◇◆十四話 爆雷の《退魔術》◆◇
「なんだ、今のは……」
その光景に、小恋と臨戦中の占い師も、思わず意識を奪われてしまった。
《邪法術》――《閻魔ノ舌》。
その巨大な口腔に飲み込まれるはずだった矮小な妖魔――渾沌が、物理法則に反した動きで飛行し、爆雷の手の中に納まったのだ。
まるで、突如発生した引力によって引っ張られたかのように。
「……何がなんだか、わからねぇけどよ」
一方――。
そう言いながらも、爆雷は目前の現象が何なのか理解していた。
いや、どういった力が発動し、具体的にどういった法則が働いたのかは、正確には把握できていない。
しかし、この現象が何を原因として発生したのかは、自覚できていた。
「これが、俺の《退魔術》みてぇだな!」
吠えると同時に、手の中の渾沌を放り投げ、爆雷は腕を伸ばす。
手を伸ばした先は、空中に浮遊する《閻魔ノ舌》。
瞬間、その《閻魔ノ舌》の赤黒いベロが不自然な動きで伸びて、爆雷の腕に纏わり付く。
「!」
驚く占い師。
今のは、《閻魔ノ舌》が攻撃のために伸ばしたのではない。
舌が、あの爆雷の腕に無理やり引っ張られ、巻き付いたのだ。
「くっ!」
混乱する占い師。
意識を《閻魔ノ舌》に向ける。
この《邪法術》――《閻魔ノ舌》は、自動運転状態と手動運転状態の二種類の動きを行う事が出来る。
通常時は簡単な命令を遂行する自動運転状態だが、妖力を使用し念じれば、細かい動作をすることもできる。
今の《閻魔ノ舌》は、爆雷に舌を絡め取られ、逆に拘束されているに近い状態のようだ。
爆雷の馬鹿力と不可思議な能力で、完全に主導権を取られ、自由な動きを封じられている。
すかさず、なんとか舌を引き剥がすよう、自身で操作しようとする。
しかし。
「させない!」
そんな大きな隙を作った状態で、小恋と拮抗できるはずがない。
刹那、小恋の放った打突が、占い師の腹部に炸裂する。
「うっ!」
思わずたたらを踏む占い師。
そこで、更に予想外の事態が起きる。
屈み込んだ占い師の足元――床から湧き出すように、大量の小さな黒い生物達が発生したのだ。
「なに!?」
占い師と、更に《閻魔ノ舌》に、その大量の妖魔――《魑魅魍魎》達が纏わりつき、拘束する。
「すまない、出遅れたようだ」
「烏風」
小恋が振り返ると、《退魔術》――《怪生三昧》を発動しながら、烏風が現れた。
「よし! 烏風、そのまま拘束を続けて!」
ここが好機と、小恋が駆ける。
一気に身動きの取れない占い師へと肉薄し、大きく腕を振り上げる。
そして、ビンタをお見舞いした。
バシンっ! と、派手な音が響き渡る。
「ぐぅっ!」
その衝撃で、床に倒れ伏す占い師。
小恋はそこで、意識を手中へと集中させる。
一気に《妖力》を駆使。
小恋の手の中に光が集まり、作り上げられたのは一本の矢。
「烏風! 《魑魅魍魎》を離して!」
そして、それを占い師へと直接突き立てた。
小恋の《退魔術》――《風水針盤》の奥の手、《妖力》だけを貫き、引きずり出す矢だ。
「ぐあっ!」
それに貫かれたことにより、占い師は一時的に体内の《妖力》を失う。
《妖力》は《退魔術》や《邪法術》の根源。
ゆえに、《閻魔ノ舌》も消滅する。
「おっ」
爆雷は自身の腕に巻き取っていた舌を始め、空中浮遊する不気味な巨口が霧のように消えていくのに気付いた。
「よし、烏風、爆雷、縛り上げるよ」
こうして、小恋達は謎のテロリストの制圧に成功したのだった。




