迫った。当のアサルさんは耳は向けていても顔は下を向いていた。本を読んで聞こえていない振りをしてるけと、バレバレだ。


「アサル様はお嬢様がお嫌いですか?」

「ちょっと止めてよ、ルティ!」


 ここで、はい、なんて言われちゃったらあたし生きていけないわよ!

 あたしの心配を余所にアサルさんはゆっくりと顔を上げてあたしの目を見てきた。藍色の瞳があたしの意識を捕え離さない。

 1分くらいずっと藍色の光から目が離せないでいたらルティが「ふふ、私はお邪魔のようですね」と嬉しそうに笑うとすくっと立ち上がり「ではおやすみなさいませ」とペコリと一礼して部屋を出て行ってしまった。

 残されたあたしは気まずくて下を向いている。彼の視線を感じつつも顔を上げられない。

 実際のところ、彼はあたしをどう思ってるんだろう? 好きとか嫌いとか、そんな感情は無いのかな? あたしが不安だから一緒のベッドで寝て抱き締めてくれるけど、何かしてくる訳でもない。明け方には寝ぼけてあたしの身体をまさぐってくるけど、これは無意識なんだ。あたしには我慢できちゃうくらいの魅力しか無いのかなぁ。

 そう思うと声に出して叫びたいくらいの不安が湧いてくる。


「イシス様。ちょっと気晴らしでもしませんか?」


 不安に絡まれてどうしようもなく困ってるあたしに、助け船がやって来た。





 アサルさんに連れられてきた場所は王城の西の塔の一番頂上。春にはちょっと早い冬の冷えた夜風があたしの耳を撫でて体温を奪っていく。ブルッと震えて持ってきた毛布をぎゅっと身体に密着させた。

 ここは10メートル程の円形の屋上だ。肩くらいまでの壁があるだけで、あたしの眼前には、透明で真っ暗な夜空を埋め尽くすほどの星が瞬いてる。赤い星青い星黄色い星。頭上に煌めく色取り取りの星が、今にもあたしに降り注いでくるような錯覚を起こしそう。


「ここは眺めも良くて、人も来ません。ひとりで考え事をするにはうってつけなんです」

「すっごぉぉぉい!」


 あたしは上を向いたまま手をひろげ、クルクルと独楽こまの様に回転した。何処を見ても黒い空間を埋め尽くす星の光で満ちてる。気を抜くと夜空に意識が吸い込まれそうになっちゃう。





「先程はすみませんでした」


 あたしが満天の星空を堪能していると横から声がかかった。顔を向ければ手にランタンを持って、この星空とは対極の暗い顔のアサルさんがぽつんと立っていた。


「何が、ですか?」

「貴女に悲しい顔をさせてしまいました」


 アサルさんはさっきの「お嫌いですか?」に答えなかったことを言ってるみたい。気にはなってるけど、あたしにはどうしようもない事。彼だって男の人なんだから、綺麗でグラマーな人が良いに決まってる。年齢は成人になったけど、あたしはまだまだお子様だ。そりゃぁ好かれたいけど、それを決めるのはアサルさんだ。


「あたしは大丈夫ですよ!」


 にっこりと笑顔で返事をする。心を隠す演技なんてもうお手のもん。

 アサルさんはしゃがんで手に持ったランタンを床に置くと、スッと立ち上がりあたしを見つめてきた。下から照らされる灯りで、森の中でたき火しているようにあたし達が橙と黒で彩られてる。その中で藍色の瞳は、夜空の星に負けないくらい綺麗に輝いていた。





「私は、貴女に助けられているのです。今までの耐えた苦しみを話して欲しいと言われた時、私には貴女が女神に見えました」


 藍色の瞳はその輝きを変えずにゆっくりと言葉を噛みしめるようにあたしに気持ちを伝えてくる。揺らいでいるのはランタンの炎だけ。

 

「……我が侭なのは承知です。貴女に、傍にいて欲しいのです」

「え……」


 その言葉はあたしの胸に落雷のような衝撃を与え、雷鳴のように響き身体を駆け巡った。心臓が懸命に駆け足の速度を速めてあたしの尻尾の先にまでその言葉を染み渡らせていく。

 一生懸命言葉の意味を理解しようとしている間にあたしは、ランタンを背にしたアサルさんという影にすっぽりと包み込まれて、優しく、痛みがない程度に強く抱き締められた。


「貴女を、手放したくない」


 耳元で甘く囁かれ、思わず見上げたあたしの頬にゴツゴツした手が添えられた。獲物を定めた藍色の狼の目に魅入られて、あたしはウサギのように動けない。

 親指の平で唇に沿って勿体ぶるように撫でられていく。何度も何度も離れることを惜しむように繰り返し唇を愛撫されていく。なぞられる度にあたしの身体がぐらぐら煮えたぎり、口からは熱い吐息が零れ出す。


「アサル、さん……」


 あたしはどうすることも出来ずにただ潤んだ目で彼を見つめ続けていた。


「私は、貴女を愛しております」


 その言葉を理解する前にあたしの唇は、8年間追い求めていた『あの人』に奪われた。強く、何度も唇を求められ、あたしは無我夢中でそれに応えていく。

 甘噛みされ卑猥な音をたてられても、あたしの唇は全てを受け入れた。





 あたしはどこを歩いたかすら分からない程混濁した意識のまま部屋に帰った、らしい。灯りの消えた部屋で荒々しく抱き寄せられ、もう一度唇を奪われた。あたしは彼の首に手を回し感情のままに貪るように唇を求めた。

 はっきりしてるのは、彼はあたしを求めているということ。そして、とろけきったあたしの身体も彼を求めていた。


「……あたしは、狼さんに、食べられ、ちゃうの?」


 沈み込みそうなけだるい快楽の微睡みの中で辛うじて口が動いた。


「狼は獲物を逃しません」


 狼さんは闇の中に光る藍色の瞳に狩人ハンターの気配を孕ませて、あたしに襲い掛かって来た。横抱きに持ち上げられ、暗闇の中、音もなく運ばれていく。高鳴る胸の音とは真逆に身体に力が入らず指一本も動かせなかった。

 ふわっとベッドに寝かされると彼の手があたしの身体に狙いを定めて蠢き始めた。暗闇の中、武骨な掌が身体の線に沿って這いまわり、あたしが感じた事のないビリビリと痺れる感触と胸をざわめかす感情を与えてくる。


「だ、だめ……」

「逃がしません」


 掌に唇が加わり、あたしの身体の全ての場所を調べ尽くしていく。触れられたくない場所を隠そうにも痺れて手が動かせない。いつの間にか寝間着も脱がされて生まれたままの姿を闇に晒していた。


「美しい」

「いやぁ……」


 耳を甘噛みされながら囁かれる度にあたしの意志とは無関係に口から喘ぎ声が漏れ、ビクンと身体が跳ねる。躰の熱が暴走して、胸の奥がギリギリと締め付けられるように痛い。

 でも藍色の瞳はあたしを休ませてはくれなかった。





 初めての痛みに枕を握りしめて耐えてる最中も藍色の目はあたしを視線から逃さずに見つめ続けてきた。


「や、やさしく……」


 あたしが痛みを訴えれば荒々しい動きも止まるけど、ぎゅっと握っていた枕も奪われ、目尻に溜まった涙をペロッと舐めとられ、下腹部にそっと手が当てられた。

 

「痛みを奪い取ります」


 あたしは身体を二つに裂くような痛みすらも狼さんに奪い取られ、代わりに押し寄せる快感の波に抗う事が出来ずに彼の身体に必死にしがみ付いた。唇を塞がれて言葉を出せなくても愛しい人の名前を呼び続けた。

 彼の動きが激しくなって、あたしが快楽の底なし沼に沈んでいくその時に、熱いものが身体に広がっていった。真っ白になる意識の中で彼の背中に爪を、肩に牙を立てた。


「貴女は、私のものです」

「は、い……」


 宙に浮いているような感覚の中、獲物を勝ち取った狼さんの勝鬨(遠吠え)があたしの耳から入り込んだ。あたしは余すところなく彼に食べられてしまった。





 まだ夜明けには程遠い闇の中、無防備に眠る彼の横顔を見る。寡黙な狼さんは不安に憑りつかれてたあたしを安心させるために本性を現したのかもしれない。


「あたし、アサルさんに求められたんだよね」


 あたしが噛みついた右肩はまだ血が滲んでる。熱いものが注がれた下腹部は、アサルさんの手が触れてるみたいにじんじんと暖かい。


「暖かいのがあると安心する……」


 この寡黙な狼さんはあたしのモノだ。絶世の美少女だか何だか知らないけど、アサルさんの苦しみを知りもしない女に彼は渡せない。


「大好きです」


 静かに寝息を立ててる狼さんの胸に額を当てて目を閉じた。

お読みいただきありがとうございます。

狼ですが、実際は獲物を諦めやすいそうです。無理はしない、という事でしょうか?

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