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メルギゾーク~The other side of...~  作者: 江村朋恵
第12話『王妃の微笑』
110/139

(110)【3】この闇を切り裂いて(1)

シルエット図表がついています。

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(1)

 アルフィードはユリシスの手を離した。

「お前、見えてる?」

「うん。なんでだろ」

 アルフィードは「へぇ……」と呟いた。

「精霊は絶えず周囲に揺らめいて居る。それらの精霊を精査し、選別して、浄化する事で、術を描かなくても出来る事はいくつかある。肉眼以外の目、精霊の目を借りる事もその一つだ。自分の体質・性質とあった精霊の力を意識の中に取り込む事で出来る事だ。お前の周囲は……なんつうか、まとまりねーよな……。よく言えば沢山の、悪く言えば雑多な精霊が集まってるカンジだよな。その中から探して、選んで、そいつだけをひっぺがして、力を借りて飲み込む。それで見えるわけだが」

「……うーん……自分ではどうやったかわかんない。振り向いたら見えた。見たいと思ってるぐらいで……」

「まぁ、出来ないっつー事はねぇだろうとは思っていたが。無意識も大概にしてちゃんと勉強しろよ」

 無法者アウトローのように生きるアルフィードに言われたくない一言だが、ユリシスは反論出来ない。

 精霊との干渉は極力絶ち、一般人のふりをして生きてきたせいだ。周囲の精霊を常日頃から浄化しているのは魔術師ぐらい。魔術師とは無縁の下町で働く看板娘がそんな事をやってのけてしまえばバレる。違法で魔術を使えるのかと疑われてしまう。実際、使えてしまうのだから言い逃れなんて出来ない。

 バレない為には、せいぜい、隠れて魔術を使う時以外は精霊に干渉しない事だ。今回はその『クセ』の弊害が出てしまった形だ。

 ユリシスは今、不思議な思いで周囲を見回す。

 来る時はほんのつま先すら、黒という黒、闇という闇、注ぐ光などない状態で何も見えなかったというのに、明かりも何も無いまま見えるなんて、凄い――。その感動はあまりにも今更すぎるのだが、ひたすら人に隠れて魔術を覚えたユリシスにとっては新鮮だった。

 魔術を隠していた頃には「だめ」と封じていた事だが、やってみるとなかなかどうして、便利すぎる。

 ユリシスは新しい世界が開けたような気がした。魔術師は皆、こんな世界を見ていたのだろうか。

 一人、息を吐いた。

 魔力のコントロールが出来ていないと言われていた事実もあるし、ユリシスは基礎からやり直したいと心底思った。

 だが、ゼクスはなぜ明りを灯してくれたのだろうか。ユリシスが精霊の目をかりられない事がわかっていたのだろうか。

 しばらく歩いてから、ユリシスはアルフィードに問う。

「ギルの遺体について聞かせてもらっていい?」

『……まぁ待て』

 声は口を開いて出したものではなく、魔力の声で頭の中に直接響いてきた。精霊を介さない術なので霊脈でも使って良い、という事だろうか。

『誰かに聞かれる?』

 ユリシスも魔力の声で返した。

 言葉を心に思って魔力に乗せてアルフィードに飛ばすだけ――言うのは簡単だが、この技術は第五級魔術師昇給試験の必須事項。難易度は高い。基礎も出来なかったクセにこちらは出来てしまうユリシス。難度が高い事など意識の外だ。

 口を動かす事はないので読唇術で会話が筒抜ける心配もない。ルーン文字を描いて発動させる種類ではなく、闇を見通す目をかりる力に近い。

『ゼクスは……まだ判断しきれないが、ヤツは味方じゃあない。正体が知れない上、古代ルーン魔術も使いこなすんじゃどこでどう聞き耳を立てているかわかったもんじゃない。用心だ。……俺は、ギルのやろうとした事辺りまでは引き継ぐつもりで、このゴタゴタが片付くまではお前の敵じゃない。味方のつもりでいていいぜ』

挿絵(By みてみん)

『……あ、ありがと』

 こんなにも信頼出来るのは何故なのか。考えてすぐ、ユリシスにもわかった。彼にはブレずに一本通す芯があるせいだ。

 約束、あるいは契約は必ず守ると公言して実行する事を強く胸に置いて生きているアルフィードだから、確かに伝わったのだろう。

『礼は遺体を取り戻した後、ギルにするんだな。ヤツへの恩返しのつもりだからな』

『そっか。それでも、助かる』

『問題は情報が足りない事だが。それはおいおい集めていけばいい。確定している情報は少ないが、その分複雑じゃない。見えていない部分はまだあるが』

『うん』

『整理すると――紫紺の瞳の乙女の存在をある三者が知った。利用するか制御するか考えあぐねとりあえず支配しようとした者、その者の先回りをしようとした者、利用しようとした者……だ』

『三者?』

『ギルソウ、マナディア、フリューセリア』

挿絵(By みてみん)

『……えっと……』

『国王、王女、王妃、だ』

『…………』

『ギルの遺体が無くならなければフリューセリアは論外だったんだが。敵というべきはギルソウとマナだけだったんだが、厄介なのが加わっている事を“ギルの遺体消失”は教えてくれた……。フリューセリアはエリュミスの生まれだ。手を焼かされるぞ……』

『……呼び捨てしていいの?』

 どう返事したら良いかわからずユリシスはそんな事を聞いた。

『俺にとって人なのは極少数なんだぜ?』

 目の下の赤い刺青が歪んだ。王家には敬意なんて微塵もなく、ただただ嫌味っぽい微笑。

『……王すら人ではないですか、そうですか……』

 ユリシスは呆れてぽつりとつぶやき、続けて問う。

『国王様と王女様が敵の理由って? 厄介な……て、王妃様は、病で寝込んでるんじゃ?』

 王妃様と言いつつ、頭に浮かぶのは実際会った事のある幼いエナ姫だった。

 マナ姫の事も、エナ姫が会いたいと訴えた身内の事だと、幼いながらも聡いあのエナ姫の姉なのだと思い描いた。その二人の母――王妃様は病に臥せっており、どんな行事もエナ姫が生まれた頃から姿を見せなくなっていたはず。

 疑問だらけを言ってアルフィードは答えてくれるだろうか。『自分で調べな』と言われやしないかと思っていたが、彼はすぐに頷いて声を飛ばしてくる。

『順番に話そうか。ギルソウとマナがお前にとって敵である理由。王家には隠し忍びがいる、知ってるな?』

『う、うん』

 自分を狙ってきた連中だ、何度もあの黒装束の連中の事ならすぐ、思い出せる。

『隠し忍び、ああ――そもそも忍びってのは隠された存在なんだが、特に王家の直系……つぅか、王位にある者と第一王位継承者には各個人に直属の隠密部隊が就く。ボディーガードとしての任が本来らしいんだが。その存在は、第一級魔術師でも知ってるかどうかっていうレベルの機密情報だ』

 ――……第一級の魔術師は国に二十人もいないわけで。つまり……。

『隠し忍びの存在そのものを国全体でも、五十人と知らないんじゃねーか』

 ユリシスが考えていた事を見透かすようにアルフィードは教えてくれた。

『忍びの得意は情報収集、諜報活動、隠密暗躍ってとこだな。忍びは、言うなりゃ魔術師の天敵なんだ。その戦闘スタイルからも。魔術師の国だからこそ、召し抱えたという歴史がある――が、その辺は自分で調べな。で、隠し忍び、つまり直下の忍び、黒装束の奴らだ。襲われてるだろ、前に。それがギルソウとマナが敵の理由』

『え……どう繋がってるの?』

『だから、ギルから俺に王都の外のお前を回収しろって連絡がきた時、あー……――お前、俺の所へ逃げろってギルに言われなかったか? ギルが囚われる前の話だよ』

『回収しろって、逃げろって…………西の洞の辺りでの……?』

『……お前聞いてないの? ギルが対峙したのは王の、お前を追っかけてたのは王女の忍びだったって』

『……聞いてない……』

『――言う暇っつーか、タイミングが無かったか。言うまでもなく守る気でいたか……いずれにしろ、両方の忍びから襲撃されてんだ、お前。ギルソウもマナも敵、な? 納得したか?』

 ――……納得って……。王家に狙われてるのはわかってたけど。

 ユリシスは頭を抱えたくなるのをこらえた。

 沈黙を返事ととったアルフィードは続ける。

『で、王妃だな』

『……そう、なんで王妃様まで加わるの?』

『結論から話すぞ。ゼヴィテクス教大司教ラヴァザードがギルの遺体が無くなった頃ゴソゴソして……集めた情報によるとヤツが持ち出したらしいって事だ。で、ラヴァザードは誰に従っているかっていうと、フリューセリアだ。あの女が唯一外部に持っている手足がラヴァザード。庶民出身のラヴァザードが大司教まで成りあがれたのもフリューセリアの後押しがあったって事は常識みたいなもんでな。王妃がギルの遺体を求め、今ヤツが持ってる、という事になる』

「……フリューセリア……!」

 ――ギルの遺体!

挿絵(By みてみん)

 ユリシスははっとして口元に手を当てた。言葉が出ていた。魔術の言葉ではなく、ダイレクトに声が。しかもアルフィードの呼び方がうつって呼び捨てだ。

『まあ、落ち着けって』

『フリューセリアはなんで、ギルの遺体を……?』

『高度な魔術師の肉体には、色んな術の痕跡がある。それを解析するのが高度な魔術師の遺体が盗まれる理由なわけで、そういう事件は過去に何度もあった。が、ギルの遺体が持ち出されたわけは、多分そうじゃない。ギルバートの、というよりヤツの本質、魂を使う気なんだ』

『たま……しい……?』

 使い慣れない言葉にユリシスは戸惑った。

 魔術を使う者にとっては精霊が中心。魂という単語はゼヴィテクス教関係者がよく使うものという認識だ。

『フリューセリアは、エリュミス出身だ。エリュミス森林区の森の民。滅亡時のメルギゾークから逃れた中でも魔術をあまり使えない連中だったのがヒルド国に集まった。一方、魔術を使えた連中は現在のエリュミス森林区へ逃れた。一緒に行動しなかったのは謎でもあるんだが。連中は長寿で病知らず、深い森の奥で精霊らと距離も近い。そのせいか大魔術師を多数輩出している。エリュミス族、と言おうか。連中は、童話やら物語に登場する架空の種族エルフのモチーフにされたという説もあるくらいだ』

『エルフ……物語の中のエルフっていうと、耳が長くて美しくて、不老不死で、精霊の代弁者?』

『そういう存在は、実際はこの世に居ないぜ。エリュミス族の耳は長くないし、最も長く生きた者でも九十か百歳位だったそうだ。死なねぇヤツなんてなぁ……』

 アルフィードは『ばかばかしい』とでもいう風に冷笑を浮かべた。

『肉体があるヤツは必ず滅びるのが理法。しかも精霊は明確な言葉やはっきりした意思もなく統一もされていない。特例の精霊を除いて、代弁されるような意識もねぇよ。魔術師なら誰でも体験して知っている事だ。だから、フリューセリアも人間には違いない』

 そこまで言ってアルフィードは真顔に戻った。

『だが、そんなとんでもない存在のモチーフにされた程のエリュミス族だけあって、かつてのメルギゾークに匹敵するとも囁かれている。魔術に対する造詣が深い奴ばっかだそうだ、今でもな。俺個人的には、古代メルギゾークに匹敵するなんて誰が言い出したか怪しい限りなんだがな。噂に聞く限り、ハーフエリュミス族となるマナディアは第一級魔術師程度の魔術を幼い頃から打てていたらしい。純血のフリューセリアはいかがなものか、といったところだ。あの女はエリュミス族内では稀代の巫女と呼ばれていたらしいから、精霊とは密接な関係ではあるんだろうよ。フリューセリアに関しては、床に臥せって以来、ギルソウや超重鎮のデリータやジェイクウッド、ラヴァザード……には年に数回会ってはいるらしい。まあ、ラヴァザードにはさっき言った事情もあるからもっと会ってるだろうな』

『ジェイクウッド?』

 デリータはわかる。デリータ・バハス・スティンバーグ。ネオのおばあさんで、魔術師を統括するオルファースの総監だ。ラヴァザードもさっき聞いた、ゼヴィテクス教大司教という事はゼヴィテクス教のトップ。

『ジェィクウッドは政治・軍事の頂点』

 アルフィードは告げなかったが、ジェイクウッドは第一級魔術師にして副総監の一人カイ・シアーズの父である。

『フリューセリアは八年程前、妹姫のエナディアが生まれた頃、病に倒れたという事になっている。で、稀代の巫女に対して表立ってエリュミス族は何もしていない。嫁入りの時には五千人のエリュミス族の使用人を連れて、マナディアを出産する時には百人以上もの医師や祈祷師をよこしたにも関わらず、エナ出産の際は何もなかった』

『何もなかったから、倒れたんじゃ?』

『倒れたんならその後でもよこすだろうがよ、普通に考えて』

『そっか』

『しかも、倒れた後は五千人居た使用人全員をフリューセリアはエリュミス森林区に帰したんだ』

『え? 逆に?』

 問うユリシスにアルフィードは小さく頷く。

『ああ、逆にな。表立って発表はされていない上、気付いた者にはうつる病だったからと説明していたようだ。どう考えたって変だろう』

 使用人を増やすというのならわかろうものを、全員帰した。

『……変な話だね……そういう事、この国の人たちは知ってるの?』

『知らねぇんじゃねーの。お前だって知らなかっただろ? 城の下っ端は少なくとも知らなかったらしいぜ。五千人……少しずつ帰したんだろうな』

『それで、アルフィードはどう考えているの?』

『フリューセリアが帰したのなら、何かを企んで、身の回りを整理して動きやすくした、と考えられる。他のヤツが帰したんなら、フリューセリアは孤立させられる何かがあった、となる。するとやはり何らかの力をフリューセリアが持ち、何かを企んでいたか、何かの障害になりそうだったと考えられる。病か仮病か、どちらもありえてしまう。エリュミス族の使用人が大量に居なくなっている事を考えれば仮病の可能性が高い……と、俺は思う。……だが、仮病じゃない理由もありえるから困ってる。それは不確かな情報で、仮定の上なんだが……。エナ、二の姫だな。エナを可愛がっているのは、姉のマナだけで、エナはフリューセリアに疎まれていると、誰が見たか聞いたか噂されている。エナを生んだ事で病に倒れたフリューセリアが心底エナを憎んでいるとか……エナは実は国王の愛人の娘なんだとか……根も葉もないが』

 全然知らなかった事ばかりで――確かに魔術漬けの自分は興味も無かったが――ゴシップを聞かされてどう反応していいか困惑した。

『……で、覚えているか? 俺がエナをさらった事』

『うん』

『あの時の勝負はつけなおすからな』

 キリリとした一睨みが降ってくる。

『あ……あれは……』

 ユリシスは冷や汗を感じた。こんな純戦闘タイプのアルフィードになんか、正面からやって勝てるわけがない。ユリシスは定食屋の看板娘で、ただの庶民として育ったのだから。

『もう名前も忘れたが、馬鹿な魔術師二人に依頼されて城からかっさらったんだが――ま、エナは見事にお前に逃がされたわけで……』

 アルフィードはユリシスをジロリと見下ろしてくる。

『あれ、逃がしたの、わざとじゃねーよな? 俺への嫌がらせでやったんじゃねーよな? 依頼成功率十割の俺の汚点、わざとじゃねーよな? お前』

 ユリシスは眉間に皺を寄せて曖昧な苦笑いをした。

『偶然に決まってるじゃん……』

 ユリシスの反応にアルフィードはにやりと笑った。

『…………』

 どうやらからかわれたらしい。

『で、失敗に終わって魔術師二人に制裁を加えていたのは、ギルソウの忍び、だったんだよな』

『……え? ギルソウの忍びが、エナ姫をさらわせた?』

『忍びが自分の意思で何かするなんて事はほとんどないぜ』

『ギルソウが? あれ? ……ああっ……国王様が?? もうっ! うつったじゃん!』

 一度前の発言でうつっていたがユリシスは既に混乱している。しかも王妃はとっくに何度も呼び捨て済みだ。

『知るかよ。忍びが制裁する所を、俺もお前も、あの時はギルも一緒に見たよな、覚えているか?』

 臭いまで思い出せる。

 洞の途中、ギルバートとアルフィードに遭遇した地点で焼かれていた人。さらに奥でもう一人……。

『俺達が最期を見た魔術師は忍びに「お前達は最も知られてはならない人物に、我々が最も恐れる人物に、あの子供をさらおうとした事を知られてしまったのだ」とか、なんかそんな事言われていたんだ』

『国王様の忍びが最も恐れる人物?』

『そう考えるより、ギルソウが最も恐れる人物と考えるべきだな』

『……わからない』

 国王が一体誰を恐れるというのか……。

『俺もそう思ったから調べてんだが。順を追う。エナが城から運び出されようとしたってのは、俺の依頼人馬鹿魔術師二人をギルソウの忍びが制裁してた時点で――馬鹿の依頼人がギルソウだったって事に間違いない』

 ――つまり、国王が第二王女を……。

『マナにも隠し忍びがいるから、他者、例の魔術師二人に誘拐させるという形をギルソウの忍びはとったんじゃねーのか。マナは殊の外エナを可愛がっている。ギルソウの忍びが直接動けばマナの忍びにバレやすい。目隠しで魔術師――馬鹿が使われたってとこだろう。なぜ、ギルソウはエナを誘拐しようとしたか』

 ユリシスは口を閉じて鼻から息を吐き出して考える。

『……お父さんが娘を誘拐って事だよね……うーん……』

『なかなか際どい言い方をするな、お前……』

『え?』

『いや、いい。間違っちゃない』

 瞬きをしてアルフィードを見るが、それ以上は何も言われなかった。

『正直こっから先は情報が無い。王家の奴らの人間関係に関して、ほとんど掴めなかった』

『じゃあ、えっと、まとめると? うーんと、第一位王位後継者で隠し忍びを持つマナ姫様の目を避け、国王様が王妃様を病にさせたか、愛人の娘で王妃様の恨みを買った……でいいのかな……と噂される第二王女エナ姫をさらおうとした、ここまで?』

『ああ』

『それだと噂でしか…………王妃様はどういう風に実際絡んでくるの? ギルの遺体……というか魂って……』

『話が逸れているが、フリューセリアがエリュミス族出身ってとこがキーなんだ。それはもうちょい後で話す。で、王妃フリューセリア。仮病の線も消せないフリューセリア。今、実際、あの女は城の奥深くどこかに幽閉されている。その隙間をぬって何かをしている……』

『待ってよ。なんで王妃様は幽閉って……』

『仮病かどうかはよけておいても、エナが生まれる前後のフリューセリアは発狂というか、暴走事件を起こしているようでな。エリュミス族の巫女の暴走事件だ、やばそうだろう? 実際、その頃王城ではボヤ騒ぎが頻発したようだ、もみ消されてはいるが。で、ギルソウによってフリューセリアは隔離された時期もあったって事は、間違いない筋からの情報だ。そんで、その頃だしな、五千人の使用人がエリュミス森林区に帰されたのも』

 暴走と聞いて、国民公園を焼いた火の魔術を思い出した。あれは本当に酷いものだった。

『発狂って……暴走事件……て……本当に?』

『ああ。で、国王たるギルソウが恐れるとしたら、長年自治区になっているエリュミス族を取り込もうとして嫁がせたフリューセリアだ。暴走したフリューセリアを止められそうなエリュミス族は王城にもういない。フリューセリアに忠誠を誓うごく数名の使用人を残して、王都に居たエリュミス族は皆エリュミス森林区へ帰っている。力そのものも、政治的存在価値も、フリューセリアは爆弾だったわけだ。隔離という措置が限界だった。病としたのはフリューセリアか、国王か……。五千人の使用人を帰したのは本当にフリューセリアか国王か……」

 アルフィードは肩をすくめた。

「そう考えてくと全くわからなくなるんだが。さっきも言ったがエリュミス族はエリュミス森林区内での自治は認められているヒルド国唯一の特別自治区だ。が、独立の向きで動けば、ヒルド国だってただじゃすまさん。メルギゾークのように焼かれるのを抗う事も出来ないんじゃねーか』

 ぞっとするような事をアルフィードは言った。

 ユリシスの脳裏に浮かぶのは赤い景色、乾いた風の吹く朽ちて荒廃したメルギゾークの遺跡。

 エリュミス森林区はその名の通り木々に覆われた深い森。それを、焼くなんて――。



挿絵(By みてみん)

(大きなサイズはこちら→http://2164.mitemin.net/i58136/)

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