秋の夜
「叶、いくよー」
「ちょっと待ってください。」
今から久しぶりにフリスビーをしに行く。別に好きなわけでもないんだけど。たまには身体を動かしたほうがいいと連れ出されてしまった。大分涼しくなってきた秋の夜。薄い長袖で丁度いいくらい。月が道を照らして星はきらきらして。澄んだ空気が寂しさすら感じさせる。繋いだ手を離して、準備体操。怪我は防止しないとだ。先生の前だからちゃんとやります。もし怪我をしたら「だからあれほど言ったのに」とか言われてしまうから。
「やっぱり下手だな。」
「分かってるなら誘わなくてもいいんですよ。」
どうせ下手だ。学習能力がなさすぎる、というより天性の運動音痴。飛ばないしキャッチもできないしただ暴れている変な人間。先生と居られるだけで楽しいからいいや。虫の音が静かな公園に響いていく。やっぱり秋はなんだか寂しい。少し冷たい風が頬を通ってよそ見をしていたらまたキャッチしそこねた。あー、ただ楽しいだけのこの時間がずっと続けばいいのに。先生と2人だけのこの時間が続けばいいのに。時よ止まれ、なんて。これからの未来もきっと楽しいだろう、そう信じて生きていくしかない。
「最近はどう?」
「学校の中庭の隅で寝てます。」
「叶らしいというかなんというか。寝れてなさそうだもんね。」
最近は先生の寝顔を撮りたいがために夜中まで起きてしまっているのです。勉強してる、とかじゃなくてただ撮りたいだけ、なんです。そんなことしてないで寝ろよという感じだが。丑三つ時に寝てもいつも通りに5時とかに起きないといけないからもう毎日眠い。今日からはさっさと寝るようにする。もうこの生活を続けるわけにはいかない。身体がオンボロになってしまいそうだ。
「綾音様はどうなんですか?」
「いつも通りかな。どこかの誰かさんがまたなにかやりそうだなとは思ってるけど。」
そう言う先生と目が合った。つい逸らしてしまった、これではまたやると言っているようなものだ。もうやらないので心配というか迷惑というか、諸々かけないようにするのでそろそろ信用と信頼を取り戻したい…。大丈夫、もうやらかさないから。迷子はまたなるかもしれないけど、もう飛び出さないから。ダメだな、自分でも自分がなにかしそうだと感じてしまう。
「疲れているのにこんな時間まで外に居ていいんですか、体壊しますよ。」
「そんな簡単に壊さない。きみとは違うから。」
いつか無理しすぎて倒れそうです、先生のことだから。しんどい中外に連れ出すわけもない、か。元気ならそれでいい。しんどいときはちゃんと休んでほしい。私は先生が居ないとだめだから。私は自分の命よりも先生の命のほうが大事なので。なにかあったら全力で助けます、命を捨てでも。そんなこと言ったらきっと怒られるだろうな。




