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密集陣形

「っぷふうううぅぅぅぅぅぅ……」


 大きく息を吸い込み一回りも大きくなったグローリエンの上半身が息を噴き出すとともに、その口からは暗黒のブレスが吐き出された。


「こっ、これは!?」


「目くらましだ! 今のうちに玄室へ!!」


 ルカの疑問に端的にヴェルニーが答えて避難を促す。


 吐き出されたブレスはイカの墨のように真っ黒で光を通さない。実を言うとヴェルニーとスケロクもグローリエンのこんな魔法を見たのは初めてなのだが、彼女は度々他では見られないような不思議な魔法を使うことがあるので慣れたものだ。


 一方のヨモツイクサの軍団は唐突なダークゾーンの出現に大いに統率を乱されて混乱していた。


「ヴェルニーさん、ここからどうするんですか」


 ルカの疑問も尤もである。いくらテレポーターを使われて逃げられないといってもはっきりといえばここよりはマシに感じられる。


 なぜならここは玄室への通路。そう長い廊下ではない上に玄室まで行ってしまえばそこは袋小路。逃げる場所などない本当のどん詰まりである。いったい何を考えてこんなところに避難したのか。


「通路の大きさをよく見るんだ」


 狭い通路だ。高さは三メートル、シモネッタの身長より少し高い程度。幅も二メートルくらいしかない。


「ここで奴らを迎え撃つ」


 無謀なようではあるが、道理ではある。ここではどう足掻いても一度に戦えるのは双方ともに二人程度しかもカマソッソやネクロゴブリコンの仕掛ける上からの攻撃にも気を払わなくてよい。個の力が圧倒的に上のこちらに有利な戦いの場なのだ。


「最後の一人まで殺しつくしてやる。根競べだ」


 ヴェルニーの美しい相貌に闇の光が灯る。


「作戦は決まったの!?」


 少し遅れてグローリエンが走ってきた。


「簡易的な密集陣形でここで迎え撃つことにした。僕と……そうだな、シモネッタさんが適任か。スケロク、悪いがハッテンマイヤーさんを玄室に運んで怪我の手当てを頼む」


「奴らもそろそろ来るよ。私の炎魔法で焼き払おうか?」


「いや、ここで炎を出すと最悪の場合玄室の酸素を使いつくしてしまうかもしれない。グローリエンは僕達の後ろに控えてサポートを頼む。もし殺した敵をまたアンデッドにするようなことがあれば除霊を頼む」


「オーケー」


 初めての状況でも臨機応変に、最適な行動をちゅうちょなくとる。この無謀な抗戦に意を挟む者などいなかった。


「よし、ハッテンマイヤーは任せろ」


「お願いします……彼女は、私にとって何よりも大切な……」


「大丈夫だ」


 瞳に涙をためるシモネッタの額にぽん、と手のひらを当て、スケロクはまだ意識を取り戻さないハッテンマイヤーを受け取ると通路の奥に移動する。


「あ、僕も……」


「ダメだ。ルカ君には仕事がある。ヴィルヘルミナの攻撃の中和を引き続きしてくれ」


「ああ、そうだった。すいませんけどスケロクさん、メレニーもお願いしていいですか?」


「ちっ、先輩を顎で使いやがって」


 愚痴りながらも素直にメレニーを受け取ると今度こそスケロクは玄室に向かう。メレニーは当然起きていたが、この異常事態を察してか、泣き叫びもせず、心配そうにルカの方を見ているだけだった。


「シモネッタさんはメイスは使わずに基本的にシールドバッシュのみ。撃ち漏らしは僕が全て処理するから任せてくれ」


「はいッ!」


 よい返事を響かせてシモネッタが盾を構えると通路の半分ほどが隠れてしまう。もはや彼女は名実ともにナチュラルズの『盾』なのだ。


「袋のネズミね。こんな出口のないところに立てこもって、血迷ったのかしらぁ?」


「そう思うんなら攻めてくるんだね。面白い経験をさせてあげるよ」


 ヴィルヘルミナは通路の外から話しかけてきた。彼女が中に入ってしまうとヨモツイクサが攻め入れないし、何よりこの狭い通路ではヴィルヘルミナのフライングVを使おうにも増幅器の役目をするライオンが中に入れないのだ。


「行け!!」


 予想通りヴィルヘルミナはヨモツイクサをけしかけるだけだった。


「ええい!!」

「予想通りだ!!」


 シモネッタが先頭の敵を弾き飛ばし、残されたスペースをヴェルニーの両手剣が舞う。ヨモツイクサも剣や槍を持って攻撃してきているのだが、シモネッタの盾はもちろんそれを通さないし、ヴェルニーの両手剣も敵の装備ごと両断してしまう。


「ネクロゴブリコン、通路を広げろ!!」

(シャ)アアアァァァ!!」


 おそらくは手持無沙汰に外で待っていたであろう巨大なアンデッド、ネクロゴブリコンが慌てて玄室に繋がる通路の入り口周囲の岩を取り除き始める。ヨモツイクサがシモネッタとヴェルニーをくぎ付けにしているうちに、という腹積もりなのだろうがそうはいかない。


「グローリエン、頼む!」


 ヨモツイクサをなます切りにしながら、ヴェルニーが叫ぶ。その声よりも先に、グローリエンは詠唱を始めていた。


「土は土に、灰は灰に、塵は塵に返すべし。今こそあるべき姿に還り給え。リィンカーネイション!!」


「ギャウウウウゥゥ」


 この世のものとは思えない叫び声を上げながらネクロゴブリコンの肉体は崩れ始め、元の切り刻まれた肉塊に戻っていく。周囲には身の毛もよだつ内臓の匂いが立ち込めた。


 洞穴の入り口は大分崩れてしまったものの、まだ二頭の獅子も、チャリオットも入れる大きさではない。


「くそっ、次郎丸、三郎丸! 穴を広げろ!!」


「グルルォ」


 巨大な二匹の獅子がヴィルヘルミナの指示でガリガリと引っ掻いて穴を広げ始める。巨体に見合う怪力で岩が取り除かれていくものの、もともと穴掘りなどできる体の構造をしていないのだ。


 その間にもヨモツイクサはヴェルニー達に向かっては来ているのだが、何せただでさえ狭い通路の上に穴を広げる作業を並行して行っているので一人ずつ攻め込む状況になっている。こんな戦力の逐次投入がヴェルニーとシモネッタに通用するはずがない。


「どうしたどうした! 穴を広げる前に死体で洞穴が塞がってしまうぞ!!」


 全くヴェルニーの言う通りであった。ヴィルヘルミナは早くも行き詰り始めたのだ。


 一方、洞穴の奥、玄室に向かったスケロクはメレニーとハッテンマイヤーをゆっくりと、慎重に床に横たえさせた。

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