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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第八章   未来と希望  】
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240   【 来訪 】

 金属階段を、音もなくマリッカは昇って行く。履いた軍用ブーツに金属のスパイクが付いている事を考えれば、余りにも不自然だ。

 彼女も普段であれば、カンカンと足音を立てて移動する。それをしないのは、既に戦闘態勢に入っていたからだ。


 浮遊城は――より正しくは、浮遊城ジャルプ・ケラッツァは上下に別れた構造になっている。

 下は浮遊システムや格納庫、浄化の光(レイ)が設置され、全体の質量からすればほぼ本体と言えるだろう。

 その上に城が築かれている。

 こちらは見た目重視であるが、普段の指揮所である城主の間(艦橋)の他、魔族を探知するためのレーダーが設置されている。


 その艦橋ブリッジは円形の水晶をはめ込んだドーム状。

 油絵の具の空に覆われ太陽は見えない。しかし既に日は十分に昇っており、ここからは周囲の様子が一望できる。

 それでも見えるのは荒れ地だけ。激しく行われている周辺の戦いの様子は見えない。

 見えると言う事は、同時に浄化の光(レイ)の範囲内を現す。同士討ちを避けるため、それ以上に離れているからだ。

 見えるのは少し下にしがみついている魔人エンブスと、その周囲を飛行している飛甲騎兵隊くらいか。


 中央近くには城主の為の玉座が置かれ、その周囲には通信士(オペレーター)が扱う通信機器などが配置されていた。

 しかしながら、現在指揮系統は下の基部に移動している。ここは無人のはずだ。

 だが、そこに一人の人間がいた。


 周辺に配置された通信士(オペレーター)席からは無数のコードが伸び、それぞれが複雑に繋がっている。


「外から人影が見えたのでおかしいと思いましたが、なぜここにいるのですか?」


「驚いたね、何処から見たんだい? しかしまあ、その答えは簡単だ。当然、魔王を倒すためだよ。我等はその為にここに来ている。違うのかい?」


 商国の軍服に青い半身鎧(ハーフプレイト)。武器は背に片刃の大斧を担ぐ。

 褐色の肌に黒茶の短髪。ギラリとした力強い緋色の目は普段は陽気だが、今はまるで肉食獣のような色を湛えている。

 城内戦闘部隊を指揮するミックマインセ・マインハーゼンは、ゆっくりとマリッカに向け振り返った。


「違いますよ。私の目的は魔王の真意の確認と、その保護にあります」


 表情一つ変えず、しれっと言ってのける。魔王の暗殺を命じられて出て行った人間のセリフとは思えない。

 ただそう言いながら、少々疑問を感じていた。彼がここにいる件に関してだ。

 魔王を傷つけないのは商国の決定ではある。しかしこれは、内部のごく一部にしか伝わっていない。

 まあ当然だろう。浮遊城を実質運用しているコンセシール商国が、魔王を倒しませんと公言できるわけがない。

 実際、それを指揮するリッツェルネールは殺る気マンマンだ。

 ナンバー4のケインブラ・フォースノーもである。

 しかしミックマインセは違う。


「というより、貴方こそ命令違反では無いのですか? 商国が魔王の保護を決めた事は、既に伝わっていると思いますが」


「それで魔王を殺さず戻って来たのかい? 本当に酷い女だよ君は」


「上の決定ですから当然でしょう? それとも炎と石獣の領域の事をまだ根に持っているのですが? 心が狭いですね」


 炎と石獣の領域戦で、マリッカはミックマインセの下に就いていた。

 だがそれは表向きだけ。彼女(マリッカ)は父である魔王から直々の指示を受けるためにあの場所へと赴き、ミックマインセはその護衛役であった。

 彼は人間ではあるが、立ち位置は魔族に近い。

 そして当初の予定では、彼はあの地で全ての秘密を抱いて死ぬ予定であった。

 生き残ったのは、魔人の計画がずさんだったからである。


「ああ、あの時の話か。話と随分違ったが、そんな事はもうどうでもいい。ただ使命を全うするだけの事だよ」


 コンセシール商国は魔族の国。だがその立ち位置は、魔王とは大きく異なる。

 彼らは壁により人間世界に取り残された魔族。救われなかった者たち。同じ種族の仲間たちを殆どを失い、未来無き者たちの寄せ集めだ。


「君への命令が何処から出ているかは知らないが、こちらももっと上からの命令でね」


 言いながら背中の斧の柄を掴む。


「我等は魔王を討つ。そしてこの歪んだ世界に終止符を打つ。打たせるのさ! 魔人どもよ、永遠に苦しむが良い。結局貴様らは、この箱庭を作りそこなったのだ。全てを失って悠久の時を孤独に過ごすがいい!」


 ミックマインセも戦闘技量には自信があった。何せあの炎と石獣の戦いから生きて帰ったのだ。

 その後も順調に頭角を現し、今では城内の戦闘隊長であると同時にリッツェルネールの副官である。並の人間であれば歯が立たないであろう。


 しかし、斧を握りしめた態勢のまま、その首は宙を舞った。

 マリッカの瞳から立ち上る極彩色の魔力。誰も見てはいないのだ。実力を隠す必要はない。


「何を魔族のようなことを言っているのですか。貴方はただの人でしょうに……」


 マインハーゼン商家のトップは魔族だ。その子飼いの彼は、人と魔の関係や商国の成り立ちに深く関わっている。

 その過程で、こう教育されたのか……その事も気にはなるが、マリッカとしては更に先の事が気になった。


「商国の魔族達はどうするのです? この様子です、簡単には従わないでしょう。皆殺しですか?」


 〈 そんな事はしないよ。だって魔王が解決してくれるんだよ? 彼らだって、全てを知ればもう抵抗はしないさ 〉


「そうですね……」


 魔王から聞かされた本当の予定。これから来るであろう世界。それを考え、マリッカはサイレームの事を思い出していた。


(戦いは終わっても、やはり商人の生活は変わらないと思いますよ……)



「それはいいとして、これは何です?」


 そこにはミックマインセが設置した配線が複雑に絡み合っている。

 マリッカの知識では、何がどうなっているのか予想もつかない。


 〈 よく判らないねぇ……多分だけど、今ギリギリ城を浮かせている動力を浄化の光(レイ)に送り込んでいるんじゃないかな? 〉


浄化の光(レイ)は自己完結当たの兵器でしょう? 外部供給も出来るのですか?」


 〈 そりゃできるよ。連続して撃ちたい時なんかは使うよ。でもおかしいねぇ……4番は壊れて撃てない様だけど 〉


「魔道炉自体は動いているんですよね? このままだとどうなります?」


 〈 まあ普通に暴走するね…… 〉


 マリッカは冷静に考えた。これから起きる事を。


「そこまで分かっているのなら、回線は切れないのですか?」


 〈 切ることは出来るけど、繋ぎ変えるのは無理っぽいねー。そっちは下で操作されてるからね。まあ結論を言えば、どっちしたって結局落ちるよ、この城 〉


「では回線だけ切って帰りましょう。こんな大きな魔道炉暴発に巻き込まれるのは御免ですからね。こちらはエンブスに戻れば大丈夫でしょう」


 〈 魔王はどうするのさ! 〉


「他の魔人が付いているでしょう? それに時間的にはもう終わっている頃です。さて、帰りましょう。それで私の仕事は終わりです。これでやっと引き籠ることが出来ますよ」





 ◇     ◇     ◇





 魔王は城の基部へと向かう非常ハッチから下っていた。

 円形の穴に鉄梯子。マンホールというべき形状か。

 下までは精々8メートル程。天井の厚みを考えても、 大した高さは無い。


「意外と低い位置なんだな」


「ここの天井は薄いかな。城の周辺はもっと厚いよ」


「なるほど……まあ上から攻撃されるとかは考えていないんだろうな」


 降りた先には扉は一つ。開けた先は広い廊下であった。


「ああ、あれだな」


 そのすぐ近くにある扉。見た目は他に見える扉と何も変わらない。しかし上には『第7戦略分析室』というプレートが付いている。

 あれがマリッカの言っていた臨時作戦室に間違いなさそうだ。

 その時から動いていなければ、今そこにいるのだろう、彼が。


 ノックもせず、一言も発さず扉を開ける。

 中は予想していた通り、喧騒の最中であった。

 まあ、浮遊城と思っているか超巨大魔族と思っているかは知らないが、それに張り付かれているのだ。

 これで静寂であったら逆に怖い。


 通信士(オペレーター)らしい複数の女性がひっきりなしに叫んでいる。

 それを纏めているのは筋肉ダルマといった感じの男だ。まあこの世界、大抵そうなので今更だが……。

 服はコンセシール商国のモノに見えるが、色は赤だ。まあ、部署やなんかで違うのだろう。その辺りは気にしても仕方が無い。

 その男がこちらを向く。表情が豹変し何かを叫ぶが……あまり聞こえないな。

 だが何を言ったのかはよく分かる。その部屋にいた武装した一団が斬りかかって来たからだ。


 こういった場所にいるのだ、それなりにエリートなのだろうとは思う。

 だが今のエヴィアには通じない。見えない触手に絡めとられると同時に、真っ赤な血飛沫が部屋中に散る。

 さほど広くはない部屋だ。全員が気付き、突然の沈黙が訪れる。


「君の方から来るとは思わなかったよ。何か御用かな?」


 その静寂の中、静かな声が響く。

 一切の動揺も無い。まるで、予定の客が少し早く来た……そんな調子で、リッツェルネール・アルドライトは魔王に相対したのであった。





長い物語ですが、もうじき完結を迎えます。

ここまで本当にありがとうございます。

あと少々お付き合いいただけると幸いです。


ご感想やブクマ、評価など頂けると、とても励みになります。

是非ともよろしくお願いいたします。


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