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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第六章   魔族と人と  】
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129   【 人類の反撃 】

 (しばら)く土の中を潜り逃げ延びた後は、地上を走っていたらしい。

 らしいというのは、俺はずっとスースィリアの中に(かくま)われていたからだ。


 エヴィアに言われたし、自分でも分かっていた。

 あの後、浮遊城から一斉に人間の気配が拡散した。まるでハチの巣を突いたかのようだ。

 人間の哨戒部隊――いや、あの規模なら本格的な攻撃隊か。それが一斉に出撃したのだろう。


 いつ彼らに発見されるか分からない逃亡劇。

 後悔と緊張の中、体も心もボロボロになっていた。


「まおー、着いたのであるぞ」


 スースィリアから吐き出された目の前には、趣味の悪い、見慣れた黄金の玉座が光を浴びて輝いている。

 魔王の居城に戻って来たのだ。

 だが、ドームの明かりが付いている……?

 周囲は、朝方のような凛とした眩しさに包まれている。

 死霊(レイス)の淡い光では、こんなにも輝いたりはしない。だがそれを考えるよりも早く――


「消えたのである―! 体が半分消えたのであるぞー!」


 スースィリアが、まるで思い出したかのようにビッタンビッタン大暴れを開始した。

 よく見れば、80メートル程あった体の半分、丁度40メートルほどが綺麗さっぱりなくなっている。

 おそらく、潜る時に焼かれたのだ。


「すまない……本当にすまない……」


 床を見つめ、拳を握り、声を絞り出す。

 本当に、俺はいったい何をしていたのか。

 なぜオスピアに、浮遊城の事をもっと詳しく聞かなかったのか。

 たとえ会えなくても、少し時間が掛かったとしても、白き苔の領域に住む魔人ギュータムから浮遊城の情報を貰っておくべきだった。


 既に、魔族は2つ墜としている――その情報から、一方的に油断していた。

 魔人なら何とかなると思っていた。

 現実は……違った。


「ま、まおー? 違うのであるぞ。大丈夫なのであるぞ。人間でいえば、髪を切られた程度なのである。ちょっと構って欲しかっただけなのであるぞ」


 大暴れを止めて、わしょわしょと甘咀嚼(あまそしゃく)をしてくるスースィリア。


「……すまない」


 だが、俺にはそれしか言う事が出来なかった。


 落ち着いて周りを見渡すと、倉庫の方からユニカがやって来るところだった。

 やはり、ここに灯りを点けたのは彼女か。しかし以前よりも、ずいぶん明るく眩しい感じだ。

 前回少し暗かったのは、やはり(しばら)く使っていなかったからだろうか。

 いつからあるのかは知らないが、ここも古そうだしな。


 彼女はカラカラと木の台車を押し、その上には湯気を立てるスープにパンにソーセージ。


「事情は聴いているわ。とにかく、一度温かいものを食べて落ち着きなさい」


 まるで諭すように優しくそう言うと、グイッと手を引っ張って問答無用で黄金の台座に座らされる。

 以前のような張りつめた緊張感は無いが、この辺りの強引さは彼女の地か。


「その……」


「いいから」


 ユニカの真剣な眼差しが、俺の口からこぼれそうな言葉を()き止める。

 ヨーツケールと彼女は仲が良かった。いや、彼女が一番信頼していた魔人がヨーツケールだったのではないだろうか。

 彼女も辛いはずだ。だが、今はこうして俺を支えてくれる。感謝するしかない。


 温かい食事と、久々の休息。

 体の安息と共に、心も急速に冷静さを取り戻してゆく。

 勿論それだけではないだろう。歴代魔王の言葉無き意志が告げている――嘆くのは終わりだと。


 周りを見渡せば、この居城のホールにはエヴィア、スースィリア、そして服になっているテルティルト。

 それにユニカと――ゲルニッヒが見える。コイツも来ていたのか。

 後はルリアを始めとした数体の死霊(レイス)首無し騎士(デュラハン)のシャルネーゼか。

 皆、準備は万端な様だ。


 では動き出そう。

 完全に、一方的にやられてしまった。

 だが、俺はこうして生きている。魔人達も残っている。まだ敗北した訳では無いのだ。


「よし――それでは……」


「アア、魔王よ。コチラから一つ報告がマリマス」


 ゲルニッヒが、ツツーと前に出る。


「何かあったのか?」


「ハイ。白き苔の領域に()んでいた魔人ギュータムが(たお)されマシタ。現在、南方からムーオス自由帝国の軍が着々と進行中でアリマス」


 その報告は、反撃の糸口を掴もうとした俺を再び打ち倒すのに、十分な衝撃だった。





 ◇     ◇     ◇





 白き苔の大地に、幾つもの黒い穴が開いている。

 この黒色は、苔の下に広がるこの領域の岩盤だ。

 よく見れば、黒い穴の数か所に白い点が見える。地表の苔と地下茎を繋ぐ茎の部分だろう。


 黒い穴はあちらこちら(まば)らに空いているが、一か所幾つもの穴を集め、道のように連なっている場所があった。

 そこでは工兵達が、穴の上にコンクリートを流し込んでいる真っ最中だ。


 領域の回復は、限りなく力の無い形状記憶能力だ。

 放っておけば元の状態に戻るが、植物の生育や動物の営巣などを妨げないように、何らかの負荷が掛かれば機能はしない。

 人間は、もう何万年も領域攻略を行っている。人類の歴史とは、領域との戦いの歴史なのだから。

 当然、対処する知恵も存在しているのだった。


 だがここは、人類未踏の地。領域の中でも特に過酷と(うた)われた白き苔の領域だ。

 事はそう、簡単なわけにはいかない。


「敵襲! 敵襲―!」

「軍隊蟻が来たぞ! 各員、持ち場につけ!」

「我等は犬死ではない。無駄ではないのだ!」


 工兵達が一斉に武器を取り、盾が取り付けられた飛甲板に乗り込む。

 だが彼らは分かっている。これの速度では逃げきれない事を。そしてこの程度の高度では、蟻から逃れられない事も。

 だから留まる。そして一方的に蹂躙(じゅうりん)され、命を落とす。

 だが彼らは満足して死んでゆく。なぜなら、この死は決して無駄にはならないと信じているのだから。



 その上空4000メートル。

 20を超える巨大な飛行物体の編隊が、綺麗なV字隊列を組み浮遊していた。


 形は円盤のようにも見える。全体的に流線型で、尾の無いカブトガニのような形状(フォルム)だ。

 全長38メートル。全幅44メートル。

 少し黒に近いが、光の当たり方で虹色に輝く金属製。壁と同じ材質だ。

 左右に塗装された白、緑、青、黄の4つの三角を四角に纏めた図柄は、自由帝国ムーオスの国旗を表している。

 重飛甲母艦……それが、この巨大な空中要塞の名前だった。


 前方上部にはドーム状に水晶の窓をはめ込んだ操縦席――いや、艦橋と呼んで良いほどの広さの部屋があり、そこには1人の操縦士、2人の副操縦士、2人の通信使、長身の男女、それに“地面に穴をあける一族”、“魔族の次に嫌われる者”の2つの異名を持つ男――ヘッケリオ・オバロスが居た。


「ほら、蟻が出たそうですよ。さっさとやっちゃってくださいよ」


 ヘッケリオは猫背のままシートに座り、目の前の計器に目をやったままだ。

 いつから洗っていないのか分からない、少しグレーにくすんだ白衣を羽織り、その下にはカーキ色のシャツにズボン――ムーオス自由帝国の軍服を着ている。

 ブーツは厚い金属底の革靴で、こちらも官給品だ。

 左の腰には刃渡り30センチほどの曲刀(ククリ)を装備しているが、白衣の為にシルエット程度にしか分からない。


 身分は今も変わらず、ムーオス自由帝国特殊兵器開発局局長のままだ。通常は、こんな最前線に出てくる立場ではない。

 だが今回は、自らが開発した兵器の実地試験とデーター取集。その為にこんな場所にまで出向いてきたのだった。


 そして言われた方は、長身の男女。

 男の方は身長273センチ。ムーオス人は他の人種より大きいが、それでもここまで大きな人間は少ない。

 全身の肌は黒く、赤い髪はバッサリと角刈りにしている。紅の白目に紺色の瞳。いかつい岩のような顔と、それに似合った強靭な鋼のような筋肉の持ち主だ。


 今は軍服の上に、白と赤の菱模様が連続した柄のローブを纏っている。

 腰には茶色い布を巻き、そこに下げているのは刃渡り20センチほどのナイフ。実戦用はおろか、護身用ですらない。鞘、柄、そして刃にも、細かな狩猟文のレリーフが施された儀礼用、ただの宝剣である。

 どちらも派手な柄だが、これはファッションではない。この場において、最高位の地位にある事を示す制服だ。


 ムーオス自由帝国航空師団団長にして、“比翼の天馬”と謳われた飛甲騎兵乗りの一人。

 名を、ルヴァン・マルファークという。


 もう一人の女は、オベーナス・ヘルト・レッケラー。

 身長は269センチと、ルヴァンにもそう引けは取らない。

 肌はムーオス人らしく漆黒で、白く長い髪は大した手入れもされず、腰まで伸ばしっぱなしにされている。


 軍服、ローブ共に同じであり、腰に飾った宝剣も同様だ。

 ルヴァンと同じく“比翼の天馬”と謳われた飛甲騎兵乗りの一人であり、双方共に同階級の身分が与えられている。


 通常は、1つの組織に同一階級のトップを据えることは有り得ない。

 だがこの二人は、特例中の特例だ。これまでの実績から、二人一組が最適と判断されたからであった。


「どうしたんですか? さぁ、早くしてください。それとも臆したんですか? もう何発落としたんです?」


 ヘッケリオの挑発的な態度に、彼等ではなく周囲の兵士達が憎悪し、同時に恐怖する。

 国家――いや、世界レベルの英雄、この世で最強の飛甲騎兵乗り。その二人によくもまあ、あのような口が利けるものだと……。


 だが、二人は苦々しい表情を浮かべるだけで、怒っているといった様子ではない。

 このような礼儀知らずの男の言動など、今の二人には取るに足らない事なのだ。


「それでは、行って参ろう」


 その紺の瞳に憂慮(ゆうりょ)の色を(たた)えながら、ルヴァンは艦橋後部の螺旋階段から、下の格納庫へと降りて行った。

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