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別作品ではございますが、シナリオを担当しているコミカライズがスタートします。明るい話です。
カドコミ(WEB)
https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E
ニコニコ静画
https://manga.nicovideo.jp/comic/74034
詳細は活動報告よりご確認ください。
オルディオンの廊下は、二種類存在する。主に玄関ホールから客間、そして大広間など客人が通るところは華々しい赤い絨毯に、小ぶりなシャンデリアが回廊を照らすもので、ハルミアやシリウスなど家の者の私室につながる廊下は深海を模した段階的な色分けがされており、絨毯は花々の刺繍がされ、水辺に花が浮いているように見えるものだ。
そして今現在シリウスはその狭間でどちらに向かうでもなくうろうろと動いていた。
ハルミアとノイルが話をしているときに、自分本位な態度で逃げるように去ったことが、シリウスの頭の中から離れない。二人の前を後にしたときは、正しい怒りだと思っていたはずなのに、アンリの話を聞いてからというもの、自分が子供の癇癪を起したと感じられた。
まだ朝の食事にはだいぶ時間がある。そもそもシリウスは、昨晩一切眠れることがなかった。苛立ちと、そして初夜の日ハルミアに迫ったときは何ともなかったはずなのに、焚かれてもいない香が甘く、瞼が開かれる心持ちで仕方がなかったのだ。
よって、僅かにカーテンの隙間から覗く景色が明るくなった頃合いに寝台を抜け出し、それから帰ってこなくなったハルミアの後を追った。すると、隣の部屋から声が漏れていて、そこにハルミアとノイルが立っていたのである。
シリウスと話す時、ハルミアは身体を強張らせる。自分のことが好きなはずなのに、ノイルといる時の方がずっと心安らぎ落ち着いて話しているところも気に入らなかった矢先、ノイルの前で泣くハルミアを見てシリウスは自分を制御できなくなった。
よって、今まさにシリウスは夜着のまま当もなく彷徨っている。自分の部屋はノイルが使っていて、ハルミアの部屋に戻ることもできない。着替えもハルミアの部屋だ。
「あれ、どうしたんすか?」
のんびりした声にシリウスが振り返ると、使用人のベスが、いつも着ている執事の服ではなく、農民のような服を着て首を傾げていた。
「あなたこそ、何しているんですか。こんな朝早くから」
「俺は今日はお休みなんでぇ〜釣りに行くっす! 一緒に行くっすか?」
ベスが軽い口調でシリウスを誘う。どうせシリウスのことだ。「馬鹿らしい」そう言うに決まっている。けれども冗談は口から飛び出していくもので、そのままシリウスの横を通り過ぎようとした、しかし――、
「行きます。時間も空いていますし。洋服を貸して頂けますか?」
シリウスは現在、行く当てがない。よってベスの誘いに頷いた。
「えっ、ほ、本当っすか」
「はい。たまにはいいでしょう」
背に腹は代えられないと、シリウスは微笑んで見せる。ベスはぎょっとしながら「着替え、取りに行ってくるっすね……」と引き気味にその場を後にしたのだった。
一方、ハルミアはといえば、シリウスに去られた後、悶々とした気持ちで墓地に来ていた。彼女はシリウスに去られた理由を、実のところよく理解していない。ただ何となく自分が怒らせたことは確かだと分かっていて、見つからぬ理由を探し続けていた。
「なんだい変な顔して。そもそも墓参りに来て悩んでんじゃないよ。ここはそういう場所じゃあないんだよ。分かってんのかい? しかも自分の家の墓の前じゃなく、他人の家の墓の前で」
「すみません……」
ヴィータは溜息交じりに墓地に佇むハルミアを見やる。いつもハルミアは自分の憎まれ口を簡単に流すのに謝られ、今日は余程のことがあったのかと思ったものの、自分が介入すべきではないと考えヴィータは特に理由も聞かず、掃き掃除をしていた。
「そういや、ノイルの馬鹿が帰ってきたんだって? まだまだリゼッタの死んだ日よりずっと前じゃないか。どうしているんだい? 屋敷に泊めてんのかい?」
「はい……」
「婿養子の次は姉の元婚約者。オルディオンの屋敷は今年管理権限を譲渡するってのに最後の最後まで休まらないもんだねえ」
「そうですね……」
ヴィータは大方掃き掃除をして、身体を反らし腰を叩く。すると突然箒を音を立てて床に打ち「見せもんじゃあないんだよ!」と物陰に向け怒鳴った。ハルミアが驚きながら視線を向けると、人影がカサカサと音を立て植え込みの奥へと消えていった。
「あれは……一体……」
「どう見ても人間だ。最近いつもこうなんだよ。墓荒らしにしては上等な服を着てね、薄気味悪いったらありゃしない」
ハルミアは相槌を打ちながら、不思議に思った。なぜ上等な服を着た人間が、墓を狙うのだろうと。本来ならば、物盗りなんて墓場では最も適していない場所だ。店ならばその日の売り上げ金や前もって店に置いておく金がある。屋敷は言わずもがなだが、墓場なんて狙ったところで得られるのは骨だけである。
(もしかして、おばさまが……)
「ねぇ、ヴィータおばさま、最近何か、おかしなことがあったりしませんか? もしかしておばさまが……」
「こんな婆狙ってどうするんだい。放っておけば死ぬようなものを。それよりあんた自分の心配してな。私は今日ちょっと山の奥に花毟りに行かなきゃいけないんだから」
「それって、毎年の……」
「そうだよ。だからついてくんじゃないよ」
ヴィータは毎年この時期、花を摘んで海に流している。出会った頃から行っていたそれは、理由こそ話さないがヴィータの今は亡き夫に向けているものであると何となくハルミアは察していた。そして、その習慣を行うとき、ヴィータは必ず人を遠ざけるのだ。ハルミアもその心境が理解できるため、彼女は立ち止まった。
「……お気をつけください。あの、何かあればすぐ……」
「いい。それよりあんたは自分の屋敷に帰んな。何やら雲行きが怪しいからね」
ふん、と鼻を鳴らしてヴィータはハルミアの前から去っていく。追いかけることもできずハルミアはヴィータを見送ったのだった。
本日よりシナリオを担当させていただいている別作品のコミカライズがスタートします。明るい話です。
https://comic-walker.com/detail/KC_006932_S/episodes/KC_0069320000200011_E
ニコニコ静画
https://manga.nicovideo.jp/comic/74034
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