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エージェント・チキンチック!!  作者: 織星伊吹
◆episode2.ハイスクールでの俺の日常が世界に一体なんの意味をもたらすって?

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第16話

「――はい、というわけでね、やりましょう。歓迎会」


 にこにこ笑顔のまま分厚い掌を合わせるオウルに、早速チキンは突っかかる。


「おいクソデブ、テメェ……ケツ穴だらけの顔面になる準備はできてるんだろうな。お前のコードネームは今日からケツ顔デブ野郎だ」

「……まあまあ、そんなにかっかするなって。ちょっと刺激を入れてみたんだよ、チーム内のマンネリを解消するためにさ、実際ビックリしただろう、ガーハッハ!」


 オウルは楽しそうに高笑いをすると、チキンの背を必要以上にバンバンと叩く。


「……クソ、本当にこのチーム完全にイカレてやがるぜ。俺以外の連中は全員クレイジーだ」


 チキンは呆れたように手をひらひらとさせて、床に座り込んだ。

 ミッション中だというのに、メンバーはチキンの寮部屋に集まってきていた。宴会パーティーの音頭が、たった今始まろうとしているのだ。


「では、可愛い女性エージェントの二人の今後の活躍を祝して~、乾杯ぃ!!」


 オウルの声に続くようにジョッキグラスが音を立て、騒ぎの始まりを演出する。

 がやがやと丸テーブルを囲みながら、各々が会話に花を咲かせる。


「……何が女性エージェントだ。どっちもまだ毛も生えてねえガキどもだろうが。つい口笛を吹いちまうくらいにいいケツした最高の女とめぐり逢いたいもんだね」


 チキンはその光景を傍目から眺めつつ、愚痴をこぼした。ごくりとジョッキで喉を潤す。


「……なら、君がキスした僕のケツならどうかな?」


 いつの間にか隣に居座ったクジャクが、尻を振りながら、身を寄せてくる。


「……あー、是非ともぶち抜いてやりたいね。……柔らかそうなテメェのプリティなそのケツをな! いいか? 何度目か忘れたが、コレで正真正銘最後だ、二度と俺に近づくな!」


 目を見開いて激怒するチキンはすくっと立ち上がる。


「……くくく、どうやらまたフラれてしまったようだ、とても残念だよ」


 背後で何やらぼやくクジャクを無視して、チキンは丸テーブルへと帰還する。


 オウルが、チックやパッセルと何やら楽しそうに会話をする傍らで、クロウが申しわけ程度にそこに座っている。コミュニケーションが元々苦手なヤツだ。こんな馴れ合いの会などに本当なら出たくもないだろうに、おそらく無理矢理連れてこられたな。チキンは内心少し同情しつつクロウの隣に腰を下ろす。


「よう、兄弟。どうだい調子は」


 いけ好かない男ではあるが、この中ではおそらく一番まともな話ができる人間であるはずだ。


「……俺とお前は……兄弟ではない」

「つまらねえヤツだな、ジョークじゃねえかよ」

「お前のジョークというやつは何一つ面白くない。おそらく……センスがないんだな」


 こめかみがピキッと引きつるが、何とか堪えてチキンは笑みを浮かべる。


「んー、いい質問だぜ、ブラザー。ハイセンスすぎる俺のジョークはどうやら伝わりにくかったらしいな……ところでどうだ、ミッションのほうは。ターゲットらしき人物は発見できたか?」

「……未だ発見には至っていない。……そう言うお前は、またヘマをしたらしいな。本当におめでたいヤツだ」

「…………何だと? おい、お前今なんて言いやがった、もう一度言ってみやがれ」

「本当におめでたいヤツだ」

「違う! その前だ!」

「お前がまたヘマをした」

「この野郎ッ!! 表へ出やがれ! そのマヌケ面、今すぐ暖め中のパンケーキしてやるぜ!!」


 憤怒を露わにするチキンを、頬を朱色に染めたオウルがなんとか留め、座らせる。


「……はあ、まったく、落ち着け若人ども。いいからそこへ座れ。とくにチキン、今夜は罵声はなしだ。わかったな? さもなくば今晩寝込みをクジャクに襲わせるぞ」

「ふふ、呼んだかい?」


 一人離れていたクジャクが、ちゃっかり丸テーブルに参加する。この男、笑顔である。


「……冗談キツいぜ、ホント最高だね、アンタの提案は。ノーベル賞級だ」

「もうそんなもん存在しないだろうが、本当にユニークなヤツだ」


 オウルはチキンの皮肉を受け取ってから、周囲のメンバーに聞こえるように咳払いを一つ。


「……みんな聞いてくれ。今回こういった歓迎会を開いたのは、何もチックとパッセルのためだけじゃないんだぞ、俺たちは世界に点在する秘密結社の中でも抜群に仲が悪いとされてる。要は協調性が欠片もな言ってんだよ。……特にチキン、お前は何でもすぐにことを荒立てる。だからリーダーとして、ここに明言するぜ。俺たちはもっとお互いを知らなくちゃならない」


 オウルはごくごくとジョッキを飲み干して、テーブルに叩きつける。

 すっかり酔いが回っているのか、頬をどこぞの酔っ払い親父のようにさせて、突然大口を開けて叫び出した。


「暴露ターイム!! フゥー!! 今の若いヤツってのは休みの日は一体何をしてやがんだ、なぁなぁ、おじさんにも教えてくれよ。早く、早くぅ~」


 まるで、突然子供に戻ったかのように、チキンの脇腹辺りをつんつんと小突く。


「ああ? 気持ち悪いな。頭のネジでもフッ飛んじまったのか、オウル」

「飛んでねえよ~、俺はチームリーダーとして、可愛い後輩たちが日々何を思い、生きているのか、何が好きで、どんな異性がタイプなのか、単純に聞いてみたいだけだ。んじゃ、ほいチキン、まずはお前からだ。休日、何してんだ」

「…………い、家で……映画鑑賞だ。部屋を真っ暗にするのが、個人的にはブームだ」

「暗っ! なんだお前、うるさいヤツかと思いきや、根は結構インドアな趣味してやがんだな~、気持ちわりい」

「あ? おい、テメェ……今何て言いやがった……?」

「なるほどなるほどなるほどな。だからいつもくっさい言い回しするのか~お前は。影響されやすい男なわけだな。ガーハッハッハ、やっと一つ謎が解けたよ」


 オウルは顎の無精ひげを撫でながら、くいと顎を次の相手へ。

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