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この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦います  作者: ばたっちゅ
【  第五章   それぞれの未来  】
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090   【 開戦 】

 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月24日。

 ティランド連合王国外周に位置する国、バラント王国首都ヨンネル。

 外周およそ63キロメートルを、高さ15メートルの金属製の防壁が囲む。

 世界でも名の知られた城塞都市であり、その威容は巨大な要塞の様だ。


 都市中央には高さ200メートルを超す螺旋状の王城が聳え立っており、その白い輝きは国家のシンボルとして国民に親しまれていた。

 深夜、その尖塔の先から白いドレスの少女が飛び降りる。バラント血族、その最後の一人……。

 夜の街は炎に包まれ、その中を漆黒に塗装され、幾何学的な水色のラインを施された鋼鉄のケンタウロスが行軍し、蹂躙する。ジェルケンブール王国の人馬騎兵隊だ。



 この国は、元々政治的な混乱の中にあった。

 本来の王位資格者であるケスターマン・バラントが魔属領への遠征中に、国内に残ったシェルズアニー・バラントが王位を継承してしまったのだ。

 その為国内は双方の派閥に分かれて対立。ケスターマンが戦死しカルタ―が本国に戻った事で少しは落ち着いたが、一度分裂した国家の軋轢(あつれき)はそう簡単に修復できるものでは無い。


 だが一方で、防備は完璧であった。

 首都同様の城塞都市を4つ配し、その連携により他国の侵略を打ち破る。その為に歴史とも言える程の長い時間をかけ、土魔法で根本的な国土の地形すら変えた。

 更にこの国は重甲鎧(ギガントアーマー)の運用に長けており、防衛戦においてはティランド連合王国でも上位に位置する国家だ。


 もしあの日、相和義輝(あいわよしき)が奇襲という選択をしなければ、いきなり200以上の重甲鎧(ギガントアーマー)に追い返され全ての歴史は変わっていただろう。


 だがそれでもやはり、その用兵は人間を相手にする事を前提に考えられてきた。






 碧色の祝福に守られし栄光暦218年3月13日。

 ジェルケンブール王国先鋒隊が140万人の正規兵と200万人の民兵。それに30騎の人馬騎兵がバラント王国の国境を越えた。

 その圧倒的な進軍を止める術は無く、国境沿いの街、そして2つの城塞都市はその日の内に陥落した。


 そして2日後、3つ目の城塞都市が陥落する頃になって、ようやくバラント王国は防衛の支度を整え始める。

 どの城塞都市も、本来なら数十倍の数を相手にしても1か月以上は耐えられる計算だ。政治の対立による遅れがあったとはいえ、バラント王国の動きは決して遅くは無い。だが人馬騎兵が相手では遅すぎた。


 218年3月15日、何一つ戦う支度が整わないまま王都は戦場になった。

 それでも9日間、人馬騎兵の猛攻を耐えた事は称賛に価する。王都守備軍であるバラント重甲鎧(ギガントアーマー)500人、そして正規兵20万。そして急ぎ搔き集められた数十万の民兵隊。あらん限りの知恵と力と勇気を振り絞り、絶望的な戦力を相手に奮戦した。

 だが結局、それだけであった。


 城門が破られると同時に、黒き殺戮者達は都市内部へと突入した。

 バリケードを破壊し、金属ドームの建物に大穴を開け、そこへジェルケンブール王国の兵士が雪崩れ込む。

 それはもう、戦闘と呼べるような状態では無かった。

 国王であるシェルズアニー・バラントは王宮で最後の抵抗を試みるが、圧倒的な数のジェルケンブール兵を相手に討ち死に。残った者達も、戦死か自害により果てた。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 闇の中、赤々と燃え上がる炎と立ち昇る煙。一つの国が亡びるさまを、援軍として到着した”死神の列を率いる者”ユベント・ニッツ・カイアン・レトー公爵は装甲騎兵の指令塔(キューポラ)から眺めていた。


「陥ちるのが早すぎだろう、話にならねえな」


「将軍、どういたしますか?」


 淡い金髪の髪を掻きながら業火に包まれた街を見つめる彼に対して、一人の女性が話しかけた。

 見た目の年齢は20より少し下位だろうか。長い栗色の髪は後ろに束ねて留めてあり、右目には水晶の方眼鏡を装着。その奥に光る茶色い瞳と固く引き締まった美貌からは、いかにもお堅い切れ者といった印象を受ける。


 紫色の軍用コートに白の軍服。下はコートと同じ紫の、動きやすいミニのスカートを履いている。コートの両肩には金のフレンジがあしらわれ、襟と胸元の階級章は、ハーノノナート公国公爵家血族であり、同時に将軍職である事を表していた。


 パナーリア・アル・ハーノノナート。公国血族の人間であり、同時にユベントと同じ将軍だ。

 ユベントは本来の公爵家の人間に“公爵閣下”と呼ばれることを嫌ったため、自分の事は将軍と呼ばせていた。それは同時に、政治には関わらないという意思表明でもあった。


 一方で、パナーリアは将軍としては二流だが、政治家としては一流であった。この二人が夫婦にでもなればと周囲は考えていたが、実際はそう簡単な話ではない。


 ユベントは今年で197歳。死別した3人の妻との間に9人の子をもうけ、直系子孫は47人になる。またパナーリアは305歳。先立たれた8人の夫との間に13人の子をもうけており、直系子孫は97人。互いに、自分の子や孫、ひ孫達ら子孫の為にも、自分達の子供はこれ以上増やしたくない立場であった。


「どうもこうも無いな。俺達じゃ、あの数相手に手は出せない。お前には策があるのか?」


「いいえ、ありません。私は人馬騎兵を見るのは初めてですが、それほど厄介なのですか?」


 現在のユベント軍の装甲騎兵は四千騎。本国の防衛隊まで全てかき集めての数であり、魔族領での損失は全く埋まっていない。

 それでも、歩兵を相手にするだけなら十分だ。浮遊しながら高速で移動し、しかも全面重装甲の機動兵器。例え何十万人の兵がいようと、恐れる要素は飛甲騎兵くらいなものだった。


 だが人馬騎兵はこれより早く、また強さも圧倒的だ。装甲騎兵の射出槍では当たり所が良くない限りは倒せないし、ボウガンなどかすり傷も付けられない。

 一方で、あちらの兵装は一撃で装甲騎兵を破壊できる。倒せる可能性がある分”蟹”よりマシだが、そもそもの数が違う。受ける被害は同等と予想されるだろう。


「厄介なんてレベルの相手じゃないな。一応、外に出て来れば戦いようはある。だがそれも、損失を無視すればの話だ。市街戦では、どうあがいたって歯が立たんよ」


「ユベント将軍でもそうなのですか……それでは、出るのを待つしかありませんね。ですが……」


 パナーリアが言葉を止めるのは珍しかった。彼女は、常に全ての事は考えてから話すタイプであった。結果として時に無口にはなるが、口ごもることはめったに無い。


「ですが、どうした?」


「いえ、彼らの保有する人馬騎兵です。報告によれば、各戦線合わせて60騎を超える数が確認されています。一体いつ、どのようにして揃えたのでしょう?」


「そうだな……」


 幸い当面の戦闘は無い。ユベントは熟考し、状況を精査する。

 おそらく――


「コンセシールが売った以外の線は無いだろうな。共同開発でもライセンスでもない。あれは商国の騎体だ」


 ユベントは魔族領で実際に人馬騎兵を見ている。もしジェルケンブールで独自に作ったのなら、外装はその国に合わせて微妙に差異が出るはずだ。だが街を業火に包んだ黒い人馬騎兵の形状は、完全に以前見たものと同じだった。違いといえば塗装位なものだ。生産工場は同じと見て良いだろう。


「商国からの資料によれば、開発は4年前となっています。年間生産量は20騎とも申請されていますね」


「いや、それだと開発から量産化までの期間が短すぎる。おそらく、もっと以前に基礎設計は終わっていたはずだ。そこから開発、試作、そして工場の建設、技術者の育成……量産に入るまでかなりの時間が必要だろう。それに申請された年間生産量も出鱈目(でたらめ)だろうな。商人なぞ、信じるものじゃない」


「では既に?」


「ああ、相当量が作られていたと考えるべきだな。そうでなければ、奴――リッツェルネールはゼビア王国に300騎もの大口契約は出来まい」


 今考えてみれば、これから受注してから生産という形での300騎購入は有り得ない。完成まで何年も待つのであれば、なぜゼビアは直ぐに開戦した? 随時運ばれてくる公算があったから始められたのだ。


「もう300騎出来上がっていたと? 事前生産にしても少し多すぎると思われますが」


 確かに、お披露目分や不良時の交換などを考えても、50騎も在庫があれば十分だろう。売れ行きが好調なら、以降は注文に応じた受注生産に切り替えればいい。そうすれば、もっと早くに販売を開始できたはずだ。

 だがコンセシール商国は、300騎も貯め込んでいた。その在庫(ストック)の考えられる使用意図は……。


「奴の事だ、我等ティランド連合王国相手に独立戦争をするつもりだったのだろう」


「確かに……主力は魔族領に遠征中でしたし、もし300騎の人馬騎兵に攻め込まれたら対処は難しかったでしょう。あの国は世界でも異例の6千を超える飛甲騎兵も有していますし。でも状況が変わった……?」


「おそらく何かがあったのだろうが……」


 魔王討伐戦の後、商国はユーディザード王国に12騎の人馬騎兵を供与した。

 だがあれは、運用テストという名のお披露目会であった。各国から重鎮が使節としてカルタナ盆地に赴き、その圧倒的な力を宣伝した。


 ロイ・ハン・ケールオイオンが戦わずして撤退したのは、勿論実験データを満載した人馬騎兵の保護もあった。だがそれ以上に、各国の要人に万が一があってはならないからだ。

 そしてその中には、ゼビア王国の大使もいた……。


「いや、違うか」


 ユベントは独り言を呟き、思考をまとめる。

 それでは時期が合わない。


 もっと早くから輸送を開始しなければ、百騎近くの人馬騎兵は運べない。組み立て、起動試験、解体、そして輸送……かなりの時間が必要なのだ。


「どうして彼はゼビア王国に売ったのでしょう? その……独立戦争に使わずにです」


「その方が得と感じたからだろうが……」


 だが、その得が何処を向いての事だったのか。奴はコンセシールの商人であると同時に軍人だ。どちらの思考で考えたのかは分からない。


「それと、ゼビア王国に売ったはずの人馬騎兵がジェルケンブール王国にある理由もです。正直言えば、これが一番理解できないのです。海路が使えない今、輸出規制が始まった時点でジェルケンブールへの輸出は出来ないはずでしょう? 商国は両国へ同時に販売していたのでしょうか?」


「それは無いだろう。増えれば増えるほど機密は漏れやすくなる。特に一度売り始めてからは、世界中の注目の的だからな。そんな事をすればどこかしらが気付く」


 何と言っても、組み立てての起動試験は目立ちすぎる。各国諜報員だけでなく、民間人もあの新兵器には興味津々だ。世界中のマニアが注目する中、隠し通すことは出来ないだろう。


「いや、待て。輸出規制が始まった時期はいつだった?」


「確か今年の1月17日発令です」


「それまでにゼビア王国に運ばれた数は?」


「そうですね……確か90騎前後だったと思いますが」


 ユベントの頭にカレンダーが書き込まれる。魔族領での戦いから、今日までの間にあった出来事。それを改めて考えると、一つの結果が導き出される。


「間違いないな……奴は保有していた人馬騎兵の全てを、名目上はゼビア王国に売った。だが実際にはジェルケンブール王国にも流していたんだろう」


「それはさすがに契約違反ではないでしょうか? 途中から商品が来ない、しかもそれを別の相手に売ったとなれば、商国の信用は失われます。いくら彼でも、商人は商人です。それはしないと思いますが」


「いや、ティランド連合王国が行った輸出規制。これを前提にしていたのだろうな。理由は分からないが、奴はそれが行われる事自体を読んでいた。だからその前に、組み立て前の状態で運んだのだろう。それなら目立つことも無い」


 パナーリアは顎に指をあてながら考えるが、やはり幾つかが判らない。


「それだけの輸送となれば、新規の運送組織を支度しなければいけません。その時点で判りそうですが……」


「あそこには海運を専門としていた商家がいる。だが海が使えなくなって手空きのはずだ。そいつらをそのまま陸路に回せば、新組織を立ち上げる必要はない。それに海の混乱で各国の貿易状態も大きく変わったからな、増減自体にはさほど注目がいくまい」


「部品のまま運んだとして、組み立てはどうするのです?」


「あそこは大国だ、組み立て工場くらいは直ぐに作れるだろう。それに魔族領を国内に抱えている事も大きい。その周辺はいつ魔族が出てくるかも分からない状況だ。当然、戒厳令下にある。そうなれば、外国人もわざわざそんな所には行かない……機密は守られているはずだ」


「では……」


 パナーリアの端正な顔に困惑の色が浮かぶ。考えられる状況は最悪であった。

 リッツェルネールの考えの全ては分からない。いや、人の考え全てが判る人間などいない。

 だが一つ確実に分かる事がある。奴は自分達で独立戦争を起こすのではなく、ジェルケンブール王国を利用してティランド連合王国を瓦解させようというのだ。

 だとしたら、商国はこれ以上在庫を抱える必要が無い。ジェルケンブールの戦力は多ければ多いほどいいからだ。


「至急本国に連絡しろ! ジェルケンブール王国は200騎を超える人馬騎兵を保有している可能性が高い。知らずに戦ったら壊滅の恐れがある。」


 ユベントは配下に銘じ、本国及び近隣全ての国家に対して警告を発した。

 だが後手を踏んだことは否めない。開戦で先手を取られ、更に情報面でも後れを取った。

 最前線の国家は、もはやバラント王国の様に成す術なく潰されるだろう。


(商国が降伏した時、奴だけは始末しておくべきだった……もし次にまみえる日が来たら――必ず殺してやるぞ、リッツェルネール)


 遠くで燃える城塞都市を後にし、ユベント率いる部隊はこの地を去った。

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