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エージェント・チキンチック!!  作者: 織星伊吹
◆episode5.あ~、この辺りじゃよくあることさ。あんまりがっかりしないでくれよ。

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第33話

 大爆発だった。とても美しい爆発。視界のすべてが灼熱と煙に覆われる。

 チックは宙に身を投げ出され、爆破とは反対方向の空を切り、放物線を描いて飛んでいく。


 日の出の背景をバックにしながら唇を噛みしめる。


「――チキン先輩ッ!!」


 チックの叫び声が空に響き、やがて爆風へと飲み込まれていく。

 視界の先の爆炎から片時も目を離さず、もう一度声を荒げる。しかし声は届かない。


 気が付けば、地面に身体を叩きつけられ、横たわってる自分がいた。

 チックは身を起こしてから、巨大な施設へと歩を進める。

 爆発が新たな爆発を生み、連鎖していく。狂おしいほどに、美しい爆発。


 足早に現場へと赴く。まだチキンはあの中にいるはずである。あれでは、ひとたまりもないだろう。


 チックが現場に到着するころには、既に施設は木っ微塵の廃墟となっていた。

 オウルやパッセル、クロウが焼け焦げて崩れ落ちた廃材の中で周囲を見渡している。


「……おう、チック。無事だったか」


 チックを見つけると、オウルが笑みを浮かべながら駆け寄ってくる。


「人命救助は?」


 チックが訊ねた。


「何とかなった、全員無事だ。それよりチキンの野郎は?」

「……わたしを逃がして、爆発の中に残ったわ」

「そうか……」


 オウルは唇を歪めてから、神妙な表情のまま頷いて、チックの肩を軽く叩いた。


「え、チキン……逃げ切れなかったの?」

「そうね」


 チックの言葉は重い。


「あのバカが? 嘘でしょ?」


 パッセルは半笑いで冗談であることを再度問いかけてくる。

 その後も捜索を続けた。救助した人員を集めながら廃墟をくまなく歩いて、チックはチキンの影を追い求めた。


「……おい」

 仏頂面でクロウがチックを呼び止める。



 そこには……。



「嘘でしょ……こんなのって……」


 もはや原型のなくなった煤だらけの人骨が、仰向けで空を仰いでいた。


「お願い……嘘って言って」


 チックは、けして届かない声を亡骸へ寄せる。

 ゆっくり片膝をついて潤ませた瞳でしっかりと亡骸となったチキンを確認する。


「…………こりゃあ、気持ちいいくらいに即死だったはずだぜ。とんだ威力だ」


 オウルが溜息をついて見下ろす。その眦からは、憂い表情が読み取れる。困ったように短い髪を掻き乱してから、チックの肩を揺する。


「……チック、行くぞ」

「…………ごめんなさい、わたし、あなたに酷いことばかり……本当はあなたのことが……」


 チックがくりんとした瞳から、涙の雫を一滴こぼす。

 雫はチキンだった白骨へと落ちて陽の光を浴びて光輝いた。


「…………なんだ?」


 クロウが驚愕した表情で目を見開く。


「……?」


 チックが後ろを振り向くと、黒い水分が空中を浮いていた。水分は螺旋を描きながらチキンの人骨へと集まっていく。


「……これは」


 チックは袖で涙を拭って、目の前で巻き起こる不可思議現象に目を奪われた。

 黒い液体は、徐々に脂肪のような固体へとその外形を形成させていく。


 それは人の型を縁取った人形のようになって、細部までペンシルで書き込まれるようにして出来上がっていく。


 メンバーは全員あぜんと口を開けながら、その光景に声も出せない。

 脂肪の人形はある程度の肉体を作り上げて自動的に引き締まっていく。男性的な身体のラインが浮かびあがり、遂には繊細な秘部までもが形成されていく。


 やがて出来上がったのが――。



「俺ってわけだな」



 全裸のチキンは、寝そべったまま身体を伸ばして、唸りを上げる。

 チックを初めとしたメンバー一同が口をわなわなとさせていると、革靴が廃材を踏みつぶす音が聞こえてきた。


「やあ……大丈夫だったかい? チキン」


 クジャクは当然のような薄ら笑いで登場し、チキンに手を伸ばした。


「……ふう、やっとお出ましってわけかい、アンタがボスか」

「気が付くの遅くないかい? 君は何か勘違いをしていたけれど、クロノライトグラフが反応していたのは僕だったのに。君への遊び心のつもりだったんだけどね、あれは」


 チキンは軽く溜息をついてクジャクの手に引き上げられて上体を起こした。


「ハハッ、たった今テメェに言ってやりたいことができたぜ……俺の最大の不運は今! ここで! お前に会ったことだよ!」

「まあまあ、そう怒るなよ。これで我が同胞たちは解放された。時期にネオラス海底シェルターへの移行を余儀なくするはずだ、あそこまで逃げ切れば、もう何も問題はない」

「ああ、本当に最高のミッションだったぜ、ボス。因みに俺は二階級特進だよな?」

「僕たち超人類に階級など存在しないだろう。何を今更言っているんだ映画の見過ぎだよ」

「……へへっ、言ってみたかっただけだぜ、そのくらいかまわないだろ? この絶望的状況を少しでも楽観的に考えさせてくれ……なあ、頼むよ」

「……同感だね」


 チキンとクジャクは両手を挙げて、取り囲まれる黒服の男たちに黒の刃を突き付けられた。


「どういうことだ……? チキン……テメェは……」

「悪いね、オウルの旦那。長年騙していたことにはなるが、俺は俺でエージェント活動に満足していたし、バードのミッションに関してはいつも真剣だったぜ。裏でこっそり捕まえたふりして仲間を救わせてもらったりしたけどな」


 悪びれることなくチキンが軽い口調で手をひらひらとさせる。


「いやあ、本当に俺もビックリなんだ、信じてくれよ。クジャクが俺のボスだとは思わなかった。本当に最高のミッションだったぜ」


 オウルとパッセル、クロウが顔を顰めながら口を紡げないでいると、やがて金髪の少女が一人前へ出た。


「手を上げてください」

「オイオイ~、あげてんじゃねーか、見てわからねえのか。オマケにブラチン状態だぜ」


 小馬鹿にしてくるように若干下半身を揺らしながら、チキンが高笑いをする。


「……コレ、なんだかわかります?」


 すちゃ、と懐から取りだした黒光りする拳銃をチキンとクジャクに見やすいように提示する。


「あ? 銃だろう、てゆーかお前何でまた口調が変わって――」



 発砲音が、轟く。



「……なっ」


 チキンの左耳が半分消し飛び、焼け爛れる。おそらく、もう再生することはないだろう。特殊な塗料を塗りたくったこの弾丸は、超人類の再生能力さえ無効にする。


「コレ、あなたがたにとってもよく効くんですよ。何なら頭ブッ飛ばしましょうか」

「テメェ……」


 チキンが途端に焦った表情でこちらを睨み付けてくる。隣のクジャクも口笛を吹く動作で、面白い物でも見るように目を細めた。


「あなたのペニスでもいいですよ、粗末なソレです。ブッ飛ばしてあげましょうか。これで願ってもみない永遠のチェリーボーイですね、ぷふっ」


 チックはチキンの中心にぶら下がっているソレを一瞥し、口元を押さえて笑う。


「わたしは、あなたがた海底シェルターの創始者である超人類を捕獲しにきたものです。素性を明かすことはできませんが、バードの皆さんも、何もご存じないはずです」


 周囲のメンバーはきょとんとした表情のまま、チックの言葉を聞いているだけだった。


「あなた方と、海底シェルターの封鎖の立会人を務めさせていただきます。と、いうことで」


 陽の光で煌めく黒の小銃を向けながらチックはくすりと微笑んで、


「ご同行願いまーす」


 辺りの空気が静寂に包まれる。チックは、ついでに一言添えるのを忘れた。



「あっ、そうだ。チキン先輩、わたし……先輩のこと好きです」



 チックは今まで見せてきた中できっと一番可愛らしい表情で、悪戯っぽく笑った。


「…………」


 チキンはすべての状況を飲み込んで、溜息をついてからチキンはクジャクに横目を飛ばした。



「……あー、女ってのは、本当にクソ野郎ばかりだ」

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