第24話
――三日後。
「ちょっとチキン先輩」
「ああ? なんだよイカレ女。発情期ならほかでヤッてくれ」
「あなた……相棒であるこの私に、何か隠し事とかしてません?」
「はん、お前から相棒という単語が聞けて俺は幸せ者だよ、超最高の気分だ」
早くも傷を完治させたチキンは、早速ミッションに戻っていた。チキンとチックは裏切り者であるクロウの重要監視を任されていた。
「まあ、別に……いいですけど」
不服そうに顔を反らして、チックが立ち上がる。
今日でクロウの監視も三日目である。超人類保護研究所の入り口でじっとしているのにもいい疲労が溜まる。
「……疲れました。今日も収穫は無しですね。出て来る気配もないです。まったくもう、潜入させてくれればいいのに、なんでダメなんでしょう」
「タイミングがあるんだろう。今はまだそのときじゃないんじゃないか」
「よーし、帰りましょう。お腹空きました」
身体を伸ばしながら声を漏らすチック。チキンは横目で見て口を開いた。
「ところでチック、変なことを聞くが、いいか?」
「セクハラ関連です?」
「超人類にもボスってのがいたとしたら、そいつはどんなヤツだと思う?」
「スルーですか。そうですね……狡猾なヤツなんじゃないですかね、やっぱ」
「たとえば、俺等の秘密結社の誰かにそのボスとやらが寄生していたとしたら、それは誰だと思う?」
「チキン先輩」
チックは瞳を少し細め、指を向けてくる。
「あ? それは何でだよ」
「え? だって普通に一番怪しいですからね。あなたは……普段は変態で変な人かも知れませんけど、ミッションへの忠実さや考え方からはプロ意識を感じます。そんな凄腕のエージェントでありながら、なんで他者へ暴力が振るえないんです? エージェントであるなら、ときには人を攻撃したり、殺したりしなくちゃいけない場面だって出てくるのに。何かを隠してますよね。相棒であるこのわたしに、さあ、吐きなさい。すべてをぶちまけるのです」
「……うるせえ女だ」
「あ、もしかして今照れました? な、なんだよこいつ……いつも意味わからねえことばっかり言ってる割には、しっかり俺の内面を見てやがるじゃねえか……的な感じですか? 正直惚れますか、さてはかわいくなってきたんでしょう、後輩であるわたしのことが。そうなんでしょう。ねえ、どうなんですか。ほら、顔見てくださいよ。このかわいらしい小顔を」
「アホ、おら、帰んぞ、定時ブリーフィングまでは待機だ」
軽い手刀をチックの頭に入れてから、呆れた顔でチキンは歩き出した。
「……むー。そうやって誤魔化して教えてくれないんですね、ずるいです、チキン先輩」
「誰だって人には教えられないことはあるだろ、お前が相棒でもな。まあ、悪く思うな」
「…………」
それ以降つーんとした顔のまま、口を開いてはくれないチックだった。
それを少しだけ愛しいとチキンが感じたのは、本心だった。
深夜になると、チキンはクロウとの密会を繰り返した。
少しずつ時間をかけても、クロウから得られた情報はほんの僅かだった。研究所内部の施設の構成や、超人類の保有人数。こちらからバードに関する情報を提供する代わりに得た情報だ。
その間チキンは、クロウとクジャクの繋がりに関しては一切聞かなかったし、クロウも何故超人類研究所の情報を聞いてくるのか、問うようなことはしてこなかった。
おそらくは、クロウがクジャクと繋がっているのは、“クロカワコバト”が関係していると思われる。そしてそれはティーチャーのミッションろは関係がないという点も、チキンは見抜いていた。おそらくはクロウの個人的な干渉によるものだと思われる。
この距離感で機密情報をのやりとりができるというのは貴重であり、重宝される。どちらも隠している一面があるからこそ、近くなりすぎない。暗黙の了解のようなものが生まれるのだ。
「今回はそんなところだ、あまり目立った動きはないが、確かに言動が少し妙な連中はいると言えばいるぜ。……最近では、パッセルが単独行動をしてやがるみたいだ」
「パッセルが……?」
クロウは少し驚いた表情をみせた。
「なんだよ、知ってんのか」
「いや、お前には関係のないことだ」
それだけ言って、クロウは密会現場から去って行った。
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