第31話
クロノライトグラフによって捕獲することができるのは、精神を支配している超人類だけである。つまり、中身を吸い出したあとの媒体については精神を支配される前の記憶が蘇る。
しかし、擬人類は既に死んでしまっているため亡骸に戻るだけである。
一瞬のだった。
チキンを初めとしたエージェントたちの足下に黒い影が忍び寄り、クロノライトグラフが装着された腕を、影ごと引き千切られたのだ。
「くっ……」
思わずそんなうめき声が出る。
腕を引き千切っては腕時計を回収して腕を放り捨てる。それを繰り返したことでクロウの手元には四つの腕時計が集まった。
パッセルは無事らしく、自らの物をクロウへと渡し、これで五つとなった。
「何のつもりだ、クロウ」
オウルが渋る表情で問いかける。
クロウはチームリーダーの言葉を無視し、クジャクにすべてのクロノライトグラフを手渡す。
「ありがとう。妹の遺体はしっかり保管しておくことだよ、クロウ」
クジャクはコツコツと靴音を高鳴らせ、両手を広げて振り返る。
「結論から言おう。この超人類研究所を始め、エージェント養成学校に至るまで、二〇〇個以上の超小型爆弾を仕掛けた。そして、これがその起動装置だ」
クジャクの手には黒い端末が握られていた。
「これを押すと」実際に突起を押し込んだ。「――残り三〇分でこの施設は壊滅する」
「すまない、お前の言っていることがわからん。……一体、何を言ってやがる?」
「くくく、よろしく頼んだよ、チキン」
クジャクは薄い微笑で顔面を覆ってから、その場から逃げるように身を翻した。
「クジャク! これはどういうことだ」
クロウが声を荒げる。
「言ったはずだよ。妹、助けたいなら大事に保管しておくことだ。あとはこの施設を出てから話そうじゃないか。僕が何とかしてあげるよ」
クジャクはそれだけ言うと、この場から逃げ去った。
「面倒なことになりやがった。次から次へととんでもねえミッションだな」
「アンタが言うのかよ、耳かっぽじったほうがいいんじゃないか」
オウルは空笑いをして、チームの皆の注目を集める。
「よし、緊急ミッションだ。とにかく人員救助と爆弾解除班を形成する。俺とパッセル、クロウはできる限り人員救助に専念する。チキンとチックは爆弾の解除を頼んだ。細かいところは各々の判断に任せる。とにかく時間がないらしい、解散だ」
吐き捨てるように言って、オウルは肩に乗せたパッセルとともに姿を消した。クロウも何かを言いかけていたようだが、オウルの後に続く。
「……」
チキンとチックだけが残り、横目でお互いを確認する。
「……さてと、俺らはコーヒーブレイクでもしてから現場へ向かうとするか」
「ずいぶんのんびり屋さんなのね。あなた」
「チック……三〇分じゃあ、どのみち二〇〇個の爆弾の解除は無理だ」
チキンがいつになく真剣な面持ちで、チックを正面に見据える。
「だからなに? どうしろって?」
「今すぐあいつらとここを脱出しろ。爆弾解除は俺一人で十分だ」
「あなた…………正気なの?」目を細めてチックはチキンを睨む。
「連中には黙っていたがな、俺にはもう一つの能力があるんだ。爆弾探知能力ってヤツさ。俺一人なら二〇〇個なんてあっちゅうまに見つけられる。だからお前がいると……あー、正直、足手まといなんだよ」
「あらそう、そうですか。じゃあ勝手にさせてもらうわ……って言いたいところだけど」
チックはチキンの背中にぐっと拳を押しつけ、
「わたし、爆発は是非近場で見たい派なの」
「……お前にもし何かあったら、俺はこの先どう生きて行けばいい?」
「知らないわよそんなこと。その大げさなのも何かの映画のセリフなわけ? でもそうね~」
顎に手を置いてチックは少し黙考、グリーン色の瞳にチキンを入れてから、
「……アンディの店で一緒にコーヒータイム、でどうかしら?」
「ああ、いいアイデアだね、今から予約しておこう。きっついブラックコーヒーとミートパイのセットが最高に美味いんだ、是非御馳走させてくれよ」
チキンは頬をあげながらチックと手をたたき合った。
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