55.剣を求めて武器屋へ
ミアとメリルゥの二人を見送った後、宗谷は朝食を簡単に済ませると、冒険者の宿を後にした。
さわやかな朝である。のんびりと街でも散策し、休暇を楽しみたい気分ではあるが、次の依頼に備えて必要な準備をしておかなくてはいけない。
第一に、白銀の魔将に折られた洋刀の代わりになる武器の調達。仲間に近接戦闘を危なげなくこなせる者が宗谷しか居ない為、近接武器の新調は最優先に行わなくてはいけない。
弱い怪物にまで魔術を行使していては息が続かないし、野盗から拝借した丈の短いダガーを主力武器として戦うには心許ない。武器無しの格闘も一応こなせるが、対人ならまだしも、凄まじい筋力を持つ怪物相手に、格闘を仕掛けるのは自殺行為だった。
第二に、魔術の発動体となる魔法石の確保。発動体の魔法石は、魔術師の杖に嵌め込まれる形で使用されている。一撃必殺の魔術、魔装砲撃はその火力の大きさから、直接手のひらから放つにはリスクが大きく、迸る閃光が手を消し飛ばしてしまう可能性が高いので、使い捨てとなる魔法石を使う必要があった。今後白銀の魔将級の怪物と相対した時に備え、最低一つは保有しておいた方が良さそうに思えた。
だが、魔術師の杖や発動体の魔法石を取り扱っているのは、外部の者に対し閉鎖的な魔術師ギルドである。魔術師ギルドの関係者を師に持たぬ宗谷は、全く縁が無い。
(レベッカくんが居る間に、魔術師の杖を調達して貰うべきだったのかもしれないが。……あのような状態だったからな。とてもではないが)
幼馴染である勇者ランディを失い、心を病んでしまった女魔術師のレベッカを思い出し、宗谷はため息をついた。昨日イルシュタットを発ったレベッカとトーマスの二人は、まだ、故郷の村に向かっている最中だろう。彼女の心の傷が癒えるまでに、どれくらいの長い時間がかかるだろうか。
そんな事をぼんやりと考えつつ、魔法石の事は一旦置き、ひとまず冒険者御用達である、武器屋に足を運ぶ事にした。
「いらっしゃい」
髭を生やした中年の男が、扉を開け、店内に入る宗谷を出迎えた。おそらく武器屋の主人だろう。
「初めて見る顔だね。どんな武器をお探しかな。……少なくとも、でかい得物では無さそうだね」
武器屋の主人は、宗谷の軽装な身なりを見ながら言った。
「初めまして。納刀が可能な片手剣がいいね。こんな成りだが、一応魔術を扱う魔法戦士なのでね」
「魔法戦士……ん? まさか、その黒っぽい服は、噂のソウヤさんかね? 魔将殺しの」
宗谷の噂は武器屋の主人にまで伝わっていた。冒険者が出入りする店なのだから、何も不思議ではないが、こうやって噂は伝播していくのだろう。
「おや、御存知でしたか。仰る通り、僕が宗谷です」
「おお……ソウヤさん、サインを貰えるかな? その分、値引きさせて貰うよ。片手剣と言ったね。ウチで一番売れている幅広剣はどうかね?」
武器屋の主人は、カウンターの引き出しから色紙を取り出すと、にこやかな表情を浮かべた。宗谷は苦笑しつつも、羽根ペンをインクに浸し慣れないサインを行うと、武器屋の主人が薦める幅広剣を手に取った。
「ふむ……金貨一五枚か。刃の作りはしっかりしてそうだ。見栄えも悪くないな」
両刃の幅広剣は、折られた洋刀より若干長いが、片手で扱うには申し分無さそうだった。両刃である為、片方の刃がこぼれて悪くなっても、返す事により切れ味を継続出来るのがメリットだろう。
「片手武器で剣士に一番人気があるのがそれさ。初心者から中級者にまで、幅広く使われているよ。幅広剣なだけに」
武器屋の主人が呟いた親父ギャグを宗谷は無視し、手に取った幅広剣を精査していた。見た処は水準並みの品質は保持されている。それなりに使い物にはなるだろう。そもそも冒険者御用達の店で、中古品ならともかく、新品で粗悪品が混ざっている可能性は限りなく低い。
「悪くは無いが。……峰のある片刃の方が僕は好みかな。洋刀は無いのかね」
「ウチでは洋刀は扱ってない。……どんなモノを使ってたんだ?」
宗谷は折れた洋刀の鞘を異次元箱から取り出し、武器屋の主人に見せた。
「ははあ……ソウヤさん、これは王都の騎士団の軍用品だよ。ほら、ここに小さな刻印がある。こんなもの何処で調達したんだね。非売品だろう」
「野盗が使ってた物を押収しました。……なるほど、そういう事だったのか。はは、あまり大っぴらにしない方が良さそうですね」
どういった経緯で、草原の野盗の手に騎士団御用達の洋刀が渡ったのかは想像するしかないが、同じ物を調達するのは諦めた方が良さそうだった。
騎士団の軍用品という事で、使い続けていたら後々何かトラブルに発展した可能性もあったかもしれない。廃棄する事になって良かったと言えなくも無さそうだ。
「一般品より質の良い武器。というのは手に入りますかね? この洋刀程の物であれば、申し分無いのですが」
「ふむ……イルシュタットで高品質の武器と言えば、地妖精の鍛冶師、ドーガ・グランディの手による物だな」
宗谷はその名前を聞き、驚きの表情を見せた。
「ドーガ・グランディ。彼の工房がイルシュタットにあるのかね?」
宗谷は思わず、武器屋の主人に聞き返した。それは宗谷が、二十年前に世話になった、地妖精の鍛冶師の名前だった。
「ああ。鍛冶師のドーガと言えば有名だろう。ただ、誰にでも武器を作ってくれる訳ではないよ。昔はウチにも卸してたんだけどね、今は身体が厳しいのか、特注品だけだそうだ」
「そうか。……彼の武器なら、是非使ってみたい物だが」
宗谷は地妖精のドーガの事を思い出していた。頑固者で大酒飲みだったが鍛冶師としての腕前は確かで、以前いくつかの武器を譲り受けて貰った記憶がある。彼はどういった経緯でイルシュタットに根を張ったのだろうか。
「冒険者ギルドの紹介状が必要なはずだよ。実力者以外お断わりという事だな。でも、魔将殺しのソウヤさんなら、大丈夫かもしれないな」
「では、冒険者ギルドで紹介状を貰えるか聞いてみるとしよう。……主人。折角勧めて貰ったのに申し訳ない」
親切に色々教えて貰ったが、今回この店での片手剣の購入は無くなりそうだった。宗谷は申し訳なさそうに、武器屋の主人に謝った。
「いやいや。魔将殺しのソウヤさんなら、もっと良い武器を使うだろうと思ったよ。ウチは、初心者から中級者が出入りする店だからな」
特に気分を害した様子も無く、武器屋の主人は納得したような表情で宗谷に伝えた。
「だが、一つだけ勧めさせて貰おう。ソウヤさんは、荷物を魔術で収納してるようだが、こんなのはどうかね? 服に忍ばせるには丁度いいよ。勿論、怪物退治に使えるものでは無いがね」
武器屋の主人は、引き出しから金属製の小さな矢を取り出し、宗谷に手渡した。
「これは……手投げ矢か。素早く投擲するのに、適しているかもしれないな」
手投げ矢は、詠唱が必要な魔術や、引き絞る必要がある弓矢と違い、射撃までの動作が少なくて済む点が優れていた。速射性だけなら、投擲用に使っているダガーよりさらに優れているだろう。対人用に使う局面が今後あるかもしれない。
「殺傷力はあまり無いよ。まあ、見る人が見れば玩具にすぎないが、用は使い方次第だな。軽量で嵩張らないのが良い処だ。まとめて投げる事も出来る」
「主人。では半ダース貰おうか。スーツの内側に忍ばせるには悪くなさそうだ」
宗谷は交渉の結果、銀貨八枚を支払い、手投げ矢を六本購入した。本来は銀貨一二枚するので、その内の銀貨四枚はサイン分の値引きという事になる。
「毎度あり。……ソウヤさんに何も買わせず、サインだけ店に飾るのも詐欺っぽくなってしまうからな。これで堂々とウチに飾れるよ」
武器屋の主人はサインを壁に飾りながら、嬉しそうに言う。商魂逞しく、それでいて妙な処で律儀である。その態度に宗谷は少しばかり好感を持った。
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