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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第六章   魔族と人と  】
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132   【 地面に穴をあける一族 】

 魔王がホテルへと出発した日。碧色の祝福に守られし栄光暦218年8月26日。

 白い苔の領域上空には、再び大型の重飛甲母艦の編隊が飛来していた。

 その数64機。以前に来た時よりも多い大編隊だ。


 下に目をやれば、白い苔の大地には沢山の黒い穴が見える。

 疎らに空いた穴は、軍隊蟻などの魔族を攻撃した痕跡だ。

 だが、それとは別に続く黒い線。それは、無数の穴を繋げて作った道。多くの犠牲の上に成り立つ、勝利への架け橋だった。


「第12回栄光への道(グロリアスロード)作戦を実施する」


 “比翼の天馬の片翼”ルヴァンの合図とともに、編隊から一斉に黒いグライダーが投下される。


「各員、衝撃に備えよ!」


 そして艦橋に響いた“比翼の天馬の片翼”オベーナスの声と共に、世界は真っ白い光に包まれる。

 送れて届く轟音と衝撃。高々と舞い上がった(ちり)は、かつて苔や大地だったもの。

 同時に発生した多数のきのこ雲は干渉しあい、ねじくれ、まるで異様な姿の巨大魔族を思わせた。


 艦橋(ブリッジ)の……いや、全ての編隊、そして地上部隊の皆が、その光景を前に茫然と立ち(すく)んでいた。

 最初の数発は、皆興奮したものだった。初めて手に入れた巨大な力。魔族を倒す神の御手と形容する者もあった。

 だが人は、歓喜には慣れてしまう。そして次第に考え、やがてそれは潜在的な恐怖へと変わる。

 自分達は――いったい何をやっているのかと。


 しかし、そんな将兵達に対し、“地面に穴をあける一族”、“魔族の次に嫌われる者”の2つの異名を持つヘッケリオ・オバロスは冷静にデータを確認していた。


 魔族領侵攻から3日。ここまでに11回の攻撃が行われ、1446発の揺り籠が投下された。

 最初の目標は、2つの浮遊城を墜とした火球を放つ魔族だ。

 だが、どうしても上空からは発見できない。そこで、飛甲騎兵隊を導入した。

 その数実に4千騎。30メートルの間隔で飛行した美しい編隊は、普段であれば美しく、また心強い姿であっただろう。

 だがその目的は、ただの囮だ。





 人類は知らなかったが、ここに棲む魔人ギュータムは人間――特に彼らの作る金属の機械が大嫌いだった。

 魔導炉が出す、人間には聞こえない微細な高周波。その音を苦手としていたのだ。

 その為、白き苔の領域に侵入した機械は無条件で攻撃した。飛甲板も、飛甲騎兵も、当然の様に浮遊城もだ。


 見た目は40メートル程の真っ白な大ナメクジ。普段は苔の地下茎――つまり岩盤の中で暮らしていた。

 そして攻撃する時だけ、ひょっこりと顔を出し目標に炸裂魔法をかける。

 今までは、これでどんなものでも墜としてきたのだ。そして、墜としてしまえば当分は新たに入って来ることはない。再びの平穏が訪れるのだ。


 だがこの日、珍しく大量の機械が侵入してきた。

 そういえばヨーヌから人類の侵攻の件は教わっていた気がする……そうは感じていたが、興味は無かったため完全に忘れていた。

 そしていつものように顔を出し、魔法を放つ――


 空に無数の爆発が輝くと同時に、その近辺に向けて一斉に揺り籠が投下された。

 その様子はあまりにも眩しく、激しく、肉眼では何も観測できなかった程だ。

 だがその光、音、衝撃、そして巻き上げられた粉塵が去った後、もはやそこには黒い巨大な穴があるだけであった。





 こうして魔人ギュータムは(たお)された。だが人類からすれば、それが最後の一体という保証はない。

 慎重に警戒しつつ、揺り籠を投下して地面に穴をあける。

 それを幾つも連ね、今現在の成果は幅3キロメートルから5キロメートル。長さ20キロメートル程といったところだろうか。

 だがこれは、まだまだ序盤だ。魔法を使う魔族の脅威を完全に払拭できない以上、人類はずっと先までこの線を伸ばさなければならない。


 白き苔の領域。それは幅およそ2800キロメートル。長さは最大で1200キロメートルほど。

 魔族領を南北に分ける巨大領域であり、海を除けば、現存する領域としては世界最大規模である。

 その中に潜むのは、猛毒と超再生の白い苔、巨大な軍隊蟻の群れ。そして大小様々な毒蟲に炎の魔法を操る魔族。とてもではないが、人類が対抗できる相手ではない。


 人類未踏にして絶対不可侵の地。だがムーオス自由帝国は、ここに道を作ろうと計画した。

 南方地点から、かつてスパイセン王国が駐屯していたセプレニツィー平原まで。距離はおおよそ900キロメートル。

 揺り籠により地表の苔を吹き飛ばし、地上部隊がコンクリートで舗装する。地下茎の穴も同様だ。

 領域を解除するのではなく、ただ単純に道を作る。それはかつては不可能だった大事業。

 だが、揺り籠の力によりそれも可能になった。


 この道が完成した暁には、いよいよ浮遊城とムーオスの軍勢が魔属領北部へと侵攻する。

 その時こそ、人類の勝利が約束されるのだ。


 しかしその開発責任者のヘッケリオは、これまでの結果に大いに不満だった。

 爆発率はおよそ70パーセント。計算上では98パーセントで爆発するはずだが、想定よりもかなり低い。

 おそらく、恐怖で魔力がきちんと出せていない人間がいるか、空中で姿勢制御を失い魔力供給どころではなくなったかだ。

 後者なら設計を見直すことで対処できるが、前者では人間自体をどうにかしなければやりようがない。


 チッ――小さく舌打ちをし、カチカチとタイプライターのような機械で報告書を書き上げる。

 周囲はそんな彼を侮蔑(ぶべつ)の瞳で見つめるが、そんな外野の事に構ってはいられない。

 作戦本部は、おおよそ3万発で完了すると見ていた。

 だが現実には蟻への対処や不発弾などで、道に投入できたのは極一部だ。この様子では5万発……いや、10万発は用意しなければいけない。

 そう考えたヘッケリオの顔に、笑みが浮かぶ。それは深く、暗く、悪意に満ちた微笑みだった。





 魔道炉の危険性が判明した時、当時からムーオス自由帝国皇帝だったザビエブ・ローアム・ササイ・ムーオスは、それを兵器に転用できないかと考えた。

 そして呼ばれたのは、ヘッケリオの祖父、ムコス・オバロスであった。

 当時、飛甲騎兵を長距離運用するための兵器――飛甲母艦の開発副責任者であった彼に、白羽の矢が立ったのだ。


 そこからは、実験に次ぐ実験――悪夢の日々が始まった。

 だが、ムコス・オバロスはそれを知らない。揺り籠の試作第一号が出来た時、責任者として自ら乗り込んだのだから。

 だがそれは爆発しなかった。ただ落ち、ただ潰れ、地面に小さな穴を一つ空けただけで終わってしまった。


 賢い男であった。だからこそ、その後の未来も予見していたのだろう。

 研究を引き継いだオバロス一族の元、来る日も来る日も人間が空から落とされた。

 だが爆発させることは難しい。当時はまだ、魔道炉が臨界している時という条件すらも判明していなかったのだ。


 ドスン――遠くで小さな音が響き、そこには小さな穴が出来る。

 いつしかオバロス一族は、”地面に穴を開ける一族”と呼ばれるようになった。


 彼らが行う実験の意味を人々は知らない。最重要機密だったのだから。

 国中から貧しく先の無い者が集められ、男女の区分けなく揺り籠に乗せられ、空から落とされた。

 その行為は、まるで悪質な処刑方法だ。

 だが一方で研究は進み、1回に落とされる人数も増えていった。


 百年も経つ頃には国中で密かに(ささや)かれ、二百年後には、オバロスの血族には”魔族の次に嫌われるもの”の異名が追加された。


 だがそこから20年後、一人の研究者によって、一つのきのこ雲が作られる。

 オバロスの姉、ウェルン・オバロスの研究成果であった。


 成功率はまだ低かったが、確かに爆発させることに成功した。

 だが、その輝かしい爆発を見たザビエブ皇帝は青ざめ、震え、この研究と実験の凍結を決定した。





「全重飛甲母艦、格納庫(ハンガー)全ての揺り籠投下を完了」


「よし、全機帰投。13次攻撃隊に、幸運を祈ると電文を送れ」


「畏まりました」


 通信使(オペレーター)に応えたルヴァンは、横目でちらりとヘッケリオを見る。

 その目に映る彼の姿はいつもと、全く変わらない。

 この第12次攻撃隊だけで384発。3840名を殺したにも係わらずだ。


(この戦いが終わったら、この男は殺すべきではないのだろうか。死んで行った者の為に……いや、人類全ての為に)


 そしてそれが果たされた時、自らも責任を取り、この人生に幕を引こう。

 ルヴァンは心にそう誓いながら、白き苔の領域を後にした。


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