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死神の口説き方  作者: 海水
第3章 幽霊と少女
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第5話 立ち上がる少女達

『想いに応えることは出来ないのです』


 この言葉があたしの頭からは消えてくれない。何時までもぐるぐると渦巻のようにあたしの思考に纏わりつく。

 分かってる。分かってるから。

 それでもあたしの諦められない心とぶつかって、いつまでも頭の中に燻り続けてる。

 諦めたくはない。でも、届かないの。あの仮面の向こう側には届かない。





「イシスちゃ~ん。起きて~」


 テクラちゃんの声がしてあたしの身体がぐらんぐらん揺らされる。辺りには美味しそうな匂いも漂ってて、お腹もぐぅと声を出して同意した。


「おい、イシスってば!」


 カルラちゃんの声でハッと起きた。ぱっちり目を開ければカルラちゃんが心配そうな顔であたしの様子を窺ってる。

 まだ寒い冬の部屋の空気が急速に眠気を飛ばしていく。目の前には昼食が美味しそうな湯気を立てて、あたしに食べられるのをじっと待ってた。


「イシスちゃ~ん。寝ちゃだめ~」


 テクラちゃんも眉を下げてあたしを見てる。あたしは居眠りをしていたみたいだ。手にはナイフとフォークをしっかり持ってる。


「あ、あたし寝ちゃってた?」

「もう気持ちよさそうにな」


 カルラちゃんが腕を組んで呆れ顔だ。恥ずかしくて顔が熱くなってきた。


「イシスちゃ~ん、ここ数日~眠そうだよ~」


 眠そうなテクラちゃんに心配されると微妙な気分になる。でもテクラちゃんは寝坊はしない。


「ちょっと夜に考え事しててね」


 本当は錠前を解除する練習してるからなんだけど。練習する時間が取れるのが夜しかないんだから仕方ない。それで睡眠時間も減ってるんだ。

 ふたりは困った顔のあたしを見て悲しそうな顔をした。


「アサルさんの~事?」

「……うん。そうなんだけどね」


 そうなんだけど、そうじゃないの。でも本当のことは話せない。


『想いに応えることは出来ないのです』


 少しでも考えると頭の中にあの言葉が滲み出てくる。考えない様にしてないといつまでも頭の中を占領しちゃう。

 考えちゃダメなのに考えちゃう。どうしたら解決するの?


「イシス、あたしらで良ければ何時でも話を聞くからな」


 カルラちゃんが真っ直ぐあたしを見てきた。黒い瞳には強い意志が感じられる。

 彼女は護身術で武芸の嗜みがあるからか直情的で自分に真っ直ぐだ。その真っ直ぐがごちゃごちゃになってるあたしの感情に容赦なく刺さってくる。


「イシスちゃ~ん。あたし達は~仲間なんですよ~」

「そうだよ、遠慮すんなよ。力になるぞ!」


 ふたりの優しい言葉に目頭が熱くなってきた。スカートをぎゅっと握りしめて我慢してもぽたんとテーブルに一粒落ちる。


「…………ぅぅ」


 ふいにテーブルに落ちていく雫が視界から消えた。頭が暖かくて柔らかい物に押し付けられた。


「イシスちゃんは~あたしの妹になるんですよ~。辛いことは~お姉ちゃんに話してご覧なさ~い」


 あたしの頭の上からテクラちゃんの声が聞こえてくる。あたしの頭をぎゅっと抱きしめて、あやすみたいに髪を撫で回してくれてる。テクラちゃんの声が胸に響いて暖かい何かで満たされていく。


「う、うわぁぁぁぁ」


 堰止めてた感情が勝手に防波堤を乗り越えて氾濫した。いつの間にか手がテクラちゃんの身体を抱きしめてる。あたしは頭をぐりぐり押し付けて、ひたすら泣いた。


「ふふ、あたしは~お姉ちゃんに~成れそうですか~?」


 テクラちゃんの優しい声が耳に届いてきた。あたしは涙の染みを作りながら何度も頷いた。

 ありがとう、お姉ちゃん。





「……なるほど、『死神』を助けたいから、治癒者の記録を調べに書庫に忍び込みたいのか」


 黒い頭に小さく畳んだタオルを乗せたカルラちゃんが腕を組んで唸った。黒い耳の間にぴったり収まってる。

 夕食後の湯浴みの時間を合わせて貰って湯殿でテクラちゃん、カルラちゃんと話をしてる。周りに人はいるけど浴槽で固まってヒソヒソ話をすれば聞こえちゃう事はない。


「うん。振られちゃったけどね。でもアサルさん、すっごい可哀想なんだよ……」


 あの闇の中でヴァルトラウトお爺さんに会った事や、かつて婚約者だったキーニャさん達が光の玉になってあたしの周りにいる事は内緒にしてる。さすがに信じて貰えないだろうし。


「イシスちゃんは~本当に~死神さんの事が好きなんですね~」


 眠そうな目のテクラちゃんが「にしし」と笑ってくる。いくら好きでもその想いはアサルさんには届かないんだけどね。そう思ってはいてもコクリと頷いておく。


「書庫には鍵がかかってるから入れないし、そもそも用事がないと許可も出ないしな」


 首までしっかりお湯につかってるカルラちゃんが「あ゛~」とオジサンみたいな声を上げた。


「だから毎晩遅くまで鍵開けの練習をしてるの」

「それで~寝不足なんですね~」


 実は今も眠いの。気を抜くと寝ちゃいそう。


「なぁイシス。無理をしても体に良いことはあんまり無いんだよ。武芸でもな、練習し過ぎても体を壊すこともあるんだ。休む事も大事なんだぜ」


 カルラちゃんはそう言いながらすすっとあたしに後ろに回った。


「公爵令嬢様は体つきも立派だな」


 あたしの胸を後ろからムニッと鷲掴みにしながら「ほら凝ってる」なんて言ってくる。


「ちょっとカルラちゃん!」

「ふふ、ホントに~立派~」


 前からはテクラちゃんまで揉み始めた。


「いや~、あたしは貧相な身体だからこーゆーグラマーなボディって憧れちゃうよな!」

「ちょっと!」


 片方づつ揉まれて妙な気持ち。ちょっと気持ちいいかも……ってダメよ!


「ヒュ~、リラックスは大事だぜ。はははっ!」


 カルラちゃんの手は休みなく動いて、口笛を吹いて愉快そう。

 あたしだってやられっぱなしじゃないわよ! そっちがその気ならお返しよ!


「あ、こら! あたしの胸に触るな!」

「あれ、手が余っちゃう……」


 カルラちゃんの胸はあたしの小さい掌に収まっちゃった。


「くっ! でかいきゃ良いってもんじゃねえんだ!」


 ちょっと涙目のカルラちゃんが唇を噛んで悔しがってる。でもそんなカルラちゃんは可愛い。


「あら~本当だ~」


 脇からテクラちゃんが乱入してきた。もみもみって揉みしだいてる。


「テクラまで! くそっ、お前のも揉んでやる!」


 カルラちゃんがテクラちゃんの胸に手を伸ばしてむにむにし始めた。テクラちゃんが「にしし」と意味深に笑ってる。


「くそっ、ふたりして揉みがいのある胸しやがって!」


 カルラちゃんが手を離して頭を抱えながら叫んだ。エコーで増幅されたカルラちゃんの声は湯殿中に響き渡る。

 周りの女の人達はあたし達を見てクスクス笑ってる。思い切り目立っちゃってるけど、お構いなしに今度はテクラちゃんに目標を定めて手を伸ばす。


「テクラお姉様も立派!」


 ちょっと意地悪してお姉様って呼んじゃう。テクラちゃんって意外に女らしい体つきなのね。


「お、お姉様は~やめて~」

「サディアス兄様も喜びそうね!」

「いやぁぁぁ!」


 お兄様の名前を出すとテクラちゃんは真っ赤になってジャボンとお湯の中に沈んで行っちゃった。三角の耳だけ湯面から突き出てピクピク動いてる。


「よっしゃチャンスだ」


 カルラちゃんが沈んだテクラちゃんの背後に回って好き放題揉み始めた。これ以上ないくらいの満面の笑顔で揉み具合を満喫してる。


「いやぁ~至福だな!」

「ぷはぁっ!! ってそんなに揉んじゃ~いやぁん!」


 浮き上がって来たテクラちゃんが可愛い悲鳴を上げた。あたしもカルラちゃんも大声でケタケタ笑う。


「こらっ!あなた達、場所を弁えなさい!」


 いつの間にか傍に来てたザビーネさんから指導が飛んできた。モノクルはしてないけど手はそこに添えてる。


「やべ、もう出よう!」

「あ、ちょっとカルラちゃん!」

「待ってくださ~い」


 あたし達は転がるように湯殿から逃げ出した。





「今日の湯殿では大騒ぎでしたね」


 部屋に戻ってルティに髪を梳かして貰ってる。あたしの金色の髪は腰まであるから梳かすのも一苦労。


「ふふ、テクラお姉ちゃんの胸を揉んでたの」


 そう言うと鏡の中のルティはあんぐりと口を開けた。スカーレットの耳は聳え立って目もばっちり開いてる。


「ままま、まさかお嬢様にそんな趣味が!」


 髪を梳かす手を止めて鼻を押さえて悶え始めた。動揺してるのか顔が小刻みに震えてる。


「私のでよければいつでも!」

「ちょっと止めてよ!」


 ルテイはにっこりと笑うとすぐに鼻から手を離してまた髪を梳かし始めた。


「ここ数日元気がない様子でしたが、今日はいつものお嬢様で安心しました」


 鏡に映るルティは安堵の表情をしてるけど、ちょっと泣きそうな顔にも見えた。あたしの演技なんてお見通しだったのかも。


「心配かけてごめんね」


 鏡の中のルティに謝った。鏡に映るあたしは演技無しの笑顔だった。





 あたしはルティが部屋を出る際に思いっきり抱き着いた。頭を押し付けてギューギュー抱き着いた。暖かいルティの体温がじわじわとあたしに伝わってくる。


「……お嬢様。わたくしは何時如何なる状況でも、お嬢様の味方ですよ」


 テクラお姉ちゃんがぎゅっとしてくれたように、ルティもあたしの頭をぎゅっと抱き締めてくれた。


「ありがと、ルティお姉ちゃん」

「ふふ、その呼ばれ方も懐かしいですね」


 ルティは一層力を込めてぎゅっとしてくれた。あたしには力になってくれる人がいる。1人じゃないんだ。もうあの言葉が頭を埋め尽くす事は無かった。

お読みいただきありがとうございます。

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