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エージェント・チキンチック!!  作者: 織星伊吹
◆episodeX.ああ、なんだか嫌な予感がするぜ。そう、そのまさかさ。クソッタレ。

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エピローグ

《こちら七番街を通過したぞ。合流地点はここだな》

《ああ、了解したよ。僕ももうすぐ付く、さてターゲットへの殺し文句は何がいいかな?》


 チキンの通信に応じてクジャクが応答する。


《そうだな……ハハハ! やっぱりママの作るミートパイが最高だよ! はどうだ》

《何だい、そのデブの子供が言うようなセリフは》


 一国の大統領官邸で爆破テロが起きた。秘密結社バードは、秘密結社CATキャットへ潜入し、内部情勢を掻き乱すのが今回のミッションである。


「こら、チキン先輩、勝手な無線通信はゆるしませんよ、めっ、です」


 チックがチキンの頭をぽんと叩く。


「おい! お前今俺に何をしやがった! もしかしてと思うが、俺の頭を叩いたんじゃないだろうな! もしそれが本当だとすれば、お前はこの場でミンチになるか、蜂の巣になるかを選択する権利を得たことになる」

「何なんですか、そのわかりにくい例え、バカですか」


 チックはやれやれと鼻を鳴らしながら、そっと白い掌をもう一度チキンに寄せる。


「これならいいんですか?」


 チックはチキンの黒髪を優しく撫でながら、くすりと笑う。


「……嫌がらないんですね」

「ああ!? 何だと、嫌がってるじゃねえか! こんなにもよ! 頭ブッ飛ばすぞ」

「そうですか? あまりそんなふうには見えないですけどねー」

「…………あー、クソッタレ、クソッタレだ世の中は」

「随分大きくでましたね」


 頭に感じるチックの温もりが、チキンはいつの間にか癖になっていた。


「いいですか? わたしは本来であればあなた方を抹殺しなければならない立場なんですよ。つまりあなたにとってはわたしは神も同然なんです。もっとわたしの言うことを聞きなさい」

「ハッ、神様にでもなったつもりかよ、誓えば何でもしてくれるってのかよ! ええ? 神様モドキが!」

「そうですね、チキン先輩がいいこしてたら聞いてあげるかも知れません。だからちゃんとミッションに集中してくださいよ」

「……まったくもって神様は不平等だぜ、フェアじゃない」


「じゃあ」


 チックが身を乗り出してチキンの肩に手を乗せて背伸びをする。


 頬に柔らかい体温物。


「……これで、フェアです?」

「…………なっ」


 チキンは顔を真っ赤にして、耳を少しだけ染めたチックと目を合わせる。


「……これでも、初めてなんですよ。キス。ほっぺですけどね。まだそこまでです」

「…………おいおい、冗談だろ? 先があるっていうのか?」

「だから何なんですかその言い方は。人生舐めてるんですか、あなたは」


 チックが呆れた表情でチキンを睨み付ける。


「……おお、ポンコツ夫婦コンビの邪魔しちゃ悪い。パッセル、あっちに行こう」

「そうね! オトナの恋愛はACPDのサイクルをしっかり回さないとダメだからね! きっと二人は今良い感じだからぐるぐるまわってるところなんだわ! きゃー!」


 奇声を上げるパッセルにクロウが突っ込みを入れる。「PDCAだ」

 やがて到着したクジャクが、クロウの肩を叩く。


 クロウの肩には、コバトの形見であった赤のリボンが巻かれていた。パッセルが学生時代に渡した物らしい。


「……まだ諦めることはない。僕らに任せてくれないか」

「気にするな。蘇るだなんて思ってない。ケジメは自分で付けた」

「……そうかい。じゃあ、行こうかみんな」


 クジャクは薄い笑みを浮かべて頷いた。

 黒のスーツに身を包んだ六人が、横一列に並んで歩行する。目指す先は目の前の豪邸である。


「はあ、カッコイイ……これ、一度やってみたかったの!」


 パッセルは横一列に並んだ皆に紛れて、小さな背で飛び跳ねる。一度やってみたかったらしい。これには、チキンも同意する。とてもイカす、というやつだ。


「パッセルのはかわいいですが、あなたは滑稽ですね。何かキモいですよ」

『あー、超わかるー、キモいキモいー』


 オウルが年頃の女の声音を生成し、チックに同調する。


「……おい、わかってんのか? 俺の悪口を言うとな、連中が黙っちゃいねえぜ……」

「それ言いたいだけですよね」


 チックがさらに追撃を寄越してきた。

 下らないやりとりのまま、潜入場所を前にする。今回は正面から堂々と入場して問題ない。


 クジャクが秘密結社バードのメンバーを振り返ってから、いつも通り笑顔の安売りをする。


「さて諸君――これから現場へ潜入して内部の情勢を掻き乱して欲しいんだけども……」

「なんだよ、何をもったいぶってやがるんだ」

「いやあ、実に言いづらいことなんだが……」


 クジャクは面白そうに笑ってから、鋭い眼光を光らせた。



「このバードのメンバーの内部に別の工作員がいる」

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