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死神の口説き方  作者: 海水
第3章 幽霊と少女
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第2話 仮面の理由

【イシスさん、起きて下さいまし】

【起きて!】

【おい起きろって!】


 耳元で女の子が騒いでる。この声は、あの不思議な空間で聞いた女の子達の声だ。

 瞼の向こうは暗い。薄目にして様子を見れば、あたしの目の前にはあたしが横たわって、暖かそうな毛布をかけられてベッドに寝てる。

 周りを確認するけど、あたしの部屋じゃない。カーテンで仕切られてるところから推測すれば、ここは医務室だ。


「夜会で倒れたからここで寝かされてるのかしら?」


 目の前のあたしの胸は定期的に上下してるから生きてはいるのが分かる。自分を見下ろすなんて、変な感じ。


「暗いから夜なのね」


 ここからだと時計は見えないから時間は分からない。部屋には誰もいないし、少しの音もしない静寂に包まれてる。

 その時ガチャという音がして、少しの間をおいて仕切ってるカーテンが静かにめくられた。


「……アサルさん」


 獣の仮面を付けたアサルさんがあたしを見下ろす形でベッドの脇に立ってる。耳もペタンと潰れて肩も落としていて、ちょっと元気がなさそう。


【アサル君、タイミング悪いなー】


 青い光の玉がぽろっとこぼした。

 アサルさんが手を伸ばしてあたしの額にそと手を当てると、ぽっと手に青い光が灯った。


【マズいですわ! イシスさん、今すぐ身体に戻ってくださいませんこと!】


 黄色い光の玉があたしをグイグイ押して寝ているあたしの身体に追いやろうとしてる。


「な、なに?」

【早く身体に戻ってくださいまし!】

「うわぁ!」


 黄色い光の玉に押されてベッドに転がされると、かけられてる毛布を素通りして寝ているあたしの身体と重なった。

 その瞬間、あの暖かいモノがジンワリと体中を尻尾の先まで駆け巡った。


「んん……」


 戻った途端、体中を駆け巡る痺れるくらいの熱波に思わず声が漏れた。


「……良かった」


 あたしを見下ろしてるアサルさんから呟きと安堵のため息が聞こえてきた。姿を見たらまた泣いちゃいそうだから、あたしはそのまま寝たふりを続けた。

 しゅるっとカーテンが擦れる音がした後にガチャと扉のノブが回される音が聞こえた。多分医務室を出たんだ。





【はぁ、危ないところでしたわ】


 あたしが目を開けると黄色い光の玉が安堵の声を上げた。


「何が危なかったの?」

【アサル様はご自分の力で治療を試みたのだと思います。もしそれで何も変化が起きなかったら恐らく……】

【あぁ、そーゆー事か】


 黄色い光の玉の発言に赤い光の玉が同意してる。何の事やらさっぱり。


「説明して欲しいんだけど。色々と」


 あたしはむくりと起き上って、3つの光の玉に向かって話しかけた。





【まずあたしはキーニャ・ターキスだ】


 赤い光の玉が名乗った。この子はカルラちゃん並に口が悪いのね。


ワタクシはエレノア・ルグランですわ】


 黄色い光の玉はお上品はしゃべり方だ。お嬢様って感じな子だ。


【で、あたしがユニ・キングストン】


 最後に青い光の玉が名乗った。この子は普通な感じね。


「名前は分ったけど、そもそもあなた達って何なの?」

【あたし達はアサル様の婚約者だったのですわ】


 エレノアさんが代表して答えてきた。


【はは、死んじまったけどさ】


 キーニャさんが自嘲気味に笑った。でもその声は凄い寂しそう。


「アサルさんは3人と一緒に婚約したの?」


 確か重婚は法律で禁止されてたはずよね。王族なら特例があった気もするけど。


【まさか~。あたしが一番初めの婚約者で、あたしは16歳の時に死んだの】

【次がわたくしで18歳の時ですわ】

【んであたしが20歳(はたち)ん時だな】

「えっ……」


 ユニさん、エレノアさん、キーニャさんがそれぞれ答えてくれた。あたしはショックで二の句が継げなかった。


「3人とも、死んじゃってるの?」


 多分予想した答えと一緒だろうけど、恐る恐る聞いてみた。


【まぁね~】


 キーニャさんが気楽に答えてきた。


「そんな!」

【今更悲観ぶっても意味なんてありませんもの!】

【もう大分前の事だしな】


 エレノアさんもキーニャさんも気にしないって口調で話をしてくる。でも大分前って、どういう事?


「大分前って、どれくらい前なの?」

【一番後のあたしが死んでから8年は経ってるな】

「8年……そんなに」


 あたしが初めてアサルさんと会ったのが8年前くらい。その時は獣の仮面を付けてなかった。


【あたしが死んでからあの気持ち悪い仮面を付け始めたんだ。あんなんじゃ女は近寄らねぇって】


 キーニャさんが肩を竦めてるのが見えちゃうくらい呆れてる口調だ。


「私に関わった女性は、みな死にました」

「もう誰も犠牲にしたくはないのです」


 アサルさんの言葉があたしの頭の中を駆け巡ってる。

 自分に関わると死んじゃうからあの仮面を? もう犠牲者を出したくないから? だからあたしの想いは受け取れないって言ったの?


【アサルが好きになった女は、死神に攫われちまうんだ】


 キーニャさんがポツリと寂しそうに呟いた。

 

「じゃあ、あの獣の仮面を付けたってのは、女性を避けるためなんだ……」

【でしょうねえ。アサル様は結構頑固ですし。婚約中もあまりの頑固さに呆れたことは数回ではありませんでしたわ】


 エレノアさんもため息ついてる。頑固だから意地でも仮面は取らないつもりなのね。





 それにしても、キーニャさんが20歳で亡くなってから8年経ってるのよね。えっと……


「アサルさんて、今何歳なんです?」


 ちょっと計算したくないんだけど。


【28歳、かな?】

「え……」


 ユニさんがさらりと発したその言葉にあたしはくらっとした。あ、あたしの12歳年上なのね。尻尾の毛が逆立つぐらい衝撃的だわ。


【それよりもさ、イシスちゃんに頼みたい事があるんだ】


 あたしの声の出ない叫びを無視する様にユニさんの青い光の玉が近づいてきて、目の前に停まった。





「つまり書庫に忍び込んで治癒者の記録を調べろって事?」

【その通りですわ!】


 エレノアさんが自信たっぷりに答えてくる。なんか金髪縦ロールのお嬢様を連想しちゃうんだけど。そんな感じの子ね。


【あの爺さんが言ってた記録を調べれば、すっかりおかしくなっちゃったアサル君を元に戻せるかもしれないの!】


 ユニさんが青い光を点滅させながらあたしに訴えてくる。


【あんなになっちまう前は、よく笑ったんだけどな】


 キーニャさんが懐かしい思い出を思い浮かべるような声を出してる。

 3人共、あたしの知らないアサルさんを知ってるんだ。あたしの知ってるアサルさんは、獣の骸骨の仮面を付けてる姿だもん。後は小さい時に会ったあの時の思い出だけ。羨ましいな。





「書庫に忍び込むって、どうやって?」


 王城にある書庫は勝手に入ることは出来ない。許可を取れば入れるけど、あたしにはその理由がない。どうにかして理由を作って許可を得ないと。


【そんなの簡単だ。夜中に忍び込むんだ】


 キーニャさんが嬉しそうに提案してくる。赤い光の玉に笑顔が透けて見えるくらいに。


「書庫には鍵が掛かってるわよ?」

【壊せねえのか?】

「あたしは非力な女の子よ!」

【イシスさんはあなたみたいに脳筋ではありませんのよ?】

【ちぇっ!】


 キーニャさんて、生きてる時はどんな娘だったのよ。ただの女の子に鍵が壊せる訳無いじゃない!


【では忍び込むしかありませんわね】

「忍び込むって言っても……」


 鍵が掛かってるんじゃ入れないわよ。合い鍵でも手に入れられれば別たけど。


【細い鉄の棒で鍵穴からちょちょいと。だめ?】

【キーニャさん。あなたではないのですよ】

【う~ん、でもその案行けるかもね!】


 3つの光の玉はあたしにジリジリと近づいてきた。まさか、あたしに泥棒さんみたいな真似しろって事? 嘘よね?


【アイツを救えるのはイシスしかいねえんだよ! アイツがまた笑えるようにしてやってほしいんだ! 頼む!】

わたくしからもお願いいたします。せめてあの不気味な仮面だけでもとって差し上げたいの】

【……ごめんね。この城の人でアサル君に対して偏見を持ってない女の子って、イシスちゃんくらいなの。光の玉でしかないあたし達の声はアサル君には届かないのよ。あたし達じゃ、どうにも出来ないの……】


【【【だからお願い!!】】】


 3人の悲痛な声が、悲鳴になってあたしの胸にグサグサ刺さってくる。光の玉も点滅しちゃって、まるで泣いてるみたい。3人はアサルさんの事が好きで心配で仕方ないんだね。それで未だに冥府にも行けずに光の玉になって彷徨彷ってるんだ。

 

「アサルさんが笑えるように、か」


 あの時の笑顔が見られるんだったら、頑張れるかな。


「……頑張ろうかしら」


 3つの光の玉の前であたしは決意をした。

お読みいただきありがとうございます。

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