表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/57

◇◆十五話 竜王妃と美魚◆◇


「さてと……」


 占い師と身分を偽り、幻竜宮に潜り込んでいた《邪法士》。

 小恋達は、その撃退に成功した。

 烏風の《怪生三昧》により、魑魅魍魎で拘束された占い師の前に、小恋が立つ。


「お疲れ様、爆雷」

「おう」


 そこに、渾沌と共に爆雷がやって来る。

 今回の勝利の立役者は、やはり彼と渾沌だろう。


「《退魔術》目覚めたんだね」

「ああ、だが、具体的にどういう能力なのかは色々調べてみねぇといけないな」


 爆雷の《退魔術》は、物を引き寄せる力――だという。

 念じた対象(今回で言ったら、渾沌や《閻魔ノ舌》の下)を無理やり引き寄せるようだが、それだけでは内容があやふやだ。


「それに関しては、おいおい把握していくとして――」


 烏風が足元へと視線を向ける――そこで。


「う……」


 床の上に伏していた占い師が、声を漏らしながら眼を開けた。

 意外にも早く覚醒したようだ。


「貴様等……」


 そして、目前に立つ小恋達に気付き、体を動かそうとするが――。


「無駄だよ」


 現在、彼女は魑魅魍魎に囚われている。

【きゅー】【きゅー】とかわいらしい鳴き声を発する黒色の小さな生き物達に纏わり付かれ、身動きが出来ない。


「くっ……」


 すかさず、占い師は《邪法術》――《閻魔ノ舌》を発動しようとする。

 しかし、こちらも無意味だ。

 先刻、小恋が《風水針盤》の矢で彼女の中の妖力を剥奪した。

 回復するまで、しばらく妖力を使用する技は使えない。


「……力を、奪われたのか」

「まぁ、それに近いかな」


 詳しい情報は与えないように意識しながら、小恋が答える。


「……そうか」

「よし、今の内に縛り上げちまおうぜ」


 占い師を拘束するための縄を持ってくる――と、爆雷が動き出そうとした。

 ところが。

「それこそ無駄だ」

「あ?」


 床に伏した姿勢のまま、占い師が呟いた。


「……(ズゥ)の仇、私の手で取りたかったが……仕方が無い、ここまでだ」


 そう言って、彼女は視線を空に向けた。

 廊下の外、月の無い真っ黒な空を見詰める。


(……なんだろ?)


 その占い師の行動に、訝る小恋。

 そこで、彼女は思い出す。

 以前聞いた、皇帝暗殺事件の際の《邪法士》の末路を。


「爆雷、烏風、離れて!」


 嫌な気配を察知し、小恋は爆雷と烏風に叫ぶ。

 次の瞬間――小恋の目前で、占い師の体が吹き飛んだ。


「!」


 まるで、占い師の体の中で火薬が爆ぜたかのように。

 直前、小恋が叫んだことと、烏風が魑魅魍魎を駆使して防壁を作っていたため、爆発の余波は防ぐことが出来た。

 しかし……。


「な……」


 跡形もなく消滅した占い師を前に、爆雷が呆然とした表情を浮かべる。


「自爆、したのか?」

「わからない……」


 けれど、先日の暗殺事件の《邪法士》といい、敵は徹底的に自分達の痕跡を残さないようにしている。

 原因不明の方法で、自害を遂げる。


「生け捕りにするのは、困難かもしれないね」

「くそっ……」


 廊下の柱に、爆雷が拳を叩きつける。


「結局、こいつは何が目的で幻竜宮に来たんだ」

「………」


 爆雷の言う通りだ。

 小恋が彼女と遭遇したのは、完全に偶然だった。

 先程までの口振りといい、倒された仲間の報復に来た――というわけではないだろう。

 ならば、目的はやはり、皇帝の暗殺?

 そのために、潜んだ?


(……いや、ここから皇帝の居場所まで行くのは不可能)


 何より、皇帝の身辺は禁軍によって警備が強化されているはず。

 ならば……。


「この幻竜宮で、何かをしようとしていた?」


 小恋の視線が、爆雷の足元で呑気に寝ている渾沌に向けられる。


【予言しよう……間も無く、お前達の身にとても残酷な事が起きる。特に、最大の悲劇に見舞われるのが……】

【かの忌々しい《竜の血族》が苦しむ姿が見られそうで楽しみだ】


 先日の四凶の宣言が蘇る。


「……目的は、竜王妃様?」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 ――翌日、幻竜宮のみならず、宮廷内は大騒ぎとなっていた。

 昨日迎え入れた客人の占い師が、皇帝暗殺を目論むテロ組織《清浄ノ時》の一員だった。

 敵の目的は不明だが、もしかしたら竜王妃に接触する可能性もあったのかもしれない。

 小恋達は(スイ)にも行った報告を、そのまま広間に集まった竜王妃と宮女達にも伝えた。


「竜王妃様、これからは、無暗に人を幻竜宮に招かないようにお願いします」


 小恋が、皆の前で竜王妃へとそう進言する。


「ああ、わかった」


 その小恋の発言に、竜王妃はあっさりと返答した。


「我はその方が面白いと思うが、小恋達に迷惑がかかるのであればやめよう」


 最大の迷惑は竜王妃にかかるものなのだが……。

 少し認識のズレこそあるものの、彼女が問題無く了承したので、小恋は安心する。

 さて。


「おい、あんた」


 そこで、爆雷が一人の宮女に視線を向けた。

 宮女――美魚は、爆雷に呼ばれて体をビクッと震わせた。


「な、なによ」

「わかってると思うが、客人を招くなっつぅのは竜王妃だけじゃねぇ。あんたに対しての忠告でもあるんだぜ」


 爆雷は、美魚の前に進み出ると説教する。

 そう、あの占い師は、元々は彼女が招いた客人。

 今回の問題の発端は、彼女と言っても過言ではない。


「な、あ、あたしが悪いっていうの」

「その通りだろうが!」


 爆雷が吠える。

 その迫力に、美魚は体を縮こまらせた。


「今回は偶々なんとかなったが、運が良かっただけだ! これに懲りたら、二度と勝手な真似はするんじゃねぇぞ!」

【ぶみ!】


 そこで、いきなり、渾沌が爆雷に体当たりをした。


「うお! なんだこいつ、この前から!」

【ぶみ! ぶみ!】


 渾沌のいきなりの連続体当たりに、爆雷は困惑する。


(……そう言えば、渾沌は悪人に擦り寄って、良い人間には逆に体当たりをするって言い伝えられてるんだっけ)


 つまり、爆雷に体当たりを食らわせるのは、爆雷が良い奴だから――というわけだ。

 まぁ確かに。

 美魚に対する厳しい叱責も、彼女を思っての事だ。

 実は今回、あの占い師を招いたのが美魚と知られれば、彼女が重罪に問われる可能性もあると判断したため、小恋達はその件を報告せず隠していたのだ。

 代わりに、爆雷が拳骨を落とすという方向に持って行ったのである。

 すると、そこで。


「失礼する」


 その場に、数名の宦官達がやって来た。

 幻竜宮に仕えている者ではない――内侍府か、もしくは宮廷の役人だろう。


「昨夜の事件の事で、事情聴取に来た」


 宦官達は無遠慮な物言いで、美魚の前までやって来る。


「お前が、幻竜宮専属の宮女、美魚か」

「そ、そうだけど……」

「昨夜、幻竜宮にやって来た《邪法士》は、元々占い師としてお前が招いた客人だったそうだな」

(……え?)


 どうやら、宦官達は美魚が今回の一件の原因だと知っているようだ。

 どうしてバレたのだろう。

 もしかしたら、宮女の中から情報が流れたのかもしれない。


「美魚様、マズいんじゃ……」

「だって、これは知らなかったとは言え重罪よ」


 宮女達の中から。そんなひそひそ話が聞こえてくる。


「美魚様が幻竜宮に度々勝手に客人を招いていたのは事実だし……」

「まさか、処刑とか……」


 その声を聞き、流石に美魚も青褪めている。

 暗雲が立ち込め、沈鬱な空気が漂う室内。


「やめろ」


 そこで――声を発したのは、竜王妃だった。

 竜王妃は、宦官達へと言う。


「今回の件は、美魚の責任ではない。美魚に宮廷外から客を招くことを許可したのは、我だ。全ての責任は我にある」

「し、しかし、これは打ち首に処されても申し開きの無い失態……」

「ならば、我を打ち首にしろ。それが道理だろう」


 竜王妃の発言に、宦官達も言葉を失う。

 そこで、竜王妃は爆雷の方を見る。


「爆雷、すまなかった。先程の貴様の言葉、我の身の事と思い受け入れる。そ奴の失態を許してやってくれ」

「お、おう」

「………」


 そんなやり取りを見て、小恋は、美魚と竜王妃との間にただならぬ絆を感じ取っていた。

 確か以前、他の宮女達に聞いたところ、美魚は竜王妃と旧知の仲。

 元々幻竜州の出身で、幼い頃から竜王妃の侍女として仕えており、竜王妃が後宮に来るのが決まったのと同時に宮女として採用されて、本人の希望で幻竜宮付きになった――と聞いていた。

 しかし、ただそれだけの間柄ではない気もする。


(……彼女は、一体……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やべぇ…渾沌が可愛い…(笑)
[良い点] コミカライズキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! これでかつる!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ