疲れ
「叶、生きろ。」
「むりですだめですしにそう…」
共通テスト当日を迎えた早瀬くん。朝からベッドから転げ落ちて包丁を落としかけて体調がどんどん悪くなっていく。動けない、死にそう。
背中を擦られながら自分を落ち着かせようとしてもなかなかうまくできない。行ってしまえばなんとかなるだろうがそれまでが地獄。視界はぐらぐらと揺れる。這いつくばって行くしかないか。緊張と不安と色々な感情に駆られて。そんな状態で迷子になられたら困る、と先生が着いてきてくれることになりました。
「大丈夫?生きてる?」
「なんとか。」
先生が居てくれているという安心感が絡まった感情をほどかせていく。なんとかなる、大丈夫。頑張るところは頑張った、はず。試験会場の前に着いて先生の渾身の一撃を背中に与えられた。
「またあとで、ファイト。」
「頑張ります。」
背中がじんじんと痛む中、入試はスタート。先生、ちょっと力入れすぎでした。まだ痛いんですけど。でもこれで頑張れる。先生を宿して(?)問題を解いていく。どこかの主人公のようにスラスラと解けるわけもなく。それでも食らいついてかじりつくのが私。先生に受験料を払ってもらった以上、ここはしがみつくしかない。
腕時計の針はどんどん進んでいって無事に終えることができた。長い2日間だった、もう力尽きた。家に着くなりバタンキュー。玄関で行き倒れたまま眠りについた。まだ寒い、というか真冬。こんな場所で寝るなと先生に叩き起こされてもまた眠りにつく。
「起きろ、風邪引くよ。」
「あと1週間…」
「寝過ぎだから。」
腕を持たれて引きずられて運ばれて。お湯が沸く音とタイマーの音が耳に入ってくる。同時に聞こえた気がしたが違ったらしい。カップ麺を手渡されて目が覚めた。先生が作ってくれたカップ麺、どうやって保存しよう。1000年後までこの状態で保存できるだろうか。早く食え、と急かされてしまったので保存は諦める。仕方がない、せめて容器だけでも。
「お疲れ様。疲れてるのは分かるけど玄関で寝るのはやめよう。」
「はい。」
ついさっき目が覚めたはずなのに半分寝かけている。麺をすすりながら先生を見る。あー、かわいい。黙々と食べている姿も真っ直ぐな瞳も美しすぎて胸を抉られる感覚に陥った。自分で思っているより大分疲れているらしい。受かればいいな、いや、受からないといけないんだけど。自己採点をするのが怖い。
それよりもう体力が限界だ。気付けば先生の肩で眠りについていた。…がんばったからいいよね。
「あれ、熱あるんじゃない?ってもう聞いてないか。」
熱を出せるくらいに疲れていたらしい。先生と居たらすぐに治る、きっと。拝めば治る。先生は神様みたいなものだから。




