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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第五章   それぞれの未来  】
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110-1 【 ユニカっぽいもの 前編 】

 針葉樹の森。いつもユニカが収穫に来る場所だ。

 魚介類はホテルの水路でも集められるが、野菜などはどうしてもここまで来る必要があった。

 移動は毎回、魔人ヨーツケールが運搬する。意気投合とまでは言わないが、この二人はすっかりセットになっていたのだ。


 今日もいつもと変わらぬ日々。ユニカが芋や野菜を収穫し、彼女の指示でヨーツケールが木の上から卵を集めてくる。そんな、普段の日常風景だった。


 《 ユニカっぽいものよ、あまり動かない方が良いのではないか? 必要な事は全てヨーツケールが行う 》


「大丈夫よ。今の時期は、動いていた方が良いの」


 妊娠が確定してから196日目。お腹の膨らみも、すっかり目立つようになっている。そんな体でえっちらおっちら動くものだから、ヨーツケールとしては気になって仕方がない。


「それよりも、あれ仕留めて」


 言われた方を見ると、四つ牙の猪がのっしのっしと歩いている。

 体高は2メートルを超す巨体だが、その肉は霜降りで柔らかい。焼いても煮ても食べやすく、また保存食としても利用されていた。

 ちなみに、魔王相和義輝(あいわよしき)の好物でもある――というより、この周辺で食べられる獣肉の王様と言って良いだろう。


 指示を受けたヨーツケールは、ほぼ同時に既に獲物を仕留めていた。

 人間であれば十人でも二十人でも蹴散らせる戦闘力を持つ猪だが、流石に魔人から見ればハムスターのようなものだ。

 だが――


 《 少し大きすぎる。芋と一緒には運べない 》


「そうねぇ……」


 芋や野菜、卵は十分に確保し、そろそろ帰ろうかという頃だ。そこに巨大猪が追加されたため、完全に積載量オーバーだった。

 いや、ヨーツケールの脚力であれば問題はない。ただこれを乗せると、ユニカが乗る位置が無くなってしまうのだ。

 以前であれば猪の上に乗せたのだろうが、身重の彼女をそんな不安定な場所に乗せるわけにはいかない。


「いいわ、先に荷物をホテルに持って行って。あたしはここで、もう少し木の実を集めているわ」


 その言葉を受け、魔人ヨーツケールには様々な思考が渦巻いた。

 この領域でユニカを傷つけるものはいない。魔人が厳命しているからだ。

 ホテルまでの往復は、彼女を乗せていなければ2時間もあれば問題無い。子供ではないのだから、迷子になる事は無いだろう。

 この領域にも精霊はいるが、既にお腹の子供からは微妙に魔王の気配が漂っている。悪さをすることは無いだろう。

 他の魔人に出会った場合……これは事情を知らなかったら最悪だ。あっさりと殺される可能性がある。


 《 ユニカっぽいものよ、それはダメだ。危険がある以上置いてはいけない。芋を半分捨てて行こう 》


「それはダメよ。食べ物を捨てるなんてとんでもない! それに半分も!? これだけあれば、私達の世界では1か月は食べられる量よ!」


 食べているのは殆どエヴィアだし、今はいない――そう思考が渦巻くが、魔王が出かけた後も、彼女はせっせと干し芋を作っていた。

 それは彼女が食べるには多すぎる。今はここにいないエヴィア、それに魔王の為でもあるのだろうか……。

 それに考えてみれば、自身も干してある芋をちょくちょく摘まんでは食べていた。

 冷静に記憶を整理すれば、彼女の言葉を無下には出来ない立場だ。


 悩んだ末、魔人ヨーツケールは右上の鋏を一本外し、地面に置いた。


「え!? な、なにやってるのよ!」


 ユニカは驚きつつも、興味津々と言った顔だ。学者を目指していた血が騒いだのだろうか。


 《 ユニカっぽいものよ。この周囲から離れないでほしい。そして、見知らぬ生き物が来たら鋏を指し示すといい 》


 魔人であれば、先ずそこから記憶を確認する。いきなり襲われることは有り得ない。


「まあ、この森は安全そうだけど……いいわ、近くでゆっくり収穫しながら待っているわよ」


 《 それでは急いで行ってくる 》


 魔人ヨーツケールは頭に上にイノシシを乗せ、鋏には抱える様に芋や野菜、卵を持つと、目にも止まらぬ速度で飛び跳ねて行った。





 魔人ヨーツケールを見送った後、ユニカは少し休憩に入った。

 気丈には振舞っているが、やはり体が重い。お腹の中に子供がいると、こんなにも動きにくいのか……。


 どっこいしょと白くなった鋏の上に座る。

 上空を強い風が吹き抜け、辺りからは木の葉の擦れる音だけが聞こえてくる。


(静かだわ……)


 なんだか、こんなに静かに落ち着けるのは久々の様な気がする。

 怖さは相当に薄れている。ヨーツケール……あの大きな蟹も、中身は相当に善人のようだと分かってきた。

 夜中に時々見回りに来る死霊(レイス)にも慣れてきた。

 だけど、いつも――特に魔王が出かけてからというもの、いつも誰かしらの視線を感じていた。

 だけど今は……一人。本当に久しぶりの孤独。


「そういえば一人になったのって、何時以来かしら……」


 そんなことを考え、ハッとする。

 周囲を見渡す――だが誰もいない。いないのだ!


 思わず走り出していた。

 今この機会しかない。人類同胞に伝えるのだ、ここで見聞きしたことを。そして魔族を倒す。人類の希望の為に!


 当てがあるわけでは無い。だが、彼が戻って来る前に離れなければ。遠くへ、とにかく遠くへ。

 ただしゃにむに、全力で、彼女はその場を離れていった。





 ◇     ◇     ◇





 ホテル幸せの白い庭には、魔人ゲルニッヒが戻ってきていた。

 そして、ユニカが干していた芋をせっせと摘まんでは食べている。

 普段は見つからない様に細心の注意を払っているゲルニッヒではあったが、同じ魔人には注意を払わない。

 それ故に、大きな違和感を受けた。ヨーツケールが一人で戻って来たことにだ。


「オヤ、珍しいデスネ。ユニカ様はどうしたのデスカ?」


 ヨーツケールは一言も発しない。だが――


「ええ、そうデス。貴方も思考を言葉にする習慣を身につけた方が良いデスヨ。今の貴方の言語能力デハ、ユニカ様との意思疎通に齟齬(そご)をきたすかもしれマセン」


 しかしヨーツケールは変わらずだ。

 魔人同士では、言葉という不完全な情報伝達手段に頼る必要は無い。

 実際に、ゲルニッヒは言葉と同時に遥かに多くの情報を発している。

 そもそもヨーツケールとしては、元々魔王に興味があっただけで、人間に対してはそれほどではない。だから特別に言葉を学習しようとは思っていなかった。

 だがそれも、過去の話となった。


 《 ゲルニッヒよ、ユニカっぽいものは芋の跡地に残している。安全だとは思うが、ヨーツケールは正直心配だ。すぐに戻る事にする 》


「そうデスカ。では、私もご一緒する事にしマショウ」





 ◇     ◇     ◇





 その頃、ユニカは森の中を迷走していた。

 疲れる、息が上がる、足が痛い……何で走っているんだろう? 何で逃げたのだろう?

 落ち着いて考えれば、こんな体で何処へ行こうと思っていたのか? 精神が不安定になっていたとはいえ、自分自身でも馬鹿な事をしたと思う。


 今からでも引き返すべきだろうか?

 いや、それはダメ。迷ったなんて言い訳は、あまりにも不自然すぎる。

 それに、あの不気味な魔族は人間の心を読む。どんな言い訳も通じない。あたしは逃げたのだ。裏切ったのだ。

 もし戻れば殺されるだろう。もし生かされたとしても、それは生きているだけ。おそらく、四肢の切断くらいはされるだろう。今更後戻りなんてできない。


 空を見上げるが、そこはどんよりと油絵の具の雲が覆っている。

 位置も包囲も予測できない。そもそも、何処へ行けばいいのかすら分かりはしない。

 絶望的な中、後悔と恐怖が頭を廻る。


(……もう、どうしたらいいの…………)


 そんな彼女の足元の地面が、不意に消えた――

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