本性
「そ、そういえばそこも気になってたんだけど、あんたとルカは結局どういう関係なの」
メレニーが尋ねる。彼女からしてみれば恋敵に値する人間であろうか、シモネッタ姫とルカの会話は一部は盗み聞きしていたものの、詳細なところがイマイチ分からない。
だが今の自分自身が展開した会話の中である程度わかってきたこともある。
おそらくは二週間ほど前、オニカマスがこのダンジョンで壊滅した日。ルカはここで、ヴェルニー達と出会い、そして、脱いだ。
その後町への帰り道の途中暴漢に襲われているシモネッタの一行に遭遇し、彼女を助けたという事なのだろう。
もしくは全然違う日にたまたま全裸でうろうろしていたらシモネッタ一行に遭遇し、以下同文。
いずれにしろ全裸でうろうろしていて、彼女を助けたのは間違いあるまい。そしてアンナとハッテンマイヤーの話からすれば、ルカは全裸でありながらもマフラーで顔を隠していたと。つまりはそういう事だ。
「その辺はなんとなく分かったんだけど『花のつぼみの君』ってなに?」
大まかな流れについては自己解決したものの、結局そこだけは分からなかった。
「それはですね、ルカ様の花のつぼみのように愛らしいおち」
「それは別にどうでもいいじゃん。今はそんな事より重要なことがあるでしょ」
またも派手に寝違えたような動きでルカが割り込んできた。
「重要なことって?」
「あ、いや……」
割り込んではみたものの、特に話題はない。どうしたものかと思案したが、いや、思案する間もなくすぐさまメレニーが被せてきた。
「まあ、重要なことは聞きたいんだけどさあ」
ジト目でルカを見つめながら尋ねてくる。聞くまでもなく、一言物申したい、不満があるのだろうという事は見て取れる。心当たりがありすぎてルカは不安の色を隠しきれない。
「エッチなことしたでしょ」
「してないよ!」
開口一番それである。他になんかないんか。
「いやしてるでしょ絶対に。てかもう全裸の時点で既にエッチだよ!」
「してないから! そういうパーティーじゃないから!」
「あっ、パーティーってそういう……乱交パーティーか!!」
「違うよ! 一人でヒートアップしないで!!」
「もういい!」
ドンッ、とルカを突き飛ばす。ルカは首を落とすまいと慌てて頭を押さえ、同時にヴェルニー達も彼の首を受け止めようとビクリと動いた。
「……なんです? その動き」
「あ、いや」
三人とも前に出たものの、実際にルカの首が落ちたとしたらもうその時点で手で受け止めたところで、というものである。反射的に動いたのだろうが。
改めてメレニーはルカではなくグローリエンに尋ねる。
「エッチなことしたんですね?」
「してないよ!」
否定されても信じられる筈がない。
「してるでしょう! だってこれ絶対3……4Pしてますよね!」
「何を根拠に」
根拠などない。しかし年頃の男女が裸なのだ。改めてメレニーはグローリエンの身体を見る。癪に障るが、自分よりもスタイルの良いグローリエン。顔でも正直負けている。黒いベリーショートの髪の自分とは違い、柔らかいプラチナブロンド。劣情を催さない筈がない。そう彼女は考えた。
「落ち着いて、メレニーさん」
自分で言いながらグローリエンへの劣等感からさらにヒートアップしているメレニーを、後ろから両肩に手を添えながらハッテンマイヤーが宥めた。
「それは解釈違いよ」
解釈違いとは。
「いい? ルカさんは童貞。それは見れば分るでしょう?」
「なるほど」
「なるほどじゃねえよ。決めつけられんのはそれはそれでなんかムカつくよ。根拠を示せよ」
「エッチをした」と言われると否定するものの、「どう見ても童貞だろ」と言われるとたとえ真実でも腹が立つ。男心とはなんと難しいものか。
「残りの三人をようく見てみて」
「ぅ……」
グローリエンはともかく、スケロクとヴェルニーはまだ見るのに抵抗がある。しかし見たところで分かるのは「裸だ」という事くらい。この状態から何を読み取れというのか。
「あの二人は、ホモよ」
「ちょっと?」
「おい!!」
言いがかりにもほどがある。何を根拠にそんな事を言いだすのか。ヴェルニーとスケロクは当然ながら抗議の意思を示すが、ハッテンマイヤーはそんなことは気にも留めない。
「いい? 物事は一つ一つ事象を見ても全体像は見えてこないの。重要なのは文脈よ。ヴェルニーさんとスケロクさんは、ルカさんに会うよりも先に全裸での冒険をしていたわ」
言っていることは正しい。
「男が二人、全裸で暗闇の中、何も起きないはずがなく。よってこのパーティーに男女の交わりはないわ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って? グローリエンさんの存在が消えてない?」
言っていることは正しいのだが、バカが文脈を読むな。ありもしない文脈が作られてしまう。
「メレニーさん。いい? 私はね、常々、女なんてこの世から消えて無くなってしまえばいいと思っているわ」
「何を言い出すの?」
目覚めさせてはいけないものを目覚めさせてしまった感がある。
「男女の恋愛なんて所詮は子孫を残すという種の命題のために組まれたプログラムによるもの。そんなものは『愛』ではないわ。つまり、男同士の恋愛こそが、この世界に最後に残された本当の『愛』だと思わない?」
「こわい……この人怖い」
「だからね? 女がいなくなってしまえば、この世界は真実の愛で満たされるの。私はアストラルボディとなってその恋愛の様子を永遠に楽しみたいと思っているわ」
全く話が通じない。こっちの言っていることも通じていないし、言っていること自体も支離滅裂である。グローリエンの話はどこへいったのか。相手のことなど全く考えずにただ自分の言いたい事を言っているだけである。「会話」というよりは「鳴き声」に近い。
「それでも理解できないというのなら、そうね……」
メレニー達三人の荷物持ちとして同行していたハッテンマイヤー。彼女は自分のリュックを下ろし、ごそごそと漁り始める。
「これを」
「なにこれ? なんの本?」
斥候であるメレニーは字は読めるが、本を読む習慣はない。
「ヴェルニー攻めスケロク受けのBL小説よ。専門用語でいうとヴェル×スケよ。大丈夫。これを読めばきっとあなたもホモの良さが分かるはず」
「ちょっとぉ!?」
「おい!!」
抗議の声をあげたのは当然ながらヴェルニーとスケロク。なぜそんな小説が存在するのか。すぐにヴェルニーがその小説を取り上げた。
「噂には聞いていたが、僕とスケロクのそういう、いかがわしい小説があると。正直たまに女性から変な目で見られて凄く迷惑だったんだが……ん? この作者」
パラパラと中のページをめくってから、ヴェルニーは改めて表紙の作者名を確認した。
「ハッテンマイヤー・エルトマン」
「てめえじゃねえか!!」




