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魔女と生活5

「おかしいな……」

「どうしたの?」


ある日の朝、仕事の準備をしながら困惑気味にそう言ったルルーに、ヘルフリートが聞く。

グレータとヘルフリートが魔女の家にきて数日がたっていた。

あれから、三人と一匹は協力しあいながら、冬に向けて準備を進めていた。

グレータが薬草や木の実を集め、ルルーがそれを乾燥させたり煎じたりして薬を作り、木の実はジャムにして保存食にし。狩ってきた獲物は皮を剥いでなめし防寒具を作り、肉は食料として解体して干し肉や燻製にしていく。ヘルフリートは薪を割り、ルルーに頼まれた通り協力しあって鍛冶技術で壊れた剣を直す。

たまにヘルフリートがルルーにちょっかいを出したり。グレータがヘルフリートを罵倒したり、虎視眈々とレオに近づき仲良くなろうと画策していたりと賑やかですが冬に向けての準備は予想よりも順調だった。

そんな中、ルルーが少し困った顔で言ったのだ。


「何か問題でもあった?」


ヘルフリートが聞いた。最近はこの生活にもだいぶ慣れてきて、動物の死体にも慣れてきた。そして冬も間近で、準備は順調だと思ったが、何か問題が出たのだろうかとヘルフリートは不安気な顔になる。


「うん、問題っていうか、不思議なことがあって……」

「不思議?」

「うん、結界を直さなくちゃって言ってたじゃない?」

「ああ、そうだったね」

「それがね、あなたたちが来た方向を中心に調べてみたんだけど、ほころびが見つからなかったの」


ルルーはそう言って、腕を組んで考え込む。

結界は、この家を中心に所々に魔法道具を置くことで、結界を張っているのだが。その配置された道具を調べた限りでは、異変はなかったのだ。


「全てを調べたわけじゃないから、なんとも言えないんだけどね。もしかしたらぐるぐる回って来ていて、来た方向より反対にほころびがあるかもしれないし」


魔法道具を配置している場所は広大で、そう簡単に全ては見られない。だから全てを点検できたわけではないのだが、それでもルルーは気になって考え込む。こんなこと今までになかった。


「よくわからないけど、手伝えることがあったら言ってくれよ。もしかしたら俺たちが何かしたのかもしれないし」


ヘルフリートは責任を感じて、そう言った。


「え?ああ、それは大丈夫よ。っていうか普通の人はその結果に触ることもできないようになっているから、何かしたってことはないから安心して」


ルルーはそう答える。


「触ることも出来ないってどんな感じなの?」


そう聞いたのはグレータだ、毛づくろいをしているレオになんとか触れないか隙を狙っていましたが、気がついたレオに逃げられたので、興味を惹かれて会話に入ってきたのだ。


「近づくと、幻覚を見せるようになってるの。それにその魔法道具自体に、見えないようにする魔法がかかっていて。それプラス、方向感覚を狂わせる魔法も追加されてるから同じところを歩いたりして迷うのよ。だから道具があるところには近づくことも出来ないってわけ」

「じゃあ、ここから出る場合は?」

「出る時は魔法はきいてないから大丈夫よ。ただ、一度外に出ると戻れないから気をつけてね。特に薬草摘みに行く時は迷っていつの間にか結界の外に出てるってこともありえるから、絶対にレオから離れないでね。レオなら結界の外には絶対に出ないし、出たとしても戻ってこれるから」「はーい、でもレオってすごいね、猫なのに何でもできるんだね」


グレータはそう言って、レオをキラキラした目で見る。


「まあね、レオは特別な猫なの」


ルルーは得意げに言った。


「何?何が特別なの?」


グレータは興味津々で聞く。

なんせこの家に来て何日も経ちますが、レオは一向にグレータに懐いてくれないのだ。それでもグレータはそのツンデレな感じがたまらなくて、さらにレオに夢中なのだが。

それでも最初よりは慣れてくれたのか、近づいてもすぐには逃げなくなった。それでもあまり近づいたりしつこく話しかけるともの凄く嫌そうな顔になってどこかに行ってしまう。

あんまり追いかけると怒っちゃうよとルルーに言われたが、レオの綺麗で触り心地の良さそうな毛並みを見ればみると触りたくなって、グレータはなかなか諦められない。

ルルーは人差し指を口にあて「それは秘密。それにほら、あんまり詮索するとレオに嫌われるわよ」と言った。

レオを見ると、レオはあらかさまに嫌な顔をして、こっちを見ていた。


「え、うそ。レオごめんねもう聞かないよ」


慌ててグレータはそう言い繕ったが、レオは不満そうな顔をしてまたどこかに行ってしまった。


「あぁ、……しまった。また失敗した」


グレータはがっくり肩を落とす。それを見てルルーはクスクス笑う。


「残念だったわね。さあ、今日はグレータに採ってきてもらった木苺でジャムを作るわよ。グレータも手伝って」

「は〜い」

「じゃあ、俺も今日も薪割りを頑張るよ」


グレータはルルーについて行く。ヘルフリートもいつも通り仕事に向かった。


「じゃあまず綺麗に洗ってヘタを取って」

「はーい」


グレータはそう言ってエプロンをして、作業に取り掛かる。

二人は井戸から水を汲んできて洗い丁寧にヘタやゴミを取り除いていく。

それができたら鍋で荒く潰して砂糖を入れ、とろ火で煮る。

火加減はルルーがおこない。グレータが鍋をかき回す。果実がトロトロになると今度はルルーがゆっくり鍋をかき回し、グレータがあくを取りながら丁寧に煮込んでいく。

ジャムは時間をかけて丁寧に進める事が重要なのだ。


「あ、そう言えば私も不思議なこあったんだけど……」


グレータが作業しながら、思いついたようにそう言った。


「ん?なに?」

「昨日の夜なんだけどね」


そう言ってグレータは少し深刻そうな顔をして、話し始めた。

昨日、グレータは真夜中にトイレに行きたくなり、ついでに喉も渇いたのでグレータは起きてトイレに向かった。

暗くて少し怖かったが、駆け足でトイレに行って水も少し飲んだ。

さあ、ベッドに戻ろうとした時、廊下で目の端に何かが通り過ぎたのを見た。驚いたグレータは固まり、目線をそちらに向けるがそこには何もなかった。

見間違いかとホッとしたのだが次の瞬間、部屋の中でガサリと音がしたのだ。

グレータはビクリと体を震わせ驚く。

音がした部屋はいつもは閉まっていて、ルルーにこの部屋は先代の魔女の遺品などがあるから入らないでと言われていた部屋だった。

ルルーが言っていたその部屋とは物置の隣にあって、古ぼけた扉に頑丈そうな鍵がついている部屋だ。

入らないでと言われたし、遺品があるところにわざわざ行こうなどと、グレータは思っていなかったから今まで気にしたこともなかったが。物音がしたことで嫌な想像が駆け巡り一気に怖くなる。

まさか遺品の持ち主が……そう思ってしまったグレータは急いで部屋に戻ってベッドに潜り込む、その後何は結局何もも起こらなかったが。その夜、グレータは結局なかなか眠ることができなかった。


「……っていうことがあったんだけど。多分、ネズミかなんかと見間違えたんだよね?あの部屋って誰も……」

「ああ、それはたぶんお化けだよ」

「……え?」


いないよねと言おうとしたところで、お化けなどと言われ。グレータの手がぴたりと止まる。


「な、なななな何言ってるの?お、おおおお化けなんているわけないじゃない。あんなの子供をおどかすための作り話しだよ」


グレータは強気に言った。


「グレータ手が震えるわよ、ちゃんと灰汁とってね」


ルルーはそう言って、ニヤリと笑う。


「それに、お化けは本当よ……あの部屋は、昔から出るの」



ルルーは声を低くして続けた。そうしてこの家にまつわるお化けのお話をする。


「しかもおばあちゃんだけじゃなくて、昔ここに住んでいた魔女とか魔法使いが、たまに遊びに来るのよ。あの部屋には貴重な魔法道具とか資料もあるから、たまに懐かしいのか戻ってくるの」

「む、昔の魔女……ほ、本当?い、いやいや、騙されないわよ私のこと子供だと思ってそんなこと言ってるんでしょ……」


グレータはなおも強気に言いますが完全に顔が、青くなっている。


「本当だよ〜おばあちゃんもよく見たって。でも良い子には何もしないし。すぐに消えてしまうのよ……でも悪い子には……」


ルルーは怖い顔をして言葉を切る。


「わ、悪い子は?」

「後ろからじーっと見てる」

「?!」


それを聞いたグレータは顔を硬ばらせる。


「そしてずーっと追いかけて来て……そして足を掴むの!」

「っひ!?」


真っ青になって、プルプル震える始める、グレータ。

頭の中には、昨日聞いた物音や怪しい影がぐるぐる回って恐ろしさが倍増してくる。


「あれ?信じないんでしょ?どうしたの」

「や、やだな……し、信じてないよ…あ、あああたりまえじゃん」


からかうように言ったルルーに、グレータはそう言って。必死に気をとりなおしてまた灰汁を取る。

しかし、あきらかに顔色が悪い。

その必死な姿に、ルルーは吹き出しそうになる。


「まあ、グレータがいい子にしてたら、どっちにしろ大丈夫なんだけどね〜。……でも私を包丁で脅したという過去もあることだし。どうだろうね?」

「?!う!い、いや。だ、大丈夫だよ。そもそもそんなのいないんだから!だ、だから変な影も多分見間違いだし、変な物音もきっと風かなんかだと思う。うん、きっとそうだ。だからもうこの話はお終い!」


グレータは強気に言って、話を終わらせる。

ルルーはいつも大人びた発言をするグレータが、こんなに面白い反応をするなんてと意外で、グレータもまだ子供なのだと実感した。

以外に可愛いところがあるんだなと思いつつ、作業を進める。

そんなことがありつつも、その日は何事もなくいつも通り過ぎていった。

そして、その夜。全員がベッドに入り寝静まった真夜中のことだった。


「ル、ルルー起きて、起きてってば」

「……ん?んん〜グレータ?」


グレータが切羽詰まった表情で、眠っていたルルーを揺すり起こした。


「どうしたの?」


ルルーは起き上がり、ぼんやりした表情のまま聞いた。


「あ、あのね。ちょ、ちょっと……その、またトイレに行きたくなっちゃって……お化けの話を信じたわけじゃないのよ……でも」


グレータはみるみる語尾が小さくなって、最後にはもごもごと口ごもる。

どうやら夜中に目が覚めてトイレに行きたくなったが、怖くて行けなっかたようだ。

実はトイレは家の離れにあって、少し距離がある。それにトイレに行くには、問題の部屋の前を通らないと行けないのだ。


「ヘルフリートはどうしたの?」


グレータはヘルフリートと一緒に寝ていたはずだ。ヘルフリートは基本的に妹に優しいので、言えば一緒に行ってもらえそうなのにグレータは一人だ。


「お兄ちゃん、全然起きてくれない……」


そう言ったグレータは今にも泣きそうだ。

ルルーはちょっと脅かしすぎたかなと、罪悪感を覚える。


「わかった、じゃあ一緒に行こうか」


もじもじしてしおらしいグレータに、いつもこうなら可愛いのになと思いながら。ベッドから出てグレータとトイレに向かった。

例の扉の前を通った時ぎゅっと手を握ってきたグレータに、微笑ましく思いながらトイレに到着した。


「ル、ルルー、お願いだからどっかに行かないでね。そこにいてね」


グレータはそう何度も念押しして、トイレに入る。


「ルルー、いる?」

「いるよ〜」


そしてトイレの中からも、グレータは何度もそう聞く。


「ルルー」

「……」

「え?ルルー!ルルー!なんで黙るの?いるの?」


ちょっといたずらをして、黙ってみたらグレータは途端に焦り出す。思わず吹き出して笑ってしまう。


「いるよ〜」


笑いながらそう言うと、グレータがぷりぷり怒りながら出てきた。


「ルルーひどいよ!いるならいるって言ってよ!」

「ごめん、ごめん。ほら終わったんなら帰ろう」

「もう!」


今日のグレータは、いつになくからかい甲斐があって面白い。

ルルーがそう思いながら手を差し出すと、グレータは怒りながらも素直に手を繋ぐ。2人はそのまま部屋に戻った。


「どうする?自分の部屋に戻る?」


自分の部屋の前でルルーがそう聞くと。グレータはルルーの手を握ったまま、黙って俯いてしまった。

戻ってもヘルフリートは眠っている。

まだ怖いのかもしれない。


「一緒に寝る?」


そう聞くとグレータは黙って頷き素直にルルーの部屋に入り、ベッドに入っていった。

もし妹がいたらこんな感じだったのだろうか、ルルーはそう思いながら一緒にベッドに入る。


「いつもそんな風に、可愛いい反応してくれたらいいのに。そんなにお化けが怖い?」

「別にそんなことないもん」


口を尖らせそう言うグレータ。

あんなに怖がっていたのに今だに認めないグレータに、ルルーはクスクス笑う。


「大丈夫だよ、グレータは色々きついことも言うけどちゃんとお手伝いしてくれるし。お兄ちゃんが大好きないい子だよ。だからグレータの前にはお化けは出ないよ」


あんまりグレータが怖がっているようで、ルルーはそう言った。

グレータがいい子なのは本当だ。手伝いはいつも一生懸命しだし、言われたこともちゃんと守る。それになんだかんだ文句を言いながらも、グレータはヘルフリートのことを気にかけている、のをルルーは気がついていた。


「じゃ、もう寝よう。明日も一杯働いてもらわないとね」


ルルーはそう言って、最後におやすみと言って目を閉じる。

グレータはすっかりヘソを曲げてしまったのか、返事はなかった。

しかし、しばらくするとグレータポツリと言葉をもらした。


「……そんなことない」

「どうしたの?」


やけに深刻な声色だったので、ルルーは少し訝しげにそう聞いた。


「そんなことない、私は悪い子だ……」


グレータは思いつめたようにそう言った、その声には涙が滲んでいて、ルルーはさすがにからかいすぎたと慌てる。


「そんなことないよ、さっきも言ったけどグレータはいい子だよ」


ルルーは慌ててそう言って、ぎゅっとグレータを抱きしめた。


「前に言ったでしょ、私の本当のお母さんは死んでるって」


グレータはそう言ってルルーに抱きついた。そういえば二人がここに迷い込んだ経緯を説明した時、そんな事を言っていたのをルルーは思い出した。

今の母親ま本当の母親ではないと。

そうしてこう続けた。


「お母さんはね、私を産んだ時産後の肥立ちが悪くて死んでしまった。私を産んだからお母さんは死んだ。お父さんやお兄ちゃんは、お母さんが体調が悪くて栄養も足りなくて、それで運悪く死んでしまったって言ってたけど……」


グレータはそう言って震える手に力を込めてルルーにしがみついた。


「私はお母さんを殺した……悪い子だよ……」

「グレータ……」


ルルーはグレータが、そんな事を想っていたなんて思わなかった。


「それにお母さんは、お兄ちゃんのお母さんでもあったのに。お兄ちゃんは私が生まれて、お母さんがいなくなって、しかも私の面倒までみなくちゃならなくなった……」


とうとうグレータの目からは、ポロポロ涙が流れ始めた。

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