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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第六章   魔族と人と  】
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162   【 別れ 】

 粉塵の闇を駆けぬける80メートルの大ムカデ。

 スースイリアは予定通り、溝の中を疾走していた。当然、出口へと続く道だ。

 人間が空から落とす兵器は、スースィリアから見れば遅すぎる。


 今も上空から落ちてくる揺り籠の様子が、触角を通じて伝わってくる。

 人間の視界を奪う粉塵も、多少感覚を鈍くする程度だ。大した問題にはならない――そう、思っていた。


 上空から飛来した2つの揺り籠。

 それはそれぞれ遠くへと落着し、近辺で爆発する事は無いと思っていた。

 スースィリアの感覚情報を感じ取ったテルティルトもまた、それに疑いを持たなかった。

 だが地形、気流の影響を巧みに計算された2つの揺り籠は、それぞれ別の軌道を取りながらも、ある一点で交差した。

 それはスースィリアのすぐ近く。高度300メートル程度の地点だった。


 ――シマッタ。


 そう思った時には既に遅かった。

 空中で衝突し、炸裂した揺り籠の衝撃が上空からスースィリアを襲う。

 光と爆風の中、漆黒の巨体は千切れながら針葉樹の森へと吹き飛んでいった。





 ◇     ◇     ◇





 その様子は、上空を飛行する重飛甲母艦からは見えなかった。


「5番6番、ええと……爆発は確認しましたが……」


 通信士(オペレーター)は一応報告するが、結局その意図は分からなかった。むしろこの現象を、事故であったと考えていた。

 揺り籠同士を空中で激突させる。それはまだ、誰も試したことの無い戦術。オンド自身すらも、試したのは今回が初めてだったのだから。

 これはバイアマハンの一件を釈明するためにヘッケリオと本部に赴いた時、彼から戦術の可能性として聞いただけに過ぎない。これしかないと思ったが、無事成功してホッとしていた。

 もっとも、爆発の光とキノコ雲で地上の様子は分からない。そして魔力の測定器も相変わらず計測値を振り切っている。


(失敗したか……)


 とはいえ、もう残弾は0だ。やれることなど一つもない。

 オンド・バヌー指揮する重飛甲母艦7025号は、素直に編隊の尻に追随したのであった。





 ◇     ◇     ◇





「ぐ……。いてぇ……」


 相和義輝(あいわよしき)は、針葉樹の森に生える蔓草(つるくさ)に包まれる形で転がっていた。

 倒れてはいるが、無事だ。

 揺り籠の直撃範囲ではなかったことは幸いだった。それにスースィリア、テルティルト、そして蔓草が身を挺して守ったからでもある。

 そうでなければ、爆風だけで頭や手足をもがれて死んでいただろう。


「なんとか……生きているな……」


 全身は痛いが、これは打撲程度だ。骨は折れていないし、火傷も無い。

 なら、寝ているわけにはいかない。ここに留まる事は、考えるまでもなく自殺行為なのだから。


「スースィリア……」


 だが声をかけようとした先に転がるのは、スースィリアの損傷した頭部だけ。

 体は千切れ、周囲に散乱し、あるいは針葉樹の幹に刺さったりしていた。



「……まおー」


 力ないスースィリアの声。

 だが流石は魔人だ、頭部だけになっても死なない。そういや、ゲルニッヒもそうだったな。


「話は後だ。とにかく逃げよう。えっと……移動できるか?」


「無理なのである。まおーは先に行って欲しいのであるぞ」


「……馬鹿を言うなよ。テルティルト、何とかならないか?」


 頭だけでもデカいのに、顎肢(がくし)まで含めれば超巨大オブジェクトだ。俺の力では、どうやっても動かせない。

 だが――


 〈 無理ねー。いくらなんでもこれは無理 〉


「そこから分裂とかできないのか? ゲルニッヒが頭だけになったみたいに。もう少し小さくなれば運べるんだが」


「今すぐには無理なのであるぞ。時間を掛ければ出来るのであるが、ここに留まってはいけないのである」


 ああ、そんな事は解る。ここは決して安全とは言えない。だけど……だからこそ……。


「スースィリア一をここに置いてはいけない。移動出来るようになるまで一緒にいるよ」


 ここまで一緒にやってきたのに、ピンチだからと見捨てることは出来ない。

 俺達の運命は一蓮托生だ。これまでも、これからもだ。


 〈 だめね 〉


 だがテルティルトの声が冷たく響くと同時に、俺の体はもう走り出していた。


「いてえ! いててて! と、止まれテルティルト!」


 外骨格のテルティルトが勝手に動かしている。

 というか、意志とは無関係に動くから本気で痛い。


「魔王の許可なく勝手な事はしないんだろ! とにかく今はスースィリアが……」


 〈 魔王の命に係わると判断した時、私達は自己の判断で行動します 〉


 久々に聞いた、テルティルトのシャープな物言い。

 それに反論する間もなく、すぐ頭上を何かが通り過ぎていった。


「あれは……!?」





 ◇     ◇     ◇





「こちら第二直掩隊フリクスキーだ。巨大ムカデの残骸を発見。不確定だが人影らしきものも見えた! 大至急増援を求む!」


 魔王達の上空を通り過ぎたのは、コンセシール商国の飛甲騎兵であった。

 直ぐに近辺を飛行している部隊に連絡が入り、その情報は南方から進行中のハルタール帝国軍、そして浮遊城にも伝えられた。


「城主殿、魔王らしき人影との事ですが……」


「らしき人影というだけで、浮遊城を動かせはしないさ」


 ミックマインセの言いたいことは分かっている。ではあるが、今は浮遊城を動かせない。

 全ては不確実。自分であれば、影武者の一つや二つは用意するだろう。情報かく乱は基本中の基本なのだから。

 だが何もしないのかといえば、そんな事は無い。その為に、もう戦力は送ってあるのだ。


「ラウたち飛甲騎兵隊に近辺を封鎖させるように。それとハルタールに……いや、これは今更だな。武運を祈るとだけ連絡しておいてくれ」


 言いながら地図を確認し、1手の足りなさを実感していた。

 まだ一つ、トドメには足りない気がする。


「ムーオス自由帝国の重飛甲母艦隊に連絡。機材トラブルなので投下できなかった揺り籠が何発残っているか、もう一度詳細に確認する様にと」


 飛甲騎兵もそうだが、機械のトラブルなどいつもの事だ。

 予定通り全てを落とせたわけではないし、タイミングの妙で落とせなかったものもある。

 数は少ないかもしれないが、1発の有無が明暗を分ける事もあるのだ。





 ◇     ◇     ◇





(武運を祈るか……)


 今更言われるまでもない。マリクカンドルフは伝来を聞きながら、そう思っていた。

 その為に魔族領に入り、多数の犠牲を出しながらも魔障の領域を越えここに来たのだから。


「将軍、重甲鎧(ギガントアーマー)の支度が整いました」


「ああ、ここが正念場だ。他の部隊の用意も整っているな。我等で魔王を討つぞ!」


 歓声と共に、1万枚を超える飛甲板が疾走する。

 20万を超える先行隊、そしてその背後には30万近い本隊が続く。

 総勢50万の部隊が北上する……たった一人の人間を殺すために。





 ◇     ◇     ◇





「クソッ! クソォー!」


 魔王相和義輝(あいわよしき)は走っていた。針葉樹の森を。

 周りには誰もいない。ただ服になっているテルティルトがいるだけだ。

 体は勝手に走るテルティルトに任せ、意識を空に移す。

 そこから見えるのは、北へ北へと移動して来る大軍勢。おそらく50万人くらいだろう。


 あれほどの数が、あんな沼を越えてくるとは……完全に油断していた。かつて領域の端までは行ったが、入る事も出来なかった。だから人間も入る事は無いだろうと踏んでいた。あまりにも甘すぎたと言える。

 互いの速度をどう計算しても、逃げ切る算段が思いつかない。そもそも、徒歩と浮いている飛甲板では勝負にもならない。

 それに脅威はそれだけではなく……。


( 背後から胴を貫く一本の槍。飛甲騎兵から射出されたものだ。 )

( だがまだ死なない。口から血を吐きながらも何とか一歩を踏み出すが、そこに飛行騎兵が体当たりを敢行する。 )

( 意識が途切れる一瞬に見えたのは、自分の体が二つに裂ける瞬間であった。 )


「ダメだ! テルティルト!」


 体が勝手に地面にダイブ! 同時に両肩がゴキっと鳴って、凄まじい激痛が走る。

 槍が刺さったからではないのは、今更言うまでも無いだろう。


「おーまーえー!」


 〈 じゃあそろそろ自力で動いてねー 〉


 確かに、もう観念するしかない。

 今更戻っても、どうにもならない事くらい分かっている。


(スースィリア……無事でいてくれ……)





 ◇     ◇     ◇





「まおー……」


 魔人スースィリア。かつては魔王と共にあった魔人。

 だが先代魔王に失望し、一人静かに生きようと思っていた魔人。それでも、再び新たな魔王の元へと集う事になった。

 これは、運命だったのだろうか? それとも偶然だったのか。それは、誰にも分からない事だ。


 しかし今、スースィリアは満足していた。これまで生きてきたすべての事に。

 そして魔王を送り出すことに、何とも言えない充実を感じていたのだった。


「楽しかったのであるぞ、まおー」


 もはや動けないスースィリアの頭上に向け、新たな揺り籠が投下された。

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