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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第五章   それぞれの未来  】
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096   【 人間世界 】

 相和義輝(あいわよしき)が上陸した所。そこは真っ白い氷に覆われただけの氷原だった。

 強風は轟々と唸りを上げながら足元の氷の粒を巻き上げ、まるで湯気の様に白い(もや)を吹雪かせている。

 空は当然ながら俺――油絵の具の空に覆われ、まるで世界の終わりの様な風景だ。


 海路とはいえ随分と時間がかかるものだと思っていたが、後半はもっぱら地下を砕氷しながらの移動だった。氷の上を行けばもっと早かったのだろうが、ここで見つかるわけにはいかない。

 その移動の間も寒かったが、ファランティアの顔が開いたとたんに吹雪いてくる寒風は骨まで凍りそうなほどだ。


「寒い! 寒いぞー!」


「前にも同じ事を言っていたかな。魔王は寒いのは苦手? 子供は風の子って誰かが言ってたよ」


「なら服をよこせ!」


 俺の背中には真っ赤なクッションと魔人ファランティア。そして抱きかかえているのは魔人テルティルト。そう、こいつが服になってくれないので、現在着るものが無いのだ。

 幸い他の魔人と違い、テルティルトはじんわりと温かい。まるで湯たんぽの様だ。

 魔人は外見だけでなく生態もやはり違うのだなとのんびり考えもするが、それ以前にこの状況何とかしろ!


 〈 まだ外見決まってないでしょー。魔王服でいいいの? 〉


「確かに予定外の人間に見つかるとやばいよなー。つっても、ファランティアが居るからどちらにせよ誤魔化せないがな。とりあえず、少し閉めてくれ」


 俺の指示で、ファランティアの顔が途中まで閉まる。今の内に、確認しておきたいことがあったのだ。


「シャルネーゼは来てるか?」


「勿論だとも、魔王よ。我等首なし騎士(デュラハン)はいつでも戦闘可能だぞ」


「戦闘に行くわけじゃないからな!」


 そう言いながらも周囲を見渡すと、首なし騎士(デュラハン)の姿がチラチラと浮かんでは消える。しかも数が揃っているところを見ると、2回目の奴まで全部来たなこれは。

 海を経由すれば壁を越えられると聞いていたが、これで確定だ。しかし壁もざるだなーと思う。この様子だと、領域移動を許可されている魔族達は結構入り込んでいるだろう。


「ルリアー」


「御用ですか? 今ちょっと忙しかったのですが」


 ふわりと現れる幽霊メイド。こちらもちゃんと来れるかどうかを確認するだけの予定だったのだが――


「何があった?」


「いえーちょっと……」


 ルリアの目が泳ぐのは珍しい。人差し指で頬をポリポリ掻きながら、目は明後日の方を向いている。


「怒らないから言ってみな?」


「今人間は大規模な戦争をしてましてー。その、皆でお食事会とかを……」


 なるほど、大方生気とやらを吸いに戦場を飛び回っているのだろう。


「あまり騒がれるなよ」


 こちらは、それだけ言えば十分だった。

 しかし大規模な戦争か……確かゼビアとかいう国がこの国に攻め込んだような話は聞いているが、その事だろうか? そもそもその状況で、こうして会いに行って大丈夫なのだろうか?

 まぁ、いざという時の為に首なし騎士(デュラハン)を呼んだわけなので、戦争に巻き込まれそうならさっさとトンズラしよう。

 目的はあくまで、和平会談の為の会話なのだ。



 そんな話をしていると、遠くから人影がやって来る。

 シルエットからするに、人間一人と馬二頭だ。徐々にそれが近づいて来るが……。


「あれが目的の人物か?」


「間違いないかな。予定通りだよ」


 それは良かった。もし別人ですと言われたら、色々とマズかったよ。

 近づいて来る人影は、真っ白い外套を纏った小柄な人間の様だ。

 馬は逆にやたらデカい。戦場でも見かけたが、品種改良の結果だそうだ。寿命の無い世界での品種改良はなかなか大変そうだが、長い時間をかけて地道に頑張ったのだろう。

 もっと別の方向に頑張ってほしかった……。


「お久しぶりです、ファランティア。魔王はその中ですか?」


 馬に跨ったまま、ファランティアに声をかけてくる。高く落ち着いた響き……顔は見えないが女性だろうか。

 騎乗しているのでよく判らないが、身長は160センチそこそこか。強風でバサバサとはためくフードの下には、瞳を隠すほどに長い銀色の前髪が見える

 魔人達と繋ぎを取り、魔王を迎えに来る人間……いやがおうにも興味が湧く。


 それに命の形が見える。沢山の人間を見てきたが、大抵は曖昧でぼんやりしている。ハッキリと形を感じられるのは、強く、そして生きる方向性が定まった特別な人物なのだろう。

 だがなんだろうか、この感じ。石……岩……? 少々失礼だが、何となく漬物石という言葉が頭に浮かぶ。


『久しぶりですね。お元気そうで何よりです。勿論魔王もいますよ。今、空けますね』


 ――いやまて!

 その抗議の意志も虚しく、ぱっかりと開くファランティアの顔。

 その中では、全裸の俺が1メートルの尺取虫を抱きかかえ、隣には10歳ほどの少女をはべらせているわけで……。


 フードと銀色の前髪でその瞳はよく見えないが、まるで生ゴミに沸いた蛆を見るような視線を感じたのだった。



「へー、魔王。これがですか。ふーん……」


「いや待て、待ってくれ! 話を聞いてくれ! そうだ、服! テルティルト! あの外套、あれになってくれ!」


 にゅるりと体に纏わりつき、外套の姿へと変わるテルティルト。先ずはいきなりの難関を一つクリアだ。

 微妙な達成感を感じつつも、何とか体裁を取り繕って咳ばらいを一つ。


「初めましてだな。俺が魔王だ」


 背筋を伸ばし、精一杯の威厳を込めたつもりだが、刺さる視線は変わらない。なんか最悪な出会い方だぞオイ!


「始めまして。私はマリッカ・アンドルスフ。貴方をオスピア女帝陛下まで護衛するために着任しました」


 馬から降りて直立不動のピシっとした敬礼。

 これが性格からの物なのか、あの姿を見て微妙に距離を取った結果なのかが判らない。

 というより、どこかで聞いた事がある。マリッカ…まりっか……アンドルフス…………!


「君は先代魔王の娘なのか!?」


「既にご存知でしたか。全裸で尺取虫を抱きかかえ、脇に少女をはべらせていても、流石は魔王です」


「いやそれは忘れろ! つかこいつらは魔人だよ。判るだろ?」


「はい、見ればわかりますが……確かにそうですね。貴方が魔王でしたので、その位の趣味はあってもおかしくは無いと思いました」


 ……こいつも結構正確に難があるように感じる。

 そう思った相和義輝(あいわよしき)ではあったが、さすがにそれを言葉に出すほど子供ではない。


 〈 性格難ありだってー、マリッカ。やっぱり普通の人はそう思うんだよー 〉


「うがー! いきなりばらすのは誰だ!」


 何となく声はテルティルトに似ているが、もっと少年っぽい。

 だが周囲には俺たち以外は居ないぞ? もしかして馬か?


『しらん』

『ちがうよ』


 しかし馬に視線を向けても、あっさり彼らは否定する。いやまあ判るよ、魔人は姿を見れば一発だ。こいつらはただの馬。


「アンドルスフは普段姿を消しています。本人曰く、シャイだからだそうです」


 なるほど、ヨーツケールも保護色中は見えないしな。そして見えないなら名前も分からない。それにしても……。


「本名そのままってのも驚いたけど、魔人の名前を名乗っているのも驚いたよ。魔人の子供達は偽名を使っていると思っていたけど、全部が全部そうではないんだな」


「その辺りは人それぞれですね。では、そろそろ出発しましょう。この辺りで長居するのは得策ではありません」


 マリッカは流れるような動きで馬に乗る。無駄のない、実に美しい動きだった。

 それにこの極寒の中で立ち話はあまりにも危険だ。言いたい事は分かる――が、


「その前に服を何とかしてくれ!」


 今はテルティルトが外套になっているが、その下は全裸! これではド変態だ。


「ああ、必要だったのですか。一応、持って来ていますよ」


 馬の背荷物から取り出したのは、同じ白い外套、それに暖かそうな綿のインナーに、同じく紺地の綿シャツ。それに汚れが目立ちそうな白に近いグレーのズボンだ。


「外套を入れても、結構寒そうな装備だな」


「そうですか? 確かに寒いですが、この辺りの人は皆これだけですよ」


 エスキモーのような毛皮のコートでもないと凍ってしまいそうだが……そう思い周囲を見渡すが、辺りに俺たち以外に生き物はいない。


「この辺りの大きな生き物は、全部殺されちゃったかな」


 エヴィアが教えてくれるが、まあそうだろうなと思う。この辺りは大昔に解除されているはずだ。その時に、住んでいた生き物達も死に絶えたのだろう。

 魔族憎し……もしかしたら、とてつもなく凶悪な生き物がいたのかもしれない。だが、俺が知る限り、領域の解除は殺し尽くした後だ。土地自体は残して損は無かったろうに。

 彼ら人間に、後悔は無いのだろうか。


「まあ、考えても仕方が無い。テルティルト、この服に擬態してくれ。それとエヴィアも着替えろよ」


 こちらの言葉が言い終わらぬうちに、エヴィアは既に着替えを始めている。いつもの体に巻いた3本の黒帯の上から、生成りのシャツに緑のひざ丈スカート。両方とも厚手の綿で、更にその上からユニカの編んだセーター。そして最後に木の靴を履き、お揃いの白い外套も纏って準備完了だ。


「それじゃ、出発しようか」


「了解です。ところで、これから名前は何と呼べばいいのですか? まさか魔王とは呼べませんよね?


「それはゲルニッヒと検討して決めてある。カリオン・ハイマーだ。同姓同名がかなり多かったらしい。一般的な名前なんだろ?」


「……その名前だけはやめておいた方が良いですよ。最近それを名乗っていた人は、今や有名人ですから」


 ありゃ、もう有名人がいたのか。それでは逆に目立ってしまうな。

 しかし……名乗っていたという言葉に微妙な引っ掛かりを感じる。だが、大した問題では無いだろう。


「何か無いかな? こう、当たり障りのない名前。俺の名前は多分、人類側に伝わっちゃっているだろうからな」


「一応、身分証明書は用意してきました。名前はヘルマン・ルンドホーム。私の父の名です」


 そう言って渡された身分証明書。昔見た薄い金属板だ。


「43-1-1-1-57122-1-0。ヘルマン・ルンドホーム。無商家市民。階位14か……」


 裏には引っ掻き傷のような文字。 金は正義でありって文章だ。

 以前貰った0だけの身分証と違い、色々と書き込まれている。意味を聞きたいが、さすがにここでこれ以上の立ち話もなんだろう。先ずは、移動する事にしよう。

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