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190   【 エスチネルの戦い(6) 】

 魔王相和義輝(あいわよしき)の足元が大きく揺れる。

 右へ左へとぐらぐら傾き、その度に床に貯まった血が流れてゆく。


(だいぶ揺れが大きくなってき気がする……)


 もしかしたら、もう墜落ラインを越えたのだろうか?

 だとしたらやばいぞ? まだ脱出経路も確保していない。


「ルリア、ちょっとプログワードの様子を教えてくれ」


「はいはーい、お任せください魔王様。文明の利器などには負けませんよー」


 ふわりと現れふわりと消える幽霊メイド。つか通信貝と張り合ってたのか。

 まあ確かに通信貝も便利だが、実際使ってみると死霊(レイス)の伝令の方が便利だ。

 これは俺自身が直接通信貝を使えない事もあるのだろうが、やはり慣れというものが大きいのだろうと思う。


「確認終わりましたー」


 そんな事を考え始めたとたん、もう戻って来る。本当に早い。


「それでどうだった?」


「左側の大きな動力室、3つほど全部壊してありましたー。いま4つ目に向かっていますよー」


 にこやか―に報告してくるが……ありましたーじゃねーよ!


「テラーネ! ウラーザムザザに連絡! このまま落ちたりしないだろうな!?」


「あー、左右のバランスが大きく壊れて揺れてーるネー。まだ落ちないけど、今まで通ってきた分、全部壊したら確実に落ちるよー。プログワードがこれ以上壊しても似たようなものネー」


「それはダメすぎる」


 重力と浮かぶ力。このバランスが崩れた時、いきなりドスンと落ちるわけでは無い。

 ただゆっくりとはいえ、数百メートル級のデカブツだ。飛行機の緊急筋時着なんてものじゃない。地面に激突した瞬間、摩擦と質量で確実に潰れ崩壊する。

 その衝撃は、人間がどうこうできるものではない。内部にいたら間違いなくアウト! たとえテルティルトを着ていてとしても、命は無いだろう。


「脱出経路を確認してもらってくれ。それと、プログワードはもういいから脱出……いや違う、脱出の用意をさせてくれ」


 今先に出たら、間違いなく浄化の光(レイ)の餌食になる。彼らは、たとえ死の瞬間にあっても最後まで持ち場を維持するだろう。


「かしこまりましたわ、魔王様。それでは伝えてまいります」


 スカートの裾を持ち上げ軽く会釈すると、死霊(レイス)のルリアはプログワードの元へと飛んでいった。

 後はこちらだが……。


「このまま上へ行くと大型浄化の光(レイ)の発射口がありまーすネ。そこから外に出られるよー」


「もう抵抗は終わっているかな。安心して良いよ」


「分かった。取り合えず急ぐとしよう」


 確かに、既に城内の抵抗は沈黙していた。

 俺が戦っている時すでに、エヴィアの触手は場内を伸び、テラーネの毒は蔓延していったのだ。

 もはや、進む先にあるのは死体、死体、死体……下や外の様子は分からないが、少なくとも上はもう安全だろう。





「それで……これが浄化の光(レイ)か」


 緩やかな階段を上った先は、大掛かりな部屋だ。いや、部屋と読んで良いものかどうか……。

 浮遊城全体で見れば、右側にある膨らんだ部分。外から見れば目玉の片方と言えるだろう。

 目の前にあるのは、金属の球体とそこから延びる無数の柱。あの中には、液体のような質感の球体――浄化の光(レイ)の本体が収められている。

 今立っている一の形状を見る限り、ここはちょうど真ん中あたりのようだろうか。下には網目状の金属床があり、下の様子が透けて見える。上も同様だ。


 確かこちら側のやつは、80メートル級だと聞いている。実際の姿は真下からの一瞬しか見ていないが、1つの球で前後を守るのではなく2つ繋がっている。

 浮遊城エスチネルの本体幅は140メートル程だが、これを2つ並べれば160メートル。

 その上、互いの間の隔壁も加わるから実際にはもっと長さが必要だ。当然だが収まりきらないわけで、余剰分の数十メートルは(まぶた)の様に外に出っ張っているわけだ。

 そして城の右側には60メートル級が前後に2つ。随分とアンバランスな形だが、まあ何かの意味があったのだろう。

 とはいえ、それを知る意味はもうない。この城は堕ち、もう二度と新たに作られる事は無いのだから。


「魔王、中にいる人間はどうするのかな?」


 それは、浄化の光(レイ)の仕組みの話だった。

 ここにある巨大な球体の中に本体が入っている。

 そしてその中には、その魔力を供給する為の人間が入っている。

 この国最高峰の魔力保有者。彼らは選ばれたら、以後は一生この中で過ごす。血族――そういったしがらみからも外され、永遠に武装の一部になる。

 確かユニカは、特殊職でエリートなのだと言っていた。だけど俺は、そんな生き方を羨ましいとは思わない。


「ああ……」


「迷うのでしたーら、私が始末しておくねー」


 放置しておけば、どちらにせよ城の落下によって死ぬだろう。

 しかし今は生きている。撃てなくなるその瞬間まで、これは危険なものに間違いはない。

 浄化の光(レイ)の発射の中心は、球体の中心ではなく表面だ。

 出っ張っている部分を考えたら、発射角度は180度を越える。これを残したまま離脱すれば、何処から出たってお陀仏だ。

 逆にこれさえ壊せば、大きい分だけかなりの死角が出来る。絶対に、やらねばならない。


「いや、俺がやるよ……確か構造は――」


 外殻に守られた内側に、流体金属で守られた本体がある。モノとしては無限図書館の床と同じような物か。

 その中に特殊職と呼ばれる人間の居住スペースがあるわけだ。毒も触手も、そこには近づけないらしい。

 食事などは、定期的に金属の箱に入った保存食が上から入れられる。

 それは数日かけて居住スペースまで沈み、またそこから排泄物などを入れて、沈められて下に落ちる。そして中との会話は通信機を使う。外殻の開閉、照準、発射などの操作も、動力源も中だ。

 これ自体が、完全に独立した一つの兵器。何処かを遮断すれば止まるというものではない。

 命令があればもちろんだが、無くても最後は自己判断で撃つだろう。


 中でもしもの事があったらどうするのか? 幾ら不老の世界でも、死を防ぐことは出来ない。病気や不慮の事故などの緊急事態は常に起こる。

 そんな時は、人間が入る専用の箱を使う。大抵は空箱を投下し、その後中に入って出るわけだ。

 これだと大体2時間ほどで下まで到達するらしいが、今はそんな悠長なものを使ってはいられない。


(こうして対面すると、結構大変な相手だな……)


 城もそうだが、こちらもなかなかに難攻不落だ。もし無限図書館に行っていなかったら、絶対の攻略できなかっただろう。だが――、


 指をパチンと鳴らすと、背後からポロポロポロポロと丸い物が現れる。

 半透明の金属球。内側にはかすかな光が見える。普段は無限図書館で暮らしている、流体金属の精霊だ。

 構造が分かっているのだから、準備してこない訳がない。というより、こいつらが居るから攻略法を思いついたのだ。


「じゃあ、移動用の金属箱を探そうか。多分、ここより上の方にあるはずだ。急ごう」


「どこへ行くというのだ?」


 場所を変えよう――そう考えた時、突然声を掛けられる。

 こんな所に知り合いはいない。言うまでもない……敵だ。



 全身を覆う濃い紫色の全身鎧(フルプレート)。いや本当に鎧か? 全高は3メートル近い。まるでパワードスーツだ。

 それ程の厚みと太さを感じるが、同時に生命の形も分かる。これは鎧。人間が着ているものに間違いは無い。この国の人間は巨人ばかりだが、またひときわでかい。

 それに鎧を覆うぶかぶかのマントやローブ。まるで金属生物が服を着ている様だ。


 頭は埴輪を思わせる独特の形状だが、その上には水牛のような左右に伸びる角をつけたシルクハットをかぶっている。

 この国のセンスにツッコミを入れるつもりは無いが、何とも表現しがたい感覚だ。


 右手に持つのは大型の片手用(ハンドアックス)。片手とはいえ、刃渡り90センチ、厚みは8センチ。通常、片手で使うようなものではない。

 一方で、左手には大きな円形の盾(ラウンドシールド)を装備。その裏側には、手に持っている物と同じ斧が4つ取り付けられている。

 相和義輝(あいわよしき)は知らないが、この斧は重甲鎧(ギガントアーマー)と同じ兵装だ。


 武器も盾も鎧も立派な装飾(レリーフ)が施され、それなりに高い身分なのだと予測できる。

 それに、命の形をはっきりと感じる。激しく回る、アルマジロの甲殻を思わせる車輪。どこまでも突き進む激しい命……そんなイメージだ。

 かなり強い――本能でそう感じとる。

 しかし同時に不自然さも感じる。なぜここに、たった一人でいるんだ?


「これはこれは、皇帝陛下ともあろうものが、なぜ一人で此処にいるのデース?」


 俺の疑問をテラーネが言葉に変えてくれる。というか皇帝陛下? あいつがか?


 〈 事前に写真は見せたでしょ? 〉

「機械仕掛けの埴輪にしか見えないよ」

「埴輪って何かな?」

「後で解説する」


「あまりゾロゾロ連れてきても、君らには意味がなかろう――」


 そう言うと盾を前に、武器を後ろに構える。

 どうやら、ヒソヒソとしたこちらのやり取りは聞こえていないようだ。


「――故に余が自ら来たのだ」


 言うが早いか、一瞬で踏み込んできた。

 速い――そんな事を考える間もなく、最初に標的にされたテラーネの右肩から左脇まで、一直線に断ち切られる。


「――な!?」


 次の瞬間には、エヴィアの首が宙を舞う。そして同時に、その小さな体を蹴り上げた。


「エヴィア!」


 空中を飛び、金属壁に叩きつけられる。しかし同に、不自然な形で首も一緒に飛んでいった。

 斬り飛ばされた様に見えて――いや実際そうだったのかもしれないが、今は触手でくっついているって事だろう。

 それよりもテラーネだ――が、


 一瞬にして、目の前が陰る。なぜかは考えるまでもない。

 あまりにも一瞬すぎて、何の対処も出来なかった。だが一瞬散った火花と響く金属同士の残響。テルティルトが操作した俺の体が、奴の――皇帝(ザビエブ)の斧を弾いたのだ。


「これは驚いたな、ニンゲンよ。大したものじゃないか」


 圧倒的な速度と破壊力。それに何より正確だ。今のも、テルティルトが防御しなかったら確実に首が飛んでいた。

 マリクカンドルフとは、また違った強さだ。


「其方こそな。余の初太刀を防いだ者など、何百年ぶりか。流石は魔王と言ったところだな」


 いや、待って。俺が今回、一度も魔王を名乗っていない。

 ……と一瞬だけ思ったが、考えてみれば無意味な事だ。

 去年無様に死んだ時、撮影されまくったと聞いている。考えるまでも無く、それはこちらの国にも流れているのだろう。

 しかしそれも妙な話だ。人間だって、同じ様に見えるそっくりさんは幾らでもいるのだ。

 ましてやこの姿。似た奴がいたとしても、まったくおかしくは無い。


「ほお、今更隠してなんとする。堂々とここまで来たのだ。堂々と死ぬが良い」


 大体察した。

 テルティルト……後でお話があります。

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