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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第八章   未来と希望  】
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237   【 殲滅戦 後編 】

 スパイセン王国軍はほぼ密集して布陣していた。

 まだ後衛であり、当分戦闘は無いと思われていたからだ。それが完全に裏目に出た。

 円形上に広がった無数の雷撃が、兵達を討ち焼き焦がす。


「スパイセン王国軍ほぼ壊滅! 残存兵も蟻の襲撃を受けています!」


「まさか地中から後ろに出るとはな。確かに報告にはあったが、今ここに出るとは誰にも予想しえまい」


 リーヴェブッフ将軍の陣は動いていない。ただ全体が右前方に移動したため、全軍としては左翼後方に位置する形となった。

 敵が出現したのは、まさにその後方にあったスパイセン王国軍陣地。

 ハルタール帝国本陣は、突如として後方に予想外の難敵を抱える事にいなってしまったのだ。


「それで、様子は?」


「巨大ムカデと共に現れた大量の軍隊蟻は、そのまま後方の民兵団に向け動き出したとの事」


「我等を無視し、そのままアイオネアの門へか……奴らめ、一気に突破するつもりか!?」


 非武装の民兵団など、軍隊蟻の相手にもならない。

 しかしハルタール帝国軍は、右翼を突破して来るであろう亜人や竜、首無し騎士(デュラハン)に備えたばかり。

 状況的にも布陣の速度的にも、もはや手遅れとも思われる。

 だが――


「全部隊に通達。アイオネアの門を死守する」


「しかし右翼の後詰は――」


「ミルクス隊に任せよ。止められる時は、どの道その時である。今は何より、門が大切だ」


 例え”ムカデ”や軍隊蟻が強かろうが、壁もまた最強の防壁だ。

 長く放置すれば突破もされようが、そう簡単に陥ちるものでもない。


「進軍!」


 轟音を鳴らし、百万を超す将兵が再び動く。しかし、急に一部の部隊の動きが止まる。

 そこには、リーヴェブッフの本陣も含まれていた。


「ぬああああああ、な、なんだこれはあぁぁぁ!」


「魔族が! どこから!」


 彼らの腰にしがみつく、透明な無数の手。それは修復された鉄花草(てっかそう)の領域に棲む沼地の精霊だ。

 彼らは人を傷つけることは出来ない。その代わり、精霊の中でも特に干渉されない種類だ。

 出来る事は人を驚かせる事と――


「ぐ、ぬうう――」


 力が抜け、膝をつく。辺りの兵士達は既に、大地に倒れ込んでいる状態だ。

 それは魔王である相和義輝(あいわよしき)をも辟易とさせた、魔力を吸い取る力。


 人間の武器も鎧も、魔力が無ければ重すぎて使えない。

 民兵程度の武器や革の鎧ならまだしも、重装備の正規兵にとっては魔力を失った鎧など超重量の拘束具に過ぎない。

 形状によっては命にも関わる。


「状況は? どのくらいの範囲に及んでいる?」


 既に完全に地に伏しながら訪ねるが、答えられるものはいない。

 誰一人として動けない。本陣は皆、重武装をしていたのだから。


 終わった――本当に終わってしまったのか?

 ハルタール帝国軍の将が。人類最後の砦を死守すべき立場の人間が!?

 自らの命を大切だなどと思った事は無い。死はいつも隣にあり、自らの半身のようなものだった。

 しかし今、岩の様な顔から涙があふれ出る。何も出来ぬまま終わるこの身に。

 敬愛すべき女帝の信頼を裏切ってしまった非才さに。


「女帝陛下……オスピア様……申し訳ありません……」


 全てを諦め歯を食いしばった眼前で、光と共に大地が炸裂した。





「どうよ! 見ました? 見ましたわよね? やっぱりわたくし、盾に魔力を送るなんて地味な仕事は似合いませんのよ」


「いや待ちなさい! 今何やらかしましたか!? み・か・た・に・何したの?」





 リーヴェブッフの眼前で輝いた光は、味方に撃つなど考えられない程に強力な炸裂魔法。燃え上がった炎が爆発し、周囲を吹き飛ばす。

 唖然とするその視線の先に、飛甲板に乗った集団がいる。

 何かを話しているが、遠くて内容までは分からない。

 一人、おそらく指揮官らしいのは女性。風になびく金色の長髪。それに孔雀の紋章が付いたレオタード金のフレンジが付いた豪奢なマント。

 ただ松葉杖をつき、衣装の上から血の滲んだ包帯が幾重にも巻かれている。

 負傷兵だろうか……しかし――





 左手で松葉杖を突き、右手を高々と上げる。そして背を大きく逸らすと高らかに宣言する。


「このユーディザード王国国王、ルフィエーナ・エデル・レストン・ユーディザードが来たからにはもう安心ですわ! さあ魔族共に鉄槌を喰らわすのですわ!」


「いや、あのね、鉄槌と言うか、それ我らの頭上に落ちるんですよ。分かってます? 理解していますか? 貴方が吹き飛ばしたのは味方。味方の本陣ですよ」


 彼女を補佐するチェムーゼ・コレンティア伯爵は顔面蒼白だ。

 手持無沙汰の彼女が本陣へ行くと言って聞かないから連れて来たが、まさか味方の本陣に魔法をぶっ放すとは思わなかった。

 確かに様子は変であったが、それが何かを確認すらしていない。


 元からちょっと残念な子であったが、とにかく不屈の生命と言うか、なかなか死なない。

 リアンヌの丘だけではなく、今回の遠征でも死ぬ機会は幾らでもあった。事実、彼女は今も重症者だ。

 ところが生き延びた。しかも他の王位継承者は次々と戦死。しかし大丈夫、ある程度継承したら次は本国の人間が継ぐ。そこで遠征は終了し、晴れて生存者は国に帰る……のはずが、本国を魔族が急襲。ルフィエーナより継承権が上の者は皆死んでしまった。


 活動的な馬鹿ほど怖いものは無いというが、そこに高い生存本能まで加わったら無敵と言って良い。

 だがさすがに今回は無理だろう。そしてまた、自分もそれに付き合う事になる。だがそれが何だというのか。もう十分に生きた。

 ここを抜かれたらどのみち人類は終わり。そんな戦場で人類の為に戦う。なんと名誉な死か。


 ――などと思っていたのに、その味方の中枢にとどめを刺したとなったらなんとするか。

 馬鹿の監督不行き届きで連帯責任? 冗談ではない。

 名誉どころか、コレンティア伯爵の血族全て希望塚行きだ。





 そんなパニクっているチェムーゼを尻目に、リーヴェブッフは今しかないと確信していた。

 すぐさま鎧に再度の魔力を注入すると、そのまま留め金を外す。

 他の者達も同様だ。彼らは名高き東方部隊。どんな時でも冷静に対処する。





 鎧を脱ぎながら立ち上がる味方を見て、チェムーゼは安堵した。そして同時に戦慄する。

 あれほどに人間が密集していたにも関わらず死者は見た所ゼロ。それどころか重症者も見られない。爆風まで計算して、魔族らしき何かだけを吹き飛ばしたのか? 正体すら分からずに?


 チェムーゼもまた魔術師である。派手に染めた緑の髪はその証。魔力量はともかく、その技量はティランド連合王国のエンバリ―・キャスタスマイゼンと比べても決して劣らないと目されていた。

 だがそんな彼でもこれは出来ない。一回の爆発に見えたが、同時に複数の爆発を起こしている。それは干渉しあう効果を完璧に計算しなければ出来ない神業だ。

 馬鹿となんとかは……いや、今はいい。


「す、素晴らしい。お見事です、陛下! さあ、まだ多くの味方が倒れています。続けてお願いします」


「はあ? あんなのポンポン放てるはずがないでしょう? 暫くは魔力切れですわ」


「撤収! 撤収!」





 鎧を脱ぎ立ち上がったリーヴェブッフの見ている前で、飛甲板は遥か彼方へと去って行った。


「あれは確か……ユーディザードの紋章か」


「将軍!」


「確認は無用。直ちに友軍の鎧を外せ。あ奴らに殺傷能力はないようだ」


「では直ちに!」


 敬礼も無く去って行く配下に目もくれず、腰に挿した短剣に手をやる。骨で作った、儀式用のものだ。とても実戦で使えるものではない。

 だがそれでも、素手よりはマシだろう。


「例え武器や鎧がなくとも、我等はハルタール帝国の精鋭である! 進軍!」


 リーヴェブッフの号令と共に、部隊は再び動き出す。

 武器を捨て、鎧を脱ぎ、魔力を求めてユラユラまとわりついて来る無数の手を無視し、進む先に待つものは巨大ムカデと軍隊蟻の群れ。

 それは言い換えれば絶対的な死。

 それでも進軍は止まらない。人はそうして、ここまで歴史を紡いできたのだから。





 ◇     ◇     ◇





 空から見下ろす大地では、人類軍の崩壊が良く見える。

 それまでは何とか綺麗な布陣を保っていた軍隊が、精霊の投入で見る間に崩れ去った。

 不死者(アンデッド)らはの一部はともかく、精霊は魔王が命じなければそうそう人類には手を出さない。

 だから人類のほぼ全てが知らない。精霊から攻撃されると言う事も、対処法も。

 攻撃が始まった時点で、この結果は分かっていたのだ。


 そして、左右後方、どの戦線も崩れているのに浮遊城は動かない。いや、動けないのだ。

 意識を体に戻すと、そこにはエヴィア達が待っている。エンブスもすっかり落ち着いたようだ。


「さて、もうずいぶん明るくなってきた。決着をつけるとしよう」


「それはどのような形ででですか?」


 さあこれから――そう思った魔王の背後に一人の少女が現れる。

 振り向かなくても、それが誰なのかわかる。


「やあマリッカ。君が来るとは思わなかったよ」






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