卒業
「平日じゃなかったら行くのに。」
「平日だったとしても来なくていいです。」
今日は卒業式です。なんともう卒業です。まだ進路決まってないのに。行きたかったと言ってくれる先生。親でもないのに先生が来たらちょっとおかしいような気がする。悪いけどどちらにせよお断りだ。
それにしても早い、としか言いようがない。友達は結局できなかったし担任とも距離があるまま。進路のことで学校に行く機会はまだあるがひとまずこれで区切り。
3年間は長いようであっという間だったな、先生が彩ってくれた時間をもっと大切にするべきだった。数え切れないくらいに心配をかけて、迷惑をかけて。そんなことを考えていた式中。
「あ、早瀬さん。卒業おめでとう。」
「ありがとうございました。」
会話を強制終了させてしまう癖、どうにかならないかな。先生となら話せるけど他の人とは駄目だ。なにを話せばいいのか分からなくなって頭が真っ白になってこの有り様。最後までこんな生徒で悪かったね、担任。袴お似合いですよ。これで担任とはもう他人と同然。ありがとうございましたー。
「流石ぼっち、帰って来るのが早い。」
「ぼっちはいいですよ、気楽なので。」
式が終われば秒速で帰宅。これで開放された、気がした。まだ開放されてないことに気がついた。ため息をつくと幸せが逃げるとどこかで聞いたので吸い込んでおく。幸せ吸収。
「卒業したので恋人になってください。」
「3月が終わるまではダメです。」
卒業したらって言っていたのに、先生のばか。生徒手帳の期限も3月31日まで、って書いてあるしまだ高校生の類なんだろうけどなんでだよ、恋人になってよ。なんて叫びは聞き入れてもらえない。大人には大人の事情というものがある、ここは折れるしかないな。
「そんな顔しないでよ、1ヶ月なんてすぐなんだから。」
「はやく綾音様のものになりたいです。」
恋人になれるまであと1ヶ月。それを楽しみに頑張るしかない。先生の恋人に相応しいような人間になろう、そうしよう。そうと決まれば一緒に冬眠しよ?
「とりあえず3年間お疲れ様。よく生きたね、偉い。」
先生に褒められて上機嫌になる。心がふわふわしすぎて空も飛べそうだ。
「あ、そうです手紙書いたんです。」
「おー、また黒歴史製造か。」
そんなことを言うならもう渡しません。高校生にもなって親に手紙を書け、なんていう時間があったから書いたのに。どうせ生きてるだけで黒歴史製造しまくる人間だもん。
「拗ねるな。」
「恋人になってくれたら渡します。」
1ヶ月温存するのもどうかと思うが口走ってしまったので仕方がない。渡すまでの間に書き足してもいいし書き直してもいいし破り捨ててもいい。所有者はまだ私。この手紙の命は預かった。渡してほしければ恋人になってくださいね。




