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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第六章   魔族と人と  】
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140   【 バイアマハンの攻防 中編 】

「サテ、ヨーヌは予定通りいきましたカネ」


 誰に言うでもなく、ゲルニッヒは一人呟いた。

 ゲルニッヒにとっては、言葉にするという行為自体が楽しいものだ。

 言語という限られた欠片(ピース)を組み合わせ、思考という複雑な情報を伝達する。

 それはまるで、パズルを解く行為に似ていた。いわば、常に知恵の輪で遊んでいるようなものだ。


 その周囲には、飛甲板に乗った兵士達が集まっている。魔人ヨーヌと違い、ゲルニッヒの姿は目立つ。

 全高約190センチ。濃い紫色の逆三角錐の体に緑の大豆のような頭。それに四本の手が生えており、誰が見ても魔族である事は疑いようがない。


「サアサ、人間の皆サマ。本日はよくぞお越しになりマシタ。イエ、来たのは私の方デスカネ。ハハハ……」


 仕草の大仰さに対し、悲しくなるくらいの棒読みだ。

 これで迫力満点に言葉を(つむ)げば、もう少し威厳というものが出ただろう。

 そして、もしそうであったのなら――彼等兵士達は、もう少しだけ長生きできたであろう。


「突撃!」


 隊長であろうか、兜に羽飾りをつけた男が命じると、兵士達が一斉に飛甲板を降りて斬りかかる。

 こちらもヨーヌの方に回ったのと同様、480名前後の数だ。

 全員が凶悪な武器を持った屈強な兵士達。同じ人間からすれば確かに脅威だろう。

 だがたった3桁の数。これでは、ゲルニッヒの力の一端すら分かりはしない。


 辺りに漂う麝香(じゃこう)の香り。その香気が風に飛ばされ消える頃には、そこにいる人間は全て皮膚を紫色に腐らせ息絶えていた。

 時間にすれば、ほんの数秒と言ったところだろうか。一斉に、まるで操り人形の糸を切ったかのようにバタバタと倒れ込む。


「オヤ、コレは失敗でシタネ。サテハテ、マダマダ改良が必要なヨウデス」


 そう言いながら、ゲルニッヒの大豆頭がぐるりと上を向く。

 ほぼ真上、そこには飛び立ったばかりの飛甲母艦が浮かんでいた。





 ◇     ◇     ◇




 都市防衛隊本部は状況を飲み込めず、新たな兵員を現場へ向かわせようとした。

 ここは人間領。彼らにとって絶対の安全圏のはずだった。

 その思いが強すぎたのか、状況を理解する為に正しい情報を必要としていたのだ。


 だがその頃すでに、ヘッケリオの乗る飛甲母艦は高度4千メートルに到達していた。

 艦橋(ブリッジ)には、気圧に応じて酸素濃度を調節する機能がある。それが無ければ、とてもではないが高空飛行は無理だ。

 だがそれでも頭痛と吐き気、そしてキーンという耳鳴りが響く。

 だがヘッケリオは……少なくとも見た目には変化は無い。


「状況はどうなっているんです? 確認を」


「都市外周700メートル付近に魔族反応あり。向かった守備隊は全滅の模様。ただ浮遊城ほどの精度はありませので、いるかいないかくらいしか……」


 ヘッケリオは通信士(オペレーター)の計器を覗き込むが、幾つもの波模様が映っているに過ぎない。正しく見るには、専用の片眼鏡が必要だ。

 だが彼は生粋の技術者だ。その波形を見ただけで、(おおよ)その見当は付く。

 それに何より――


「守備隊が全滅したのであれば、そこにいるのでしょう。場所が分かっているのであれば十分。揺り籠1番から6番まで全て投下しなさい」


 これにはさすがに、オンド艦長も口を挟む。

 そんな所に投下したら、都市はおろか重飛甲母艦の発着場も被害を受ける。当然、栄光への道(グロリアスロード)作戦への影響は計り知れない。

 もしそんな事をやらかしてみろ、責任はヘッケリオ一人で済むわけがない。全員巻き添えだ。


「そ、それはさすがに承服しかねます。一度本部に問い合わせを致しませぬと」


「貴方は状況が分かっているのですか? あの警報は不死者(アンデッド)や亜人の数匹程度には反応しない。それを――」


「いや判ってますって。あれ(サイレン)はかつて、この辺りに領域があった頃の名残ですよ。街に大型魔族が来た時の―警戒? でしたっけ? まあ、強力な個体が近づいた時の非常警報ですよ。ええ、その位は十分理解しています」


 オンド艦長は流れる冷や汗を拭きもせず、何とかヘッケリオをなだめようとするが――


「まだ分からないのですか? もう魔族とは、魔族領に潜む害獣ではない。明確な意思と知性を持つ、最悪我々と同等か、それ以上の知生体ですよ。それが今、この作戦が本格始動したこの時、この場所に、強力な魔族反応が出現した。その意味を理解できないんですか?」


 その言葉を受け、オンド艦長の顔つきが変わる。彼の挑発的な口調が癇に障ったわけではない。

 彼もまた、軍人だ。理解したのである、状況の重みを。


「1番、2番、投下準備! 全弾落としても不発が増えるだけです。先ずは2発を投下し様子を確認します。よろしいですね?」


「それで良いでしょう、仔細(しさい)は任せますよ」





 ◇     ◇     ◇





 重飛甲母艦の下部ハッチが開く。顔をのぞかせるのは、先端が少し尖った黒い物体だ。


 ――ホホウ。


 ゲルニッヒはそれを見た瞬間、白き苔の領域を吹き飛ばし、魔人ギュータムを(たお)した兵器であることを理解した。

 そして計算する。周囲の魔人達の記憶から算出された威力を。


「面白イ! 素晴らしいデスヨ!」


 実に楽しそうに、四本の腕を広げ、天に向かって背中を反る。まるで受け止めんばかりの姿勢だ。


「イエイエ、改良されている可能性モ、全てが同じトハ限りまセンネ。シカシ、思い切りの良さはキョウタン……ソウ、驚嘆に値シマス」


 言葉のピースが上手く選べない。それ程に興奮した。

 ゲルニッヒの計算では、あの爆発は間違いなく自分たちの街や駐屯地を巻き込むに違いない。

 それでもあえて、今ここで自分を殺す事を選択した。

 自らの兵器の威力を知らない――いやいや、人間はそんなに愚かではない。

 しっかりと分かった上での判断だ。故に楽しい、面白い。その考えが。


 視界に、2つの黒い物体が投下された様子が映る。

 ああ――死が降ってくる。

 このままヨーツケールの様に死ぬ事も、また楽しいかもしれない。あれならば、この世から完全に消え去る事が出来るだろう。その時、その瞬間、この体は、思考は――いったい何を想うのか……。


 そんな刹那的にも似た感情が走る。

 だが、ゲルニッヒは動いた。そこに更なる興味があったのだから。


「サテサテ、これならどう判断しますか、人間」


 一直線に、そして驚異的な速度で、ゲルニッヒは街へと突進した。

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