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死神の口説き方  作者: 海水
第3章 幽霊と少女
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第6話 遭難する少女

 錠前開けの練習を始めて既に1週間。必ずではないけど錠前を開けることが出来るようになった。


「また出来た!」

【凄いですわ!】

【予想以上だな】

【イシスちゃんてば泥棒さんにもなれちゃうね!】


 光の玉からかかる声に素直に喜んで良いのか悩む誉められ方をした。何気にユニさんて独特な考えしてる。

 この3人は性格が全然違う。でもアサルさんはそれぞれを好きになったんだ。光の玉だから顔なんて分からないんだけと、きっと顔で好きになった訳じゃないと思う。3人は優しい性格の上に育った環境が足されてるような気がしてる。あたしの思い違いかもしれないけど。


「後はタイミングを見計らって実行ね。でも練習は続けるつもり」

【イシスごめんな。書庫の中を探してるんだけど量が多くて探しきれてないんだ】


 キーニャさんがすまなそうに謝ってくる。そんな時は光の玉も輝きが弱くなる。彼女達もアサルさんみたいに顔は見えないけどその代わりの何かが反応する。その反応は隠し事なんか出来ない反射的な反応だから本心なんだって分かる。


「ん~ん、あたしの代わりに探してくれてるんだから気にしないで」

【なるほど、ですわ】

【ふふ、そうだね!】

「なに?」

【何でもないぜ!】


 ……何がなるほどなのよ? エレノアさんもユニさんも何か隠してる?





 今日もヴィルマ叔母様は忙しい。あたし達3人もてんてこ舞いで動きまくってる。


「書庫、ですか?」

「えぇ書庫に過去のアダマン帝国との婚姻を記録した本があるのよ。探してきて欲しいの」


 書類の山の向こうからヴィルマ叔母様の声が聞こえる。書庫と聞いてあたしの尻尾はピコリンと立ち上がった。


「くく、イシスは分かりやすいな」


 書類の束を抱えたカルラちゃんが小声で笑ってる。


「もぅ、バカにしないで!」

「イシスちゃんは~一途ですから~」

「テクラ姉さんまで!」

「そ、その言い方は~反則で~す!」

「ハイハイ、その辺にしといて。誰でも良いから書庫に行ってくれない?」


 あたし達の言い合いに書類の山の向こうのヴィルマ叔母様から仲裁が入った。ちょっとハシャぎ過ぎちゃったかしら?


「あたしは手が空いてねえっす」

「あたしも~無理で~す」


 ふたりともこっちを見てウィンクしながらわざとらしい声を上げて忙しいアピールをして、あたしが書庫に行けるように誘導してくれてる。


「じゃあイシスちゃんお願いね!」

「はい、分かりました!」


 ヴィルマ叔母様から許可書を受け取り、ふたりにニコッと笑顔で応えて急いで部屋を出た。





 書庫は王城の奥にある。外に出せない国内の各種指標、戸籍なんかの資料や他国との条約や貿易の書類を保管している部屋だ。当然入り口には鍵が掛けられていて、入るのにも許可が必要になる。陛下に王妃様、宰相あたりしか許可を出せない。大臣と云えども気軽に入れる場所じゃない。それくらい重要な部屋だ。


「あの、王妃様からの依頼で来ました」


 書庫の前には近衛騎士がふたり警備していた。何故かキザなヴィクトール騎士団長もいる。

 何でいるのよ。


「おぉ、これはイシス嬢ではないか。君は今日も女神のように美しいな!」


 にこやかな笑みを浮かべながらすすっとあたしに寄ってくる。

 思わず体が逃げちゃうけどここは我慢。


「えへへ、ありがとうございます!」


 ちょっぴり首を傾げて精一杯の愛くるしい笑顔をあざとく演技する。


「げ、元気そうで何よりだ」


 騎士団長は照れ隠しなのか視線をずらした。書庫を警備してる騎士達はちょっと顔を赤くしてる。ふふ、成功成功。あたしも捨てたもんじゃないわね。


「もう身体は大丈夫なのか?」


 珍しく真剣な顔であたしの心配をしてくれてる。真面目な顔は凄い綺麗なんだけどね。


「はい、おかげさまで!」


 あたしが元気に答えれば彼も笑顔になる。その辺は相手が誰であっても嬉しい。


「君が訓練所に来なくなってからは日が沈んだ雪原のように寂しくなってしまったよ。来れる時には顔だけでも見せてくれると皆も喜ぶんだが」


 一瞬寂しそうな表情を見せたけど直ぐにいつものにこやかな顔に戻った。あたしを心配してくれる人はいるんだ、と思うと嬉しくなる。そんなあたしの考えが顔に現れたのかヴィクトール騎士団長は真面目な顔で「男はアイツだけではない。君はにこやかでいられる環境にいるべきだ」と話してくる。

 ん~、どういう意味なのかしら?

 あたしが意味を理解出来なくて首を捻ってるとヴィクトール騎士団長が眉尻を下げて「ふぅ、イシス嬢は手強いな」と呟いた。あたしは「あははは」と笑って誤魔化す。何なんだろう?





 ヴィクトール騎士団長から逃げて書庫に入れば、そこはかび臭い匂いと咳き込むくらいの埃っぽさであたしの鼻が取れちゃうんじゃないかと思うくらい空気が澱んでいた。一呼吸しただけでもゴホゴホと咽せるくらい酷いところだ。


「マスクでもしないといられないわね」


 顔をしかめながら部屋を見れば書庫に窓はなく、薄暗い壁一面に本棚が設置されていて20m程繋がってる。部屋は本棚で区分けされていて、通路と本棚しかない。本棚にはびっしりと何かの本が詰め込まれていて、背表紙を見ても古くて何が書いてあるのか良く分からない物もある。


「本の虫でもなければここには来たくないわね」


 先ずはヴィルマ叔母様に頼まれてる本を探す事にした。治癒者の記録はその後にしないと、本末転倒で何をしに来たのか分からなくなっちゃうもの。


「イシス様、お手伝い致しましょうか?」

「あたしは大丈夫ですよ。それよりも変な人が入ってこないようにお願いしますね!」

「お任せ下さい!」


 表の騎士が声をかけて来るけどそれとなく断っちゃう。あくまでも優しくね。


「早く探さなくっちゃ!」


 とは言ったものの何処から探して良いものやら。何処を見ても本しかないし、しかも量が半端じゃないのよ!


「仕方ない、端から探していこう」


 歩く度に埃が舞う書庫を探し始めた。





「何処にあるのよ!」


 頭も体も埃まみれになりながら探すことに1時間。王妃様に頼まれた記録書も見つからない。スカートを叩けばぼふっと埃が舞う。


「これじゃ湯殿で埃を落とさないと人前に出られないわね」

【イシス、こっちにあるぞ!】


 ぶつぶつ言いながらも探してたらキーニャさんが現れてこっちこっちと誘導してくれる。ふわふわ浮いてる赤い光の玉について行けばとある通路に入っていった。


「見失わないようにしないと!」


 急ごうと出した右足が何かに引っかかってバランスを崩し、そのままぐしゃっと顔から床に落ちた。


「いったぁ~い」


 倒れる際に振り回した手が本棚の本に当たったのか、収まりが悪かった本が雪崩のように崩れて来るのが見えた。


「うっそ~~!」

【イシス!】


 ドサドサという音と、凶器としか思えない角っこが当たる痛みを引き連れて大量の本があたしの上に降り注いで来た。


「イタタタタタ! た、助けて~!」


 崩れ落ちてきた本に埋もれたままもがくけど乗っかってる本が重い!


【大丈夫か?】

「大丈夫じゃない、かも……」


 手を動かしてあたしの上に偉そうに乗っかってる本を退かしていく。


「もぅ最悪~!」


 ぶん投げてやろうかと手近な本を掴む。


【イシス、ちょっと待て!】

「何よキーニャさん。邪魔しないでよ!」

【その手に持ってる本を見ろ!】

「え?」


 あたしは古ぼけて文字も掠れかかってる表紙を見た。


「ちゆ、者? 治癒者!? え、嘘これ何!?」


 もう一度じっくり見る。治癒者って書いてある。深く深く呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、もう一度見る。


「治癒者。治癒者って書いてある! この本に治癒者って書いてある!」

【おぉ、すげーじゃん】


 偶々だけど見つけた事が嬉しくてこの本を思わず高く掲げた。転んだ挙げ句本に押し潰されたけど、見つけちゃった!


「でも、持ち出しちゃダメだよね」


 もしも持ち出してそれがばれちゃったら、大騒ぎになっちゃってすっごい怒られるよね。それが元で侍女を解任されちゃったら、アサルさんの笑顔を取り戻せなくなっちゃう。キーニャさん達も悲しむだけよね。


「折角見つけたけど」


 古ぼけて文字も掠れてる本を胸に抱きしめる。焦っちゃダメだ。良く考えよう。思い付いたからって直ぐに行動は止めよう。

 でもこの本はどうしよう。


【しかしまぁ、散らかったな】


 ゆっくりと点滅してる赤い玉があたしの目の前に浮かんでる。声はちょっと呆れてる感じ。


「そうだね……」


 本棚に挟まれた通路は本の雪崩の傷跡が、散乱した本という形で刻まれてる。あたしが散らかしたんだよね。


「……片付けよう」


 ため息をついて立ち上がろうとした時だった。


「……イシス、様?」


 本を片手に持った獣の骸骨が本棚の陰から窪んだ暗い目であたしを見ていた。

お読みいただきありがとうございます。

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