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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第六章   魔族と人と  】
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159   【 脱出開始 】

 碧色の祝福に守られし栄光暦218年10月13日。

 魔王相和義輝(あいわよしき)は、最後の仕上げに取り掛かっていた。

 ここからの脱出を決めたは良いが、色々と今後の為に詳細を詰めておきたかったからだ。


「ここへの道は、全て溶岩で埋まるんだな?」


「そうかな。というより、ここにも流れ込んで来る公算が高いよ」


 そう言いながら、エヴィアは天井を指さす。

 ここは玉座の置かれた大ホール。天井にはいくつもの穴が開いている。

 おそらく飛行する魔族の為だろうが、あそこから溶岩が落ちてくると考えると洒落にならない。

 というか……。


「そうなったら、この玉座ともお別れか」


 初めて見た時はあまりの趣味の悪さに呆れたが、今ではそれなりに愛着のある品だ。

 というか、ここ大ホールの明かりを付けるための魔道炉が設置されているわけで。


「倉庫の中の物や魔王の私室にある物もデスネ。大切なものがあれば、今のうちに持って出る事をお勧めしマスヨ」


「いや、それはいいや。それよりもさ、ここが溶岩で埋まったら、明かりとかはどうなるんだ?」


「全部壊れるのであるぞー。修理は大変なのであるな」


「修理というより、新しいのを用意した方が早いですね。ハハハ」


 気楽に言ってくれる……。

 しかし、魔道言葉を覚えてからここまで……短かったなー。

 もうお別れかよ! 悔しくもあり寂しくもありだ。

 だがまあ、俺の力不足だったな。


「テルティルト、衣装を変えてくれ。以前試したやつだ」


 その言葉に合わせ、魔王服に擬態していたテルティルトの形がじわじわと変わる。

 布感あふれる質感から、昆虫の甲殻のように。服というより、外骨格。鎧と言って良い厚さだ。

 色は外側が黒、内側が赤。関節の接合部は金色と、いろいろツッコミたい配色だ。

 頭も全体を覆う(フルフェイス)スタイル。鏡で見た事は無いが、多分昆虫っぽい予感がする。


「ゲルニッヒとエヴィア、ヨーヌが溶岩を出しに行くんだな?」


「蓋は魔人でなければ壊せないデシ。まあ以前もやっているデシから、作業的には問題ないデシね」


「エヴィアは手近なところを壊したら、すぐに追いかけるかな。エヴィアは魔王付きだから、あまり離れない方が良いんだよ」


「私は少々用がありマスノデ、暫くはコチラに留まりマス」


 ゲルニッヒの用事も気になるが、多分知らない方が良さそうだ。

 まあ、聴いていたら長くなりそうだし今度で良いだろう。


「それじゃ、出発しよう」


 見渡す大ホールは、初めて見た時とは何か違う。

 何処かが変わったんじゃない。俺が変わり、そして今は再び戻って来れるか……そんな事を考えていたからだろう。

 初めて不死者(アンデッド)を引き連れてきた時の事。

 死霊(レイス)のルリアに魔力をごっそり奪われた事。

 ユニカとの出会い。本当に色々な事があった。


「必ず戻ってくる。その時は、新しく作り直してやるよ」


 俺はスースイリアに乗り込み、魔王の居城を後にした。




 ◇     ◇     ◇





「こちら第7重飛甲母艦隊。要請にあった針葉樹の領域上空に到着。これより投下を開始する」


 4千メートル上空の気流は激しいが、これは何処も同じだ。この領域だけが特に激しい訳ではない。

 だが報告にあった異常な乱気流は、この領域の地表に近い層だけなのだろう。しかしそれは、上から見ただけでは分からない。

 落としてみてようやく、ムーオスはこの地の難しさを思い知った。


「923番、投下失敗。不発です」

「633、949ともに失敗。不発です」


 乱気流に巻かれ、ふわりと浮き上がった揺り籠が木に激突して落ちる。失敗だ。

 魔道炉は臨界状態でなければいけない。だが、その魔力を維持しているのは人間だ。

 あそこまでぐるぐると振り回されたら、それどころではないだろう。

 なんとか気流の波を突破した揺り籠もまた木の枝に引っかかり、あるいは柔らかい地面にめり込み爆発には至らない。

 あろうことか、中には落ちた揺り籠から生きて出てくる者までいる始末だ。

 これでは話にならない。


「翼を外せ! 垂直に落とす」


「しかしそれでは……」


 艦長――いや、この第7重飛甲母艦隊司令官の決定は、流石に衝撃だった。

 重飛甲母艦は飛甲騎兵程の速度は出ない。最低でも10キロは離れて投下したいところだ。

 しかし――


「バイアマハンでは400メートル程しか離れておらぬのに、勇気と使命を以て落としたという。我らが今成さんでどうするか! 投下開始!」


 急遽、翼を取り外された揺り籠が投下される。

 だが伊達や酔狂で取り付けていたものではない。空中で回転した揺り籠は制御を失い、無駄に地面に墜落する。

 だがそれでも、翼があるよりはマシだったのだろう。気流の壁を突破した揺り籠から1つの光が生まれ、広がっていく。

 それは木の根元に当たった一発。爆音と閃光、そして木に着火させるほどの高温が数キロにわたって広がった。


 立ち上るキノコ雲に巻き込まれた重飛甲母艦の数機が空中分解し、燃えながら地面へと落下していく。

 その様子を見ながら、ラウら飛甲騎兵隊は四方に分散していた。

 この機会に、出来得る限りの敵情報を確認するために。




 ◇     ◇     ◇




 日の出――とはいえ、この世界で太陽は登らない。明るくなってからと言った方が正しいだろう。

 そんな早朝と共に出立したハルタール帝国軍は、途中で炎と石獣の領域に4カ所の陣地を構築しながら、正午前には針葉樹の領域に到着していた。


 最初に到着した先行隊は、最初にその緑色の世界に驚いた。

 中には生まれてから、一度も森というものを見た事がない人間もいる。

 だが本能で感じる――その生命の息吹を。


「た、隊長! これは凄い所ですよ!」


 自分の生まれ育った家よりも太い大樹、そして足の踏み場もないほどに生える蔓草(くるくさ)や色とりどりの花。

 多くの兵士がその光景に圧倒される。

 だがベテランの兵士達は感じ取っている。別のモノの息吹を。


「グオオオオガアアア!」


 叫び声と共に、真っ赤な毛並みを持つ獣が飛甲板に飛び乗り、無防備だった兵士を噛み千切る。

 体長は3メートル程だろうか。獅子の体、サソリの尾、蝙蝠の翼。そして見事な髭を持つ老人の顔。マンティコアだ。

 この針葉樹の森に広く生息している獣だが、ヨーツケールの指示により魔王やユニカの前には姿を現してこなかった。

 だが、侵入者に対しては別だ。人の顔を持っているが、彼らの知性は獣と変わらない。

 だが分かる、本能で。彼らが、自分達を滅ぼそうとしている敵であることが。


 一方で、人間達はその姿に恐怖する。

 この世界では老いる事は無い。故に、老人という概念そのものが無い。

 だから目の前にある顔が、どんな意味を持つのかは分からない。だがそれは、根源的な老いへの恐怖。

 本能が自分に当てはめ警鐘を鳴らす。ここは危険であると。あれは危険な存在であると。


 決して相容れぬ両者は、出会うべく場所で出会った。戦場でである。

 飛甲板から一斉に、空に降る雨のように無数の矢が放たれる。

 目標は、上空から飛来するマンティコア達だ。


 だが、彼らの皮膚は固い。その上に生える剛毛はさらに硬い。

 たまたま運悪く目や口に当たった個体には有効だ。だが殆どのマンティコアには、人類必殺の矢が効かない。

 たちまち数人の兵士が叩き潰され、食いちぎられる。

 尾の一撃は容易く兵士の鎧を貫き、その猛毒の前では対毒装備など無いがごとしだ。


 だが人類も負けっぱなしではない。数が根本から違うのだ。

 この近辺に住むマンティコアは、3コロニー60頭ほどだ。

 対する人類軍先行隊は、途中で多くを失い、また陣地構築に残してきたとはいえ4万人を越える。

 圧倒的な数の暴力。それこそが、人類が魔族を相手に戦えてきた最大の強みだ。

 第二陣が到達する頃、近隣のマンティコアは全て死骸と化していた。


「どのくらいやられた?」

「700から800ってところですかね? ここはあんな化け物がごあ――」


 その兵士は口から水が噴き出すと同時に、胸元から破裂した。

 まだ脅威は去っていないのだ。

 マンティコア戦の後――いや、戦っている最中にも既に水の魔法が人間を襲っていた。

 そして枝の間に潜んでいた巨大昆虫たちもまた、本能で人間への攻撃を始めていた。


「まだ敵がいるぞ! 迎撃!」

「我らは揺り籠投下跡地へ行き、陣地を構築する。後は任せた」


 兵士達はそれぞれの任務に応じ、探索、迎撃、陣地構築へと素早く分散する。

 その後方からは、いよいよ本隊が迫りつつあった。

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